KADOKAWAドワンゴとの共同株式移転による経営統合と持株会社KADOKAWA・DWANGOの設立
売上高で4倍の差がありながら、角川歴彦会長はなぜ51対49の少数を受け入れたか
- 概要
- 2014年5月14日、KADOKAWAとドワンゴは経営統合の契約書を締結し、共同株式移転で両社の完全親会社となる持株会社「株式会社KADOKAWA・DWANGO」を設立すると発表した。新会社は同年10月1日に発足し、東京証券取引所市場第一部へ上場した。会長にドワンゴの川上量生氏、社長にKADOKAWAの佐藤辰男氏が就いた。
- 背景
- 紙の出版市場が縮小するなかで、角川歴彦会長は消費者が作り手に回るCGMの拡大に危機感を持ち、2013年10月の子会社9社統合に続く一手としてドワンゴとの統合を構想した。当時71歳の角川会長にとって、後継の経営者を得ることも大きな課題として残っていた。
- 内容
- 直近売上高はKADOKAWA1511億円、ドワンゴ359億円と4倍以上の開きがあったが、統合比率はドワンゴ側51・KADOKAWA側49となった。株式の割当はKADOKAWA1株に対し新会社1.168株、ドワンゴ1株に対し1株で、会計上はドワンゴを取得企業とするパーチェス法が適用された。
- 含意
- 統合3カ月後にKADOKAWA側で232人が希望退職に応じ、2018年3月期に営業利益180億〜200億円という中期計画は31億円で終わった。持株会社は2019年7月に子会社KADOKAWAの全事業を承継して商号を株式会社KADOKAWAに変え、二つの社名を並べた体制は5年で終わった。
会社を渡して人を得るということ
旧メディアと新メディアの融合という当時の惹句は、この統合の芯を外している。売上高で4倍の差がある側が51対49の少数を受け入れ、株式移転比率でもドワンゴを高く評価した事実は、事業の掛け算からは説明がつかない。角川歴彦会長が会見で真っ先に語ったのも、統合の相乗効果ではなく「川上くんという若き経営者をようやく手にした」という一言であった。71歳の経営者が後継者を社外から迎えるために会社ごと預けた判断とみることができる。
もっとも、後継者の調達という見立てだけでは片づかない事実も残る。川上量生氏は社長として、ニコニコ動画の仕組みを使う通信制高校を2016年に開校させ、両社になかった事業を立ち上げた。一方、統合の3カ月後に動いたのはKADOKAWA側の232人の希望退職であり、2018年3月期に営業利益180億〜200億円という計画は31億円で終わっている。人を得る統合と事業を伸ばす統合は、同じ速さでは進まなかったとみられる。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
背景
三手のうちの二手目
ドワンゴとの統合へ向かう前に、出版事業の再編があった。2013年10月、角川グループホールディングスは角川書店やアスキー・メディアワークスなど傘下9社を吸収合併し、商号をKADOKAWAとして事業会社に一本化している。角川歴彦会長は一連の動きを「ホップ、ステップ、ジャンプ」と呼び、9社統合をホップ、ドワンゴとの統合をステップ、3年後の姿をジャンプに当てた。単発の判断ではなく、順序の決まった三手の二手目であった[1]。
角川会長を動かしていたのは、消費者が作る側へ回るという読みであった。角川氏はデジタルで生まれ育つ表現物という考え方を最初は理解できずタカをくくっていたと認めたうえで、消費者が生成するメディアが既存メディアに取って代わる可能性に触れ、手掛けていない者は市場から退場しなければいけないと語っている。さらにサブカルチャーが文化圏から経済圏へ広がるとみて、そこを統合の最大の理由に挙げた[2][3]。
後継者と、体格の違う両社
統合を促したのは将来像だけではなかった。角川会長は当時71歳で、社内には後継体制づくりへの焦りを指摘する声があった。KADOKAWA本体の収益も細り、2015年3月期第2四半期は前年の28億円の営業黒字から9億円の赤字へ転落している。一方のドワンゴは「ニコニコ動画」の会員が2014年9月末で4320万人に達していたものの、次の成長の担い手を探していた。両社の経営環境が同時に厳しさを増していたとする見方もある[4][5][6]。
両社の体格差は大きかった。直近の売上高はKADOKAWAが1511億円、ドワンゴが359億円で、4倍以上の開きがある。従業員の平均年齢もKADOKAWAが39.8歳、ドワンゴが32.7歳と7歳離れ、平均年収では60万円の差があった。老舗出版社とネットベンチャーという成り立ちの違いは、統合後の給与体系や人事制度をどう揃えるかという課題として、そのまま持ち越された[7][8]。
決断
共同株式移転という枠組みと、51対49
2014年5月14日、KADOKAWAとドワンゴは経営統合の契約書を締結し、共同持株会社を設立するための株式移転計画を作成した。方式は対等の精神に基づく共同株式移転で、両社の完全親会社として株式会社KADOKAWA・DWANGOを置く。6月にKADOKAWAの定時株主総会が、7月にドワンゴの臨時株主総会が計画を承認し、10月1日、新会社が東京証券取引所市場第一部へ上場した[9][10]。
