この転換の核心は、一つの製品を当てたことではなく、事業の構造そのものを組み替えた点にある。委託加工は在庫を持たず加工料を得る身軽なモデルだが、値段も採算も発注元が握る。川田達男氏は、在庫リスクを引き受けてでも原糸から最終製品までを自社に取り込み、自ら値決めできる立場を選んだ。異端者として窓際から始めた自動車の仕事を、一貫生産という重い設備投資で事業へ固め、社長就任後は電子染色やカネボウ繊維の取り込みで最後の工程まで内製化した。下請け気質を変えるとは、掛け声ではなく採算の決定権を取り戻す構造改革であったと推察される。
もっとも、下請けを抜けた先には別の課題が待っていた。委託加工に代わって主力となった車輌資材は、いまやセーレンの売上の約7割を占め、収益の大半を1事業に負う構造になっている。かつて合繊大手の事業計画に業績を左右された会社は、今度は自動車産業の変動に業績を左右されうる立場にある。半導体加工部材や人工衛星向け部材といった新領域を次の柱に育てられるか——下請けから独立事業体へと自らを作り替えたセーレンが次に向き合うのは、その独立をさらにもう一段広げる仕事であるといえる。