抜本的再構築による非中核事業の一斉譲渡

ハンズ・ゴルフ場・スキー場・フィットネス

余暇時代に築いた多角化資産をまとめて手放すか——資本効率のために何を切り離したか

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時期 2021年12月
意思決定者 西川弘典 社長
論点 非中核事業の整理と経営資源の集中
概要
東急不動産ホールディングスは2021年から2024年にかけて、東急ハンズをカインズへ、ゴルフ場・スキー場をリソルへ、フィットネス事業をルネサンスへ譲渡し、北和建設も手放すなど、非中核事業を「抜本的再構築」として一斉に整理した。資本効率型への転換に合わせ、余暇時代に築いた多角化資産を切り離す経営判断であった。
背景
1976年設立の東急ハンズや、余暇時代に築いたゴルフ場・スキー場・会員制リゾートなどの非中核資産は、収益力が低下し資本効率を圧迫していた。持株会社体制と資本効率型不動産企業への転換が、事業の選択と集中を強く求めていた。
内容
2021年12月に東急ハンズのカインズへの全株譲渡を決議し2022年3月に完了、2022年7月にゴルフ場4施設とスキー場1施設をリソルへ譲渡した。北和建設も手放し、フィットネス事業はルネサンスへの譲渡で整理した。西川弘典社長はハンズ売却を「脱自前主義の象徴」と位置づけた。
含意
FY23で抜本的再構築が必要と位置づけた事業の構造改革が完了し、FY24でフィットネスの全株譲渡により再構築を終えた。中期経営計画2025の財務目標を2年前倒しで達成し、都市再開発と再エネへ資源を集中した。1976年のハンズ設立に始まった多角化の総括的な幕引きにあたる。
筆者の見解

抱えることをやめるという判断

この決断の核心は、かつて多角化の成果として誇った事業群を、資本効率という一つの物差しで冷静に選び直した点にある。東急ハンズもゴルフ場もスキー場も、それぞれの時代には確かな戦略の産物であった。だが、稼ぐ力が落ち資本を寝かせる資産になったとき、東急不動産ホールディングスはそれらを抱え続けることをやめ、事業を最も生かせる相手へ委ねる道を選んだ。何でも自前で抱え込む発想から離れる「脱自前主義」は、資産の量ではなく資本の効率で経営を測る立場への転換と、地続きの判断であったとみることができる。

もっとも、抱えることをやめる決断には、失うものもある。多角化は、本業の景気変動を別の事業でならす分散の効果や、思わぬ新しい柱が育つ余地を持っていた。非中核をまとめて切り離し、都市再開発と再エネへ資源を集中させることは、選択と集中の明快さと引き換えに、事業構成の幅を狭める選択でもある。渋谷という一つの重点と、再エネという一つの成長領域に賭けを寄せた東急不動産ホールディングスが、身軽さと引き換えに手放した分散の価値をどう補っていくか——多角化の幕引きが残した問いは、そこにあるといえる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

多角化の遺産と、資本効率への圧力

東急不動産ホールディングスは、余暇時代への多角化のなかで幅広い非中核事業を抱えてきた。1976年に設立した東急ハンズ、1975年以降に広げたゴルフ場やスキー場、会員制リゾートなどは、かつてグループの多角化の象徴であった。だが人々のライフスタイルの変化とともにこれらの収益力は低下し、資産として抱え続けることが資本効率を圧迫するようになっていた。開発・賃貸・売却の回収サイクルで稼ぐ資本効率型への転換を進めるうえで、これらの資産の扱いが避けて通れない論点になった[1]

持株会社体制のもとで開発・管理・仲介を連結で見渡せるようになったことも、選択と集中を後押しした。全量自己保有型から資本効率型へと事業モデルを組み替える方針を掲げた以上、資本を寝かせる非中核資産を残す理由は薄れていた。成長分野である都市再開発や再エネへ経営資源を寄せるには、稼ぐ力の落ちた事業をまとめて切り離す必要があった。抜本的な再構築が必要な事業をあらかじめ位置づけ、期限を切って片づける構えをとった[2]

決断

非中核事業の一斉譲渡

東急不動産ホールディングスは、非中核事業を相次いで手放した。2021年12月22日、連結子会社である東急ハンズの発行済株式の全部をホームセンター大手のカインズへ譲渡することを決議し、2022年3月31日に譲渡を完了した。2022年7月には、関西エリアなどのゴルフ場4施設と福島県のスキー場1施設をリソルへ譲渡すると決めた。建設子会社の北和建設も手放し、フィットネス事業はルネサンスへの譲渡で整理した。個別の事業売却を積み上げるのではなく、抜本的再構築として一括で片づける進め方をとった[3]

一連の譲渡を、西川弘典社長は「脱自前主義」の象徴と位置づけた。何でも自社で抱え込む多角化の発想から離れ、その事業を最も生かせる相手に委ねるという考え方であった。東急ハンズは、実店舗とECを組み合わせる力を持つカインズのもとで再成長を託され、収益力の低下した事業を切り離す狙いと、事業を引き継ぐ相手のシナジーとが重ねられた。抱え続けることが目的化していた資産を、資本効率という物差しで見直す判断であった[4]

結果

再構築の完了と、資源の集中

抜本的再構築は、二段階で完了した。2023年3月期の決算で、抜本的な再構築が必要と位置づけた事業の構造改革が完了し新たな段階へ移行したと表明し、2024年3月期にはフィットネス事業をルネサンスへ全株譲渡して再構築を終えた。切り離しと並行して本業は伸び、中期経営計画2025の財務目標を2年前倒しで全て達成した。都市再開発と再エネという成長分野へ経営資源を集中する体制が整い、非中核事業を抱えたまま資本効率を語る段階から、実際に身軽になった段階へ移った[5]

この一斉整理は、半世紀にわたる多角化の総括でもあった。切り離した東急ハンズは、1976年に不動産デベロッパーが異業種小売へ賭けた多角化の象徴であり、ゴルフ場やスキー場も余暇時代への進出の産物であった。余暇と趣味に個人が金を使う時代を見て広げた事業群を、資本効率を軸に事業を選ぶ時代のなかで一括して手放した。始まりと終いの両方を担ったのが同じ会社である点に、一つの企業が時代とともに事業構成を組み替えていく姿がうかがえる[6]

出典・参考