米スピードウェイ買収(2020年・セブン&アイHDの決断)

更新:
論点 2兆円超で北米事業の規模を拡大するか
セブン&アイHD:業績の推移
売上高(億円)営業利益率(%)
取得原価2兆3,325億円を投じた北米コンビニ事業の規模拡大

何をなぜ決めたか:取得原価2兆3,325億円を投じた北米コンビニ事業の規模拡大

概要

2020年8月3日、セブン&アイ・ホールディングスの連結子会社である7-Eleven, Inc.が、米Marathon Petroleum Corporation(MPC社)との間で、同社が主にSpeedwayブランドで運営するコンビニエンスストア事業及び燃料小売事業を運営する複数の会社の株式その他の持分を取得する契約を締結した経営判断。取得は7-Eleven, Inc.の完全子会社として設立されたSEI Speedway Holdings, LLCを通じて2021年5月14日付で完了し、取得原価は21,083,918千USドル(2兆3,325億円)となった。

背景

会社は、堅調な経済成長が予想される北米市場での7-Eleven, Inc.を中心とするコンビニエンスストア事業をグループ全体の重要な成長ドライバーと位置付け、それまでも買収の効果的活用・店舗網の拡大・サプライチェーンの最適化を進めてきたと有価証券報告書に記している。取得の目的として、店舗ネットワークの戦略的拡充、統合効果と米国の税制優遇措置による財務上の効果、ESG分野におけるリーダーシップの3点を挙げた。

内容

取得と同時に、取得した店舗への今後15年間におけるガソリン供給契約をMPC社と締結した。財務上の効果としては、統合効果と節税メリットに加え、取得する店舗のセール・アンド・リースバック取引の活用による投資効率の向上を予定し、米国におけるグループ事業のEBITDA・営業利益はともに2019年度の7-Eleven, Inc.の2倍以上になる見込みとした。資金は2021年2月期にセブン&アイ・ホールディングスがブリッジローンと普通社債で8,320億円、2022年2月期に7-Eleven, Inc.が普通社債で1兆1,927億円を調達している。

含意

のれんは2022年2月期に1兆3,571億円を暫定計上し、2023年2月期に暫定的な会計処理が確定して1兆3,670億円となった。償却は20年間の均等償却である。海外コンビニエンスストア事業の外部顧客への営業収益は2021年2月期の2兆2,516億円から2023年2月期に8兆8,433億円へ拡大し、連結営業収益11兆8,113億円の7割を超えた。一方で有利子負債は2021年2月期末の1兆7,933億円から2023年2月期末に3兆549億円へ膨らんだ。

いつ何が起きたか 7件
当時の取締役 13名

当時の取締役(2020年5月株主総会決議)

  • 後藤克弘:副社長執行役員
  • 伊藤順朗:常務執行役員
  • 井阪隆一:社長執行役員
  • 月尾嘉男:取締役
  • 伊藤邦雄:取締役
  • 米村敏朗:取締役
  • 山口公義:執行役員
  • 永松文彦:取締役
  • 東哲郎:取締役
  • 木村成樹:取締役
  • 和子:取締役
  • 丸山好道:執行役員
  • ジョセフマイケルデピント:取締役
考察:買収する側の決断が、買収される側の輪郭を描いた
考察

考察:買収する側の決断が、買収される側の輪郭を描いた

この判断の核心は、価格の高さを承知のうえで、国内の成熟から北米の成長へと収益源を移し替えた点にあるのだろう。取得原価2兆3,325億円に対して受け入れた資産は1兆1,909億円、引き受けた負債は2,155億円であり、差額の大半がのれんとして残った。のれんの発生原因は今後の事業展開によって期待される将来の超過収益力であり、償却期間は20年と定められた。買収の是非は、この超過収益力が20年にわたって償却負担を上回り続けるかどうかに帰着する。海外コンビニエンスストア事業の営業収益は通年で連結した2023年2月期に8兆8,433億円へ達したが、その利益のどこまでが統合の実力で、どこからが燃料市況の産物かは、決算のたびに問われ続けている。

