TOPPAN(凸版印刷) TOPPANHDへ改称 創業123年で掲げてきた「凸版印刷」の看板を外す持株会社化
更新:
何をなぜ決めたか
- 概要
-
2023年10月1日、凸版印刷が吸収分割で持株会社体制へ移行し、商号をTOPPANホールディングス株式会社へ変更した経営判断。2023年3月9日の取締役会で移行を決議し、4月27日に分割準備会社2社との吸収分割契約を締結、6月29日の第177回定時株主総会で承認を得た。
持株会社の傘下には、主要部門を母体とするTOPPAN株式会社、DX事業を牽引するTOPPANデジタル株式会社、同年4月にセキュア事業を統合したTOPPANエッジ株式会社の3社が並んだ。創業123年で社名から"印刷"の二字が外れている。
- 背景
-
紙媒体の縮小で本業の印刷は長期停滞に入り、連結売上高は2008年3月期の1兆6,704億円というピークを16年にわたり超えられずにいた。成長は半導体フォトマスクとグローバル軟包装にあり、2021年12月には半導体用フォトマスク事業を分社している。急速な事業環境の変化に対応して事業ポートフォリオの変革を実現するには、これまで以上にグループ一丸となってシナジーの最大化を図り、グループガバナンスの強化を通じた経営資源の最適配分と迅速な意思決定を可能とする経営体制へ進化する必要がある——移行の理由に挙げたのは、この認識だった。
- 内容
-
TOPPANへ承継させたのは、グループ経営管理事業とDXデザイン事業部の事業を除く一切の事業で、対価としてTOPPAN普通株式242,877,000株が分割会社へ割り当てられた。DXデザイン事業部の事業はTOPPANデジタルへ移り、こちらは簡易吸収分割として株主総会の承認を要していない。共通支配下の取引として処理され、分割会社の資本金104,986百万円に増減はない。
組織の設計は 『持株会社に戦略・ガバナンス・リソース管理などの機能・権限を集約し、各事業会社には事業推進・会社運営に必要な機能を具備させる「求心型」の形態を採用しています』 というもので、提出会社の従業員は9,167名減って1,676名となった。移行に伴う一過性の統合費用46億円は2024年3月期の販売費及び一般管理費に計上されている。
- 含意
-
移行した2024年3月期の連結売上高は1兆6,782億円となり、16年ぶりに過去最高を更新した。営業利益は統合費用や人件費の増加を受けて前期比3.1%減の742億円にとどまっている。その後も半導体フォトマスク子会社テクセンドフォトマスクの上場準備や、米SONOCO社の軟包装・熱成形容器事業の取得が続き、持株会社へ集めた権限は事業の組み替えに使われていく。一方で、求心力を高めるためにいったん大きくした持株会社の組織は、役割をガバナンス・戦略機能に限定し、事業・サービス部門を事業会社へ移管する方向で見直しが検討されている。
いつ何が起きたか 9件
筆者の見解
看板を外した会社が問われる中身
この判断の中心にあるのは、印刷という看板を掲げたまま非印刷の成長事業を伸ばすことの難しさである。社名から"印刷"を外し、吸収分割で事業を会社ごとに分けた組み替えは、どこへ資源を向けるのかという経営の意思を、対外にも社内にも見えるかたちで示す意味を持ったと推察される。2008年のピークから16年を要した停滞のなかで、業績が完全に回復しきる前に看板を替えた点に、成長領域へ資源を振り向ける判断を先送りしなかった経営の構えがうかがえる。
もっとも、社名を替えたことそのものが業績を生むわけではなく、問われるのは権限を集めた持株会社が何をするかである。提出会社の従業員は1万843名から1,676名へ絞られたが、移行の翌々年には、その持株会社の役割をガバナンス・戦略機能に限定し、事業・サービス部門を事業会社へ移す見直しが検討課題として挙がった。求心型で集めた機能をどこまで持ち続けるのかが定まらないまま、権限だけが中央に残れば、迅速な意思決定という移行の理由そのものが揺らぐ。印刷会社という自己規定を組織の面から外したTOPPANにとって、看板の掛け替えは出発点にすぎないのだろう。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
業績の推移
持株会社体制への移行の条件
持株会社体制への移行の条件
| 科目 | 概要 | 備考 |
|---|---|---|
| 再編の方式 | 吸収分割による持株会社体制への移行 | 分割会社の凸版印刷が持株会社となり、承継会社2社を傘下に置く |
| 取締役会決議日 | 2023年3月9日 | 吸収分割契約の締結と商号変更を含む定款変更の決定は2023年4月27日 |
| 吸収分割契約の締結日 | 2023年4月27日 | TOPPAN株式会社・TOPPANデジタル株式会社それぞれと同日に締結 |
| 株主総会の承認 | 2023年6月29日 | 第177回定時株主総会。TOPPANデジタルへの分割は簡易吸収分割で承認不要 |
