太平洋セメント米国西海岸でのオログランデ工場・レディング工場の取得と、生コン・骨材までの買い足し

5年続けて赤字を出した米国事業を畳むか、買い足すか——国内需要が4割減るなかで第二の柱をどこに置いたか

時期 2015年8月
意思決定者(推定) 福田修二不死原正文田浦良文 社長
論点 国内需要減退下での海外事業の位置づけ
概要
1990年に買収した米カリフォルニア・ポルトランド・セメントを足場に、太平洋セメントが2015年以降、米国西海岸でセメント工場・生コン・骨材を連続して買い足していった経営判断。2015年にオログランデ工場、2022年にレディング工場と生コン14工場、2025年にはVulcan社のカリフォルニア州生コン事業を取得した。
背景
国内セメント需要は2004年度の5908万トンから2023年度の3457万トンへ4割減った。一方の米国は、セメント需要が実質GDPと高い相関を示す市場でありながら、リーマンショック後の米国事業は2009年から2013年まで5年続けて営業赤字に沈み、連結でも2期連続の純損失の一因となった。
内容
2015年、17中期経営計画の成長投資1000億円の一環として、Martin Marietta社からオログランデ工場とターミナル2カ所を4億2000万ドルで取得。2022年には同社からレディング工場と生コン14工場を2億5000万ドルで買い、2026年6月にはVulcan社の生コン41拠点の取得を完了した。
含意
カルポルトランドの営業利益は2023年に2億7700万ドルとなり、2006年の過去最高を19%上回った。会社は2025年12月に米国事業だけの説明資料を単独で公表し、ワシントンからアリゾナまでの5州で「上流〜下流を網羅した総合建材事業」と位置づけている。ただし2024年以降は高金利で需要が減速している。
筆者の見解

赤字の5年を挟んで、投資額が増えていった

2009年から2013年まで、カルポルトランドは5年続けて営業赤字を出した。営業利益率がマイナス20%に達した事業を畳まず、そのあとで4億2000万ドル、2億5000万ドル、7億1200万ドルと投じる額を増やしていったところに、この判断の芯がある。福田修二社長が2017年に「内需だけをベースにした経営はできない」と語った時点で、米国はすでに撤退の候補ではなく、国内セメントの代わりに置く柱として扱われていたとみられる。

もっとも、米国が安全な稼ぎ場という保証はない。2024年のセメント販売数量は612万トン、2025年予想は592万トンと減り続け、営業利益も1億8200万ドルの見込みへ落ちる。高金利が住宅需要を冷やせば、米国も国内と同じように数量が落ちる市場であった。買い足した生コンと骨材は、需要が細るときに自社のセメントの行き先を内側に確保する装置でもあり、その効き目が試されるのはむしろこれから、といえる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

1990年の布石と、リーマンショックの5年

米国での足場は合併の前に築かれていた。1990年10月、日本セメントが米カリフォルニア・ポルトランド・セメントを買収する。同じころ北西部のグレイシャー・ノースウェストも傘下に入り、2005年にこの二つを一本化してカルポルトランドが発足した。ワシントン州とオレゴン州のノースウェスト、カリフォルニア・アリゾナ・ネバダのサウスウェストという二つの事業圏を持つ体制が、このときに整っている[1][2]

その米国が、いちどは損失の震源になった。カルポルトランドの営業利益は2006年に2億3300万ドルを記録したあと急落し、2009年から2013年まで5年続けて赤字となる。2010年と2011年の営業利益率はマイナス20%前後に達した。太平洋セメントの連結決算でも2009年3月期に353億円、2010年3月期に370億円の純損失が並び、統合で得た規模が損失の振れ幅も広げることが表に出た[3][4]

内需だけでは組めない経営

国内の縮み方は、腰を据えて待てる速度ではなかった。セメントの国内需要は2004年度の5908万トンから2023年度の3457万トンへ、およそ4割減っている。福田修二社長は2017年3月、2050年の国内人口が1億人を切るという推計に触れ、「内需だけをベースにした経営はできない」と述べた。日本と米国、フィリピン、ベトナム、中国をつなぐ環太平洋の中で供給体制を組む、というのが当時の言い方であった[5][6]

