東宝の直近の動向と展望
東宝の直近の業績・経営課題・市場ポジションと、今後の展望をまとめたページです。
セグメント構成や中期的な論点を、現経営陣の発信と有価証券報告書の記述をもとに整理しています。
直近の動向と展望
中期経営計画2028 ── 営業利益700億円と1000億円の戦略投資枠
2025年4月、東宝は「中期経営計画2028」を発表した。FY27に営業利益700億円以上を目標とし、3年間の戦略投資枠として1000億円を設定した。内訳はコンテンツ製作投資700億円、ゴジラ関連150億円、M&Aやその他への充当枠を含む。松岡宏泰社長は「1000億円は必ず使い切る予算ではない」(決算説明会 FY25)と述べ、M&Aの必要性を案件ごとに慎重に判断する方針を打ち出した。IP・アニメ事業の成長戦略として、前中計で触れていなかった製作機能の拡充と人員増加を重要テーマに掲げ、外部依存からの脱却を明示した。アニメ制作の内製化を経営課題の中心に据えた点が、この中計の新しさで、製作委員会への出資から制作スタジオの所有・運営まで自社で抱える方向に踏み込んでいる。FY24に達成した営業利益644億円から700億円への上積みは、アニメ・IP事業の継続成長を前提に置いた目標として位置づけられる。
アニメは制作キャパシティの制約が成長のボトルネックで、サイエンスSARUの子会社化に続く制作体制の強化が計画の実効性を左右する。バンダイナムコホールディングスとの資本業務提携によるオリジナルIPの共同開発も、新たな収益源として位置づけられている。コンテンツ製作投資700億円という規模は、東宝が配給会社から製作会社への転換を後戻りさせない意思の表明で、制作人材の確保と育成が中計達成の鍵となる。外部スタジオへの依存構造からの脱却が、中期計画期間中の最大のテーマで、製作委員会方式で収益を分け合う従来の枠組みを越えた自社IPの形成が狙われている。
- 決算説明会 FY25
海外売上比率30% ── 創業100周年に向けたビジョン2032
中計と同時に発表された長期ビジョン2032では、創業100周年の2032年に営業利益1000億円以上、海外売上比率30%、ROE恒常的10%以上を掲げた。FY24時点で海外売上比率は約10%で、3倍への引き上げを野心的な目標として掲げた。松岡社長は対象地域として北米に加え欧州・東南アジア・インド・中国を挙げ、ロサンゼルス・ニューヨーク・シンガポールに加えて欧州にも拠点を設ける方針を示した。国内市場の人口減を前提にした成長戦略として、海外配給拠点の面的な整備が進む。GKIDS買収から始めた北米展開は、欧州・アジアへの順次拡張を視野に入れた段取りの一部に位置づけられる。アニメ作品の海外配給で先行する企業はソニー傘下のアニプレックスや米クランチロールなどがあり、後発の東宝が海外売上比率30%まで引き上げるには配給網と人材の獲得競争に勝ち続ける必要がある。
デジタル戦略として「TOHO-ONE」プロジェクトを発表し、映画・アニメ・ゲーム・ショッピングを横断するファンプラットフォームの構築を目指す。映画興行に依存する収益モデルから、ファンとの継続的な接点でIP関連の収益を積み上げるモデルへの転換を図る構想を打ち出している。不動産事業でも新宿東宝ビルの「ゴジラヘッド」がもたらした宣伝効果を踏まえ、エンタテインメントと連動した不動産開発の余地を探っている。東宝の競争力は、都心一等地の不動産という安定収益基盤と、ゴジラ・アニメIPという成長資産の組み合わせにある。小林一三が持ち込んだ鉄道沿線モデルが、94年を経て映画・アニメIP中心の新たな経営モデルと組み合わさる段階に入った。
- 決算説明会 FY25