ソフトバンクグループ米半導体設計Ampere Computingの65億ドル買収

設計図の提供者から、チップの作り手へ——孫正義氏はなぜサーバーCPUの新興企業に約1兆円を投じたのか

時期 2025年3月
意思決定者 孫正義 ソフトバンクグループ 代表取締役 会長兼社長執行役員
論点 AI半導体の内製化と半導体事業の強化
概要
2025年3月20日、ソフトバンクグループが、Armベースのサーバー向けCPUを設計する米Ampere Computingを総額65億ドル(約1兆円)の現金取引で買収すると発表した経営判断。主要投資家のCarlyleとOracleが持分を売却し、米当局の審査を経て同年11月25日(米国時間)に全持分の取得を完了、完全子会社化した。
背景
ソフトバンクグループは2016年のアーム買収以降、半導体設計を事業の核に据え、2024年に英Graphcore買収、2025年1月に米AIインフラへ4年で5,000億ドルを投じるStargate構想の発表と、AI計算基盤への布石を重ねていた。ただしアームは設計図を提供するライセンス企業であり、チップそのものを製品化するノウハウを欠いていた。
内容
総額65億ドルの現金取引でAmpereの全持分を取得する。Ampereは名称と本社(カリフォルニア州サンタクララ)を維持したまま完全子会社として運営を続ける。買収により、アームの設計知財に、Armベースのサーバー向けCPU「AmpereOne」を製品化してきたAmpereの実装力が加わる。
含意
設計図の提供にとどまっていたアームに、製品として仕上げるAmpereと、AI専用チップのGraphcoreを組み合わせ、データセンター向けAI半導体を設計から製品化まで一貫して手がける体制が整った。グループ3社で8,400人の半導体エンジニアを擁し、Stargate構想の計算基盤を自前で支える布陣となる。
筆者の見解

欠けたピースの代価

65億ドルという対価は、Ampere単体の事業規模から導かれた数字というより、アームを核とする半導体戦略の欠けたピースへの支払いとみることができる。設計知財を握っても、チップを製品に仕上げる工程を持たなければ、AIデータセンターの計算基盤は他社頼みのままとなる。設計のアーム、製品化のAmpere、AI専用チップのGraphcoreという分業を傘下に揃えた判断は、2016年のアーム買収に始まる垂直統合の仕上げにあたり、Stargate構想と一体で読むべき布石といえる。

もっとも、部品が揃うことと、市場で勝つことは別の問題である。AI半導体で独占的な地位を築いたエヌビディアの強みは、ソフトウェア開発者を巻き込んだエコシステムにあり、ハードウェアの内製化だけでは牙城に届かない。約1兆円の投資が生きるかどうかは、Ampere自身の製品力に加えて、Stargateをはじめとするグループ全体のAI投資が需要の実体に支えられ続けるかに懸かっている。買収完了はAI投資の熱狂の只中にあり、この判断の評価が定まるのはこれからとみられる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

AIシフトと半導体への布石

ソフトバンクグループは2016年に英アーム・ホールディングスを約3.3兆円で買収して以降、半導体設計を事業の核に据えてきた。2024年7月にはAI向け半導体を開発する英Graphcoreを買収し、2025年1月にはOpenAIなどと組み、米国のAIインフラに4年間で5,000億ドル(約72.5兆円)を投じるStargate構想を発表した。ASI(人工超知能)の実現を掲げてAI計算基盤へ資本を集中する路線が、この時期に鮮明になっていた[1]

ただし、アームを核とする半導体事業には空白があった。アームは半導体メーカーにCPUの設計図を提供するライセンス企業であり、チップそのものを作るノウハウを持たない。一方データセンターでは、省電力を武器にアームの設計図を基にしたCPUの搭載が広がり、アマゾンやグーグル、マイクロソフトといった大手クラウド事業者は独自CPUを相次いで投入していた。アーム自身が2025年末にはサーバー市場の半分を占めると見通す成長市場で、設計と製品化の間を埋める担い手を欠いていた[2]

