米サビンの全株取得(2019年・大阪ガスの決断)

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論点自主探鉱から会社の買収へ転換するか
大阪ガス:業績の推移
売上高(億円)営業利益率(%)
自主探鉱での減損を経た、シェールガス開発会社の全株式の取得

何をなぜ決めたか:自主探鉱での減損を経た、シェールガス開発会社の全株式の取得

概要

2019年11月30日、大阪ガスは連結子会社Osaka Gas USA Corporationを通じて、米国テキサス州東部でシェールガス開発事業を営むSabine Oil & Gas Corporationの全株式を取得した。取得原価は63,036百万円で、対価は全額現金。サビン社は約1,000平方キロメートルの鉱区を保有し、企業結合日現在でLNG換算約190万トン/年のガスを生産していた。それに先立つ2014年3月期、大阪ガスは米国テキサス州のシェールガス・オイル開発プロジェクトの事業用資産に28,567百万円の減損損失を計上している。自ら掘る探鉱から、生産実績のある会社の全株式を取得する方法へ、資源投資の手法を切り替えた判断であった。

背景

大阪ガスは2012年にピアソール・シェールガス・オイル開発プロジェクトへ参画比率35%で参画した。だが2014年3月期の有価証券報告書は、経済性に見合った油・ガスが取り出せない生産状況にあり、現時点では生産性の大幅な改善が見込めないとして、当該資産を減損したと記している。この年の特別損失は前期比246億円増の301億円に増加した。一方で北米の資源そのものへの関与は、調達の多様化を狙う戦略の重点であり続けた。

内容

全株取得の前段として、大阪ガスは2018年6月28日、米国子会社を通じてテキサス州東部の非在来型ガス生産開発事業の権益のうち、サビン社らが保有する持分の35%を146百万ドル(約160億円)で取得することに合意していた。翌2019年11月、残る全体を会社ごと取得して完全子会社とし、サビン社が持つすべての鉱区を保有した。有価証券報告書が挙げる結合の理由は、生産中の井戸からの安定した収益の獲得と、米国のエネルギー上流事業でプロジェクトを主体的に推進するオペレーターシップの獲得による、より戦略的な事業運営の実現である。取得後は米国子会社のシェールガス開発事業部門をサビン社へ統合した。

含意

受け入れた資産74,858百万円から負債11,822百万円を引いた純資産は63,036百万円で、取得原価と一致した。のれんも負ののれんも生じておらず、償却負担を将来へ持ち越さない買い方であった。自主探鉱では価値の見えない鉱区へ投じたのに対し、サビン社では2018年に権益の35%を取得して資産を確かめてから全体を取得している。掘って初めて分かる資産から、生産実績で測れる資産へと投資の対象を替えた点に、この判断の要点があるのだろう。

いつ何が起きたか6件
当時の取締役13名

当時の取締役(2019年6月株主総会決議)

考察:掘らずに買収するという学習
考察

考察:掘らずに買収するという学習

失敗した海外投資を教訓に堅実な買収へ転じた、という筋書きで片づけると要点を外す。大阪ガスが変えたのは投資額の大小ではなく、価値の測り方の順序であった。自主探鉱では地層が想定どおりか掘るまで読めず、2014年3月期の減損28,567百万円はその不確実性の代償であった。サビン社では2018年に権益の35%を146百万ドルで取得し、生産実績を確かめてから全株を取得した。取得原価63,036百万円に対してのれんが立たなかったのは、買った値と受け入れた純資産が釣り合っていたからで、将来へ償却負担を繰り延べない買い方でもあった。

もっとも、掘らずに買う方針が安全だったわけではない。会社の全株式を取得する以上、資源価格の変動を引き受ける点は探鉱と変わらない。事実、サビン社の生産量はLNG換算で2019年の170万トンから2022年に330万トンへ伸びた一方、ヘンリーハブ価格は2022年の6.5ドルから2024年に2.2ドルへ下げ、2023年の生産量は300万トンへ減少している。海外エネルギー事業ではサビン社の取得後も豪州・米ミシガン州の別案件で毎期の減損が続いた。2025年10月の決算説明会で、藤原正隆社長は『全く生産実績が無い所に新しく掘るのは、成功すれば大きなリターンを期待できるがリスクが高く避けるべき』と振り返った。そう言えるのは、海外エネルギー事業のセグメント利益が2025年3月期に719億円へ達した後だからで、2019年の時点で果実は保証されていなかった。

