三井海洋開発発行済株式の1%売却で終わった三井造船系の親会社支配

プライム市場の流通株式比率を満たすために、金森健社長は親会社に何を求めたか

時期 2021年11月
意思決定者(推定) 金森健・三井E&Sホールディングス取締役会 社長
論点 上場維持基準への適合と親子上場の解消
概要
2021年11月25日、三井E&Sホールディングスが取締役会で三井海洋開発株式564千株(発行済株式総数の1.00%)の売却を決議し、同日ブロックトレードで売却した。持株比率は50.10%から49.10%へ下がり、三井海洋開発は2022年3月期第4四半期から連結子会社を外れて持分法適用関連会社となった。
背景
東京証券取引所の市場区分見直しで、三井海洋開発はプライム市場を目指したものの、移行基準日の2021年6月30日時点で形式要件である流通株式比率34.0%が基準の35%に届かなかった。同社は2021年11月18日に上場維持基準の適合に向けた計画書を提出していた。
内容
売却は発行済株式総数のわずか1%であった。それでも50%の線をまたいだため、1991年3月に三井造船が全株を引き受けて以来30年続いた親会社の座は消え、三井海洋開発は同社にとってその他の関係会社が保有する上場会社に変わった。
含意
三井E&Sは造船からの撤退を含む構造改革の途中にあり、資本の縁を薄めていった。2024年5月には保有比率が10%を下回り、同年8月に商船三井が15.00%で単独筆頭株主となる。1%の売却が、株主構成の入れ替わりの入口になった。
筆者の見解

1.0ポイントの不足が外した30年

30年続いた親会社の関係を終わらせたのは、経営方針の対立でも買収の申し入れでもなく、流通株式比率という一つの数字であった。移行基準日の2021年6月30日、三井海洋開発は株主数8,821人、流通株式時価総額418億円とプライム市場の他の要件を満たしながら、比率だけが34.0%で35.0%に届かない。押し下げていたのは発行済株式の50.10%を握る三井E&Sホールディングスの保有であり、協力を求める相手は、届かせない当人でもあった。

もっとも、その50.10%は30年にわたって同社を守ってきた保有でもある。1991年3月に三井造船が単独の親会社となって以降、株主構成は動かず、2021年12月期に当期損失504億円を出した年も名簿の上位は入れ替わっていない。赤字の年に揺れなかった安定と34.0%という比率は、同じ保有の表と裏であったといえる。三井E&Sの保有はその後10%を下回り、2024年8月には商船三井が単独筆頭株主に座った。34.0%を35.0%へ動かすために売った1%が、残る49.10%の行き先まで決めたとみられる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

流通株式比率が1ポイント足りなかった

東京証券取引所は2022年4月の市場区分見直しに向けて、プライム市場の上場維持基準に流通株式比率35%以上という形式要件を置いた。三井海洋開発は移行基準日である2021年6月30日時点でこの比率が34.0%にとどまり、株主数8,821人・流通株式時価総額418億円といった他の要件を満たしながら、比率だけが基準に届かなかった。同社は2021年11月18日、適合に向けた計画書を提出して開示した[1]

比率が伸びない理由は株主名簿の構成にあった。発行済株式の半分を三井E&Sホールディングスが握り、残りにも事業法人と金融機関の持ち合い株が混じっていたため、流通株式として数えられる部分が薄かった。同社は流動性がないと判定された事業法人・金融機関の保有株式について、売却を含む協力を求めていった。基準に届かせる手立ては、自社ではなく株主の側にあった[2]

造船から退く親会社

依頼を受けた三井E&Sホールディングスの側にも事情があった。同社は旧三井造船で、2019年以降に火力発電工事からの撤退や千葉工場の造船終了を決め、2021年には艦艇事業の譲渡と商船建造からの退出を進めていた。祖業を手放す最中に、資本の面でも見直しの余地を探る立場にあった。売却を決議した2021年11月25日の取締役会は、この構造改革の途中に置かれている[3]

当の三井海洋開発も苦しい年にあった。2021年12月期は連結売上収益4,293億円に対して営業損失350億円、親会社の所有者に帰属する当期損失504億円で、前期に続く赤字であった。深海油田向けFPSOの工事損失が重くのしかかり、財務は傷んでいた。株主構成の整理は、業績が底にある時期に重なった[4]

決断

1%だけを売る

2021年11月25日、三井E&Sホールディングスは取締役会で保有株式の一部売却を決議し、同日中に実行した。売却前の保有は28,261千株で発行済株式総数の50.10%、売却株数は564千株で1.00%、売却後は27,697千株の49.10%となった。方法は証券会社を通じたブロックトレードで、売却価額は開示されていない。過半を1ポイントだけ割る、極めて小さな取引であった[5]

売却の理由として三井E&Sが挙げたのは、三井海洋開発の計画書だった。同社がプライム市場を目指しながら移行基準日時点で流通株式比率を満たしていないという開示を受け、慎重に検討した結果、売却を通じて比率を高めることが両社の企業価値向上と株主の利益に資すると判断したと記している。子会社を外す判断が、子会社側の要望から始まった点にこの取引の特徴がある[6]

過半を割ることの意味

1%の売却で持株比率が49.10%になった結果、三井海洋開発は2022年3月期第4四半期から三井E&Sの連結子会社を外れ、持分法適用関連会社となった。三井海洋開発の側から見れば、親会社を持つ会社ではなくなり、三井E&Sはその他の関係会社という位置に移る。1988年12月に三井造船と三井物産が折半で株式を引き継いでから33年、1991年3月に三井造船が単独の親会社となってから30年が過ぎていた[7]

資本の距離が離れても、人と取引の関係はすぐには変わらなかった。開示時点で三井E&Sの取締役1名が三井海洋開発の取締役を兼務し、従業員8名が出向していた一方、営業上の重要な取引関係はないと記載されている。ものづくりの現場でつながる持株会社と事業会社ではなく、資本だけで結ばれた関係であったことが、この記述からうかがえる[8]

結果

基準への適合と、その先の売却

目的だった上場維持基準は満たされた。2022年12月31日時点で流通株式比率は35.4%となり、株主数12,775人・流通株式数200,237単位・流通株式時価総額302億円と合わせてプライム市場の全基準を充足した。2023年1月27日の進捗開示で、三井海洋開発は同じ方針のもとで基準の維持を続けると記した。1ポイントの不足は、親会社の1%の売却と持ち合い解消の積み重ねで埋まった[9]

三井E&Sの持株比率はその後も下がった。2024年5月、同社は中核事業との取引状況とコーポレートガバナンスの充実という観点から資本関係の見直しを三井海洋開発と議論したうえで、保有株式の一部を追加売却し、比率は10%を下回った。2021年に過半を割った1%の売却は、資本関係を段階的にほどく手順の最初の一歩であった[10]

空いた席に入った商船三井

三井E&Sが退いた分は、別の株主が埋めた。2023年6月には商船三井と三井物産を割当先とする第三者割当増資で商船三井が14.86%を取得し、2024年8月20日には商船三井が市場で89,500株を買い付けて出資割合を15.00%へ引き上げ、単独筆頭株主となった。商船三井は三井海洋開発を持分法適用関連会社としている[11]

株主の顔ぶれが替わるあいだに、業績も戻った。2021年12月期に504億円の当期損失を出した三井海洋開発は、2022年12月期に黒字へ転じ、2023年12月期は売上収益5,070億円・営業利益274億円、2024年12月期は売上収益6,621億円・営業利益511億円へと伸びた。親会社を持つ会社ではなくなってからの3期で、売上は1.5倍になった[12]

出典・参考

免責事項およびポリシー