ZOZO英LYSTの買収——技術ライセンスから海外EC・メディア領域への参入

技術供与を軸に海外へ出てきたZOZOは、なぜ概算243億円を投じて英国のアフィリエイト型プラットフォームを全株取得したのか

時期 2025年4月
意思決定者(推定) 澤田宏太郎 ZOZO 社長兼CEO
論点 海外展開の方式転換
概要
2025年4月9日、ZOZOは取締役会決議により英国のLYST LTDの発行済株式のすべてを取得して子会社化することを決め、同日付で株式譲渡契約を締結した。取得価額はLYST社株式が154百万米ドル(約231億円)、アドバイザリー費用等の概算額12億円を加えた合計の概算額で243億円。英国に設立する子会社を通じて取得し、資金は保有する現預金で全額充当する予定とされた。
背景
ZOZOグループは企業理念のもとで海外市場への展開を進めてきたが、その手立ては自社保有テクノロジーのライセンス提供を軸とする協業であり、EC・メディアの領域は海外では未開拓のまま残っていた。LYST社は世界27,000以上のブランドと9,700万点以上のSKUを扱う欧米中心のファッションショッピングプラットフォームで、在庫を持たないアフィリエイトモデルを採る。2024年3月期に営業利益0.4百万ポンドと薄い黒字へ転じたところだった。
内容
取得株式数は58,675,198株で、議決権所有割合は0.0%から100.0%へ。株式譲渡実行日は2025年4月30日を予定した。ZOZOはこれまで培ってきたEC運営ノウハウを共有し、LYST社をトレンド分析やスタイリング提案を含む、より総合的なファッションナビゲーションを提供するプラットフォームへ進化させることを狙いに掲げた。地理的な補完、AI・計測技術とSEO・パーソナライズの技術補完、システム基盤の共用によるスケールメリットを期待シナジーとして挙げている。
含意
2026年3月期は5月からのれん償却費の計上が始まり、通期21億円のうちLYST分が18.5億円、償却期間は10年を見込んだ。LYSTはトップライン成長を優先する投資フェーズにあるとして赤字計画に置かれ、ラグジュアリー業界の低迷と欧州から米国向け個人配送の関税率見直しにより商品取扱高は計画を下回った。技術を売る立場から、海外で顧客接点そのものを保有し育てる立場へ移った買収である。
筆者の見解

技術を売る側から、場を持つ側へ

この買収の芯は、海外での立ち位置の入れ替えにある。ZOZOはそれまで、計測やAIといった自社の技術資産を各国のプラットフォーマーへライセンス提供し、協業を通じて市場へ入る形をとってきた。技術は輸出できるが、その技術が動く場と、そこに集まる利用者は他人のものである。LYST社の全株式取得は、欧米で稼働している場そのものを手に入れ、そこへ自社のEC運営ノウハウを注ぐという順序の逆転であった。買収対象が在庫を持たないアフィリエイトモデルで、ZOZOTOWNと同じくブランド主導・在庫レスの構造を持っていたことは、この入れ替えを技術的にも運営的にも接続しやすくしていたとみられる。

もっとも、買った場は完成品ではなかった。LYST社の売上高は2023年3月期から2024年3月期にかけて50百万ポンドで横ばい、営業損益はようやく薄い黒字に届いた水準にあり、集客のための広告宣伝費をどれだけ踏み込むかで業績が決まる構造を抱えていた。買収後もその構造は変わらず、ZOZOはトップラインの成長を優先する投資フェーズと位置づけて赤字計画を置き、のれん償却が年18.5億円乗る。ラグジュアリー市場の低迷と米国向け個人配送の関税率見直しという外部要因も重なった。243億円で買ったのは完成した収益源ではなく、AIエージェントの台頭で検索・メディア領域が動くという読みに賭けた持ち場だったと読むことができる。

Yutaka Sugiura, 2026年8月

背景

ライセンス提供を軸にした海外展開

ZOZOグループは「世界中をカッコよく、世界中に笑顔を。」という企業理念のもと、持続的な成長を実現するため海外市場への展開を推進してきた。その手立ては自社保有のテクノロジーのライセンス提供を軸とし、各国の企業との協業を通じて市場へ入る形をとっていた[1]。国内で育てた計測やAIの技術資産を海外の事業者へ供与する方式であり、自社で顧客接点を持つ形ではなかった。

会社の整理では、国内で培った技術資産をもとに海外プラットフォーマー向けライセンスと自前展開の二軸で取り組んできたとされる。ZOZOSUIT 2やZOZOFIT、ZOZOMETRY、ZOZOGLASSといったAI・計測のテック領域が対象で、海外のEC・メディア領域は未開拓のまま残されていた[2]。技術は出せても、商品を並べて売る場は海外に持っていなかったことになる。

買われる側の姿

LYST LTDは2010年1月21日に設立された英国ロンドンの会社で、代表者はCEOのEmma McFerran、事業内容はオンラインファッションプラットフォーム事業である[3]。株主はMolten Venturesが13.9%、14W Venturesが10.5%、Balderton Capitalが10.2%、Financière Agache and affiliatesが9.4%、Accelが8.2%と投資ファンド等で構成され、売却株主の詳細は本人の要望により非開示とされた[4]

