三井海洋開発借りていた係留技術を買う——米SOFEC社の全株式取得

FPSOの生命線をライセンス契約に預けたままでよいか、山田健司社長はどこで線を引いたか

時期 2006年11月
意思決定者(推定) 山田健司 社長
論点 中核技術の内製化と契約リスクの解消
概要
2006年11月30日、三井海洋開発の米国子会社MODEC (U.S.A.), Inc.が、FMC Technologies, Inc.から係留システム専業のFMC Technologies Floating Systems, Inc.(SOFEC, Inc.)の全株式を5,440万米ドルで取得する契約を結んだと発表し、同年12月29日に取得を完了した。
背景
三井海洋開発が建造するFPSO・FSOは、SOFEC社が特許を持つ一点係留方式の技術を使って設計・製作した係留システムを積んでいた。技術・販売提携契約は1989年1月10日の締結で、期限は2011年11月15日と定まっており、契約が切れれば建造そのものが立ちゆかなくなる。
内容
取得額は現金5,440万米ドル。売り手のFMC Technologies, Inc.は同事業を非継続事業へ振り替え、売却後は浮体式生産設備に一切関与しないと米証券取引委員会への届出に記した。三井海洋開発は借り手から所有者へ変わり、有価証券報告書に記していた契約継続の懸念を消した。
含意
買ったのは工場でも受注残でもなく、特許と50年分の据付実績であった。SOFEC社はその後も三井海洋開発が建造したFPSO・FSOに係留設備を供給し、2025年11月にはMODEC America, Inc.との合併と係留事業部門の創設が発表された。
筆者の見解

2011年11月15日という値札

5,440万米ドルで買ったのは係留設備の会社ではなく、2011年11月15日という一日であった。その日付は三井海洋開発が選んだものではない。2004年11月15日にFMC Technologies, Inc.への新株予約権が行使されて合弁契約が解消され、契約書の定めでその7年後が期限に確定している。構造上外せない係留システムをいつまで使えるかが、他社の合弁の終わり方で決まっていた。

もっとも、借り物であることは、その2年間まで不利ではなかった。1989年1月の技術・販売提携契約から17年、三井海洋開発は係留の特許を持たず、開発費も専任の技術者も抱えずに、船体の設計と建造管理へ人を絞ってFPSOを受注している。連結で991億円を売った2006年12月期の単体従業員は90人であった。借りたから軽く済み、借りたから終わりの日がついている。外から借りて軽く済ませた分の勘定は、貸し手がその事業を畳むと決めた日にまとめて回ってくるといえる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

特許を借りて建造していたFPSO

三井海洋開発が受注するFPSO(浮体式海洋石油・ガス生産貯蔵積出設備)とFSOは、波・風・潮流を受けながら船体を一定の位置に保つ係留システムを必ず備える。同社はこの部分を自前の特許で賄っておらず、米SOFEC, INC.が保有する一点係留方式の技術・ノウハウを使って設計・製作した係留システムを搭載していた。船体の設計と建造管理は自社、要となる係留は他社の特許という分業が、事業の前提にあった[1]

両社を結んでいたのは1989年1月10日に締結した技術・販売提携契約で、SOFEC社の特許にかかるプロジェクトの営業地域や主契約者を取り決める内容であった。契約の満了時期は当初から固定されていたわけではなく、後述する米FMC Technologies, Inc.との合弁契約の終了から7年後という定めに従い、2011年11月15日と確定した。期限のある借り物のうえに、受注残が積み上がっていた[2]

FMCとの関係が薄れ、受注だけが増えた

1999年1月、三井海洋開発は南北アメリカ・西アフリカ等での事業拠点として、FMC CORPORATIONとの合弁でMODEC INTERNATIONAL L.L.C.を米国テキサス州に設立した。この合弁がSOFEC社の技術を使う根拠でもあった。ところが2004年11月15日、FMC Technologies, Inc.へ発行していた新株予約権が行使されて合弁契約は解消され、翌2005年には同社が保有していた三井海洋開発株式もすべて売却されて、両社の関連当事者としての関係は終わった[3]

