SWCCROIC の経営指標化による低資本効率事業の整理と、古河電工との汎用電線販売事業の統合
黒字であればよいのか、投じた資本に見合うのか——長谷川隆代社長が電線の低収益に当てた物差し
- 概要
- 2019年春、昭和電線ホールディングスの長谷川隆代社長が事業をセグメント制へ改編し、ROIC(投下資本利益率)を経営指標として導入した経営判断。事業別のROICと資本コストを突き合わせ、黒字でも資本コストを下回る事業を縮小・撤退の対象とした。同年6月には古河電気工業と汎用電線の販売事業を統合すると発表している。
- 背景
- 2004年3月期以降に四度の最終赤字を計上し、黒字の年も利益率は1%程度にとどまっていた。自己資本比率は26.6%まで下がり、社内には「電線の付加価値は低くて当然」「低収益は仕方ない」という受け止めが広がっていた。
- 内容
- セグメント制と指名委員会・報酬委員会の設置、相談役制度の廃止、監査等委員会設置会社への移行を同時に進め、事業別ROICと事業別WACCの差を各事業に徹底した。建設・電販市場向け汎用電線は古河電工との共同出資会社SFCCへ販売機能を移し、昭和電線HDが60%、古河電工が40%を出資した。
- 含意
- 利益の絶対額ではなく投下資本に対する見返りで事業を測る枠組みが、創業以来の商域である汎用電線にも当てられた。SFCCは2022年に製造まで取り込み、出資比率は80対20へ、2026年3月末にはSWCCの完全子会社となる方針が示されている。
物差しを替えるということ
この改革の芯は、不採算事業の整理という言葉に収まらない。長谷川隆代社長が替えたのは事業の顔ぶれではなく、事業を測る物差しであった。「電線の付加価値は低くて当然」という社内の受け止めに対し、稼ぐのにいくら使ったかを問うROICを持ち込み、黒字であっても資本コストを賄えない事業は手放す基準に改めた。創業以来の商域である汎用電線の販売を、競合の古河電気工業と一つにするところまで踏み込んだ点に、その徹底が表れているとみられる。
もっとも、指標を軸にした経営には縮小均衡の危うさがついて回る。同社自身、成長のための先行投資は一時的にROICを押し下げるため、ROICを最終目標に据えると事業責任者の投資意欲が下がると認め、成長性とキャッシュ・フローを併せて見る形へ組み替えようとしている。古河電工と分け合った汎用電線も、2026年3月末には持ち分をすべて買い取って自前へ戻す。物差しを替える判断は一度で終わらず、当てる対象が変わるたびに引き直しを迫られるとみることができる。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
背景
四度の最終赤字と、低収益を許す社内の受け止め
長谷川隆代氏が社長に就いた2018年6月の時点で、昭和電線ホールディングスは十数年にわたり低い利益率から抜け出せずにいた。2004年3月期以降に四度の最終赤字を計上し、最終黒字の年も利益率は1%程度にとどまっていた。2013年3月期は64億円、2016年3月期は92億円の最終赤字で、自己資本比率は26.6%まで下がっていた[1][2]。
収益の低さは、社内で異常と受け止められてはいなかった。長谷川氏は当時を振り返り、社員も役員も不安を抱えていた一方で「電線の付加価値は低くて当然。慣習は変えられない。低収益は仕方ない」という雰囲気が強かったと語っている。社外取締役からは「改革を進めないと、この会社はおかしくなりますよ」[4]との指摘を受けていた[3]。
投下資本の重い産業で、規模に劣るという条件
電線は労働集約的で、設備にも在庫にも重い投下資本を要する産業である。長谷川氏は電線業界の性格をそう捉え、利益の絶対額だけを見る管理では事業の巧拙が判別できないと考えた。同社の売上高は2024年3月期で2,139億円、住友電気工業・古河電気工業・フジクラの電線御三家が8,000億円から4兆円の規模にあるのに比べ、体力の差は小さくなかった[5]。
