日立製作所 ABBパワーグリッド買収 送配電の世界最大手の買収と、エネルギーの柱の火力からの入れ替え

更新:

時期 2018年12月
当時の社長 東原敏昭
論点 エネルギー事業の再構築と海外ポートフォリオ
何をなぜ決めたか
概要

2018年12月17日にABB Ltdと契約を締結し、2020年7月1日、ABB社から分社されたHitachi ABB Power Grids Ltdの株式80.1%を6,850百万米ドル(722,062百万円)で取得した。掲げた目的は、エネルギーソリューション事業のグローバル展開及び強化である。

契約を公表した時点で見込んでいた対価は64億米ドル(約7,103億円)で、実際の支払額はこれを上回った。あわせてABB社の子会社ABB Capital B.V.から同社への貸付金3,000百万米ドル(323,190百万円)を引き継ぎ、同額をABB Capital B.V.に支払っている。

背景

エネルギーは稼げない事業だった。2019年3月期のエネルギーセグメントは、外部顧客に対する売上収益3,778億円に対してセグメント損益が△2,980億円、2020年3月期は3,342億円に対して△3,757億円である。

後者の期には、南アフリカの火力プロジェクトをめぐる三菱重工業との和解に伴う損失375,967百万円を同セグメントで計上している。火力の後始末に追われる一方、脱炭素で需要が伸びる送配電には世界規模の足場がなかった。

内容

受け入れた資産は1,826,221百万円、引き継いだ負債は1,024,910百万円で、のれんに448,977百万円、その他の無形資産に444,501百万円を配分した。無形資産の内訳は顧客関係233,989百万円、技術95,987百万円、受注残53,542百万円、ブランド31,026百万円である。

のれんは主に超過収益力及び既存事業とのシナジー効果を反映したもので、損金には算入されない。非支配持分79,249百万円は、識別可能純資産の公正価値に対する持分割合相当額で測定した。長期債務は買収のための借入の増加等により6,358億円増え、1兆7,063億円となった。

含意

取得日から2021年3月31日までの経営成績は、売上収益722,351百万円、EBIT△32,233百万円で、新たに認識した無形資産等の償却費52,459百万円が重くのしかかった。2020年4月1日に取得したと仮定した通期換算では、売上収益8,951,675百万円、当期利益508,595百万円となる。

2021年6月30日に商号をHitachi Energy Ltdへ改め、2022年12月28日には残る19.9%を1,679百万米ドル(243,200百万円)で取得して完全子会社とした。この追加取得は非支配持分の認識を中止し、対価との差額を資本剰余金として認識する資本取引である。

いつ何が起きたか 7件
筆者の見解
筆者の見解

火力を畳んでグリッド事業を買収するという選択

この買収で買ったのは工場でも技術でもなく、送配電という市場に世界規模で立つ位置そのものだった。取得原価7,220億円に対し、受け入れた有形固定資産は2,392億円にとどまり、残りはのれんと顧客関係・技術・受注残といった目に見えない資産に配分されている。祖業に連なる火力を畳む判断と、脱炭素で伸びる送配電を取りに行く判断が同じ数年のあいだに表裏で進んだ点に、選択と集中を平常運転に変えた日立の経営がうかがえる。

もっとも、買った位置には値札が付き続ける。2022年9月には急激な金利上昇に伴う割引率の上昇で、パワーグリッド事業ののれんに383億円の減損損失を計上した。買った資産の価値が金利という外部環境で揺れることを、取得から2年で突きつけられた形である。それでも当該セグメントは2025年3月期に売上収益3兆8,492億円・セグメント損益3,690億円まで伸び、赤字が続いた事業は稼ぎ頭のひとつに変わった。判断の当否は、この利益が金利の水準に左右されずに積み上がるかどうかで決まるとみられる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

業績の推移
買収の条件

買収の条件

科目 概要 備考
被取得企業 Hitachi ABB Power Grids Ltd ABB社から分社されたパワーグリッド事業会社。日立ABBパワーグリッド社
取得の法的形式 現金を対価とする株式の取得 分社されたパワーグリッド事業会社への80.1%の出資
買収の目的 エネルギーソリューション事業のグローバル展開及び強化
契約の締結日 2018年12月17日 この時点の取得の対価は約64億米ドル(約7,103億円)を見込んでいた
企業結合日 2020年7月1日 取得の完了により、日立ABBパワーグリッド社は当社の子会社となった
取得した議決権比率 80.1% 残る19.9%に当社はコール、ABB社は2023年以降のプットを保有した
取得原価 722,062百万円 6,850百万米ドル。対価は現金で、契約時の見込みを上回った
資金の調達方法 長期借入 長期債務(償還期を除く)は買収のための借入の増加等で6,358億円増加
引き継いだ貸付金 323,190百万円 3,000百万米ドル。ABB Capital B.V.へ同額を支払った
取得関連費用 8,300百万円 2019年3月期3,032、2020年3月期2,358、2021年3月期2,909をその他の費用に計上
受け入れた資産合計 1,826,221百万円 売上債権及び契約資産372,999、有形固定資産239,287、棚卸資産174,198
引き継いだ負債合計 1,024,910百万円 長期債務349,189、買入債務199,789、契約負債140,005
のれん 448,977百万円 損金不算入。主に超過収益力及び既存事業とのシナジー効果を反映したもの
その他の無形資産 444,501百万円 うち顧客関係233,989、技術95,987、受注残53,542、ブランド31,026
非支配持分 79,249百万円 識別可能純資産の公正価値に対する持分割合相当額で測定している
取得日以降の経営成績 売上収益722,351百万円 EBIT△32,233、当期利益△27,507。無形資産等の償却費52,459を含む
通期換算した経営成績 売上収益8,951,675百万円 2020年4月1日の取得と仮定した全社の値。EBIT842,077。監査対象外
商号変更 2021年6月30日 日立ABBパワーグリッド社からHitachi Energy Ltdへ
追加取得の契約日 2022年9月30日 コール・オプションの行使によりABB社保有の19.9%を取得する契約
追加取得の実行日 2022年12月28日 所有持分の割合は80.1%から100%となり、完全子会社となった
追加取得の対価 243,200百万円 1,679百万米ドル。非支配持分の認識を中止し差額を資本剰余金に計上