注目されたのは配分であった。株式の割当はKADOKAWA1株に対し新会社1.168株、ドワンゴ1株に対し1株と定まったが、発行済株式数の差から、統合後の比率はドワンゴ側51、KADOKAWA側49になる。売上高で4倍の差がある側が少数を受け入れ、KADOKAWA幹部には「ドワンゴに買収された」という受け止めがくすぶった。成長率と株式時価総額を考えれば妥当とする市場の評価もあった[11][12]。
若き経営者を手にするということ
角川会長は統合の会見で、株式移転比率がドワンゴを高く評価したものだと問われ、そのとおりだと認めている。その席で語ったのは事業の掛け算より人であった。「私は、川上くんという若き経営者をようやく手にした」。川上氏がニコニコ動画を作った実績だけでなく、KADOKAWA・DWANGOという所帯の大きさを認識したうえで行き先を示す経営者になることを信じる、と角川氏は続けた[13]。
対外的な説明は別の言葉で組み立てられていた。佐藤辰男社長は、ドワンゴの技術とネットのプラットフォーム、KADOKAWAのコンテンツとリアルのプラットフォームを融合させ、世界に類のないコンテンツプラットフォームを確立すると述べた。ただ、統合前日の会見で川上量生会長は具体的な戦略にいっさい触れず、新会社名を二度言い間違えている。社内にも歓迎の気配はなく、なぜ自前でIT企業を買収しなかったのかと首をかしげる社員がいた[14][15]。
結果
最初に動いたのは人員整理であった
統合から3カ月後の2015年1月16日、KADOKAWAは「セカンドキャリア支援プログラム」として300人程度の希望退職の募集を発表した。対象は3月末時点で41歳以上かつ勤続5年以上の正社員で、募集人数は約1980人の正社員の15%に当たる。定員が集まらず面談は3月中旬まで続き、最終的に4月末で232人が会社を去った。統合後にまず動いたのは、両社の融合ではなくKADOKAWA側の人員整理であった[16][17]。
統合初年度の2015年3月期は、2014年10月からの6カ月という変則決算になった。売上高1005億円、営業利益13億円、純利益140億円。最終利益が膨らんだのは223億円の負ののれんによるもので、会計上はドワンゴを取得企業、KADOKAWAを被取得企業とする処理が取られていた。統合前の両社合算にあたる2013年10月から2014年3月までの営業利益53億円と比べると、40億円低い水準にとどまった[18][19][20]。
中期計画の未達と、5年で畳まれた持株会社
会社は2018年3月期までの中期経営計画で、営業利益180億〜200億円という数字を掲げた。牽引役は書籍IP、ポータル、情報メディア、教育の4事業で、当時の水準から数倍の成長を見込む内容であった。実際の2018年3月期の営業利益は31億円にとどまり、目標には遠く届かなかった。佐藤社長は統合から半年後に「文化が違うのは紛れもない事実」と認め、溝を埋めるには2〜3年かかると述べていた[21][22][23]。
統合の枠組みは名前を変えながら続いた。2015年10月1日、KADOKAWA・DWANGOはカドカワ株式会社へ商号を変更する。翌2016年4月には、ニコニコ動画の仕組みを授業に使う通信制高校「N高等学校」が開校した。持株会社そのものは5年で畳まれ、2019年7月1日、カドカワは子会社KADOKAWAの全事業を吸収分割で承継し、商号を株式会社KADOKAWAに改めた。二つの社名を並べた体制は、一つの社名へ戻った[24][25][26]。
- 週刊東洋経済 2014年10月3日号「【特集 新聞・テレビ動乱】 PART3 新興メディア編 KADOKAWA・DWANGO 期待と不安の新旧融合」
- 週刊東洋経済 2014年12月12日号「ひと烈風録 第4回 角川歴彦 KADOKAWA・DWANGO 取締役相談役 デジタル時代に先鞭「僕には焦燥感がある」」
- 週刊東洋経済 2015年1月23日号「核心リポート04 希望退職300人募る KADOKAWAの不安」
- 週刊東洋経済 2015年5月22日号「【巻頭特集 カドカワ・ドワンゴ 漂流する「世紀の統合」】 KADOKAWA・DWANGO 漂流する世紀の統合」
- 週刊東洋経済 2015年5月22日号「【巻頭特集 カドカワ・ドワンゴ 漂流する「世紀の統合」】 「角川書店」消滅 出版事業は不良資産なのか」
- 週刊東洋経済 2016年10月15日号「【インタビュー 川上量生】 インタビュー カドカワ社長 川上量生 ニコ動が高校になった! 世界でただ一つの学校について話そう」
- INTERNET Watch(2014年5月14日)「「若き経営者をようやく手にした」ドワンゴ・川上氏への期待を語る角川氏 KADOKAWA・ドワンゴ経営統合記者会見」
- gamebiz(2019年5月14日)「カドカワ、子会社KADOKAWAの事業を承継し「株式会社KADOKAWA」に社名変更 事業持株会社としてIP事業力とガバナンスの強化を図る」
- KADOKAWAグループ 社史「デジタル・ネット時代にトランスフォーメーション(2013年〜2019年)」
- KADOKAWA・DWANGO 有価証券報告書(第1期・連結)
- KADOKAWA・DWANGO 有価証券報告書(第1期・連結)【企業結合等関係】
- カドカワ 有価証券報告書(2018年3月期・連結)