円谷フィールズホールディングス持株会社体制への移行と円谷フィールズホールディングスへの商号変更

遊技機事業の社名を残すか、買収した子会社の名をグループの看板に掲げるか

時期 2022年3月
意思決定者(推定) 山本英俊 代表取締役社長CEO
論点 グループ組織と企業の自己定義
概要
2022年10月3日、フィールズは持株会社体制へ移行し、商号を円谷フィールズホールディングス株式会社へ変更した。遊技機事業は新設分割によって事業会社フィールズ株式会社へ承継され、親会社はIP・デジタル事業への投資とグループ統括に回った。
背景
2021年3月期はコロナ禍による遊技機市場の縮小で連結売上高388億円・営業損失22億円まで落ちたが、翌期は売上949億円へ戻した。売上の約1割にすぎないコンテンツ&デジタル事業の利益が、遊技機主体のPS事業と肩を並べていた。
内容
2022年3月22日に検討開始を公表し、6月の定時株主総会での承認を条件に10月移行という日程が組まれた。遊技機事業は会社分割で子会社化され、「IP×デジタル」の企業群と並列に置かれた。上場は維持された。
含意
2010年に51%を取得した子会社の名が、12年後に親会社の商号となった。遊技機販売を出自とする会社が、IPを軸とする企業群の統括会社を名乗るという自己定義の変更を、社名の次元で確定させた。
筆者の見解

社名が先に動く再編

持株会社化そのものは珍しい手続きではない。この事例で目を引くのは、売上の9割近くを稼ぐ事業の名を子会社へ渡し、1割の事業に由来する名前をグループの看板に掲げた点にあるとみることができる。組織の形は、稼ぎの大きさではなく、これから稼ごうとする方向に合わせて選ばれた。遊技機事業を会社分割で切り出し、IP・デジタルの企業群と横並びに置く配置も同じ考え方の延長にある。数字の現在地よりも、対外的な自己申告を先に動かす再編であった。

この順序には賭けの要素も残る。名前を変えても、当面の利益は遊技機の入替需要が支え続ける。2028年3月期に営業利益の5割を海外から得るという目標が実現しなければ、社名と収益構造の乖離はむしろ広がっていく。1988年に名古屋で製鉄原料と遊技機を扱った会社は、販社への集中、IPホルダー化、持株会社化と三度にわたって自らの定義を書き直してきた。四度目の書き換えが要るのか、それとも今回の名乗りが定着するのかは、ウルトラマン放送60年の先で見えてくるとみられる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

売上の1割が利益では並ぶという構造

2021年3月期、フィールズの連結売上高は388億円、営業損益は22億円の損失であった。コロナ禍でパチンコホールの営業が制限され、遊技機の入替需要が止まった影響が直撃した結果である。翌2022年3月期は売上949億円・営業利益34億円・経常利益36億円・親会社株主に帰属する当期純利益25億円まで戻したものの、1年で売上が2.4倍になる振幅そのものが、遊技機流通を主体とする事業構成の性質を示していた[1]

事業別に見ると、非対称が際立っていた。2022年3月期のPS事業は売上837億円・セグメント利益17億円、コンテンツ&デジタル事業は売上88億円・セグメント利益14億円である。連結売上に占めるコンテンツ&デジタル事業の比率は約1割にとどまる一方、利益額では遊技機主体のPS事業とほぼ並んだ。売上の規模で組織を組み立てれば遊技機が中心に座るが、利益の出方で見れば別の絵になる。持株会社化の議論は、この二つの事業を同じ会社の内側に抱え続けることの是非をめぐって進んだ[2]

ウルトラマンを海外へ出す段取り

2022年4月、東京証券取引所の市場区分見直しにより、同社は東証一部からプライム市場へ移った。翌5月に開いた決算および中期経営計画説明会では、コンテンツ側の計画が具体的に語られている。北米については「現在は、北米市場開拓に向けた基盤構築の最中であり、北米市場でのビジネスは本中期経営計画の次なる成長力の源泉と位置づけている」と説明され、3カ年の投資額は事業・人材・デジタル化等を含めて約100億円が想定された。IPを海外で回すための支出が、計画の前提に据えられた[3][4]

