東宝ヴァージン・シネマズ・ジャパンの買収と映画興行網の自社一元化
- 概要
- 2003年、東宝は英ヴァージングループから複合映画館(シネコン)の運営会社ヴァージン・シネマズ・ジャパンの全株式を約100億円で取得し、子会社に収めた。VCJの全国8館・81スクリーンを自社の284スクリーンに加えて興行網は365スクリーンに達し、興行会社として業界首位へ立った。既存館は"東宝プレックス"へ改称し、六本木の新館には"ヴァージン"ブランドを残した。
- 背景
- 1990年代後半以降、日本の映画興行は複数のスクリーンを一つの建物に収めるシネマコンプレックスへの移行が進み、2003年末には全国190館・1533スクリーンへ広がった。直営館の集客力に依ってきた東宝はシネコン運営の蓄積が薄く、後発のVCJが座席やポイント制で存在感を示していた。
- 内容
- 東宝はVCJの全株式を取得して全国8館・81スクリーンを取り込み、自社の284スクリーンと合わせて365スクリーンで首位へ立った。上映網の拡大と二次利用収益、VCJが磨いたシネコン運営手法の吸収を狙い、本体と子会社に分かれていた興行運営を一本化する足がかりとした。
- 含意
- 買収後、東宝は2006年に映画興行部門を会社分割してTOHOシネマズへ承継し、2008年に地域興行子会社4社を統合して全国一元管理を整えた。本体は製作・配給と不動産に専念し、興行は専門子会社が担う分業体制が定まった。
筆者の見解
興行を握るということ
この買収は、映画館を数だけ増やしたという規模の話に収まらない。東宝は製作・配給を担いながら、直営館という旧来の形のままシネコン化の波に乗り切れずにいた。外資が三年ほどで築いた運営会社を丸ごと取り込み、全国8館・81スクリーンを一挙に手にして首位へ立ったところに、興行の主導権を自前で握り直そうとする意思が表れているとみることができる。約100億円という買収額も、上映網が配給の収益を左右する映画会社にとっては、興行を外部に委ねないための対価だったといえる。
もっとも、買収がそのまま安泰につながったわけではない。当時すでにスクリーン数は業界が上限とみた3000へ近づき、興行会社は1スクリーンあたり興収の伸び悩みと運営費の下げ止まりに直面していた。VCJが磨いた座席やポイントの手法もほどなく各社へ広がり、設備での差別化は薄れていく。東宝がその後に固めたのは、館数の多さよりも興行を一元管理する体制であり、製作・配給と興行を一つの経営判断のもとへ置き直した点にこそ、この買収の効き目が残ったとみられる。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
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