NTTデータグループ自前の海外拠点づくりを採らず、買収の連続だけで欧米へ出た十年余りの海外戦略

ノウハウがないという前提から出発した会社は、何を買い、何を買えなかったのか

時期 2005年
意思決定者(推定) 山下徹岩本敏男 NTTデータ 社長(2007-2012)・NTTデータ 社長(2012-2018)
論点 海外進出の手段選択とM&Aの積み上げ
概要
NTTデータが2005年に海外戦略を掲げ、独itelligence AG(2007年)、独Cirquent GmbH(2008年)、米Keane, Inc.(2010年)、伊Value Team S.p.A.(2011年)、西EVERIS(2014年)、米Dell Servicesの譲り受け(2016年)と、買収の連続だけで欧米市場へ出た一連の経営判断。
背景
国内の売上高は2002年3月期の8,020億円から2005年3月期の8,542億円へと4年で6%しか伸びず、成長の余地が細っていた。2003年4月に国際事業推進本部を置いたものの、海外で事業を立ち上げた経験は薄く、自前で拠点を育てる時間もなかった。
内容
買収先はいずれも固有の優良顧客を抱えていた。Cirquentを通じてBMW、Value Teamを通じてテレコム系、everisを通じてスペイン系の銀行と通信会社が付いてきた。2010年のKeaneは売上高788百万ドル・従業員約12,500人で、北米の顧客基盤とインド・APACの開発要員を同時に取り込んだ。2016年のDell Servicesの譲り受けは取得原価3,501億円に達した。
含意
岩本敏男氏(社長)は「ただノウハウがないので、取るべき戦略はM&Aしかない」と手段の選択を説明している。連結従業員数は2016年3月期の80,526人から翌期に111,664人へ増え、売上高も2018年3月期に2兆1,172億円まで伸びた。一方で海外事業の収益性は低いまま推移し、2019年度の海外利益率は1%未満にとどまった。
筆者の見解

買えるものと、買えないもの

この十年余りの海外戦略は、手段が先に決まった珍しい例であった。市場を選んでから入り方を考えたのではなく、自前で立ち上げる力がないという前提から出発して、買収以外を検討の対象から外している。その結果として得られたものは明快で、顧客名簿と技術者と売上高であった。BMWやテレコム、スペイン系の銀行という具体的な取引先が、会社ごと帳簿に乗った。フリーキャッシュフローの範囲という枠を守った点でも、この期間の買収は規律を欠いてはいなかったとみられる。

買えなかったものも同じくらいはっきりしている。国ごとのシェアと、ITサービス市場での名前である。53カ国225都市に拠点を持ちながら米国のシェアが1%にとどまるという状態は、小さな会社を数多く抱えた結果でもあった。2016年のDell Services譲り受けで取得原価3,501億円を投じても、この構図は変わっていない。買い集めた海外事業がまとまった形を得るのは、2022年にNTT Ltd.との統合で別会社へ移されてからである。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

国内で細った伸びしろ

2000年代前半のNTTデータは、国内で頭打ちの状態にあった。連結売上高は2002年3月期の8,020億円から2003年3月期8,321億円、2004年3月期8,467億円、2005年3月期8,542億円と、4年で6%しか伸びていない。経常利益も2002年3月期の472億円から2005年3月期には321億円へ落ちた。情報サービス業界では首位に立っていたものの、その市場での取り分をこれ以上増やす余地は細っていた[1]

海外に足場がないことは、早くから自覚されていた。2003年4月に国際事業推進本部を設置してはいたが、拠点も顧客も乏しい。2008年の時点でも年商規模でみた世界順位は15位前後にとどまり、山下徹氏(社長)はM&Aをてこにした海外売上高5倍計画に触れつつ、10年以内に世界トップ5に入る目標を語っていた。掲げた目標と手元の実力の差が、進出の手段を狭めた[2][3]

ノウハウの不在という前提

海外戦略を掲げたのは2005年である。のちに社長となる岩本敏男氏は、この時期の選択を、ノウハウがないので取るべき戦略はM&Aしかなかったと説明している。現地に人を送って営業網を育てる道も、合弁で入る道も採らず、すでに顧客と技術者を抱えた会社をまるごと買う手段に絞った。買収の対象も、まずSAPの導入に特化した企業へ寄せられている[4]

買う理由は、事業の前提が変わったという認識と結びついていた。2007年6月に社長へ就いた山下徹氏は「第3の創業」を掲げ、公社から分社した1988年当時はコンピュータが普及しておらず高価なメインフレームを使ったシステム自体が価値を持ったが、コンピュータが汎用品となった以上、問われるのはいかに作るかではなく何を作るかだと社内へ説いた。作る力の優位が薄れるなら、顧客との関係を持つ会社を買うほうが早い[5]