資本の縁が切れる一方で、三井海洋開発の受注は伸びていた。2006年6月にはBHP Billitonからメキシコ湾Shenzi鉱区向けの緊張係留式プラットホームを受注し、12月にはブラジル国営石油会社ペトロブラスからFPSOチャータープロジェクトの発注内示書を受け取っている。2006年12月期の連結売上高は991億円と前期の716億円から伸び、翌期には1,440億円へ届く勢いにあった。技術の出どころを他社に預けたままの拡大には、無理があった[4]

決断

5,440万米ドルで特許ごと引き取る

2006年11月30日、三井海洋開発の米国子会社MODEC (U.S.A.), Inc.は、FMC Technologies, Inc.からFMC Technologies Floating Systems, Inc.を5,440万米ドルで取得する契約を結んだと発表した。同社はFPSO・FSO向けのSOFECタレットと係留システム、海洋積出設備を開発・製造する会社である。取得は同年12月29日に完了し、SOFEC, Inc.は三井海洋開発の子会社となった[5]

発表にあたり山田健司社長は、SOFEC社が特許を持つタレットと係留の技術を自社のFPSO・FSO建造事業へ完全に取り込むことでFPSO業界での競争力を強めると述べ、この取得によって世界各地のFPSO・FSO市場で顧客の要求により良く応えられると語った。競争力の説明は、技術の保有形態そのものに向けられていた[6]

売り手と買い手で意味が違った取引

売り手のFMC Technologies, Inc.にとって、この売却は浮体式生産設備からの完全な退出であった。同社は届出書で、売却後は浮体式生産システムに継続的な関与を持たないと明記し、Floating Systemsの業績を2006年の年次報告書から非継続事業として区分し直した。取得額の5,440万米ドルは、両社の規模からみて大型案件ではない[7]

買い手にとっての意味は金額ではなかった。三井海洋開発は2006年12月期の有価証券報告書で、それまで契約を継続できない場合や技術を利用できなくなった場合に業績へ重大な影響が及ぶリスクを抱えていたと認めたうえで、同社を子会社としたことでその懸念がなくなったと書いた。事業等のリスクに並んでいた一項目を、取引で消したことになる[8]

結果

内製化のうえに積み上がった受注

取得の翌期から売上は伸びた。2006年12月期に991億円だった連結売上高は2007年12月期に1,440億円、2009年12月期に2,042億円、2014年12月期には3,785億円へと拡大し、ブラジル・西アフリカ・東南アジアの深海油田向けFPSOが柱になった。係留設備を外部から調達する場合に生じる交渉と工程の制約がなくなり、船体と係留を一体で設計する体制がこの拡大を支えた[9]

SOFEC社は買収後も独立した会社として係留設備を供給し、三井海洋開発が建造したFPSO・FSOへの納入は、2025年時点で建造中の4基を含めて49基に達した。50年を超える係留の実績と、半世紀にわたり50基超の浮体式生産設備を供給した親会社の実績が、同じグループの中で重なった[10]

20年後の完全統合

2025年11月11日、三井海洋開発は100%子会社のMODEC America, Inc.とSOFEC, Inc.が2026年1月1日付で合併すると発表した。SOFEC社はMODEC America内に新設する係留事業部門となり、三井海洋開発以外の顧客にもSOFECブランドの係留ソリューションを提供する。買収から19年を経て、別法人として置かれていた係留の技術が組織のなかへ組み込まれた[11]

発表文は両社の関係を1988年以降ともに歩んできたものと振り返った。1989年の技術・販売提携契約、2006年の全株式取得、2026年の合併という三段階を経て、外部のライセンサーは社内の一部門に変わった。単体で顧客を持つ会社であったSOFEC社のブランドは、部門名として残された[12]

出典・参考

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