出所:日立製作所 有価証券報告書 第150期(2019年3月期)【経営上の重要な契約等】、第151期(2020年3月期)・第152期(2021年3月期)・第154期(2023年3月期)連結財務諸表注記 注5.事業再編等

のれんとその他の無形資産の推移

日立製作所:のれんとその他の無形資産の推移

(百万円) のれんその他の無形資産資産の部合計 備考
2016年3月期 −−12,551,005 連結財政状態計算書はのれんを別掲せず、無形資産1,070,403に含めて表示
2017年3月期 −−9,663,917 同じく無形資産919,201としてのれんを含めて表示
2018年3月期 −−10,106,603 同じく無形資産1,054,370としてのれんを含めて表示
2019年3月期 561,936398,0809,626,592 この期からのれんを別掲。2018年12月にABB社と買収契約を締結した
2020年3月期 635,927479,7949,930,081 取得は翌期。当初の会計処理が完了せず、のれんの残高を開示していない
2021年3月期 1,161,210964,83011,852,853 7月に取得。のれん448,977とその他の無形資産444,501を新たに計上
2022年3月期 2,153,7061,257,12813,887,502 GlobalLogic社の買収による増加を含む。パワーグリッド事業配分は513,616
2023年3月期 2,165,3501,244,68812,501,414 パワーグリッド事業ののれんに38,394の減損。配分後の残高は524,951
2024年3月期 2,371,6781,178,75012,221,284 パワーグリッド事業に配分されたのれんの帳簿価額は623,034
2025年3月期 2,486,8231,199,99613,284,813 パワーグリッド事業に配分されたのれんの帳簿価額は615,337
のれんとその他の無形資産
のれん(百万円)その他の無形資産(百万円)

出所:日立製作所 有価証券報告書 第147〜156期(連結財政状態計算書、連結財務諸表注記 注10.無形資産)

送配電事業が属する報告セグメントの推移

日立製作所:送配電事業が属する報告セグメントの推移

(百万円) 売上収益セグメント損益セグメント資産 備考
2019年3月期 377,855△298,041796,692 この期にエネルギーを新設。売上収益は外部顧客に対するもの
2020年3月期 334,220△375,781686,524 同じ期に南アフリカの火力案件の和解に伴う損失375,967を同セグメントで計上
2021年3月期 1,054,555△55,5672,277,117 7月から日立ABBパワーグリッド社を連結。売上収益は9か月分
2022年3月期 1,991,56692,3123,327,198 この期からグリーンエナジー&モビリティへ区分変更。鉄道システム等を含む
2023年3月期 2,409,601163,5053,762,723 パワーグリッド事業ののれんに38,394の減損損失を計上した
2024年3月期 2,980,675199,1844,719,717
2025年3月期 3,849,255369,0496,169,284
セグメントの売上収益と利益率
売上収益(百万円)セグメント損益率(%)

出所:日立製作所 有価証券報告書 第150〜156期(連結財務諸表注記 注4.セグメント情報)

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参考文献
出典・参考
  • 日立製作所 有価証券報告書(2025年3月期)【沿革】
  • 日立製作所 適時開示「日立がABB社のパワーグリッド事業を買収しエネルギーソリューション事業を強化」
  • 日立製作所 適時開示「日立がABB社のパワーグリッド事業の買収を完了」
  • 日立製作所 適時開示「Hitachi Energyの完全子会社化について」
  • 日立製作所 有価証券報告書「第150期(2019年3月期)【経営上の重要な契約等】」
  • 日立製作所 有価証券報告書「第151期(2020年3月期)連結財務諸表注記 注5.事業再編等」
  • 日立製作所 有価証券報告書「第152期(2021年3月期)連結財務諸表注記 注5.事業再編等」
  • 日立製作所 有価証券報告書「第154期(2023年3月期)連結財務諸表注記 注5.事業再編等、注10.無形資産」

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