決断

顧客ごと買う

2007年12月、NTTデータは独SAP系システムインテグレーターのitelligence AGを経営権取得により子会社とし、欧州の拠点を築いた。2008年10月にはBMWグループの情報システム子会社であるCirquent GmbHを、2010年7月に米Intelligroup, Inc.を、同年12月に米Keane, Inc.およびKeane International, Inc.を、2011年6月に伊Value Team S.p.A.を、それぞれ子会社としている。買収した各社は固有の優良顧客を抱えており、CirquentからはBMW、Value Teamからはテレコム系の顧客が付いてきた[6][7]

なかでもKeaneは、当時としては過去最大の買収であった。同社の2009年12月期の売上高は788百万ドル、円換算で654億円にのぼり、従業員は約12,500人。うち北米が5,000人、インドとAPACが6,900人、欧州が600人という構成である。北米の大規模で安定した顧客基盤と営業要員を得ると同時に、インドを中心とする低コストの開発・保守要員を手に入れる取引でもあった。買収は現金を対価とする合併契約により実行された[8]

身の丈のM&Aと、束ね直す作業

買収の規模には枠がはめられていた。岩本敏男氏(社長)は、基本的にフリーキャッシュフローの範囲で身の丈に合ったM&Aを柔軟に進めてきたと述べ、注力する地域を北米と欧州に限っている。アジアや中南米が伸びるとしても欧米をしのぐ市場にはなりえない、というのがその理由である。ばらばらに買った会社を束ね直す作業は2012年から始まり、同年1月にKeane, Inc.がNTT DATA Inc.へ商号を改めて米州の統合に着手、3月にNTT DATA EMEA LTD.を設立してEMEAの統合を始めた[9][10]

束ね直しの途中でも買収は続いた。2014年1月にスペインのEVERIS PARTICIPACIONES, S.L.U.を子会社とし、中南米に強くスペイン系の銀行や通信会社を顧客に持つ体制を得ている。2015年7月には米Carlisle & Gallagher Consulting Groupを傘下に入れた。そして2016年11月、米Dell Servicesの譲り受けが98.0%以上完了する。取得原価は3,501億円、のれんは概算で1,496億円にのぼり、身の丈という言葉の目盛りは明らかに変わった[11][12]

結果

規模は買えた

買収の効果は、まず人数と売上高に表れた。連結従業員数は2016年3月期の80,526人から2017年3月期には111,664人へと3万人以上増えている。連結売上高も2016年3月期の1兆6,149億円から2017年3月期に1兆7,325億円、Dell Services分が通年で寄与した2018年3月期には2兆1,172億円に達した。2007年3月期に1兆円を超えてから11年で、規模はおよそ倍になった[13]

海外の売上目標も引き上げられた。2014年の時点で岩本敏男氏(社長)は、2020年をめどに海外売上高1兆円という目標を掲げている。同年の計画値は4,200億円であり、6年で2倍以上へ伸ばす想定であった。買収を重ねるほど売上高は積み上がる構造で、この目標そのものはさらなるM&Aを前提としていた[14]

利益率と知名度は買えなかった

一方で、海外事業の赤字は長く残った。2014年の取材で岩本敏男氏(社長)は、米国は黒字だが厳しいのはEMEAだと述べ、赤字の元凶は以前のドイツから当時のイタリアへ移ったと説明している。欧州はリーマン・ショック以降にユーロ危機へ入り、EMEAはその年もかろうじて赤字、翌年にほぼ均衡という見通しであった。買った会社の顧客は引き継げても、それぞれの国の景気と価格競争までは選べなかった[15]

十年余りの買収を経ても、市場での存在感は薄いままであった。2021年初の時点で海外拠点は53カ国225都市に広がっていたが、本間洋氏(社長)は海外でNTTデータと名乗ってもわかってもらえない段階にあると認めている。主要国のシェアはスペインが5%強、イタリアが3%弱、ドイツが2%弱で、米国はまだ1%であった。2019年度の海外事業の利益率も1%未満にとどまり、世界トップ5に必要とされる売上高2.5兆〜3兆円にも届いていなかった[16][17]

出典・参考
  • NTTデータグループ 有価証券報告書 第37期(2025年3月期)【沿革】
  • NTTデータ 有価証券報告書(2005年3月期・連結)
  • NTTデータ 有価証券報告書(2017年3月期)【企業結合等関係】
  • NTTデータ 有価証券報告書(2018年3月期・連結)
  • NTTデータ ニュースリリース 2010年10月29日「米国ITサービス企業Keane International, Inc.の子会社化について」
  • 週刊東洋経済 2008年5月31日号「TOP INTERVIEW NTTデータ社長 山下 徹 システムはからくり箱。そう見せたことに反省がある」
  • 週刊東洋経済 2014年10月24日号「この人に聞く NTTデータ社長 岩本敏男 欧米で積極買収 狙うは「海外1兆円」」
  • 週刊東洋経済 2021年1月23日号「【第2特集 反撃のNTT】 Q 海外の“知名度不足”を克服できますか? A 「成長力を高めて世界トップ5入りを目指す」 NTTデータ社長 本間 洋」

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