KADOKAWA持株会社傘下の事業会社9社の吸収合併とKADOKAWAへの一本化
競わせる連邦か、一つの会社か——角川歴彦会長兼CEOは何を畳んだか
- 概要
- 2013年3月28日、角川グループホールディングスは連結子会社9社を同年10月1日付で吸収合併すると発表した。対象は角川書店、アスキー・メディアワークス、メディアファクトリーなど、連結売上高の8割を占める出版事業会社である。6月22日には持株会社自身の商号もKADOKAWAへ改め、10月に一つの事業会社として動き出した。
- 背景
- 角川書店は2003年に持株会社へ移行し、傘下に特色の異なる出版社を並べて編集を競わせ、販売だけを一本化する構えを取ってきた。買収で会社数が増えるにつれ管理部門が各社に重複し、出版市場そのものも1996年から縮小が続いていた。
- 内容
- 9社を吸収合併して法人格を一つに集約する一方、角川書店やアスキー・メディアワークスといった社名は「ブランドカンパニー」として社内に残した。会社側は、IP(コンテンツ)とID(顧客)を一つの会社に統合し、収益力とキャッシュフローを高めるためと説明した。
- 含意
- 統合されたのは法人格と資産までで、給与体系は出身母体ごとに分かれたまま残り、労働組合も複数が併存した。2015年1月には希望退職の募集に至り、八つのブランドカンパニーもジャンル別に組み替えられて、角川書店の名は組織から消えた。
一社になるということ
重複した管理部門の整理という説明では、この合併は片づかない。角川歴彦会長兼CEOが解いたのは、角川書店とアスキー・メディアワークスが同じ作家を取り合いながら販売だけを束ねるという、2000年代後半の収益を支えた仕組みそのものであった。クラウドに躊躇したところが脱落する、成功したものがいくら大きくてもそれを捨てないといけない——2010年に語ったその言葉を、自社の勝ち方に当てた判断だったとみられる。
もっとも、一つになったのは法人格と看板までであった。給与体系は出身母体ごとに分かれたまま残り、労働組合も複数が併存し、合併の1年3カ月後には232人が希望退職で会社を去っている。八つのブランドカンパニーも2年を待たずに組み替えられ、角川書店の名は組織から消えた。会社を一つにする作業と、人と制度を一つにする作業は別の速さで進む——9社統合はその落差を抱えたまま、次の統合へ向かったといえる。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
背景
持株会社の下で競わせた出版グループ
角川書店は2003年4月に持株会社へ移り、2006年7月に角川グループホールディングスと名を改めた。傘下には角川書店やアスキー・メディアワークスなど色合いの異なる出版社が並び、グループ7社で17ブランドの文庫を出していた。同じ作家をグループ内の編集者同士が取り合う一方、販売と店頭の販促は角川グループパブリッシングと角川出版販売が引き受ける。競わせる部分と束ねる部分を分けた構えが、2000年代後半の収益を支えていた[1][2]。
その効き目は数字にも表れていた。大手出版社が軒並み赤字に沈むなかで、角川の営業利益は2008年度の35億円から2009年度に50億円へ伸びると見込まれ、講談社の76億円、小学館の63億円という営業赤字と対照をなしていた。もっとも土台となる市場は縮んでおり、出版物の販売額は1996年からほぼ一貫して下がって、2008年には1996年比で25%減の水準まで落ちていた[3]。
買収の積み重ねと、クラウドへの警戒
グループは買収でも膨らんだ。2008年にメディアワークスとアスキーが合併してアスキー・メディアワークスとなり、2011年にはゲームに強いメディアファクトリーをリクルートから取得した。同じ2011年には角川映画を角川書店へ吸収している。会社の数が増えるにつれ、人事や経理といった管理部門は各社に重複して残り、人員の規模で目立って過大になっていった。競わせる設計の代償が、間接部門に積み上がっていた[4][5]。
角川歴彦会長兼CEOは、この時期に別の危機感を語っていた。2010年の著書『クラウド時代と〈クール革命〉』でクラウド・コンピューティングにより2014年にコンテンツの大統合時代が来ると予測し、取材にはクラウドに躊躇したところが脱落していくと述べている。自分がこれまで成功したものがいくら大きくても、それを捨てないといけない——そう語る相手のなかには、17ブランドで競わせる自社の勝ち方も含まれていた[6]。
決断
9社を一つの会社へ
2013年3月28日、角川グループホールディングスは連結子会社9社を同年10月1日付で吸収合併すると発表した。対象は角川書店、アスキー・メディアワークス、角川マガジンズ、メディアファクトリー、エンターブレイン、中経出版、富士見書房、角川学芸出版、角川プロダクションの9社で、2012年3月期の連結売上高の8割を占めていた。6月22日の定時株主総会の決議により、持株会社自身の商号もKADOKAWAへ改めた[7][8]。
