NTTデータグループNTT Ltd.との海外事業統合による規模の倍増と、有利子負債1.7兆円の引き受け

親会社のインフラ事業を抱き込んで世界順位を上げるか、単独の身軽さを保つか

時期 2022年5月
意思決定者(推定) 本間洋 NTTデータ 社長
論点 海外事業の規模拡大と統合負担の引き受け
概要
2022年5月9日、NTTデータとNTTが海外事業の統合を発表し、同年10月1日にNTTデータ55%・NTT45%の共同出資による海外事業会社「株式会社NTT DATA, Inc.」を設立した経営判断。NTTデータの海外事業と、NTT傘下でデータセンターやネットワークを手がけるNTT Ltd.を一つの会社にまとめた。
背景
NTTデータは十年余りの買収でITサービス世界9位まで来ていたが、2019年度の売上高は2.2兆円強で、トップ5に必要とされる2.5兆〜3兆円に届かなかった。国ごとのシェアが2%を超えていたのは日本やスペインなど数カ国にとどまり、米国は1%であった。
内容
統合後のNTTデータ全体の売上高は約300億ドル(約3.5兆円)、うち国外分は約180億ドル(約2.1兆円)となり、80カ国以上で14万人の体制となった。NTTデータのコンサルティング・システム開発と、NTT Ltd.のデータセンター・ネットワーク運用を組み合わせる構想である。シェア2%超の国は20カ国以上に広がった。
含意
連結売上高は2022年3月期の2兆5,519億円から2023年3月期に3兆4,902億円へ跳ね上がった一方、有利子負債は1兆円あまり増えて約1.7兆円となった。事業統合費用も2023〜24年度に約500億円、2025年度に約230億円を要し、2024年度の営業利益率は国内10.6%に対し海外3.6%にとどまった。
筆者の見解

借りた規模と、返す負債

この統合で手に入ったものは、自力では届かなかった数字であった。国ごとのシェアが2%を超える国は数カ国から20カ国以上へ、売上高は一年で9,383億円増えた。ただし増えた分の中身は、NTTデータが十年余り買い集めてきたシステム開発の会社ではなく、データセンターとネットワークという資本集約の事業である。営業利益率が10%台後半あっても金利負担で当期利益に届かないという本間洋氏(社長)の説明は、規模の飛躍が同時に負債の飛躍でもあったことを示している。

発表直後の決算説明会で少数株主から出た、当期利益の45%がNTTへ移ることへの疑問は、結果として3年で意味を失った。2025年9月30日にNTTデータグループ自体がNTTの完全子会社となり、少数株主がいなくなったためである。海外事業の統合から親会社への再統合まで、間は3年しかなかった。1988年に公正競争の確保を理由として切り出された会社は、海外で戦う規模を親会社から借りたところから、37年の独立に幕を下ろす道へ入っている。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

世界トップ5に足りない規模

2019年3月期からIFRSを適用したNTTデータは、ITサービス業界で世界トップ5に入る目標を掲げていた。2021年初、本間洋氏(社長)はトップ5に入るには売上高が2.5兆〜3兆円必要だが自社は2019年度で2.2兆円強であったと認め、海外の利益率が1%未満と低い点も挙げている。海外拠点は53カ国225都市に広がっていたものの、規模と収益性の双方で目標との差が残っていた[1][2]

差の中身は、国ごとのシェアであった。のちに海外事業会社の社長となる西畑一宏氏は、国ごとのシェアが2%以上になれば大手ITベンダーとして中央政府や大手企業の大型案件を獲得しやすくなると説明している。ところがNTTデータ単体でシェアが2%を超えていたのは、日本やスペインなど数カ国にすぎなかった。買収を重ねて拠点数だけは増えても、各国で入札の土俵に乗る厚みには届いていなかった[3]

ワンNTTというグループ側の再編

NTTグループ側でも、海外事業の集約が進んでいた。NTT持株会社は2010年に約2,860億円を投じてITインフラを手がける英ディメンションデータを傘下に収め、NTTコミュニケーションズもドイツ最大手のデータセンター事業者を買うなど各地でM&Aを重ねている。2018年にNTT社長へ就いた澤田純氏が「ワンNTT」を掲げると、2019年にNTTコミュニケーションズの海外事業とディメンションデータを統合してNTT Ltd.が設立された[4]