Ampere Computingという相手

買収相手のAmpere Computingは、インテルの元幹部ルネ・ジェームズ氏が2017年に設立した半導体設計企業で、Armアーキテクチャーのサーバー向け高性能CPUを手がけていた。ジェームズ氏は2015年からオラクルの取締役を務め、オラクルは2024年5月時点でAmpere株の29%を握る大株主として、自社サーバー向けに同社製CPUを採用してきた。インテルやAMDのx86系が独占してきたサーバー用CPUに、省電力のアーム系で挑む代表格であった[3]

Ampereはソフトバンクグループにとって未知の相手ではなかった。アームは同社へ出資し、設計図の供給を通じて協業してきた間柄で、買収完了時点の持分はカーライル59.65%、オラクル32.27%に加え、アームの関連会社が8.08%を保有していた。インテル出身のエンジニアを中心とするチームは、x86系で高水準のサーバー用チップを設計から量産直前の工程(テープアウト)まで仕上げた経験を重ねており、この実装力こそがアームに欠けていた能力であった[4][5]

決断

65億ドルの現金買収

2025年3月20日、ソフトバンクグループはAmpereを総額65億ドル(約9,400億〜9,700億円)の現金取引で買収すると発表した。Ampereの主要投資家であるCarlyleとOracleがそれぞれの持分を売却し、Ampereは名称とカリフォルニア州サンタクララの本社を維持したまま、完全子会社として運営を続ける。取引は規制当局の承認を含む完了条件を経て、2025年後半に完了する見込みとされた。3兆円超を投じた2016年のアーム以来の大型買収であった[6][7]

発表にあたり孫正義会長兼社長は、ASIの未来には前例のない計算能力が必要であり、Ampereの専門知識がその実現を加速させると位置づけた。買収を米国のAIイノベーションへの関与を強める一手と重ねる説明であり、2カ月前に発表したStargate構想と地続きの判断であることを隠さなかった。創業者のジェームズ氏も、高性能ArmプロセッサとAI向け製品「AmpereOne」のロードマップをグループの傘下で推進すると応じた[8][9]

設計から製品化までの一貫体制

買収の核心は、金額よりも組み合わせにあった。設計図を提供するアーム、その設計図を実際の製品に仕上げるAmpere、CPUの指令を受けてAI処理を担う専用半導体のGraphcore——3社のノウハウを束ねれば、AIデータセンターの中核となる半導体をシステムとして自前で調達できる。設計図の供給者にとどまっていたソフトバンクグループの半導体事業は、この買収でCPUの設計から製品化までを一貫して担える体制へ移行した[10]

2025年5月の決算説明会では、この布陣が数字とともに説明された。アーム、Ampere、Graphcoreの3社で8,400人の半導体エンジニアを結集し、CPUにとどまらずGPUやNPUアクセラレーターまで、より複雑なチップの開発能力を確保するという説明であった。Stargate構想への対応でも、現時点で製品の発表はないと断りつつ、さまざまな能力を結集できているとの認識が示された。買収は単なる企業の追加ではなく、AI半導体の内製化に向けた要員と技術の結集として語られていた[11]

結果

米当局の審査を経て、8カ月で完了

完了までの道のりは平坦ではなかった。買収は米連邦取引委員会(FTC)による詳細審査の対象となり、2025年8月の決算説明会で後藤芳光CFOは、審査の影響を精査中としつつ、年度後半に取引を完了できる見込みで進めていると説明した。実際の完了は2025年11月25日(米国時間)で、ソフトバンクグループは子会社Silver Bands 6 (US) Corp.を通じてAmpereの全持分を取得し、完全子会社化した。発表から約8カ月での決着であった[12][13]

約1兆円の投資と報じられた買収の完了は、ソフトバンクグループのAI投資が一段と加速した時期と重なった。同じ2025年10〜12月期に同社はOpenAIへの追加出資225億ドルを払い込むなど四半期で305億ドルを投資しており、Ampereの完全子会社化は、AIのインフラとなるデータセンター向けの半導体を自前で手がけ、OpenAIとの投資拡大に備える動きにあたる。約1,000人の半導体エンジニアを抱えるAmpereは、アームやGraphcoreとともにグループの半導体事業を支える一角となった[14][15]

出典・参考

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