ウエボス・ターメルトフーズ取得(2008年・神戸物産の決断)

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論点 不振メーカーの買収で工場網を構築するか
神戸物産:業績の推移
売上高(億円)営業利益率(%)
経営不振の食品メーカーを買収し続けた国内自社工場網の構築

何をなぜ決めたか:経営不振の食品メーカーを買収し続けた国内自社工場網の構築

概要

2008年3月に鶏卵食品工場のウエボス(後のオースターエッグ)、食品卸売のエルフーズ(後のプライムリード)、冷凍食肉等加工のターメルトフーズの3社を取得したのを皮切りに、神戸物産が経営不振の中小食品メーカーを十数年にわたって取り込み、業務スーパーのPB商品を作る国内自社工場網を築いた経営判断。グループ工場の生産実績は2008年10月期の12億71百万円から2025年10月期には523億9百万円へ広がった。

背景

神戸物産の安さは、1992年7月に建てた中国・大連の自社工場で作った冷凍食品を輸入する仕組みに支えられていた。だが輸入は為替と国境の事情による変動を丸ごと負ううえ、店舗数が伸びるほど供給量が足りなくなる。2006年の上場で調達手段を得た同社は、国内に生産の土台を持つ必要に迫られていた。

内容

3社はいずれも100%を取得したが、有価証券報告書の連結キャッシュ・フロー計算書関係では取得価額が3社とも「―」と記され、受け入れた資産と引き受けた負債が相殺されている。ターメルトフーズからは民事再生法の再生計画による担保付債務を引き継いだ。翌期からは100%出資の子会社を新たに設立し、升善・秦食品工業・ハナマサ太公・宮城製粉から事業を譲り受ける形に切り替えている。

含意

有価証券報告書に並ぶ譲受の理由は、製販一体の管理体制の強化、相手先の技術やノウハウとの融合、東日本地域での生産基盤の確立であった。他社への生産委託を避け、原価の内訳が見える場所まで自ら入る体制が生まれた一方、譲り受けた事業はいずれも期首から結合したと仮定すれば営業損失を計上する状態にあり、立て直しの負荷は自社に残った。

いつ何が起きたか 7件
考察:買収した工場が、価格の主導権になるまで
考察

考察:買収した工場が、価格の主導権になるまで

この判断の面白さは、買った対象が優良企業ではなかったところにある。3社の取得価額はいずれも「―」で、受け入れた資産と引き受けた負債が相殺され、差引では手元の現金が増えている。ターメルトフーズにいたっては民事再生法の再生計画による担保付債務をそのまま引き継いだ。行き詰まった中小メーカーの設備と人を引き受け、作ることだけに専念させる——買収の巧拙を企業価値の評価で測る発想からすれば、これは投資というより仕入れ先の作り替えに近い。安く仕入れる交渉を重ねる代わりに、原価の内訳が見える場所まで自ら入っていく方法を選んだと思われる。中国に工場を建設した1992年の判断と、発想の芯は変わっていない。

もっとも、内製化は万能の解ではなかった。翌期から始まった事業譲受では、期首に結合したと仮定した場合の概算額として升善が営業損失50百万円、秦食品工業が24百万円、ハナマサ太公が49百万円と、譲り受けた事業はどれも赤字のまま連結に入っている。工場を持てば稼働と採算の責任がそのまま自社に残り、原料や光熱費が跳ねた時期には工場の収支が本体の足を引っ張る。それでも同社が買い続けているのは、値段を自分の判断だけで動かせる状態を、コストの変動より重く見ているからであろう。生産実績が2008年10月期の12億71百万円から2025年10月期の523億9百万円へ広がった軌跡は、その問いへの回答が積み重なった跡といえる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月
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図と表

