三井海洋開発商船三井を14.86%の株主に迎えたオフショア事業の業務提携
大型化するFPSOチャーターの資金を誰と背負うか、金森健社長が選んだ相手
- 概要
- 2023年4月28日、三井海洋開発は取締役会で三井物産と商船三井を割当先とする第三者割当増資を決議し、同日付で商船三井と業務提携契約を、三井物産と業務提携変更契約を結んだ。払込期日は2023年6月30日で、商船三井は増資後の発行済株式総数の14.86%を保有する主要株主となった。
- 背景
- 海洋石油・ガス開発の大規模化と大水深域への移行でFPSOのチャータープロジェクト1件あたりの規模が膨らみ、特別目的会社への投融資に必要な資金が増えていた。三井海洋開発は2019年12月期から3期連続の赤字を出した直後で、財務体質の維持・強化が課題になっていた。
- 内容
- 発行株式数は11,937,300株、発行価額は1株1,264円、調達額は150億8,874万7,200円。商船三井が10,162,300株、三井物産が1,775,000株を引き受けた。手取金は全額をFPSOのチャーター事業を営む特別目的会社への投融資に充て、2023年7月から12月末までに支出する計画とした。
- 含意
- 商船三井とは以前から特別目的会社へ共同で出資する関係にあった。提携ではこの協力関係を契約にし、プロジェクトの信用力と金融機関からの調達力を高める狙いを置いた。商船三井は2024年8月に出資割合を15.00%へ引き上げ、単独筆頭株主となる。
案件の相手を株主にした150億円
この決議で選ばれたのは調達の金額ではなく、割当先であった。150億8,874万7,200円は、2年後の2025年12月期の営業利益685億円の4分の1に満たない。その資金のために既存株主の持分を21.16%薄め、前日終値1,404円から9.97%引いた1株1,264円で発行している。借入と社債は自己資本比率を下げ、公募増資は時間と費用がかかるうえ資本業務提携を伴わない——開示に並ぶ消去法は、手段を絞る説明であると同時に、相手を絞る説明でもあったとみることができる。
案件の相手から資本を入れることは、その相手を案件の外でも株主にすることであった。商船三井は三井海洋開発が設立する特別目的会社へ以前から共同で出資しており、同じ設備に金を置く相手が発行済株式の14.86%を持てば、金融機関から見たチャータープロジェクトの信用力は上がる。同じ理由で、提携契約には商船三井が取締役候補者1名と執行役員候補者1名を指名すると書き込まれた。案件が増えているあいだ、案件の相手が株主であることの代金は表に出ない。資本で結んだ提携が終わる日を決めるのは、契約に書かれた5%という線であって、三井海洋開発の側ではないとみられる。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
背景
1件あたりの資金が重くなったチャーター事業
三井海洋開発の収益の柱は、FPSOを建造して売り切る事業ではなく、特別目的会社を通じて設備を保有し石油会社へ貸し出すチャーター事業にある。この方式では同社が設立した特別目的会社へ投融資する必要があり、案件が大きくなるほど手元資金の負担が増す。海洋石油・ガス開発の大規模化と大水深域への移行が進み、1件あたりの規模と必要資金が膨らんでいた[1]。
資金需要が増えた時期に、自己資本は痩せていた。2019年12月期から2021年12月期まで3期続けて赤字を計上し、2021年12月期は親会社の所有者に帰属する当期損失が504億円に達している。2022年12月期に黒字へ戻したものの、1株当たり親会社所有者帰属持分は2020年12月期の15.06米ドルから2022年12月期は14.40米ドルへ目減りしていた[2]。
すでに同じ案件に出資していた海運会社
商船三井は初対面の相手ではなかった。同社は三井海洋開発がFPSOの保有・リース・オペレーションのために設立する特別目的会社へ、以前から共同で出資していた。深海の生産比率が高まりFPSOの需要拡大が見込まれるなか、海運で培った経営資源と顧客基盤を借りれば、海外のコントラクターと競う力が増すと三井海洋開発は見ていた[3]。
もう一方の三井物産とは、2010年2月26日付の業務提携契約があり、発行済株式の14.86%を保有する主要株主として取締役1名を送っていた。2021年11月に三井E&Sの株式売却で親会社が外れたあと、三井海洋開発の株主構成は商社と海運を主要株主とする形へ動きつつあった。増資はその配置を確定させる手続きでもあった[4]。
