大阪ガスシェールガス自主探鉱での損失計上と、米サビン・オイル・アンド・ガスの全株取得

自主探鉱で300億円超を失った大阪ガスは、なぜ次は掘らずに買う道を選んだか

時期 2019年7月
意思決定者(推定) 本荘武宏 社長
論点 海外資源事業の投資手法
概要
2019年7月29日、大阪ガスは米サビン・オイル・アンド・ガスを約650億円で買収し、年内に全株式を取得すると発表した。日本企業が米国のシェール開発会社を100%子会社化するのは初めてであった。それに先立つ2014年3月期、同社はテキサス州ピアソール鉱区の自主探鉱で特別損失290億円を計上している。自ら掘る探鉱から、生産実績のある会社を丸ごと買う方法へ、資源投資の手法を切り替えた判断であった。
背景
大阪ガスは2012年に米キャボット・オイル・アンド・ガスからピアソール鉱区の権益35%を取得し、累計約330億円を投じて自主探鉱に挑んだ。だが地下3300メートルの地層に難があり、経済性に見合う量を確保できないと判断。一方で北米の資源そのものへの関与は、調達の多様化を狙う戦略の柱であり続けた。
内容
サビンはテキサス州に琵琶湖の1.5倍にあたる約1000平方キロメートルの鉱区を持つ。従来は権益の一部に出資してガスを受け取る形が一般的であったが、今回は生産実績のある会社を全株取得し、自社の計画で開発できる形に変えた。取り扱う天然ガスはLNG換算で1割ほど増え、現地の開発部門はサビンへ統合された。
含意
自主探鉱では価値の見えない鉱区へ一気に投じたのに対し、サビンでは2018年に権益を一部取得して優良性を確かめてから全体を取りにいった。掘って初めて分かる資産から、実績で測れる資産へと賭けの土俵を替えた点に、この判断の要点があるとみられる。買収後の米国事業は同社の収益の柱へ育った。
筆者の見解

掘らずに買うという学習

失敗した海外投資を教訓に堅実な買収へ転じた、という筋書きで片づけると要点を外す。大阪ガスが変えたのは投資額の大小ではなく、価値の測り方の順序であった。自主探鉱では地層が想定どおりか掘るまで読めず、290億円はその不確実性の代償であった。サビンでは2018年に権益を一部持ち、生産実績を確かめてから全株を取りにいった。掘って初めて分かる資産から実績で測れる資産へと、賭ける対象を替えた点にこの判断の芯があるとみられる。

もっとも、掘らずに買う道が安全だったわけではない。買収額の約650億円は、失った290億円の倍を超える。会社を丸ごと取る以上、資源価格の変動を引き受ける点は探鉱と変わらない。藤原社長が「300億円超の損失」と口にできるのは、サビンが利益の柱へ育ち、米国の利益が日本を上回る年さえ生まれたからで、2019年の時点で果実は保証されていなかった。失敗をどう畳み、次の賭けの土俵をどう選び直すか——大阪ガスの資源投資は、その一例として読める。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

自主探鉱への参入と損失

大阪ガスが北米のシェールガスに自ら踏み込んだのは2012年であった。同社は米キャボット・オイル・アンド・ガスから、テキサス州南西部ピアソール鉱区の権益35%を取得し、累計で約330億円を投じて自主探鉱に挑んだ。原料を調達して供給する都市ガス会社が、資源の上流で自ら掘るという試みで、価格上昇のヘッジと調達源の多様化を狙う布石でもあった[1]

だが鉱区は期待どおりには出なかった。地下3300メートルのやや深い層に地層の難があり、現在の掘削技術では経済性に見合う量を確保できないと判断された。ガス・原油の販売高は想定の14%程度にとどまり、大阪ガスは2013年12月、投資額のうち290億円を2014年3月期の特別損失として計上した。掘ってみるまで分からない不確実性に、そのまま値札がついた形であった[2]

シェール革命下の上流権益志向

探鉱の失敗の一方で、北米資源への関与そのものは大阪ガスの戦略の柱であり続けた。2013年当時、米国ではシェール革命で天然ガスの完全自給が視野に入り、対日LNG輸出プロジェクトが相次いで申請されていた。大阪ガスは中部電力とともにテキサス州フリーポートのLNG液化事業に参画し、ガスの安定確保と価格上昇のヘッジを狙って北米の上流権益に出資していた[3]

大阪ガスは米国産LNGの意義を、価格の安さよりも調達構造の組み替えに置いていた。米国法人の山本唯史社長は、輸入の効果を「調達ポートフォリオの多様化に寄与し、これまでの売り主との交渉材料にもなる」と位置づけていた。買い手であるガス会社が生産の領域へ入っていく発想は、探鉱の損失を挟んでも消えなかった。上流をどの方法で取りにいくかだけが、なお問い直されていった[4]

決断

掘るから買うへの方針転換

2019年7月29日、大阪ガスは米サビン・オイル・アンド・ガスの買収を発表した。約650億円を投じ、年内にサビンの親会社から全株式を取得する。日本企業が米国のシェール開発会社を100%子会社化するのは初めてで、サビンはテキサス州に琵琶湖の1.5倍にあたる約1000平方キロメートルの鉱区を持っていた。自ら掘る探鉱ではなく、すでに生産している会社を丸ごと取りにいく買収であった[5]

転換の要は、権益との関わり方であった。従来、海外のシェール開発はエネルギー会社や商社が権益の一部に出資し、生産されたガスを受け取る形が一般的であった。大阪ガスはサビンを全株取得することで、自社の戦略に応じて開発計画を立てられる立場を得た。取り扱う天然ガスはLNG換算で1割ほど増える見込みで、現地に持っていたシェール開発部門はサビンへ統合された[6]

先行取得で優良性を確かめる

全株取得は、いきなりの一括ではなかった。大阪ガスは2019年の買収に先立ち、2018年にサビンの鉱区の権益を一部取得していた。生産実績のある資産をまず一部から持ち、優良性を確認できる期間を置いたうえで全体を取りにいく段取りで、価値の見えない鉱区へ一気に投じたピアソールとは順序が逆であった。実績で測れる資産に賭けを寄せた手つきがそこにうかがえる[7]

全株取得によって、サビン・オイル・アンド・ガスは大阪ガスの連結子会社となった。同社の有価証券報告書の沿革は、米国の天然ガス・エネルギー供給事業への投資を担う子会社群のなかに、サビンを位置づけている。かつて権益の一部に出資してガスを受け取っていた会社が、いまは生産主体を自社の内に抱える形へと、資源上流との関わりを組み替えた姿がそこに残る[8]

結果

米国事業の成長と、社長による総括

買収後、サビンを含む米国事業は大阪ガスの収益の柱へ育った。藤原正隆社長は2025年10月の決算説明会で、米国エリアは同年度すでに700億円近い利益規模となり、経営を支える規模になってきたと述べた。海外を含むその他の地域の売上高も、2021年3月期の約1105億円から2025年3月期の約2491億円へ伸びた。日本経済新聞によれば、2025年4〜12月期には米国の経常利益が日本を上回っている[9][10][11]

藤原社長は同じ場で、この転換を包み隠さず振り返った。シェールガスに比較的早く参入したものの大失敗に終わり、300億円超の損失を出した案件もあったと認めたうえで、生産実績のない所を新しく掘るのはリスクが高く避けるべきだという結論に至り、すでに開発が進んだ会社や鉱区を買収する方針へ切り替えたと語った。買収当時のサビンは高くなく、安く資産を取得できたため「小さく産んで大きく育てる」戦略を成功させられたと述べている[12]

出典・参考

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