サイエンスSARUとGKIDSの子会社化(2024年・東宝の決断)

更新:
論点制作から北米配給までを子会社化するか
東宝:業績の推移
売上高(億円)営業利益率(%)
制作から北米配給までのグループへの取り込み

何をなぜ決めたか:制作から北米配給までのグループへの取り込み

概要

2024年、東宝はアニメIP事業の上流と下流を相次いでグループに取り込んだ。6月に株式会社サイエンスSARUの株式を取得して連結子会社とし、10月には連結子会社(孫会社)のToho International, Inc.がGKIDS, INC.の株式100%を取得して連結子会社とした。GKIDSの取得原価は19,200百万円、企業結合日は2024年10月17日である。

背景

東宝グループは長期ビジョン「TOHO VISION 2032 東宝グループ経営戦略」において、成長戦略のキーワードとして「企画&IP」「海外」「アニメーション」を掲げ、魅力あるコンテンツの企画開発とIP創出の強化、市場開拓の余地が大きい海外でのビジネス拡大を目指すとしていた。アニメ事業を第4の柱に育てる方針の下で、製作委員会への出資に加えて制作と海外配給の機能を自ら持つことが課題となっていた。

内容

GKIDSは北米を中心とした海外におけるアニメ作品の配給、配信プラットフォームへの販売、企画、製作を手掛ける。取得の対価には将来のマイルストーン条件の達成に応じた条件付取得対価が含まれ、米国会計基準に基づいて会計処理された。企業結合日ののれんは12,789百万円で20年間の均等償却、のれん以外の無形資産は契約関連無形資産3,729百万円とその他929百万円である。サイエンスSARUの取得については、重要性が乏しいとして企業結合等関係の注記がない。

含意

連結貸借対照表ののれんは2024年2月期末の1,927百万円から2025年2月期末に18,046百万円へ、無形固定資産は7,017百万円から30,751百万円へ増加した。2025年2月期には地域ごとの情報の記載が始まり、北米23,202百万円・アジア6,247百万円・その他1,696百万円と海外が営業収入313,171百万円の約1割を占めた。2026年2月期にはIP・アニメ事業が報告セグメントとして独立し、営業収入75,265百万円・営業利益17,296百万円を計上している。

いつ何が起きたか7件
当時の取締役9名

当時の取締役(2024年5月株主総会決議)

考察:上流と下流を同時に担うということ
考察

考察:上流と下流を同時に担うということ

配給会社が制作スタジオと海外配給網を買うのは、川上と川下への素直な拡張と映る。だが東宝の場合、それは順風の途中で選ばれた手であった。製作委員会に上位出資して当たり作の果実を取り込む方式をすでに握っていながら、あえて制作の内製化と自前配給へ動いた。GKIDSの取得原価19,200百万円のうち、受け入れた資産と引き受けた負債の差額を上回る12,789百万円がのれんとして残り、20年の均等償却が始まっている。買った配給ライセンスの価値は契約関連無形資産3,729百万円として5年で償却され、その先は取り込んだ機能が自力で稼げるかどうかにかかる。

数字の上では、垂直統合はまず開示の形を変えた。本邦の売上が90%を超えるとして省略されてきた地域ごとの情報が2025年2月期から記載され、2026年2月期にはIP・アニメ事業が報告セグメントとして独立した。営業収入75,265百万円・営業利益17,296百万円という区分は、アニメがもはや映画事業の内数ではないことを示している。もっとも、その営業利益は前期から4,942百万円減少しており、上流と下流をそろえたことが利益の安定に結びつくかは、これから預かる作品の当たり外れを含めて、なお検証の途上にある。

Yutaka Sugiura, 2026年7月
数字で見る4表

数字で見る

図と表

東宝:のれんと無形固定資産の推移

のれん(百万円)のれん以外の無形固定資産(百万円)
東宝:のれんと無形固定資産の推移
(百万円)のれん無形固定資産総資産備考
2020年2月期4,1716,759490,283
2021年2月期3,4586,066473,804
2022年2月期2,7455,386502,532
2023年2月期2,0324,953534,097
2024年2月期1,9277,017615,826東京楽天地の子会社化で総資産が増加した期。GKIDSはまだ連結していない
2025年2月期18,04630,751653,068GKIDSの取得でのれんが16,119増。企業結合日ののれんは12,789
2026年2月期16,83230,739702,934のれんと無形固定資産に減損の兆候はなく、減損損失は認識していない
出所:東宝 有価証券報告書 第131〜137期(連結貸借対照表)
出所:東宝 有価証券報告書 第131〜137期(連結貸借対照表)