皮肉なのは、この買収が成功するほど、セブン&アイ自身が買収の標的としての輪郭を帯びていったことである。北米で稼ぐ収益構造は、同じ市場で競うクシュタールから見れば、株価の低迷と相まって割安な獲物に映った。買収の代償として有利子負債は2021年2月期末の1兆7,933億円から2023年2月期末に3兆549億円へ膨らみ、その圧縮は以後の経営課題として残った。買う側に立つ決断が、4年後に買われる側へ立たされる伏線になった展開は、グローバルM&Aで規模を求める企業に、企業価値の評価を市場に委ねることの重さを示している。

Yutaka Sugiura, 2026年7月
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図と表

セブン&アイHD:のれんと無形固定資産の推移

のれん(百万円)のれん以外の無形固定資産(百万円)
セブン&アイHD:のれんと無形固定資産の推移
(百万円) のれん無形固定資産総資産 備考
2016年2月期 313,667545,6705,441,691
2017年2月期 270,055495,9355,508,888
2018年2月期 251,233461,9665,494,950
2019年2月期 371,969608,4875,795,302
2020年2月期 359,618608,8835,996,887
2021年2月期 349,882645,8736,946,832 契約を締結した期。取得原価の見込みを後発事象として注記した段階
2022年2月期 1,741,6042,140,0028,739,279 取得の完了でのれんが1,391,722増。取得時の暫定計上額は1,357,134
2023年2月期 1,913,0172,364,67310,550,956 暫定的な会計処理が確定し、のれんは1,367,010となった
2024年2月期 1,928,9162,356,57810,592,117
2025年2月期 2,264,4412,711,38211,386,111
2026年2月期 2,109,8062,469,0269,142,957 のれんの減損テストで報告単位の公正価値が帳簿価額を下回る可能性は低いと判断
出所:セブン&アイ・ホールディングス 有価証券報告書 第11〜21期(連結貸借対照表)
出所:セブン&アイ・ホールディングス 有価証券報告書 第11〜21期(連結貸借対照表)

セブン&アイHD:海外コンビニエンスストア事業の推移

外部顧客への営業収益(百万円)
セブン&アイHD:海外コンビニエンスストア事業の推移
(百万円) 外部顧客への営業収益セグメント利益 備考
2017年2月期 1,658,33867,421
2018年2月期 1,980,89779,078
2019年2月期 2,818,89992,266
2020年2月期 2,737,775102,001
2021年2月期 2,251,62798,664 契約を締結した期。Speedway事業はまだ連結に含まれていない
2022年2月期 5,191,910159,866 連結は2021年5月14日から12月31日まで。通年ではない
2023年2月期 8,843,366289,703 通年で連結した最初の期。連結営業収益11,811,303の7割を超えた
2024年2月期 8,514,152301,628
2025年2月期 9,168,434216,248
2026年2月期 8,556,188222,223
出所:セブン&アイ・ホールディングス 有価証券報告書 第12〜21期(連結財務諸表 注記事項 セグメント情報)
出所:セブン&アイ・ホールディングス 有価証券報告書 第12〜21期(連結財務諸表 注記事項 セグメント情報)

セブン&アイHD:有利子負債の推移

有利子負債(百万円)
セブン&アイHD:有利子負債の推移
(百万円) 有利子負債 備考
2019年2月期 1,144,659
2020年2月期 1,019,112
2021年2月期 1,793,364 セブン&アイがブリッジローンと普通社債で832,000を調達した期
2022年2月期 2,955,670 7-Eleven, Inc.が普通社債で1,192,710を調達し、残高は前期の1.6倍に
2023年2月期 3,054,948
2024年2月期 2,814,040
2025年2月期 2,770,345
2026年2月期 2,274,466
出所:セブン&アイ・ホールディングス 有価証券報告書 第14〜21期(経営者による財政状態の分析 資本の財源及び資金の流動性)
出所:セブン&アイ・ホールディングス 有価証券報告書 第14〜21期(経営者による財政状態の分析 資本の財源及び資金の流動性)

