オープンアップグループ夢真ホールディングスを株式だけで吸収合併し、2年後に両社の名を社名から外す
合併比率1対0.63、対価804億円のうち717億円がのれんだった2021年4月1日の経営統合
- 概要
- 2021年4月1日、株式会社ビーネックスグループが株式会社夢真ホールディングスを吸収合併し、商号を株式会社夢真ビーネックスグループへ変更した経営判断。2022年6月17日に再度の社名変更を発表し、2023年1月1日から株式会社オープンアップグループとなった。
- 背景
- ビーネックスグループは機電・IT系の技術者派遣を、夢真ホールディングスは建設施工管理の技術者派遣を主力とし、主力事業で顧客がほとんど重ならなかった。合併前の直近売上高はビーネックス817億円・夢真586億円、連結従業員は18,125人と9,848人であった。
- 内容
- 2021年1月29日に合併を発表し、夢真ホールディングスは3月30日に上場廃止となった。支払対価804億5,600万円のうち803億3,600万円は存続会社の普通株式の交付で、現金の支出を伴わない。認識されたのれんは717億1,600万円に上った。
- 含意
- 統合直後の2021年6月期に建設領域を中心として314億2,800万円の減損損失を計上し、のれんは期末に456億500万円へ縮んだ。翌2022年6月期は売上収益1,485億7,300万円・営業利益101億300万円で、統合効果が通期の数字に表れた。
帳簿に残った456億円という値札
現金を一円も使わずに売上586億円の上場企業を取り込んだ手際は鮮やかにみえる。ただし株式での支払いは、支払わずに済ませることとは違う。既存株主の持分は0.63の比率で薄まり、そのうえで取得した資産の価値は3カ月後の減損テストを通らなかった。建設領域294億3,500万円という金額は、合併の前年に自力で参入した建設事業の見通しと、夢真から引き継いだ建設事業の見通しの両方を、同じ時点で書き換えた結果にあたる。
それでも合併そのものは数字を残した。建設領域は2022年6月期に売上369億円・利益53億円で黒字に転じ、グループの売上収益は4年で988億円から1,879億円へ伸びた。1976年の佐藤建築設計事務所から続いた夢真の名は2023年1月に商号から消え、2020年に付けたビーネックスの名も同時に消えている。残ったのは、2021年4月に717億円で計上され、期末に456億500万円まで削られたのれんの数字と、そこに含まれる建設・機電・IT・海外の各領域への配分表であった。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
背景
買収を重ねてきた二つの上場会社
2021年に合併する二社は、いずれも買収で事業領域を広げてきた技術者派遣会社であった。ビーネックスグループの側は2015年以降、国内の株式会社フリーダム・株式会社トラィアルから英国のMTrec Limited、1998 Holdings Limitedとその子会社5社、ベトナムのL&A INVESTMENT CORPORATIONまで買い進めている。2019年11月には株式会社アクシス・クリエイトほか2社を取得して建設領域へ入り、2020年1月に商号を株式会社ビーネックスグループへ改めて持株会社体制へ移った[1][2]。
夢真ホールディングスの側も似た経路をたどっていた。1976年創業の有限会社佐藤建築設計事務所を前身として1990年に株式会社夢真となり、2003年9月に大阪証券取引所ヘラクレスへ上場、2005年4月に純粋持株会社へ移行している。2011年の株式会社フルキャストテクノロジー取得(同年7月に株式会社夢テクノロジーへ改称)以降は機電系派遣にも手を伸ばし、2019年4月には株式会社インフォメーションポートと株式会社侍を子会社化した。2019年10月、建設技術者派遣を新設の株式会社夢真へ承継して再び純粋持株会社体制を敷いている[3][4]。
顧客が重ならないという読み
統合の理由として有価証券報告書が挙げたのは、事業領域の拡大・採用力と人材育成力の強化・財務基盤の強化の3点であった。第1の理由について同報告書は「主力事業においては顧客の重複がほぼなく」と書いている。機電・IT系の設計開発現場へ技術者を送る会社と、ゼネコンの工事現場へ施工管理者を送る会社では、営業先の名簿がほとんど交わらない。重複が少ないぶん統合による削減効果は限られるが、そのかわり売上の食い合いも起きない[5][6]。
第2の理由に置かれた採用力は、この業種の生命線にあたる。有価証券報告書は、両社がともに未経験者を雇用したうえでキャリアアップの機会を提供することに主眼を置き、人材採用と教育面のノウハウに高い親和性があると説明している。経験者を引き抜き合うのではなく、未経験者を採って育てる同じ型の会社どうしであった。第3の財務基盤については「更なる大規模な業界再編にも対応ができる体制構築が可能となります」と、次の再編を前提とする文言が並んだ[7][8]。
決断
現金を使わずに804億円を払う
2021年1月29日、両社は4月1日付の合併を発表した。ビーネックスグループを吸収合併存続会社、夢真ホールディングスを吸収合併消滅会社とし、夢真株1株にビーネックス株0.63株を割り当てる。夢真ホールディングスは3月30日に上場廃止となった。日本経済新聞は同日の記事で、人手不足の業界で主力分野の異なる二社が組み、採用競争での優位や営業・社内教育部門の効率化を狙うものと伝えている。両社の直近売上高の合計は約1,400億円、連結従業員は合わせて2万8千人近くに達した[9][10]。