会社側が挙げた理由は、外部環境への対応の速さであった。激しく変化する外部環境にスピーディーかつダイナミックに対応し、収益力とキャッシュフローの向上を図り、機動的な新規事業を加速させるには、IP(コンテンツ)とID(顧客)を一つの会社に統合する組織再編が要る、と説明している。2003年から10年続けた、持株会社の下に事業会社を並べる形をたたむ判断であった[9]。
社名をブランドとして残す設計
消すのは法人格までとされた。角川書店やアスキー・メディアワークスといった社名は合併後も「ブランドカンパニー」として社内に残り、既存の組織概念にとらわれず自由に事業を発展させるための新しい組織概念と説明された。編集の看板と競争は保ち、管理と資産だけを一つに集める設計である。2013年10月1日、新しいロゴとキャッチフレーズを掲げて新生KADOKAWAが動き出した[10][11]。
合併は帳簿の上にも大きな振れを残した。KADOKAWAは単独決算で、受け入れた純資産と保有していた被合併会社株式の帳簿価額との差から、抱合せ株式消滅差益159億67百万円と同差損32億26百万円を計上した。いずれも100%子会社との合併に伴う処理で、連結決算への影響はない。合併を挟んだ2014年3月期の連結売上高は1511億円、営業利益は62億円と、前期の80億円から縮んでいた[12][13]。
結果
一つになったのは看板まで
一社になっても、社員の足元は旧会社のまま残った。給与を含む雇用体系は出身母体ごとに分かれ、労働組合も複数が併存した。机を並べて一緒に働いても給与体系は出身母体ごとにばらばらだと、幹部自身が認めている。現場からは、急激なグループ再編に振り回されて営業や編集も疲弊しているという声が出た。合併で一つになった組織の内側に、旧9社の境目がそのまま引き継がれていた[14][15]。
重複した人員の整理は、合併の1年3カ月後に来た。2015年1月16日、KADOKAWAはセカンドキャリア支援プログラムとして300人程度の希望退職の募集を発表した。対象は3月末時点で41歳以上かつ勤続5年以上の正社員で、約1980人の正社員のうち1000人弱が該当した。面談は3月中旬まで続き、4月末までに232人が会社を去った。管理部門の重複という合併時からの課題が、ここで人の削減として表面化した[16][17]。
ブランドカンパニーの解体と社名の消滅
社名を残す設計も長くはもたなかった。2015年4月、KADOKAWAは八つに分かれていたブランドカンパニーを、ライトノベルやコミック、文芸といった事業ジャンルごとに組み替えた。この再編で、1945年の創業から続いた角川書店を筆頭に、買収と合併で集まった伝統ある社名は組織から完全に消えた。合併時に掲げた、看板は残して管理だけ束ねるという折衷は、1年半で解かれた[18]。
業績の側も楽ではなかった。2015年3月期第2四半期のKADOKAWAは、前年同期の28億円の営業黒字から9億円の営業赤字へ転じた。合併の1年後にあたる2014年10月にはドワンゴとの共同持株会社KADOKAWA・DWANGOが発足しており、出版側を一つの事業会社にまとめた形は、次の統合を受け止める側の姿にもなった。ただし人と制度の統合は、その時点でまだ途中にとどまっていた[19][20]。
- 週刊東洋経済 2009年9月19日号「出版業界軒並み撃沈の中で独り勝ち 文庫で圧倒的利益稼ぐ 角川グループの才覚」
- 週刊東洋経済 2010年4月10日号「『クラウド時代と〈クール革命〉』を書いた角川グループホールディングス会長兼CEO 角川歴彦氏に聞く」
- 週刊東洋経済 2014年10月3日号「KADOKAWA・DWANGO 期待と不安の新旧融合」
- 週刊東洋経済 2015年1月23日号「核心リポート04 希望退職300人募る KADOKAWAの不安」
- 週刊東洋経済 2015年5月22日号「「角川書店」消滅 出版事業は不良資産なのか」
- INTERNET Watch 2013年3月28日「角川グループホールディングス、子会社9社を吸収合併」
- gamebiz 2013年3月28日「角川GHD、『株式会社KADOKAWA』に商号変更…角川書店やエンターブレインなど9社を吸収合併」
- gamebiz 2014年1月8日「KADOKAWA、単独決算で特別利益159億円、特別損失32億円を計上 9子会社の吸収合併に伴う差損益 連結決算に影響なし」
- KADOKAWA ニュースリリース 2013年10月1日「子会社9社と合併し新生「KADOKAWA」がスタート。新しいロゴとキャッチフレーズ、記念キャンペーンの展開を開始します」
- KADOKAWA 2014年3月期 通期決算説明会資料(2014年4月28日・連結)
- KADOKAWAグループ公式サイト 沿革