買収の条件

買収の条件
科目 概要 備考
被取得企業 Speedway LLC 他20社 事業の内容はコンビニエンスストア事業及び燃料小売事業の運営
売り手 米Marathon Petroleum Corporation 同社の小売部門のうちダイレクト・ディーラーに対する燃料小売事業等は対象外
契約の締結日 2020年8月3日 2021年2月期は後発事象として取得原価の見込みのみを注記
企業結合日 2021年5月14日 在外子会社の決算日は12月31日のため、連結は2022年2月期の第2四半期から
企業結合の法的形式 株式その他の持分の取得 7-Eleven, Inc.の完全子会社SEI Speedway Holdings, LLCを通じて取得
取得した議決権比率 100% 取得対象は複数社。代表的な1社であるSpeedway LLCについての記載
取得原価(契約時の見込み) 21,000百万USドル(2,323,230百万円) クロージング日までの運転資本等の増減により調整されるとしていた
取得原価(確定) 21,083,918千USドル(2,332,513百万円) 対価は全額現金。1USドル=110.63円(2021年5月13日レート)で換算
主要な取得関連費用 134,084千USドル(14,833百万円) 財務及び法務調査に対する報酬
受け入れた資産 1,190,967百万円 流動資産109,347百万円、固定資産1,081,619百万円
引き受けた負債 215,588百万円 流動負債160,469百万円、固定負債55,118百万円
のれん(暫定) 1,357,134百万円 2022年2月期に暫定計上。12,267,329千USドル
のれん(確定) 1,367,010百万円 2023年2月期に確定。支払対価の調整などで9,875百万円増えた
のれんの償却方法 20年間で均等償却 発生原因は今後の事業展開によって期待される将来の超過収益力
連結に含めた業績の期間 2021年5月14日から12月31日 2022年2月期の連結損益計算書に含まれる被取得企業の業績の期間
通期換算した売上高の増加 8,420百万USドル(925,358百万円) 期首に完了したと仮定した概算額。監査証明を受けていない
通期換算した営業利益の増加 183百万USドル(20,111百万円) 同じ仮定による概算額。親会社株主帰属の当期純利益は14,552百万円
付帯する契約 15年間のガソリン供給契約 取得した店舗への供給。企業結合日にMPC社と締結
買収資金の調達(持株会社) 832,000百万円 2021年2月期にセブン&アイがブリッジローンと普通社債で調達
買収資金の調達(7-Eleven, Inc.) 1,192,710百万円 2022年2月期に普通社債の発行で調達
出所:セブン&アイ・ホールディングス 有価証券報告書 第16期(2021年2月期)【重要な後発事象】・第17期(2022年2月期)・第18期(2023年2月期)【企業結合等関係】
出所:セブン&アイ・ホールディングス 有価証券報告書 第16期(2021年2月期)【重要な後発事象】・第17期(2022年2月期)・第18期(2023年2月期)【企業結合等関係】
当時の取締役 13名

当時の取締役(2020年5月株主総会決議)

  • 後藤克弘:副社長執行役員
  • 伊藤順朗:常務執行役員
  • 井阪隆一:社長執行役員
  • 月尾嘉男:取締役
  • 伊藤邦雄:取締役
  • 米村敏朗:取締役
  • 山口公義:執行役員
  • 永松文彦:取締役
  • 東哲郎:取締役
  • 木村成樹:取締役
  • 和子:取締役
  • 丸山好道:執行役員
  • ジョセフマイケルデピント:取締役
参考文献

参考文献

参考
  • セブン&アイ・ホールディングス 有価証券報告書 第16期(2021年2月期)
  • セブン&アイ・ホールディングス 有価証券報告書 第17期(2022年2月期)
  • セブン&アイ・ホールディングス 有価証券報告書 第18期(2023年2月期)
  • セブン&アイ・ホールディングス 有価証券報告書 第21期(2026年2月期)
  • セブン&アイ・ホールディングス 有価証券報告書「第16期有価証券報告書(2021年2月期)」
  • セブン&アイ・ホールディングス 有価証券報告書「第17期有価証券報告書(2022年2月期)」
  • セブン&アイ・ホールディングス 有価証券報告書「第18期有価証券報告書(2023年2月期)」

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