Yutaka Sugiura, 2026年7月
数字で見る3表

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図と表

大阪ガス:海外エネルギー事業の推移

売上高(百万円)セグメント利益(百万円)
大阪ガス:海外エネルギー事業の推移
(百万円)売上高セグメント利益減損損失セグメント資産備考
2015年3月期12,5651,2610368,002営業損失6,250を持分法による投資利益7,511が補った
2016年3月期16,796△27712,807401,590営業利益4,316に対し持分法による投資損失4,594
2017年3月期18,6727,47749453,804
2018年3月期14,313△5,3389,616462,432報告セグメントを国内エネルギー・ガス/電力へ改めた期
2019年3月期22,1135,974−572,881減損損失は金額的重要性が乏しいとして記載が省略された
2020年3月期33,4308,16214,816625,410サビン社の連結は12月の1か月分。減損は豪州北部準州と東ティモールの上流案件
2021年3月期45,76122,11514,214634,126減損14,208は西豪州のLNG案件。サビン社の生産実績は計画を上回った
2022年3月期68,86144,33015,621677,097報告セグメントを国内エネルギーへ統合した期。減損は米ミシガン州と豪州の案件
2023年3月期103,73769,7183,820829,581
2024年3月期98,62179,643158941,579
2025年3月期108,60671,93301,105,498サビン社を中心とする米国上流事業が伸長した
出所:大阪瓦斯 有価証券報告書 第197期〜第207期(セグメント情報/報告セグメントごとの固定資産の減損損失に関する情報)。売上高は外部顧客への売上高、セグメント利益は営業利益に持分法による投資損益を加減した額で、いずれも各期の有価証券報告書が当連結会計年度として開示した値
出所:大阪瓦斯 有価証券報告書 第197期〜第207期(セグメント情報/報告セグメントごとの固定資産の減損損失に関する情報)。売上高は外部顧客への売上高、セグメント利益は営業利益に持分法による投資損益を加減した額で、いずれも各期の有価証券報告書が当連結会計年度として開示した値

大阪ガス:サビン社の生産量

生産量(万トン/年(LNG換算))ヘンリーハブ価格(ドル/MMBtu)
大阪ガス:サビン社の生産量
(万トン/年(LNG換算))生産量ヘンリーハブ価格備考
2019年12月期1702.611月30日に全株式を取得。連結は12月の1か月分
2020年12月期2202
2021年12月期2803.9
2022年12月期3306.5
2023年12月期3002.5
2024年12月期3102.2
出所:Daigasグループ 統合報告書2025(海外エネルギー事業「サビン社生産量の推移」) / 大阪瓦斯 有価証券報告書 第202期(2020年3月期)【企業結合等関係】(サビン社の決算日)
出所:Daigasグループ 統合報告書2025(海外エネルギー事業「サビン社生産量の推移」) / 大阪瓦斯 有価証券報告書 第202期(2020年3月期)【企業結合等関係】(サビン社の決算日)

買収の条件

買収の条件
科目概要備考
被取得企業Sabine Oil & Gas Corporation事業の内容はシェールガス開発事業
企業結合の法的形式株式の取得連結子会社Osaka Gas USA Corporationが現金を対価に全株式を取得した
企業結合日2019年11月30日連結損益に取り込んだのは2019年12月1日から12月31日までの1か月
取得した議決権比率100%企業結合日に取得した比率。結合直前に保有していた比率の記載はない
取得原価63,036百万円対価の種類は現金のみ
取得関連費用558百万円アドバイザリー費用等
株式取得のための支出61,929百万円取得価額から現金及び現金同等物733と為替換算調整勘定374を控除した額
のれん発生していない負ののれんも生じていない。受け入れた純資産が取得原価と一致した
受け入れた資産合計74,858百万円流動資産4,765百万円、固定資産70,092百万円
引き受けた負債合計11,822百万円流動負債8,558百万円、固定負債3,263百万円
生産規模LNG換算 約190万トン/年企業結合日現在。テキサス州東部に約1,000平方キロメートルの鉱区を保有
通期換算した売上高20,788百万円期首に結合したと仮定した場合の概算額
通期換算した経常利益9,058百万円親会社株主に帰属する当期純利益も同額の概算
結合の理由オペレーターシップの獲得全鉱区の保有により生産中の井戸から安定した収益を獲得することも挙げる
先行して取得した権益146百万ドル(約160億円)2018年6月28日に合意。テキサス州東部の非在来型ガス事業の持分35%
出所:大阪瓦斯 有価証券報告書 第202期(2020年3月期)【企業結合等関係】【連結キャッシュ・フロー計算書関係】 / 第201期(2019年3月期)【重要な後発事象】
出所:大阪瓦斯 有価証券報告書 第202期(2020年3月期)【企業結合等関係】【連結キャッシュ・フロー計算書関係】 / 第201期(2019年3月期)【重要な後発事象】
当時の取締役13名

当時の取締役(2019年6月株主総会決議)

参考文献

参考文献

参考
  • 大阪瓦斯 有価証券報告書「第202期(2020年3月期)【企業結合等関係】【連結キャッシュ・フロー計算書関係】」
  • 大阪瓦斯 有価証券報告書「第201期(2019年3月期)【重要な後発事象】」
  • 大阪瓦斯 有価証券報告書「第196期(2014年3月期)【連結損益計算書関係】※4減損損失」
  • 大阪瓦斯 有価証券報告書「第197期〜第207期(セグメント情報)」
  • 大阪瓦斯 アニュアルレポート「アニュアルレポート2020」
  • 大阪瓦斯 アニュアルレポート「アニュアルレポート2019」
  • Daigasグループ 統合報告書「統合報告書2025」
  • 大阪ガス 決算説明会 質疑応答「2026年3月期第2四半期 投資家・アナリスト向け説明会 主なQ&A」

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