同じ説明会では、IPの使い道をめぐる質問も相次いだ。メタバース関連について同社は、ウルトラマンを「メタバースの中に登場する巨大なヒーローとして、様々な企業様からご期待いただいている」と述べ、他社へのライセンスで知見を高めたうえで自社展開を探る段取りを示した。中国のロックダウンについては「ロックダウンが長期に渡り続ければ、円谷プロダクションのビジネスにも大きな影響を及ぼすと考えられる」と答えている。国内の遊技機需要とは異なる変数が、グループの収益に効き始めていた[5]

決断

遊技機事業を分けて、並べる

2022年3月22日、フィールズは持株会社体制への移行の検討を開始したと公表した。「今後IPの価値が一層高まる事業環境の訪れが想定される中」という認識のもと、自社が担ってきた遊技機事業を会社分割によって持株会社の子会社とし、「IP×デジタル」ビジネス企業群と並列の組織体制へ移すという内容であった。持株会社の商号は、この時点で円谷フィールズホールディングス株式会社と示されている。本体から遊技機を外すという構造の変更と、社名の変更が、同じ発表のなかに置かれた[6]

日程は、2022年6月の定時株主総会での承認を条件に、同年10月の移行と組まれた。上場は維持される設計であり、株主が持つのは持株会社の株式となる。実際の移行は2022年10月3日に実行され、遊技機事業は新設分割によって事業会社のフィールズ株式会社へ承継された。親会社は商号を円谷フィールズホールディングス株式会社へ改め、グループ全体の統括と投資判断を担う会社に変わった[7][8]

買った会社の名を、親会社に掲げる

商号の選び方には、組織図の変更以上の含みがあった。円谷プロダクションは2010年4月に株式取得で傘下へ入った子会社であり、その名を12年後に親会社の看板へ据えたことになる。一方、1988年の創業から数えて21年間使われてきた「フィールズ」の名は、遊技機事業を引き受ける事業会社へ移された。グループの外から見たとき、この会社が何を中心に据える企業なのかを、社名の並びが示すかたちとなった[9]

持株会社に与えられた役割も明示された。「グローバルに通用するIPの創造・育成や、デジタルビジネスなどへの事業投資を戦略的に進めていく」ことと、各事業会社を支援して「グループシナジーの創出・拡大を促す」ことの二つである。遊技機の販売そのものは事業会社の仕事とし、親会社は投資と統括に回る。売上規模で9割近くを占める事業を子会社側へ置いたうえで、経営の関心をIPへ向ける配置であった[10]

結果

移行後の増収と、二つの事業の距離

移行を含む2023年3月期、連結売上高は1,171億円、営業利益110億円、経常利益112億円、親会社株主に帰属する当期純利益82億円となった。2024年3月期は売上1,419億円・営業利益118億円・純利益117億円、2025年3月期は売上1,406億円・営業利益153億円と続き、2026年3月期には売上1,741億円・営業利益175億円・純利益130億円を計上している。持株会社化の前後で、同社の利益水準は一段上がった[11]

二つの事業の規模差は、移行後も縮まっていない。2025年3月期のアミューズメント機器事業は売上1,229億円・セグメント利益152億円で連結売上の約87%を占め、コンテンツ&デジタル事業は売上160億円にとどまる。もっとも同社が2025年5月の決算説明会で示した目標は、2028年3月期の営業利益100億円について「海外5割、国内3割、グローバルでのトレーディングカードゲーム事業で2割程度の貢献をイメージしている」というものであった。売上の構成ではなく、利益の出どころを入れ替える計画が語られている[12][13]

出典・参考

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