SWCC中国・富通集団との業務・資本提携と、第三者割当増資による筆頭株主の交代

中国市場への足がかりか、財務の下支えか——昭和電線ホールディングスが筆頭株主を東芝から富通へ委ねた提携

時期 2011年5月
意思決定者(推定) 相原雅憲 社長
論点 財務再建と海外事業基盤の構築
概要
2011年5月13日、昭和電線ホールディングスが中国の富通集団有限公司と業務提携契約を、その100%子会社である富通集団(香港)有限公司と第三者割当増資の株式引受契約をそれぞれ締結した経営判断。同年9月に富通集団(香港)から総額約60億円の払込みを受け、同社が筆頭株主となった。相原雅憲社長のもとでの提携である。
背景
2006年の持株会社化の直後、昭和電線ホールディングスはリーマン・ショックで二期連続の赤字に沈み、自己資本比率を落として財務体質が痛んでいた。設備投資需要に連動する電線事業が世界的な需要収縮の影響を受けるなか、財務の立て直しと海外事業の拡大が経営の課題となっていた。
内容
富通集団(香港)を割当先とする第三者割当増資で新株式5,714万株を発行し、総額約60億円の払込みを受けた。これにより富通集団(香港)は発行済株式の18.53%を保有する筆頭株主となり、東芝は4.85%へ後退した。中国では富通昭和線纜(天津)などの合弁会社を設立し、現地生産と研究開発の体制を組んだ。
含意
1936年に東京電気(現・東芝)の電線部門から分離して発足した会社が、筆頭株主の座を創業以来の東芝系から中国企業へ移した提携であった。約60億円の資本受け入れは痛んだ財務の下支えとなったが、翌2013年3月期に純損失64億円を計上するなど、財務再建を即座に実現するものではなかった。
筆者の見解

出自を賭けた資本の受け入れ

この提携を中国市場への足がかりという言葉だけで説明するのは、事の半分しか捉えていない。リーマン・ショックで二期連続の赤字に沈み、自己資本比率を落とした昭和電線ホールディングスにとって、富通集団からの約60億円の払込みは、痛んだ財務を外部資本で下支えする現実的な意味を持っていた。しかもその代償として、1936年に東京電気から分離して以来の東芝系という出自を象徴する筆頭株主の座を、中国企業へ譲った。財務の必要と出自の重みが交錯する選択であったとみることができる。

もっとも、提携が財務再建をただちに成し遂げたわけではない。増資を受けた翌年度の2013年3月期に純損失64億円を計上したことは、資本の注入だけでは電線事業の低収益を反転できなかったことを示している。財務の本格的な回復は、2018年に就任した長谷川隆代社長がROIC経営で資本効率へ切り込むまで時間を要した。危機のなかで外部資本を受け入れる判断は、時間を稼ぐ手立てではあっても、事業そのものの立て直しに代わるものではなかったといえる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

持株会社化とリーマン・ショック後の財務悪化

昭和電線電纜は2006年4月に会社分割を実施し、純粋持株会社体制へ移行して商号を昭和電線ホールディングスへ改めた。事業会社として昭和電線ケーブルシステムと昭和電線デバイステクノロジーを設立し、電線・巻線・デバイスの各事業を分社した再編である。この持株会社化は、第12代社長の富井俊夫氏が主導した。事業ごとの採算を明確にし、機動的な経営体制を築く狙いがそこにあった[1][2]

持株会社化の直後、2007年3月期は連結売上高2,091億円・経常利益25億円と拡大したものの、2008年9月のリーマン・ショックが業績を直撃した。2009年3月期は売上高1,849億円・経常損失46億円・純損失85億円へ落ち込み、翌2010年3月期も純損失25億円と二期連続の赤字となった。自己資本比率は下がり、財務体質は痛んだ。設備投資需要に連動する電線事業が、世界的な需要収縮の影響をまともに受けていた[3]

決断

富通集団との業務・資本提携

2011年5月13日、昭和電線ホールディングスは中国の富通集団有限公司との間で業務提携契約を締結し、あわせてその100%子会社である富通集団(香港)有限公司との間で第三者割当増資による株式引受契約を結んだ。相原雅憲社長のもとで進めた提携である。掲げていた中期経営計画で海外事業の拡大を柱に据えており、中国での事業展開を担うパートナーとの資本・事業両面の結びつきを、その具体策とした[4][5]

株式引受契約に基づき、同年9月8日に富通集団(香港)から総額約60億円(5,999,910,000円)の払込みを受け、新株式5,714万株を発行した。発行価格は1株105円であった。この資本の受け入れには、リーマン・ショックで痛んだ財務基盤を下支えする狙いと、富通集団グループとの協業で事業シナジーを生む狙いが重なっていた。増資による収入は約60億円にのぼり、有利子負債の圧縮にも振り向けられた[6][7]

筆頭株主の交代と中国での合弁

第三者割当により、富通集団(香港)は昭和電線ホールディングスの筆頭株主となった。2012年3月末の大株主の状況では、富通集団(香港)が発行済株式の18.53%を保有して首位に立ち、それまで株式を持っていた東芝は4.85%へ後退した。1936年に東京電気(現・東芝)の電線部門から分離して発足した会社にとって、筆頭株主が創業以来の東芝系から中国企業へ移る意味を持つ提携であった[8][9]

提携は資本の受け入れにとどまらず、中国での合弁事業を伴った。両社は中国天津市に富通昭和線纜(天津)有限公司を、浙江省杭州市に富通昭和線纜(杭州)有限公司や杭州富通昭和線纜材料研究開発有限公司を設立し、現地生産と研究開発の体制を組んだ。翌年度からの中期経営計画「GROWTH 2014」では、富通集団との合弁事業の体制強化を海外事業拡大の重点施策に掲げている[10][11]

結果

提携後の業績と資本提携の解消

提携を結んだ2012年3月期の業績は、連結売上高1,718億円・営業利益19億円・純利益2億円と低い水準にとどまった。翌2013年3月期には純損失64億円を計上し、再び赤字へ沈んでいる。中国での協業や増資による資本注入は、財務再建を即座に実現するものではなかった。電線事業の低収益という構造課題は、提携の後も昭和電線ホールディングスの経営に残った[12][13]

富通集団との資本提携は、十年あまり続いた後に区切りを迎えた。SWCCは、当初の目的を達したとして2022年11月に資本提携のみを解消し、業務提携は継続する形へ整理している。中国企業を筆頭株主に迎えた財務再建の試みは、この間の自力での収益改善を経て役割を終えた。会社は2023年に商号を昭和電線ホールディングスからSWCCへ改め、電線専業からの脱皮を進めた[14][15]

出典・参考

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