親会社との距離の取り方は、この時期の争点でもあった。2021年1月の時点で澤田純氏(NTT社長)はNTTデータを完全子会社化しないと明言しており、本間洋氏(社長)は世界トップ5入りを求められていると語っていた。もっとものちの報道によれば、NTTデータの完全子会社化は2020年のドコモ完全子会社化より先に検討されていた。ソリューションを担うデータを真ん中に置く必要があるとした澤田氏の構想は、NTTデータ側の反発が強く実現していない[5][6]

決断

55対45の共同出資会社

2022年5月9日、NTTデータとNTTは海外事業の統合を発表した。同年10月1日にNTTデータが55%、NTTが45%を出資する海外事業会社を設立し、NTTデータの海外事業とNTT Ltd.を一つにまとめる内容である。組み合わせるのは、NTTデータのコンサルティングとアプリケーション開発を主とするシステムインテグレーション力、すなわち「つくる力」と、NTT Ltd.のデータセンター・ネットワーク・マネージドサービスによる「つなぐ力」であった[7]

2022年10月6日、株式会社NTT DATA, Inc.の設立完了が公表された。統合後のNTTデータ全体の売上高は約300億ドル(約3.5兆円)、うち新会社が担う国外の売上高は約180億ドル(約2.1兆円)にのぼる。80カ国以上で14万人の専門家を抱える体制である。西畑一宏氏(社長)は、シェア2%を超える国が数カ国から20カ国以上へ広がり、2026年3月期までに営業利益ベースで300億円のシナジーを見込むと説明した[8][9]

少数株主から出た異議

発表から3日後の2022年5月12日、決算説明会の質疑でこのスキームへの疑問が出た。既存の海外事業から生じる当期利益の45%がNTTへ移ることは、NTTデータの少数株主にとって利点を理解しづらいという指摘である。会社側はシナジー300億円を挙げて持分に見合う価値があると答え、税金面の効果や繰越欠損金の活用はこれから精査するとした。持分比率の将来的な引き上げは現時点で考えていないとも述べている[10][11]

引き受ける相手の状態も説明された。統合を前提とした2022年度の営業利益への上乗せは約140億円で、その内訳はNTT Ltd.の下期営業利益が約250億円、PMIなど統合に係るコストが約100億円という見込みである。NTT Ltd.は構造改革の途上にあり、2022年度だけで380億円の構造改革費用を計画していた。営業利益も当期利益も収益性が低い会社を、統合の相手として抱えることが前提に置かれていた[12][13]

結果

売上高は9,383億円増え、有利子負債は1兆円増えた

統合の効果は、まず売上高に表れた。連結売上高は2022年3月期の2兆5,519億円から2023年3月期には3兆4,902億円へ、9,383億円増えている。営業利益も2,126億円から2,591億円へ伸びた。買収を十年余り重ねても届かなかった3兆円台の規模を、NTT Ltd.を抱き込むことで一年で越えた。2023年7月には国内事業会社の株式会社NTTデータを設立して持株会社体制へ移り、商号も株式会社NTTデータグループへ改めている[14][15]

一方で、抱き込んだのは事業だけではなかった。2023年5月11日の決算説明会で本間洋氏(社長)は、NTT Ltd.と一緒になったことで有利子負債が1兆円あまり増えて約1.7兆円になったと説明している。データセンター事業の営業利益率は10%台後半あるものの、金利の費用がかかるため当期利益にはすぐ貢献しないという構造も同じ場で語られた。第三者資本を入れて保有データセンターの持分を一部売却し、有利子負債と金利負担を減らす考えが示された[16][17]

統合の後始末と、利益率の差

統合の後始末は数年にわたった。NTTデータグループは組織の統合、人員体制の最適化、コーポレート機能の統一といったPMIのため、事業統合費用として2023〜24年度に約500億円を計上し、2025年度も約230億円を投じる見込みとなった。統合効果は2025年度で営業利益ベース300億円に上ると見込まれる一方、2024年度の営業利益率は国内事業の10.6%に対し、PMIの負荷がかかる海外事業は3.6%にとどまっている[18][19]

海外事業の目標はさらに引き上げられた。2024年度に売上高2兆7,509億円・営業利益1,002億円であった海外事業を、2027年度には売上高3兆3,860億円・営業利益3,200億円まで伸ばす計画で、営業利益率は9.5%に上がる計算である。ITサービス領域で世界8位、データセンター領域で世界3位という位置も得た。統合から3年後の2025年9月26日、NTTデータグループはNTTによる完全子会社化に伴い東京証券取引所プライム市場で上場廃止となった[20][21]

出典・参考

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