ハウス食品グループ本社壱番屋へのTOBによる子会社化と、外食事業の取り込み
作る会社が、売る場所を持つということ
この買収には、二つの性格が重なっているとみることができる。ひとつは食品メーカーによる川下への進出であり、家庭で作られる回数が減るなら、外で食べられる場を自ら押さえるという判断にあたる。もうひとつは事業承継の受け皿としての役割で、話はハウス食品からではなく、創業者の意向を携えた壱番屋の側から持ち込まれた。40年にわたってルウを納め続けた関係があったからこそ、宗次徳二氏も浜島俊哉社長も渡す相手として迷わなかったと語っている。取引の積み重ねが買収の入口になった例といえる。
過半数を取りながら上場を残し、店舗の運営を壱番屋に委ねた設計にも、同社の距離の取り方が表れている。会社自身が買収直後の決算説明会で相乗効果をアイデアの段階と断ったように、買った時点で答えが用意されていたわけではない。海外でルウと店舗をどう噛み合わせるか、国内で外食の接点から何を持ち帰るかは、その後の運用に委ねられた。家庭用ルウで首位を保ってきた会社が、その首位が続く前提そのものを疑って外の柱を求めた——2015年の判断は、そう読むこともできる。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
背景
海外の店舗を通じてカレーを売る仕組み
ハウス食品と壱番屋の関わりは、国内の取引よりも海外で先に形になっていた。ハウス食品は2004年6月に子会社上海ハウスカレーココ壱番屋レストラン社を設立し、中国でカレーライスの店を出す事業に入っている[1]。ルウを製造して売る会社が、自社の製品を出す店を海外に構えたことになる。国内で完成していたカレーの食べ方が通じない市場では、まず食べる場所を作る必要があったためだとみられる。
一方の壱番屋も、同じ時期から国外へ出ていた。台湾カレーハウスレストラン社を通じた台湾での展開に続き、2015年10月にはミラノ国際博覧会の日本館フードコートへ出店している[2]。両社は資本関係を持たないまま、カレーという同じ商材で別々に海外を開拓していた。
買われる側の規模と、買う側の停滞
2015年5月期の壱番屋は、連結売上高440億1,400万円、営業利益45億9,600万円、親会社株主に帰属する当期純利益27億2,600万円を計上していた[3]。売上高営業利益率は10.4%で、外食としては高い水準にある。買収の対象は、立て直しが要る会社ではなく、単独で利益を出し続けている会社であった。
対するハウス食品グループ本社の2015年3月期は、連結売上高2,314億4,800万円、営業利益86億8,600万円、当期純利益69億7,100万円であった[4]。売上高では壱番屋の5倍を超えるが、営業利益は2倍に届かない。この間、同社は2013年5月にヴォークス・トレーディングを子会社化し、同年10月に持株会社体制へ移行してハウス食品グループ本社へ改称するなど、事業の組み替えを続けていた[5]。
決断
持分法適用関連会社から連結子会社へ
ハウス食品グループ本社は1998年10月と2000年2月、2002年1月の三度にわたって壱番屋株式を取得し、合計312万株を持つ持分法適用関連会社としていた[6]。この関係を資本の面で組み替える協議は、2015年7月以降に両社の間で始まっている[7]。会社は理由として、成熟したカレー市場で商品カテゴリーを超えた競争が広がっていること、中国・東南アジアの市場が伸びるなかで事業拡大の速度が課題であることを挙げた[8]。
企業結合日は2015年12月8日、法的形式は現金を対価とする株式の取得であった[9]。議決権比率は取得直前の19.55%に31.45%を積み増して51.00%となり、取得企業を決定した根拠は公開買付けによる取得であったと記されている[10]。取得原価は488億4,700万円で、うち追加取得分の時価が301億2,700万円、従来から保有していた分の企業結合日における時価が187億2,000万円を占める[11]。
相乗効果を約束しない説明
買収の直後、会社は効果を具体的に語らなかった。2015年12月4日の決算説明会で、壱番屋との取り組みはこれから議論する段階であり勝手なことは言えないとしたうえで、海外については互いの特性を活かした展開が可能だと考えている、と答えている[12]。
同じ場で会社は、連結子会社化によって主力のカレーやスパイスの調達量が増えるとは考えておらず、それ以外の素材の可能性を議論していきたいとも述べた[13]。原料の共同調達という、食品会社の買収で最も語られやすい効果を自ら否定したことになる。買ったのは調達の規模ではなく、消費者と直接に接する店舗網であったと読める。
結果
連結の姿が変わった二年
壱番屋を取り込んだ2016年3月期の連結売上高は2,418億9,300万円、営業利益107億7,500万円、親会社株主に帰属する当期純利益226億3,200万円となった[14]。純利益が前期比224.6%の増益となったのは、壱番屋株式の追加取得に伴って発生した段階取得に係る差益を特別利益に計上したためだと会社は説明している[15]。差益は138億5,100万円で、本業の伸びではない[16]。
通期で寄与した2017年3月期は、連結売上高2,838億1,200万円、営業利益123億1,200万円、当期純利益86億8,300万円であった[17]。売上高は2015年3月期の2,314億円から2年で約523億円増え、増加分の大半が壱番屋の連結によるものとみられる。一方で営業利益は同じ2年で86億円から123億円への増加にとどまり、利益率はむしろ下がっている。
買収を続ける会社になった
壱番屋の子会社化は、単発では終わらなかった。ハウス食品グループ本社は2016年6月に香辛料のギャバンを、2017年8月にマロニーを、2022年9月には米国のキーストーンナチュラルホールディングス社を、それぞれ子会社化している[18]。持株会社体制への移行から続く事業の組み替えが、外部の会社を買う形で加速した。
海外では、壱番屋の看板で出る店が増えた。2017年3月に子会社イチバンヤUK社を、2020年9月にイチバンヤインターナショナルUSA社を設立している[19]。2004年に自社で上海に店を出したときとは違い、既に海外で店を運営していた会社を傘下に入れたうえで新しい国へ出る形に変わった。カレーの食べ方を海外に持ち込む役は、ルウの会社から店の会社へ移ったとみることができる。
- ハウス食品グループ本社 有価証券報告書 第79期(2025年3月期)【沿革】
- 壱番屋 有価証券報告書 第44期(2025年5月期)【沿革】
- 壱番屋 有価証券報告書(2015年5月期・連結)
- ハウス食品グループ本社 有価証券報告書(連結)
- ハウス食品グループ本社 有価証券報告書 第70期(2016年3月期)【企業結合等関係】
- ハウス食品グループ本社 決算説明会 質疑応答(2015年12月4日)
- ハウス食品グループ本社 有価証券報告書 第70期(2016年3月期)