SWCC純粋持株会社体制の解消と、商号の昭和電線ホールディングスからSWCCへの変更

「昭和」と「電線」を残すか、外すか——ソリューション提案型への転換を商号でどう示したか

時期 2022年3月
意思決定者(推定) 長谷川隆代 社長
論点 事業構造の転換と商号・グループ体制の再編
概要
2022年3月29日、昭和電線ホールディングスが連結子会社の昭和電線ケーブルシステムと昭和電線ユニマックを吸収合併して純粋持株会社から事業会社へ再編し、2023年4月1日付で商号をSWCC株式会社へ変更すると発表した経営判断。長谷川隆代社長のもとで進めてきた経営改革の総仕上げにあたる。
背景
2006年4月に始めた持株会社体制は、事業会社の統合が進んだ結果、実体としては1社を束ねる構えになっていた。2019年からのROIC経営で低資本効率の事業を整理し、電線・ケーブルの製造販売にとどまらないソリューション提案型のメーカーを掲げた中期経営計画と、旧商号は隔たりを抱えていた。
内容
新商号にはグループ略称として長年使ってきたアルファベット4文字の商標を用いた。狙いは経営戦略と事業運営の距離を縮めて戦略立案と実行の速度を上げることにあり、グループ経営の効率化・戦略機能の強化・管理機能の合理化を挙げた。商号変更に先立ち2023年2月27日にパーパスを制定している。
含意
1936年の設立以来87年続いた「昭和電線」の名が法人の商号から外れた。2024年3月期の営業利益は128億円へ伸び、株価は2022年度末の1,895円から2024年度決算発表後に7,160円まで上がっている。
筆者の見解

名を外すことで空けた余地

この判断をブランド刷新という言葉で括ると、同時に決めたもう一方が見えなくなる。長谷川隆代社長が畳んだのは17年続いた純粋持株会社体制であり、商号の変更はその再編を対外的に示す表示であった。事業会社が1社に集約された後も持株会社を残す構えは、戦略と実行の間に階層を一つ挟むだけになっていた。「昭和」と「電線」を落とした新商号が引き受けたのは、その階層を取り払って自ら事業を営む会社に戻るという内容であったとみることができる。

もっとも、名を替えたことで事業が替わるわけではない。SWCCとなって以降の増益を支えたのは電力インフラ向けの製品であり、AIを用いた労働災害予測のようなソリューションはまだ実証の段階にある。社名から領域の語を外す判断は、新しい事業を作った判断ではなく、作る余地を空けた判断にとどまる。「インフラだけじゃない。電線だけでもない。」という言葉が実態に追いつくかどうかは、本稿の時点ではなお先の話といえる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

17年続いた持株会社体制の実体

昭和電線電纜は2006年4月に会社分割を実施して持株会社体制へ移り、商号を昭和電線ホールディングスへ変更した。事業会社として昭和電線ケーブルシステムと昭和電線デバイステクノロジーを設立し、昭和ビジネスサポートを昭和電線ビジネスソリューションへ改称している。経営と事業運営を分ける狙いで組まれた三社体制であった[1]

その三社体制は長く保たれなかった。2015年10月に昭和電線ケーブルシステムが電力ケーブル事業会社のエクシムを吸収し、2017年4月には残る事業会社2社も同社へ吸収合併されて、事業会社は1社に集約された。持株会社の下に事業会社が1社という構えは、戦略と実行を分ける利点よりも、決裁の階層を一つ多く抱える負担のほうが重くなっていた[2]

電線の枠に収まらない事業構成へ

2019年に導入したROIC経営で低収益の事業を整理し、高付加価値品の比率を高めた結果、2022年3月期の連結営業利益は100億円と、長谷川隆代氏の社長就任前にあたる2018年3月期の63億円から改善した。2021年に始めた中期経営計画「Change & Growth SWCC 2026」では、電線・ケーブルの製造販売にとどまらないソリューション提案型のメーカーへ進むことを掲げていた[3][4]

掲げた方向と商号の間には隔たりがあった。「昭和電線ホールディングス」という名は、事業の領域を電線に、法人の性格を持株会社に、それぞれ固定して読ませる。会社は経営戦略と事業運営の距離を縮めて戦略立案と実行の速度を上げる必要を認め、純粋持株会社から事業会社への再編を検討していた[5]

決断

2022年3月29日の発表

2022年3月29日、昭和電線ホールディングスは、連結子会社である昭和電線ケーブルシステムと昭和電線ユニマックを吸収合併して純粋持株会社から事業会社へ再編し、あわせて商号をSWCC株式会社へ変更すると発表した。効力の発生は2023年4月1日付とし、グループ経営の効率化、グループ戦略機能の強化、グループ管理機能の合理化を実現するとした[6]

新商号に選んだのは、グループ略称として長年使ってきたアルファベット4文字の商標であった。会社はその理由を、これまでに培ってきた企業ブランドは維持しつつ、中期経営計画「Change & Growth SWCC 2026」と2026年に迎える創立90周年の先を見据えてグループのイメージを刷新し、企業価値を高めたいためと説明している。1936年の設立から87年使われてきた「昭和電線」の名が、法人の商号から外れた[7][8]

商号に先立つパーパスの制定

商号変更に先立つ2023年2月27日、同社はパーパス「いま、あたらしいことを。いつか、あたりまえになることへ。」を制定した。制定の理由には、時代の変化に対応して新たな価値を創造する企業として、グループの存在意義を明らかにし、経営陣と従業員がともに歩んでいくための道しるべとすることを挙げている。商号の刷新と同じ時期に、社内へ向けた言葉も置き換えた[9]

長谷川隆代社長は、電線・ケーブルのものづくりを強みとしつつ、デジタルを活用したソリューションでの成長を見据えると述べ、AIを用いた労働災害予測を電力会社と実証し始めていた。社名から事業領域の語を外すことは、電線を捨てる宣言ではなく、そこに縛られない領域へ人と資本を向ける余地を作る作業であった[10]

結果

事業会社となった後の数字

SWCCとして迎えた最初の決算である2024年3月期は、連結売上高2,139億円、営業利益128億円で、商号変更前の2023年3月期の2,091億円・105億円から伸びた。株価は2022年度末の1,895円から2024年度の決算発表後に7,160円へと約4倍になり、PBRは0.84倍から2.53倍、PERは6.02倍から18.6倍へ上がっている。財務戦略で2026年度の目標としていた時価総額1,500億円と格付け「A-」以上は2024年度に達した[11][12]

事業の顔ぶれも動いた。2025年3月にTOTOKUを子会社化し、2025年度からは三つの事業セグメントを二つに集約して、通信・コンポーネンツ事業を第二の柱に据えた。2025年3月期の連結営業利益は209億円で2年連続の最高益となり、時価総額は2018年比で約10倍まで広がっている。会社は「インフラだけじゃない。電線だけでもない。」を掲げ、2030年に向けた新たな領域への進出を国内にとどめず広げるとしている[13][14]

出典・参考

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