米国市場の性格も、国内とは逆を向いていた。セメント需要は実質GDPと高い相関を示し、住宅部門が建設投資額の4割を超える。供給不足は輸入で埋める構造で、主要5州の輸入比率は2010年の18%から2024年には36%へ上がった。一方で環境規制により生産能力は漸減し、パシフィック地区は過去20年のピーク比75%まで落ちている。工場を持つこと自体の値打ちが上がる市場であった[7]

決断

2015年、オログランデ工場を買う

2015年6月30日に契約し、8月4日に公表した。カルポルトランドがMartin Marietta社からカリフォルニア州のセメント事業用資産、すなわちオログランデ工場とストックトン・サンディエゴのターミナル2カ所を4億2000万ドルで取得する内容である。同年5月に公表した17中期経営計画で3年間合計1000億円の成長投資を掲げており、この買収はその最初の大型案件にあたった[8]

買う理由は二つ示された。コルトン工場の生産中止で縮んだ生産能力を回復すること、そしてカリフォルニア・アリゾナ・ネバダの需要増に応えられる供給体制を組むことである。オログランデは大需要地ロサンゼルスに近く、既存のモハベ工場とリリトー工場を含めた物流と生産の最適化が見込まれた。福田修二社長は2017年、「さらなるM&Aを仕掛けることも考えている」と語っている[9][10]

上流から下流へ買い足す

次の一手は、セメントから川下へ伸びた。2022年3月1日、カルポルトランドはMartin Marietta社の西海岸資産のうち、カリフォルニア州北部のレディング工場と関連ターミナル、同州の生コン14工場を2億5000万ドルで買収することに合意する。北部・オレゴン・ネバダの需要増に応える供給体制に加えて、米国第2位の需要規模であるカリフォルニア州の生コン事業を強め、セメントの安定的な販売先を確保することがねらいであった[11][12]

最も大きな買い物は直近に来た。2025年10月と12月に公表したVulcan Materials社のカリフォルニア州生コン事業用資産の取得は、金額7億1200万ドル、対象は北カリフォルニアの生コン28拠点とターミナル2拠点、南カリフォルニアの13拠点である。2026年6月5日に手続きを終え、生コン事業の空白地帯であったサンフランシスコ・ベイエリアへ進出した。カリフォルニア州の生コン工場は22から50へ増える[13][14]

結果

国内に次ぐ収益源になる

買い足しの効果は数字に出た。カルポルトランドの営業利益は2023年に2億7700万ドルとなり、2006年の過去最高を19%上回る。EBITDAは3億9800万ドルで2006年比47%増であった。円換算では、米国の売上高は2022年度の2310億円から2023年度の2840億円へ、営業利益は259億円から390億円へ伸びている。国内セメントが赤字に沈んだ年に、米国が連結を支える構図が固まった[15][16]

事業の形も変わった。米国西海岸ではワシントンからアリゾナまでの主要5州にセメント工場4、生コン69拠点、骨材採石場・プラント24拠点を持ち、ノースウェストは骨材を軸に、サウスウェストはセメント工場と輸入ターミナルを軸に構成が分かれている。会社はこれを「上流〜下流を網羅した総合建材事業」と呼び、2025年12月には米国事業だけの説明資料を単独で公表した[17]

高金利が需要を冷やすなかで

追い風は続かなかった。2024年度の米国は、悪天候と金利の高止まりによる民間部門の減速でセメント販売数量が612万トンへ、生コンも548万立方ヤードへ落ちた。値上げとコスト削減でおおむね前期並みの利益を確保したものの、2025年の見通しは販売数量592万トン、売上高18億5600万ドル、営業利益1億8200万ドルと、いずれも2023年の水準を下回る[18][19]

それでも会社は買う手を止めなかった。2024年12月に骨材採石場などを取得し、2026年6月にはVulcan社の生コン41拠点を加えている。米国の需要は2022年以降の急激な利上げで住宅・商業不動産市場が低迷しており、本格的な回復は利下げの効果が出る2027年以降と見込まれる。需要が細るときに自社の販売先を内側に確保しておく、という組み立てであった[20][21]

出典・参考

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