MBOによる非公開化から13年を経ての東証一部再上場
上山健二社長は成長投資の資金調達をうたったが、市場は「創業家のエグジット」と冷ややかであった——大義をめぐる再上場
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- 概要
- 2018年9月28日、ワールドが東京証券取引所市場第一部へ再上場した経営判断。2005年のMBOで上場を廃止してから13年ぶりの復帰で、上山健二社長が主導した。公開価格2,900円に対し初値は2,755円と5%下回り、時価総額は約1,000億円にとどまった。
- 背景
- MBOに伴う約1,400億円の借入とのれんが重荷となり、郊外SCへの大量出店も裏目に出て営業利益は低迷していた。2015年に社長となった上山氏は店舗の撤退と人員削減を進め、IFRS移行とあわせて足元の業績を回復傾向に戻していた。
- 内容
- 8月22日の取締役会で上場を決議し、9月28日に東証一部へ再上場した。調達する約460億円のうち100億円で優先株を全て取得し、20億円を短期借入金の返済に充てた。会社側はデジタル事業への先行投資と外部株主による規律を再上場の理由に挙げた。
- 含意
- 再上場時の時価総額はMBO価格の半分以下にすぎず、調達資金の使途が優先株の償還と借入返済に偏ったことから、市場では「創業家のエグジット」との見方も残った。主力のアパレル販売は低迷が続き、成長の道筋をどう語るかが問われた。
「大義」はどこにあったのか
この再上場を読み解く鍵は、掲げられた目的と実際の資金の流れとのあいだにある距離にある。会社はデジタル事業への先行投資と外部株主の規律を大義として語ったが、調達した資金の多くは優先株の償還と借入返済という財務の後始末に充てられた。13年前のMBOが長期の構造改革を掲げながら重い借入を残したのと同じく、この再上場もまた、掲げた理念と資本の実務とが必ずしも重ならない場面であったとみることができる。当時「大義なき再上場」と評されたのは、その距離を市場が見抜いていたからであろう。
もっとも、再上場を単なる出口とだけ見るのも早計であろう。上場企業として外部の目にさらされ続ける立場に戻ったこと自体が、アパレル一本足からの転換を迫る規律として働いた面は否めない。その後のポートフォリオ最適化と最高益の更新は、再上場時に投げかけられた問いへの遅れてきた回答とも読める。理念と実務のずれを抱えたまま踏み切った判断が、時間の経過のなかでどこまで大義に近づけたのか——その評価は、アパレル以外で稼ぐという当初の目標がどこまで実を結ぶかにかかっているとみられる。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
背景
MBOが残した重荷
ワールドがMBOで上場を廃止したのは2005年であった。当時社長だった寺井秀藏氏は、短期の業績変動に反応しがちな株式市場への不満を強めており、長期の構造改革に取り組むため役員出資と優先株で360億円を調達し、借入を含め約2,200億円で全株を取得した。ファンドを介さない手法と規模が注目を集め、長くMBOの代表例とされた判断であった[1]。
だが非公開化のあとの施策は裏目に出た。寺井氏は開業ラッシュだった郊外型ショッピングセンターへの大量出店に着手し、販売員の正社員化を進めたが、ユニクロや海外ファストファッションの台頭で不採算店舗が急増した。MBOに伴う借入金約1,400億円と、のれん743億円(2007年3月期末)も重荷となり、営業利益は低迷していた。非公開のまま身動きの取りにくい状態が続いていた[2]。
外部から迎えた社長による構造改革
立て直しのために頼ったのは外部の力であった。銀行出身で長崎屋の再建などを担った上山健二氏が2015年に社長へ就任し、2016年3月期から抜本的なコスト構造改革に着手した。2割弱の店舗を撤退させ、グループ全体の従業員を約1万5,000人から約1万1,000人へ減らした。希望退職と大量閉店で損失を計上しながら、固定費を圧縮していった[3]。
上山氏は「利益を伴わない売上げは追わない」方針を掲げ、セールの値引き幅を抑えて定価販売率を高めた。この方針のもと500人規模の希望退職や大量閉店で95億円の損失を計上する一方、売上高営業利益率は4.2%から5.6%へ改善した。コスト削減とIFRSへの移行が重なり、足元の業績は回復傾向をたどっていた。再上場を目指せる下地は、この数年の構造改革で整えられたものであった[4]。