東宝:地域ごとの営業収入

日本(百万円)北米(百万円)
東宝:地域ごとの営業収入
(百万円)日本北米アジアその他備考
2025年2月期282,02423,2026,2471,696地域ごとの情報の記載が始まった期。海外3地域の合計は31,145
2026年2月期324,19626,3428,9451,178海外3地域の合計は36,465。売上高は顧客の所在地を基礎として分類
出所:東宝 有価証券報告書 第136〜137期(連結財務諸表 注記事項 セグメント情報 関連情報)
出所:東宝 有価証券報告書 第136〜137期(連結財務諸表 注記事項 セグメント情報 関連情報)

東宝:営業収入と営業利益の推移

営業収入(百万円)営業利益(百万円)
東宝:営業収入と営業利益の推移
(百万円)営業収入営業利益備考
2020年2月期262,76652,857
2021年2月期191,94822,447新型コロナウイルス感染症の影響で映画館の休業が続いた期
2022年2月期228,36739,948
2023年2月期244,29544,880
2024年2月期283,34759,251
2025年2月期313,17164,684GKIDSの連結は企業結合日から2024年12月31日までの2か月半
2026年2月期360,66367,889いずれも過去最高。IP・アニメ事業は営業収入75,265・営業利益17,296
出所:東宝 有価証券報告書 第131〜137期(連結損益計算書)
出所:東宝 有価証券報告書 第131〜137期(連結損益計算書)

買収の条件

買収の条件
科目概要備考
被取得企業GKIDS, INC.北米を中心とした海外でのアニメ作品の配給、配信プラットフォームへの販売、企画、製作
取得した会社Toho International, Inc.東宝の連結子会社(孫会社)。GKIDSの所在地は米国ニューヨーク州
株式譲渡契約の締結日2024年10月16日株式の100%を取得するための契約
企業結合日2024年10月17日連結には企業結合日から被取得企業の決算日2024年12月31日までの業績を含む
企業結合の法的形式現金を対価とする株式取得取得企業を決定した根拠も、現金を対価として株式を取得したこと
取得した議決権比率100%関係会社の状況では間接所有100.0%
取得原価19,200百万円条件付取得対価を含む。米国会計基準に基づき会計処理している
条件付取得対価将来のマイルストーン達成に応じた追加支払取得時の公正価値を対価の一部として認識。以後の変動は時価評価で損益に計上
主要な取得関連費用160百万円アドバイザリーに対する報酬・手数料等
受け入れた資産19,076百万円流動資産14,417百万円、固定資産4,659百万円
引き受けた負債12,664百万円流動負債10,215百万円、固定負債2,449百万円
のれん12,789百万円20年間の均等償却。2025年2月期末の残高は13,057百万円
のれん以外の無形資産4,659百万円契約関連無形資産3,729百万円(5年)、その他929百万円(15年)
取得のための支出(純額)6,855百万円取得価額から未払金9,982百万円と受け入れた現金2,279百万円等を控除
通期換算した業績への影響記載なし重要性が乏しいとして記載を省略している
サイエンスSARUの取得条件注記の省略2024年6月に株式を取得。企業結合等関係に記載がなく取得原価は不明
FIFTH SEASONの持分取得25%(持分法適用関連会社)2023年12月31日にToho Internationalが取得。子会社化ではない
出所:東宝 有価証券報告書 第136期(2025年2月期)【企業結合等関係】【関係会社の状況】【連結キャッシュ・フロー計算書関係】
出所:東宝 有価証券報告書 第136期(2025年2月期)【企業結合等関係】【関係会社の状況】【連結キャッシュ・フロー計算書関係】
当時の取締役9名

当時の取締役(2024年5月株主総会決議)

参考文献

参考文献

参考
  • 東宝 有価証券報告書 第136期(2025年2月期)
  • 東宝 有価証券報告書 第137期(2026年2月期)
  • 東宝 有価証券報告書 第135期(2024年2月期)
  • 東宝 有価証券報告書「第136期有価証券報告書(2025年2月期)」
  • 東宝 有価証券報告書「第137期有価証券報告書(2026年2月期)」

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