神戸物産:グループ工場の生産実績

生産実績(百万円)
神戸物産:グループ工場の生産実績
(百万円) 生産実績 備考
2006年10月期 828 大連福来休食品と神戸物産(安丘)食品の2社の製造原価
2007年10月期 947 前年同期比114.4%。対象は引き続き中国の2社
2008年10月期 1,271 オースターエッグとターメルトフーズが加わり同134.2%
2009年10月期 2,797 秦食品・マスゼン・ソイキューブ・肉の太公が加わり同220.1%
2010年10月期 5,425 麦パン工房・宮城製粉・エコグリーン北海道が加わり同193.9%
2011年10月期 6,709 同123.7%
2012年10月期 8,578 同127.9%
2013年10月期 12,849 業務スーパー事業の額。エコ再生エネルギー事業を含む合計は12,863
出所:神戸物産 有価証券報告書 第21期〜第28期(生産、受注及び販売の状況)
出所:神戸物産 有価証券報告書 第21期〜第28期(生産、受注及び販売の状況)

取得の条件

取得の条件
科目 概要 備考
取得した会社 ウエボス・エルフーズ・ターメルトフーズ 沿革に3社とも2008年3月として並記されている
ウエボスの事業内容 鶏卵食品工場 有限会社。出資持分の100%を取得し、後に株式会社オースターエッグへ
エルフーズの事業内容 食品卸売業者 株式の100%を取得し、後に株式会社プライムリードへ
ターメルトフーズの事業内容 冷凍食肉等加工工場 株式の100%を取得。民事再生法の再生計画による担保付債務を引き継ぐ
取得価額 3社とも「―」 連結開始時に受け入れた資産と引き受けた負債が相殺され、対価の計上がない
取得に伴う現金の収支 3社とも収入(支出なし) ウエボス310,758・エルフーズ74,455・ターメルトフーズ7,555千円
連結開始時ののれん ウエボス128,515千円・ターメルトフーズ80,788千円 エルフーズは負ののれん73,018千円
のれんの償却方法 当期発生分は一括償却 金額が僅少なため。それ以外は発生年度から20年以内で均等償却
期末ののれん残高 174,420千円 相殺前の額。負ののれん60,848千円と相殺し固定資産にのれんとして計上
引き継いだ有利子負債 68,761千円 ターメルトフーズの別除権付債務。返済期限は2009年から2022年
企業結合等関係の注記 該当事項なし 第24期有価証券報告書の前連結会計年度欄にそう記されている
翌期以降に譲り受けた事業 升善・秦食品工業・ハナマサ太公・宮城製粉 新設した100%子会社が譲り受ける形。2009年5月から2010年5月まで
事業譲受の取得原価 升善135,000千円・秦食品工業637,142千円 ハナマサ太公23,809千円、宮城製粉77,136千円。いずれも対価は現金
事業譲受で生じたのれん 4件ともなし 秦食品工業のみ負ののれん10,000千円が生じ、5年間で均等償却
出所:神戸物産 有価証券報告書 第23期(2008年10月期)【沿革】【連結キャッシュ・フロー計算書関係】【連結貸借対照表関係】、第24期・第25期【企業結合等関係】
出所:神戸物産 有価証券報告書 第23期(2008年10月期)【沿革】【連結キャッシュ・フロー計算書関係】【連結貸借対照表関係】、第24期・第25期【企業結合等関係】
参考文献

参考文献

参考
  • 神戸物産 有価証券報告書 第23期(2008年10月期)【沿革】【連結キャッシュ・フロー計算書関係】【連結貸借対照表関係】
  • 神戸物産 有価証券報告書 第24期・第25期【企業結合等関係】
  • 神戸物産 有価証券報告書 第21期〜第28期・第40期(生産、受注及び販売の状況)
  • 神戸物産 有価証券報告書「第23期(2008年10月期)【沿革】【連結キャッシュ・フロー計算書関係】【連結貸借対照表関係】【借入金等明細表】」
  • 神戸物産 有価証券報告書「第24期(2009年10月期)・第25期(2010年10月期)【企業結合等関係】」
  • 神戸物産 有価証券報告書「第21期〜第28期(生産、受注及び販売の状況)」
  • 神戸物産 有価証券報告書「第22期(2007年10月期)・第23期(2008年10月期)【役員の状況】【主要な経営指標等の推移】」
  • 神戸物産 有価証券報告書「第40期(2025年10月期)【企業結合等関係】【生産、受注及び販売の状況】」

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