対価の中身を見ると、この合併の性格がはっきりする。支払対価の公正価値は804億5,600万円で、その内訳は企業結合日に交付した普通株式803億3,600万円と、消滅会社の新株予約権者へ交付した新株予約権1億2,000万円であった。現金の支出はない。取得した資産と引き受けた負債の公正価値の純額は80億7,400万円にとどまり、認識されたのれんは717億1,600万円に上る。対価の9割近くが、既存事業との相乗効果と超過収益力への評価であった。取得関連費用は3億5,800万円で、販売費及び一般管理費に計上されている[11][12]。
会長と社長を分け、社名は並べて置いた
新会社の商号は株式会社夢真ビーネックスグループとなった。二つの社名を順に並べただけの名で、どちらの側の名も落とさない選択にあたる。経営体制も同じ考え方で組まれ、ビーネックスグループの西田穣氏が代表取締役会長兼CEO、夢真ホールディングスの佐藤大央氏が代表取締役社長兼COOに就いた。西田氏は株式会社リクルートを経て2018年にビーネックスグループの代表取締役社長へ入った人物で、佐藤氏は2020年6月に同社の取締役となっている。取得企業をどちらとするかは、株式を交付する側であることと相対的な規模の差から存続会社と判断された[13][14]。
並べて置いた社名は、1年あまりで外された。2022年6月17日、夢真ビーネックスグループは2023年1月1日付で商号を株式会社オープンアップグループへ変更すると発表している。理由として掲げられたのは、グループのスローガン「幸せな仕事を通じて ひとりひとりの可能性をひらく社会に」を実現する意志を表すことであった。1976年から続いた夢真の名も、2020年に付けたばかりのビーネックスの名も、統合から2年足らずで法人の商号から消えた[15][16]。
結果
統合3カ月で消えた314億円
合併の効力発生から決算期末までは3カ月しかなかった。その3カ月に、取得したばかりの資産の評価が下がっている。2021年6月期の連結損益計算書には、取得日以降に旧夢真ホールディングスとその関係会社から生じた売上収益145億6,500万円と当期損失304億8,700万円が含まれ、この損失には減損損失313億9,900万円が入っていた。セグメント別の減損損失は建設領域294億3,500万円、機電・IT領域19億9,300万円の合計314億2,800万円である。717億円で認識したのれんは、期末に456億500万円へ落ちた[17][18]。
損失を織り込んだ2021年6月期の連結業績は、売上収益988億8,700万円・営業損失252億2,000万円・親会社の所有者に帰属する当期損失271億2,200万円となった。連結従業員は30,067名で、前期の18,125名から1.7倍に増えている。統合が期首に実施されたと仮定した場合の売上収益は1,425億4,400万円、当期損失は255億7,800万円と算定された。事業の規模は一気に広がり、同じ期の損益は会社の歴史で最も深い赤字を記録している[19][20]。
通期で寄与した翌期と、その後の入れ替え
統合が通期で効いた2022年6月期は数字が反転した。連結売上収益は1,485億7,300万円で前期比50.2%増、営業利益101億300万円、親会社の所有者に帰属する当期利益69億7,500万円となっている。領域別では機電・IT領域が売上706億7,700万円・セグメント利益71億1,800万円、建設領域が売上369億2,100万円・セグメント利益53億2,700万円で、前期に283億円近い損失を出した建設領域が黒字に転じた。一方で海外領域は売上300億7,600万円・セグメント損失4億1,700万円と、英国の欧州連合離脱に伴う採用コスト上昇を受けて赤字になった[21][22]。
そこから先は、買った領域と売る領域の入れ替えが続いた。2021年8月に英国のMTrec Limitedを売却し、2024年4月には株式会社ビーネックスパートナーズの全株式をUTグループへ譲る一方、同社からUTコンストラクションとUTテクノロジーを取得している。2025年3月には欧州の人材派遣事業を束ねるBeNEXT UK Holdings Limitedの全株式を売却し、2017年12月に始めた欧州事業から7年余りで退いた。連結従業員は2024年6月期の32,739名から2025年6月期に26,978名へ減り、売上収益は1,879億5,400万円、当期利益は125億5,900万円となった[23][24]。
- 株式会社夢真ビーネックスグループ 有価証券報告書(2022年6月期・連結・IFRS)
- 株式会社オープンアップグループ 有価証券報告書(2025年6月期・連結・IFRS)
- オープンアップグループ 有価証券報告書【沿革】
- 日本経済新聞(2021年1月29日)「ビーネックスグループと夢真HDが合併 4月」
- M&A Online(2021年1月29日)「技術者派遣大手のビーネックスグループ<2154>と夢真ホールディングス<2362>、2021年4月に合併」
- M&A Online(2022年6月17日)「夢真ビーネックスグループ、2023年1月『オープンアップグループ』に社名変更へ」