二度の延期を経て実現した、東証プライムへの4年越しの新規株式公開
二度の延期で1.5兆円から8,000億円へ下がった評価のなか、早坂伸夫社長はプライベートエクイティの出口をいつ開いたか
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- 概要
- 2024年12月18日、キオクシアホールディングスが東京証券取引所プライム市場に上場した経営判断である。公開価格は1,455円、初日の終値は公開価格を約10%上回る1,601円で、オーバーアロットメントを含むオファー総額は約1,204億円にのぼった。2018年にベインキャピタルを軸とする連合の傘下で生まれた同社にとって、2020年・2024年と二度延期した末に開いた、プライベートエクイティの出口としての上場であった。
- 背景
- 2020年に予定した上場は、米中対立と対ファーウェイ輸出規制、コロナ下の市況軟化を理由に延期された。2023年にはウエスタンデジタルとの経営統合がSKハイニックスの同意を得られず破談し、2024年9月にも投資家評価の低下を理由に上場を再び見送った。市況に価格が連動するNAND型フラッシュメモリ専業メーカーとして、資本市場に出る時機を計りかねていた。
- 内容
- 仮条件1,390〜1,520円の中値にあたる1,455円で公開価格を決め、公募21,562,500株と売出61,171,400株の計約8,273万株を売り出した。主幹事は三菱UFJモルガン・スタンレー証券が務めた。公開価格に基づく時価総額は約7,840億円で、上場直後の株主はベイン系が約51〜52%、東芝が約32%、SKハイニックスが約14%を握った。
- 含意
- 上場後の2026年3月期は生成AI向けの需要で営業利益8,704億円の過去最高益に達し、株価は公開価格の数倍まで上昇した。ベインは2026年7月に8年越しで完全撤退し、17.59%を保つ東芝が実質的な筆頭株主に戻った。市況の谷で二度延期した上場が、AI需要の山で報われた資本政策であった。
谷で値を測り、山で稼ぐという振れ幅
この上場の性格は、二度延期して四年をかけた時間の使い方に表れている。2020年も2024年も、キオクシアが見送ったのはメモリ市況の谷にあたり、投資家の評価は約1.5兆円から約8,000億円へ下がっていた。市況に価格が連動する専業メーカーが谷を避けて資本市場に出た結果、プライベートエクイティの出口は、条件の整う時機を待って開かれたとみることができる。もっとも、その待ちが最後まで正解だったのかは、上場後に訪れた需要の波が決めた面もある。
皮肉なのは、谷で二度退いた上場が、AI需要という山で実を結んだことである。上場からわずか一年余りで、キオクシアは営業利益8,704億円の過去最高益を計上し、株価は公開価格を数倍に上回った。その果実は、待ち続けたベインが8年越しに投資を回収して退く原資となり、資本の主が去った後に残ったのは、この事業を発明して手放したはずの東芝であった。谷で値を測り、山で稼ぐという振れ幅そのものが、NAND専業という事業の輪郭を映しているといえる。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
背景
PEオーナーの出口と、二度延期した上場
キオクシアは2018年、東芝の半導体メモリ事業がベインキャピタルを軸とする連合へ約2兆円で売却されて生まれた会社である。買収の受け皿となった持株会社はベインが過半を握り、東芝も再出資して大株主として残った。私募のファンドが主導する資本の下で、いずれ株式市場を通じて投資を回収する出口が想定されていた。分社から間もない2020年9月28日、キオクシアは10月6日に予定した東証上場を延期した。米中対立と対ファーウェイ輸出規制、新型コロナ下の市況軟化が重なり、想定した約1.5兆円の時価総額に株価が届かなかった[1][2]。
上場への道はその後も市況に阻まれた。2021年からウエスタンデジタルとの経営統合が模索されたが、2023年10月、株主のSKハイニックスの同意が得られず交渉は破談した。単独での上場に戻ったキオクシアは2024年8月に東証へ申請したものの、9月24日ごろ、10月に予定した上場を再び見送った。投資家の評価が約8,000億円へ引き下げられ、市況の回復が遅れていたためである。上場直前の2024年3月期は、メモリ市況の悪化で売上高1兆766億円・営業損失2,527億円・純損失2,437億円の赤字に沈んでいた[3][4][5]。
決断
4年越しの東証プライム上場
二度の延期を経て、キオクシアは2024年11月22日に公開価格を決めた。仮条件1,390〜1,520円の中値にあたる1,455円で、主幹事は三菱UFJモルガン・スタンレー証券が務めた。上場日は2024年12月18日、市場は東証プライム、証券コードは285Aである。初値は公開価格を下回る1,440円をつけたが、初日の終値は1,601円と公開価格を約10%上回って引けた。2020年に見送ってから4年越しの上場であった[6][7]。
募集は公募の新株21,562,500株と、既存株主による売出61,171,400株を合わせた82,733,900株で構成された。オーバーアロットメントを含むオファー総額は約1,204億円(約8億ドル)にのぼり、うち会社が受け取る公募分の手取りは約277〜314億円であった。公開価格に基づく時価総額は約7,840億円となる。上場直後の株主構成は、ベイン系が約51〜52%、東芝が約32%、そして転換社債を株式に転換したSKハイニックスが約14%で第3位級に並んだ[8][9][10]。
結果
AI需要が結んだ過去最高益と資本の入れ替わり
上場の後、キオクシアの業績は市況の反転とともに急伸した。上場を反映した2025年3月期は、生成AIとデータセンター向けSSDの需要を追い風に売上高1兆7,065億円・営業利益4,517億円・純利益2,723億円へ回復し、前期の赤字から黒字へ転じた。続く2026年3月期は売上高2兆3,376億円・営業利益8,704億円・純利益5,545億円といずれも過去最高を更新し、営業利益は東芝メモリ時代の2018年3月期の水準を上回った[11][12]。
稼ぐ力の回復は、キオクシアを支えてきた資本の顔ぶれを塗り替えた。ベイン系は上場後に保有株を段階的に売り出し、上昇した株価を追い風に、2026年7月に最後の持分を手放して8年での完全撤退に至った。一方、旧親会社の東芝も持分を落としながら、2026年3月末で17.59%を保ち、分散した株主構成のなかで実質的な筆頭株主の位置に戻った。SKハイニックスの経済持分を担う特別目的会社は保有を続け、発明の母体だった東芝が最大の株主として残った[13][14]。
- 東芝「Notice Regarding Closing…」(2018年6月1日)
- Nikkei Asia「Japanese chipmaker Kioxia delays IPO」(2020年9月)
- Bloomberg「Western Digital Plunges on Report That Kioxia Deal Is Terminated」(2023年10月26日)
- Bloomberg「Bain-Backed Chipmaker Kioxia Scraps an October IPO」(2024年9月24日)
- 日本経済新聞「キオクシアが上場、初値1440円」(2024年12月18日)
- CNBC「Kioxia shares climb slightly on debut in Tokyo after $800 million IPO」(2024年12月18日)
- Fortune「Kioxia shares rise in Tokyo debut」(2024年12月17日)
- EE Times Japan「キオクシア、過去最高の売上高と利益:AI需要が牽引」(2026年5月18日)
- Nikkei Asia「Bain sells $3.5bn in shares of Japan memory maker Kioxia」(2026年)
- キオクシアホールディングス「大株主の状況」(2026年3月31日現在)
- キオクシアホールディングス 有価証券報告書(2024年3月期・連結・IFRS)
- キオクシアホールディングス 有価証券報告書(2025年3月期・連結・IFRS)