決断
13年ぶりの再上場決議
2018年8月22日午前、東京・晴海のオフィスに寺井秀藏会長ほか全取締役が集まった。東京証券取引所の承認を受けて9月28日に株式を売り出すことを決議すると、会合は15分で終わった。上場を承認する取締役会としては、その年に上場を決めた企業のなかで最も短かったと伝えられる。MBOによる上場廃止から13年を経ての、本則市場への復帰であった[5]。
9月28日、ワールドは東京証券取引所市場第一部へ再上場した。公開価格2,900円に対し初値は2,755円と5%下回り、初値ベースの時価総額は約1,000億円であった。調達する約460億円のうち100億円で優先株をすべて取得し、20億円を短期借入金の返済に充てる構成をとった。有利子負債は2018年3月末で1,150億円に上っており、まず財務の重荷を軽くする使途が前面に置かれた[6][7]。
会社が掲げた再上場の「大義」
会社側は再上場の理由を、構造改革の完遂で「利益の出やすい体質」になったことを土台に、次の成長へ踏み出すためだと説明した。アパレルのバリューチェーン上に築いてきたプラットフォーム事業を収益化し、デジタル事業などへ先行的に戦略投資する。そのためには「戦略投資にも耐え得る資金調達手段を確保すること」が必要だとし、外部株主の規律あるガバナンスの視点を経営に生かす意義もあわせて掲げた[8]。
上山氏自身も、店頭から生産までをデジタルでつなぐ「SPARCSコンセプト」を推し進め、ロスや無駄を利益に変える構想を語っていた。今回の再上場の理由について会社側は、デジタル事業などへの先行投資を集中的に行う必要があり、「スピードをもって成長するには、外部株主の視点を生かすことが有益だ」と述べた。守りの構造改革から攻めの成長投資へ切り替える節目として、再上場を位置づけていたことがうかがえる[9]。
結果
「大義なき再上場」という評
掲げた大義に対し、市場の受け止めは冷ややかであった。再上場時の時価総額は約1,000億円と、約2,200億円だったMBO価格の半分以下にすぎない。調達資金の使途が優先株の償還と借入返済に偏ったことから、「目的は創業家のエグジット(資金回収)にすぎない」と見る市場関係者も少なくなかった。初値が公開価格を下回った点にも、成長への期待の薄さがにじんでいた[10]。
事業の中身にも懸念が残った。売上高の8割強を占めるアパレル販売は落ち込みが続き、とくにSC向けは同質化と価格競争から抜け出せずにいた。主力ブランドの一つ「ハッシュアッシュ」の売上高は10年前と比べて6割も減少していた。消費環境やトレンドの影響を受けやすい収益構造はほとんど変わっておらず、再上場が事業の弱さを覆すものではなかったことを、この数字は示している[11]。
再上場後のポートフォリオ転換
再上場にあたり会社は、中長期的に収益の半分をアパレル以外で稼ぐ目標を掲げ、ネット通販支援や生産受託など企業向けの事業を強化する方針を示した。再び株式市場に身を置いた同社にとって、株主に対し「出口」以外の成長戦略をどう語るかが課題として残った。上場企業としての規律のもとで、アパレル一本足からの脱却を迫られる立場に立ち戻ったことになる[12]。
その後のワールドは、2020年6月に上山氏が代表権のある会長へ退き、コンサルティング企業出身の鈴木信輝氏が45歳で社長に就いた。ブランド・デジタル・プラットフォームの各事業を軸に据える中期経営計画「PLAN-W」のもとで事業ポートフォリオの最適化を進め、再上場後の通期最高益を更新するに至った。再上場時に投げかけられた「アパレル以外で稼げるか」という問いに、時間をかけて答えを積み上げていく展開となった[13]。
- 週刊東洋経済 2018年9月29日号「ニュース深掘り 漂流するアパレル大手 ワールド、大義なき再上場」
- 日本経済新聞(2018年9月28日)「ワールドが再上場、初値2755円 公開価格を5%下回る」
- 株式会社ワールド「MBO実施による非上場化から13年経ての再上場について」(2018年)
- NetIB-News 2017年8月28日「危機にあるアパレル、ワールドをV字回復させた再生請負人の手法」(上山健二氏発言)
- ワールド FY25 決算説明会資料(2025年2月期)
- ワールド 有価証券報告書(2019年3月期・連結)