米グリーンヒル買収——M&A助言機能の「内製化」

2023年実施

債券引受で米国に食い込んだみずほは、なぜ栄光の薄れた老舗ブティックへ5.5億ドルを投じ、M&A助言の看板ごと買ったのか

時期 2023年5月
論点 海外展開と投資銀行ビジネス
概要
2023年5月、みずほFGは子会社の米州みずほLLCを通じ、米独立系M&A助言会社グリーンヒル(Greenhill & Co.)を1株15ドル・企業価値約5.5億ドル(約760億円、引き受ける負債を含む)で買収すると発表した経営判断。全株式を現金で取得し、同年12月1日に完了した。
背景
みずほは債券引受などデットビジネスで米国資本市場のシェアを高めてきたが、投資銀行の収益源として欠けていたのがM&A助言だった。人材とブランドを一から育てるより、実績ある助言会社を買って機能を内製化するほうが速いと判断した。
内容
買収対象は1996年設立・2004年NYSE上場のグリーンヒル。世界15拠点に約370名を抱える老舗ブティックで、みずほは経営陣とブランドを残したまま米州の銀行部門に組み入れた。提示した1株15ドルは前週末終値を121%上回る水準だった。
含意
独立系上場ブティックの草分けが、株価も収益も細ったのち大手邦銀の傘下に入った。みずほは米州の投資銀行ビジネスにM&A助言を加え、機能を自前でそろえる路線から、外の事業を買って成長を取り込む方針へ切り替えた。
筆者の見解

足りない機能を、時間ごと買う

この判断の値打ちは、みずほが「足りない機能を、時間ごと買った」点にある。債券引受で米国のデットビジネスに食い込んだ銀行にとって、M&A助言は最後まで欠けたピースだった。人材と顧客基盤、そして四半世紀かけて積み上がった看板は、一から育てれば十年単位の時間を要する。株価も収益も細った老舗を前週末比121%の値で買う判断には割高の危うさもつきまとうが、みずほが手にしたかったのは足元の利益よりも、助言という機能をいますぐ動かせる状態そのものだった。

もっとも、買収がみずほの投資銀行を一段上へ押し上げたと言い切るには、まだ時間が要る。独立系上場ブティックという業態は、身軽さと専門性を売りに育ったが、大型化する取引と規制の重みの前で単独の勢いを保ちにくくなっていた。その退潮の末にグリーンヒルは大手邦銀の傘下へ入り、みずほは自前主義を手放して外の事業を取り込む道を選んだ。日本の金融機関が海外の助言機能をどう自社のものにしていくか——危機下のモルガン・スタンレー救済出資とは異なる、平時の品ぞろえづくりとしての海外買収が、ここで一つの型を示した。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

自前でそろえる路線の限界と、買って埋める方針

みずほは旧3行の勘定系を一本化する巨大システムMINORIへの全面移行を2021年に終え、機能を自前でそろえる長い作業に区切りをつけた。国内は人口減少と低金利で金利収入とリテールの伸びしろが細り、成長の場を海外に求める必要があった。米国では債券引受などデットビジネスで市場シェアを高めてきたものの、投資銀行の収益源として欠けていたのがM&A助言だった。足りない機能を一から育てるより、実績ある会社を買って取り込むほうが速い——みずほはそう判断した[1]

独立系ブティックの草分けと、その退潮

買収の相手は、独立系投資銀行という業態の草分けだった。グリーンヒルは1996年に設立され、2004年にNYSEへ上場した助言専業のブティックで、M&A・企業再編・リストラクチャリングに特化し、米国・欧州・アジアの15拠点に約370名を抱えた。ただ上場から20年近くを経て、市場が付けていた株価は低い水準にとどまっていた。みずほが提示した1株15ドルは前週末の終値を121%上回り、その差は同社株が長く冷やされてきたことを映していた[2][3]

決断

1株15ドル・企業価値5.5億ドルの合意

2023年5月22日、みずほFGは、子会社の米州みずほLLCを通じてグリーンヒルの全株式を1株15ドルの現金で取得すると発表した。引き受ける負債を含む企業価値で約5億5000万ドル、当時の為替でおよそ760億円にあたる。株主総会の承認と当局の認可を前提とする合併で、完了後にグリーンヒルのNYSE上場は廃止される段取りだった。自前で機能をそろえてきたみずほが、外から会社ごと買って成長を取り込む方針に切り替えた、その象徴となる一手だった[4][5]

人材とブランドを買う設計

みずほが買ったのは、まず人と看板だった。発表文は、M&Aビジネスの強化に要る「人材」と実績に裏打ちされた「企業ブランド」を得て、グローバルな助言機能を内製化するのが狙いだと述べた。買収後もグリーンヒルのブランドと経営陣を残し、事業は米州みずほの銀行部門へ組み入れる。木原正裕グループCEOと松浦修司・米州みずほ会長兼CEOは連名で、世界有数のM&A会社を自社基盤に加え、両社の組み合わせに意味あるシナジーを見込むとの談話を出した[6][7]

結果

2023年12月の完了と、銀行部門への統合

買収は2023年12月1日に完了した。みずほは約370名の人材を迎え、グリーンヒルのブランドを残したまま、同事業を米州みずほの銀行部門に置くGreenhill Advisoryとした。旧CEOのスコット・ボック氏は同事業の会長に就き、コスタンティーノ、ワイルズ両氏が共同で率いる。米国でシェアの低かったM&A助言に、みずほは実績ある助言網を一挙に加え、資本市場・銀行・プライベートアセットの品ぞろえへ助言機能を重ねた[8]

買収は、機能を自前でそろえてきたみずほが、外から会社ごと買って成長を取り込む方針へ切り替えたことを示す一件だった。グリーンヒルを組み入れた2024年3月期、みずほの連結経常収益は8兆7444億円、親会社株主純利益は6789億円と、前期の5555億円から伸びた。もっともこの伸びには金利環境や市場全体の追い風が効いており、M&A助言の上乗せ分だけを取り出して測るのは難しい。買収の値打ちは、米州の投資銀行ビジネス全体がどこまで育つかに委ねられた[9]

出典・参考