| 企業結合日 | 2023年10月1日 | 同日付で商号を凸版印刷からTOPPANホールディングス株式会社へ変更 |
| 承継会社 | TOPPAN株式会社、TOPPANデジタル株式会社 | ともに2023年3月1日設立の分割準備会社。資本金各40百万円、持株比率100.0% |
| 承継させた事業 | 凸版印刷が営む一切の事業 | グループ経営管理事業とDXデザイン事業部の事業を除く。後者はTOPPANデジタルへ |
| 割当ての内容 | TOPPAN普通株式242,877,000株 | TOPPANデジタル普通株式7,633,000株。いずれも分割会社へ割当て交付 |
| 資本金の増減 | 増減なし | 分割会社の資本金は2023年3月31日現在で104,986百万円 |
| 承継債務の取扱い | 分割会社が併存的に引き受け | |
| 会計処理 | 共通支配下の取引 | 企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針に基づく処理 |
| 移行に伴う一過性の費用 | 46億円 | 2024年3月期の販売費及び一般管理費に統合費用として計上 |
| 先行した事業再編 | 2023年4月1日にセキュア事業をTOPPANエッジへ承継 | 同日付でトッパン・フォームズ株式会社がTOPPANエッジ株式会社へ商号変更 |
出所:凸版印刷 有価証券報告書 第177期(2023年3月期)【重要な後発事象】・TOPPANホールディングス 有価証券報告書 第178期(2024年3月期)【企業結合等関係】
連結と提出会社の従業員数の推移
TOPPAN(凸版印刷):連結と提出会社の従業員数の推移
| (人) | 連結従業員数 | 提出会社の従業員数 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 2019年3月期 | 51,712 | 9,993 | |
| 2020年3月期 | 52,599 | 10,330 | |
| 2021年3月期 | 52,401 | 10,730 | |
| 2022年3月期 | 54,336 | 10,951 | |
| 2023年3月期 | 53,946 | 10,843 | |
| 2024年3月期 | 53,712 | 1,676 | 2023年10月の会社分割により提出会社の従業員が9,167名減少した |
| 2025年3月期 | 51,988 | 1,723 | |
| 2026年3月期 | 54,371 | 1,430 | 連結はSONOCO社の事業取得で増加。提出会社はさらに293名減った |
出所:凸版印刷/TOPPANホールディングス 有価証券報告書 第174期〜第180期(従業員の状況)
連結の売上高と営業利益の推移
TOPPAN(凸版印刷):連結の売上高と営業利益の推移
| (百万円) | 売上高 | 営業利益 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 2019年3月期 | 1,464,755 | 45,727 | |
| 2020年3月期 | 1,486,007 | 66,413 | |
| 2021年3月期 | 1,466,935 | 58,789 | |
| 2022年3月期 | 1,547,533 | 73,505 | |
| 2023年3月期 | 1,638,833 | 76,636 | |
| 2024年3月期 | 1,678,249 | 74,349 | 売上高は2008年3月期の1,670,351百万円を16年ぶりに上回った |
| 2025年3月期 | 1,717,960 | 84,086 | |
| 2026年3月期 | 1,805,033 | 67,108 | SONOCO社の軟包装・熱成形容器事業を9か月分取り込んだ期 |
出所:凸版印刷/TOPPANホールディングス 有価証券報告書 第174期〜第180期(連結損益計算書)
同じ問いに直面した会社
同じ問いに直面した会社
参考文献
- 凸版印刷 有価証券報告書「第177期(2023年3月期)【重要な後発事象】【経営上の重要な契約等】」
- TOPPANホールディングス 有価証券報告書「第178期(2024年3月期)【企業結合等関係】【従業員の状況】【沿革】【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】」
- 凸版印刷/TOPPANホールディングス 有価証券報告書「第174期〜第180期(従業員の状況、連結損益計算書)」
- TOPPAN ニュースリリース「持株会社の商号を「TOPPANホールディングス株式会社」に決定」
- TOPPAN ニュースリリース「持株会社体制への移行と新たな経営体制について」
- TOPPANホールディングス 統合報告書「統合レポート2024「トップメッセージ」「CFOメッセージ」」