楽天証券への出資と資本業務提携——対面のみずほ、ネットの楽天

2022年実施

メガバンクの証券会社が、なぜ競い合うネット証券最大手級へ800億円を投じ、二段構えで出資を49%まで高めたのか

時期 2022年10月
論点 リテール証券とネット×対面の融合
概要
2022年、みずほフィナンシャルグループは傘下のみずほ証券を通じて楽天証券へ約800億円を出資し、議決権の19.99%を握って持分法適用会社とした経営判断。対面営業に強いみずほと、口座数で国内最大手級のネット証券・楽天証券が組み、個人の資産運用で連携した。翌2023年には29.01%を買い増し、出資比率を49.00%へ高めた。
背景
2021年に相次いだシステム障害で信頼回復を迫られたみずほは、リテール証券でネットの顧客接点が薄かった。一方の楽天グループは、楽天モバイルへの先行投資でキャッシュの流出が続き、金融事業の資本を現金に換える必要に迫られていた。両社の事情が重なり、出資交渉が動いた。
内容
みずほ証券が楽天証券ホールディングスから楽天証券株の19.99%を800億円で取得し、2022年11月に持分法適用会社化。対面のコンサルティング力とネットの集客力を持ち寄る「ハイブリッド型」の資産運用サービスを掲げた。2023年12月には870億円で29.01%を追加取得し、比率を49.00%へ引き上げた。
含意
銀行系の証券会社が、競い合うネット証券の株式の半分近くを握る異例の提携となった。過半を取れば子会社として規制が重くなるため、みずほは49%で止め、楽天ブランドと経営の独立を残した。個人の資産形成をめぐる争いのなかで、対面とネットの垣根を越える一手だった。
筆者の見解

支配せずに、半分だけ組む

この判断の核心は、対面営業に強みを置いてきたメガバンクの証券会社が、正面から競い合うネット証券の内側へ、資本で入り込んだ点にある。2021年のシステム障害でリテールの信頼を損なったみずほにとって、若い資産形成層を一から囲い込むより、800億円で楽天証券の完成した顧客基盤へ相乗りする方が速い。携帯事業の赤字で現金を欲した楽天と、ネットの弱さを補いたいみずほ——互いの必要が噛み合ったところに、この出資は成り立っている。

もっとも、みずほは過半を取らずに49%で止めた。子会社にすれば銀行系列として規制が重くなり、楽天という看板や経営の自由度も損ないかねない。支配ではなく、二社が並び立つ提携の形を選んだところに、この出資の設計思想がうかがえる。個人の資産運用がネットへ移り、新NISAで個人マネーが膨らむなか、対面の銀行とネットの証券が半分ずつ手を握るこの試みが実を結ぶかは、これから数字で確かめられていく。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

対面のみずほと、ネットの楽天

みずほフィナンシャルグループは、都市銀行と長期信用銀行、証券が2000年前後に一つになって生まれたメガバンクである。傘下のみずほ証券は法人や富裕層への対面営業に強みを持つ半面、若い資産形成層が口座を開くネット証券では出遅れていた。2021年にはATMの停止を含むシステム障害を相次いで起こし、社会からの信頼を損なう。2022年2月に緊急登板した木原正裕グループCEOは、信頼の立て直しと並んで、リテールの弱点をどう補うかという課題を背負っていた[1]

相手に選んだ楽天証券は、性格が正反対の会社だった。インターネット取引を軸に口座数を伸ばし、SBI証券と首位を争うネット証券の最大手級で、楽天ポイントや通販とつながる楽天経済圏を通じて、若い資産形成層を数多く抱えていた。対面のみずほにとって、この顧客基盤は自前で一から築くには時間のかかるものだった。2022年10月、みずほは約800億円を投じて楽天証券に2割出資する方針を固める[2]

楽天グループの資金需要

売り手の楽天グループには、株式を手放す差し迫った事情があった。2020年に本格参入した携帯電話の楽天モバイルが、基地局への先行投資で赤字を重ね、2022年12月期の営業損失は4928億円に達する。グループ全体でも3728億円の最終赤字となり、手元資金の流出が続いた。楽天は、稼ぎ頭の金融事業を切り売りして現金を得る道を選び、楽天証券株の売却はその一つだった。翌年には楽天銀行を単独で上場させている[3]

決断

800億円で19.99%——2022年の資本業務提携

提携は素早くまとまった。2022年10月7日、みずほ証券は楽天証券ホールディングスと株式譲渡契約を結び、楽天証券の普通株式の19.99%を800億円で取得することで合意する。取得は同年11月1日に実行され、みずほ証券の楽天証券への議決権所有割合は19.99%、楽天証券はみずほ証券の持分法適用会社となった。20%の手前に置いた比率には、支配ではなく提携という距離感がにじんでいた[4][5]

両社が掲げたのは「ハイブリッド型」という言葉だった。楽天証券が持つ、楽天経済圏と結んだ幅広い世代への集客力と使いやすい取引画面に、みずほ証券の商品力や銀行・信託・証券の連携を重ね、あらゆる個人の資産づくりに応えるという構想である。ネット証券の手軽さと、対面のコンサルティングを一つの傘に収める狙いで、店舗を持たない楽天と、店舗網を持つみずほが、互いの欠けた部分を補い合う組み合わせだった[6]

結果

上場取り下げと、49%への買い増し

提携は1年で次の段へ進んだ。楽天証券ホールディングスは2023年7月に東京証券取引所へ株式上場を申請していたが、同年10月に始まった日本株の売買手数料無料化で収益の見通しが揺らぐ。2023年11月9日、みずほ証券は楽天証券株の29.01%を870億円で追加取得し、出資比率を19.99%から49.00%へ高めると発表した。取得は12月15日に実行され、楽天証券HDは上場の申請をいったん取り下げた[7][8]

みずほは、あと一歩で過半という49%で買い増しを止めた。交渉では楽天証券をみずほの子会社にする案も浮上したが、両社は50%超に踏み込まなかった。過半を握れば楽天証券はみずほFGの連結子会社となり、銀行系列の証券会社として重い規制を受け、楽天という看板も薄まりかねない。みずほは支配の一歩手前で足を止め、二社が並び立つ提携の距離を保った。連携はその後も個人金融へ広がり、2024年には楽天カードへの出資にも及んだ[9]

出典・参考