規模で劣る会社が汎用品で競うほど、投下資本の効率は落ちる。建設・電販市場向けの汎用電線は他社との性能差を出しにくく、価格で選ばれる領域であった。ここに設備と在庫を張り続ける限り、利益率は上がらない。長谷川氏が最初に手をつけたのは、個々の事業の巧拙を測る物差しと、それを扱う組織の作り替えであった[6]。
決断
セグメント制とROICを同時に入れる
2019年春、長谷川氏は事業をセグメント制へ改編し、ROIC(投下資本利益率)を経営指標として導入した。あわせて指名委員会・報酬委員会を設置し、相談役制度を廃止している。同じ2019年には監査役会設置会社から監査等委員会設置会社へ移行しており、事業の資本効率を測る枠組みと、それを決裁する機関設計を同時に組み替えた[7][8]。
導入の意図について長谷川氏は、黒字か赤字かではなく稼ぐのにいくら使ったかを厳しく見た、ROICの低い事業は売却したと説明している。実務では事業別のROICと事業別WACC(加重平均資本コスト)を突き合わせ、黒字であっても資本コストを賄えない事業に手を入れた。ROICを構成要素へ分解した管理を現場まで広げ、指標を社員が扱える言葉に置き換える作業も並行した[9][10]。
競合と汎用電線の販売を一つにする
2019年6月18日、昭和電線HDと古河電気工業は建設などの汎用電線事業で業務提携し、両社の販売事業を統合すると発表した。2020年4月1日付で共同出資の販売会社を新設し、昭和電線HDが60%、古河電工が40%を出資する。新会社の名称はSFCCで、昭和電線HD傘下の2社と古河電工子会社の販売事業を集めた。公正取引委員会の審査を経て、2020年4月1日に営業を開始している[11]。
汎用電線は創業以来の商域でありながら、単独では資本効率を取り戻しにくい領域であった。競合の販売網と一つにすれば重複する営業と物流が減り、規模の経済も働く。出資の過半を握って主導権を残す一方、自前で売り切る構えは降ろした。ROICという物差しを入れたその年に、物差しが最も厳しく当たる事業から手をつけていた[12]。
結果
販売から製造へ広がった統合と、聖域のない整理
統合は販売にとどまらなかった。2022年7月1日、昭和電線ケーブルシステムと古河電工産業電線が建設・電販市場向け汎用電線の製造事業をSFCCへ譲渡し、同社は製造から販売までを一貫して営む事業会社となった。出資比率も同日付で60対40から80対20へ改められている。2025年11月には古河電工が残る持ち分をSWCCへ譲渡すると伝えられ、2026年3月31日付での完全子会社化が示された[13][14]。
事業の取捨は年1回の事業性評価委員会で続いた。2024年度にはアルミ架空送電線事業を北日本電線へ譲渡すると決めて2025年4月1日付で実施し、同年7月には免震事業を2026年度末で生産停止すると決定している。土地や政策保有株式の売却も進み、政策保有株式は約40億円を売って2025年3月末に純資産対比3.3%まで下がった。2024年度のROICは目標10%に対して11.9%となり、営業利益は209億円で2年連続の最高益を記録した[15][16]。
- 週刊東洋経済 2024年11月23日号「【第1特集 すごい中堅企業100】 PART2 注目企業 (7)SWCC(旧昭和電線HD) 上場(神奈川県川崎市) 初の女性社長がガバナンス改革 躍進する老舗電線メーカー」
- 日経ビジネス 2023年4月28日「SWCC(旧昭和電線HD)、ROIC使い大胆改革 古い体質と決別」
- 日本経済新聞 2019年6月18日「昭和電線HDと古河電工、汎用電線事業で業務提携」
- 日本経済新聞 2025年11月27日「古河電工、汎用ケーブル会社株を譲渡 共同出資のSWCCに」
- SWCC「建設・電販市場向け汎用電線の製造事業統合完了に関するお知らせ」(2022年7月1日)
- SWCC 公式サイト「SWCCの歩み」
- SWCC グループレポート統合報告書2025
- 昭和電線ホールディングス 有価証券報告書(2016年3月期・連結)
- 昭和電線ホールディングス 有価証券報告書(2020年3月期・連結)