決断
借入ではなく資本で調達する
2023年4月28日、三井海洋開発は取締役会で第三者割当増資を決議した。発行株式数は普通株式11,937,300株、発行価額は1株1,264円、払込総額は150億8,874万7,200円。内訳は商船三井が10,162,300株、三井物産が1,775,000株で、払込期日は2023年6月30日とされた。発行諸費用1億2,000万円を差し引いた手取概算額14,968,747,200円は、全額をチャーター事業の特別目的会社への投融資に充てる計画であった[5]。
他の手段は検討のうえで退けられた。借入や転換社債を含む社債は負債を増やして自己資本比率を下げるため財務体質の維持・強化に資さず、公募増資や株主割当は時間と費用がかかるうえ資本業務提携を伴わない。新株予約権は株価次第で必要額を調達できない。三社の関係を強めながら確実に自己資本を厚くする手段として、第三者割当が選ばれた[6]。
21%の希薄化と引き換えに得たもの
発行株式数は増資前の発行済普通株式総数56,408,000株の21.16%にあたり、既存株主の持分は目に見えて薄まった。発行価額1,264円は決議前日の終値1,404円から9.97%引いた水準で、割当先が2か月の株価下落を引き受ける立場にあることなどを踏まえて協議で決めた。監査役4名は、日本証券業協会の指針に沿い特に有利な金額に該当しないとの意見を出している[7]。
希薄化と引き換えに結んだのが、商船三井との業務提携契約であった。三井海洋開発がFPSOの設計・建造・リース・オペレーションのノウハウを出し、商船三井がグローバルネットワークと事業開発・資金調達・地域特性のノウハウを出す。加えて商船三井は業務運営面の体制強化に協力し、取締役候補者1名と執行役員候補者1名を指名する。商船三井の保有が発行済株式の5%未満になれば解除できる条項も置かれた[8]。
結果
同率主要株主から単独筆頭株主へ
払込は2023年6月30日に実行され、商船三井は10,162,300株を引き受けて増資後の発行済株式総数68,345,300株の14.86%を保有した。三井物産も引受により14.86%を維持し、二社が同率で並ぶ株主構成となった。商船三井の側は、海洋資源・エネルギーの潜在力とエネルギーの安定供給という観点から出資を説明している[9]。
同率の関係は1年余りで崩れた。2024年8月20日、商船三井は市場で89,500株を買い付けて出資割合を15.00%とし、三井海洋開発の単独筆頭株主となって同社を持分法適用関連会社とした。三井E&Sの保有が同年5月に10%を下回った動きと合わせて、株主名簿の上位は商船三井・三井物産・三井E&Sの並びへ入れ替わった[10]。
増資後3期の伸び
調達した資金の使い道であるチャーター事業は、そのまま業績に表れた。連結売上収益は2022年12月期の3,636億円から2023年12月期5,070億円、2024年12月期6,621億円、2025年12月期7,171億円へ伸び、営業利益は100億円、274億円、511億円、685億円と積み上がった。親会社の所有者に帰属する当期利益も2025年12月期に565億円へ届いている[11]。
提携の中身も動いた。三井海洋開発は2022年8月に東洋エンジニアリングと合弁でEPCI事業会社を設立し、2024年9月にはインドにトップサイドエンジニアリングと購買支援の合弁会社を置いた。ガイアナ・セネガル・メキシコと拠点も増えている。資本を厚くして案件を取り、取った案件で拠点と合弁を増やす循環が、増資後の3期に回った[12]。
- 三井海洋開発 適時開示 2023年4月28日「第三者割当による新株式の発行、株式会社商船三井との業務提携、三井物産株式会社との業務提携契約の変更及び主要株主の異動に関するお知らせ」
- 商船三井 プレスリリース 2023年4月28日「三井海洋開発株式会社へ出資および同社と業務提携契約を締結 ~海洋事業を強化し、更なる社会インフラ企業へ~」
- 商船三井 プレスリリース 2024年8月20日「三井海洋開発株式会社の株式追加取得および持分法適用会社化について」
- 三井海洋開発 有価証券報告書(2023年12月期・連結・IFRS)
- 三井海洋開発 有価証券報告書(各年12月期・連結・IFRS)
- 三井海洋開発 有価証券報告書【沿革】