連結業績は、2022年3月期が売上高42百万ポンドで営業損失27百万ポンド、2023年3月期が売上高50百万ポンドで営業損失18百万ポンド、2024年3月期が売上高50百万ポンドで営業利益0.4百万ポンドであった[5]。売上高は2期続けて横ばいだが、営業損益は損失を縮め、直近期でようやく薄い黒字へ届いた水準にある。

規模を示す指標としては、2024年3月期の実績で取扱ブランド数が27,000以上、取扱SKU数が9,700万、提携パートナー数が550以上、年間ユニークユーザーが1.6億人、年間購入者数が220万人、平均注文単価が63,000円とされる。従業員は2025年3月末時点で129名にとどまった[6]。在庫を持たないアフィリエイトモデルゆえの少人数である。

決断

全株式を概算243億円で取得する

2025年4月9日、ZOZOは取締役会でLYST LTDの全株式を取得して子会社化することを決議し、同日付で株式譲渡契約を締結した。株式譲渡の実行日は同年4月30日を予定し、株式譲渡の前提条件が整い次第実行するものとした[7]。取得株式数は58,675,198株で、議決権所有割合は取得前の0.0%から取得後は100.0%となる[8]

取得価額は、LYST社の株式が154百万米ドル(約231億円)、アドバイザリー費用等の概算額が12億円、合計の概算額で243億円とされた。1米ドル150円の為替レートで計算されている[9]。取得は本株式取得のために英国に設立する子会社を通じて行い[10]、必要な資金はZOZOが保有する現預金で全額充当する予定とされた[11]

買う側の体力は十分にあった。ZOZOの2025年3月期は連結売上高2,131億円、営業利益647億円、親会社株主に帰属する当期純利益453億円で、期末の現金及び現金同等物残高は914億円である[12]。概算243億円という取得価額は、借入にも増資にも頼らず手元資金の範囲で賄える規模であり、資本構成を動かさずに海外の事業基盤を買い取る形だったといえる。

買ったのは場と、そこへ注ぐノウハウ

会社が挙げた狙いは、買収そのものではなく買収後の作り替えにある。本株式取得を通じて、これまで培ってきたEC運営ノウハウを共有し、LYST社をトレンド分析やスタイリング提案を含む、より総合的なファッションナビゲーションを提供するプラットフォームへと進化させることを目指すとした[13]。単純なアフィリエイトの仲介から、選ぶことそのものを助ける場へ引き上げる構想であった。

接続の根拠として、両社はテクノロジーを基盤とし、ブランド主導で在庫を持たないEC・メディアプラットフォームである点で共通すると整理された[14]。期待するシナジーには、日本のトレンドと米英・欧州のラグジュアリー及びプレミアムという地理的な補完、AI・計測技術とSEO・パーソナライズという技術面の補完、システム基盤の共用と管理業務の統合によるスケールメリットが挙げられている[15]

澤田宏太郎社長は買収後の決算説明会で、中長期の目線ではECサイトと利用者の間にある検索やメディアの領域はAIエージェントの台頭により大きく変化していくとみており、LYSTの立ち位置はまさしく今変わりつつある領域にあり、それ自体が価値のあることだと述べている[16]。買ったのは現在の収益力よりも、動きはじめた領域における持ち場だったとみられる。

結果

のれんと先行費用

買収に伴う費用は決算期をまたいで計上された。2025年3月期第4四半期には、LYSTの買収に伴うデューデリジェンスのアドバイザリー費用等で業務委託費が約4億円発生している[17]。2026年3月期第1四半期にはM&A関連費用として約8億円を計上し、主にデューデリジェンスに係る費用とファイナンシャル・アドバイザーへの成功報酬であった[18]

2026年3月期は5月からのれん償却費の計上が始まり、通期で21億円、うちLYST分が18.5億円、償却期間は10年が見込まれた。買収関連ではほかに、その他費用及び業務委託費に合計約8億円、減価償却費に約3億円が計画へ織り込まれている[19]。商品取扱高については、単体の業績影響は精査中としつつ、数百億円規模の実績を期待できる状況にあるとされた[20]

会社は買収時点のLYSTの姿を、これまでは集客のための広告宣伝費をどの程度踏み込むかに依存するモデルであったと説明している[21]。欧州には大手のECプラットフォーマーが複数台頭しており、彼らの集客のためにLYSTが活用されてきたという診断で、純粋なアフィリエイトサービスの提供から技術開発やAI活用によるパーソナライズへ少しずつ進んでいる途中の状態にあった[22]

投資フェーズの赤字と、想定外の逆風

2025年7月、LYSTの事業計画が確定し、取得原価の配分が進んだことを受けて事業計画を連結へ取り込むとともに、のれん償却額及び減価償却費の予算を見直した[23]。ZOZOはLYSTを、トップラインの成長を優先する投資フェーズにあり事業として赤字が出やすいステージにあると位置づけ、2026年3月期を赤字計画とした[24]

事業面ではチェックアウト機能の導入に注力し、2026年3月期第2四半期を準備段階として第3四半期から実装を進める計画を置いた。商品取扱高は第3四半期がピークとなるが、それに連動して広告宣伝費も増えるため同四半期も赤字となる見込みであった[25]。第3四半期には実装済みのパートナーを数社増やしている[26]

一方で外部環境は想定と違う向きに動いた。ラグジュアリー業界全体が厳しい状況にあるなかグローバルなECプラットフォーマーにも苦戦するプレイヤーが見られ、加えて欧州などから米国向けに個人配送を行う際の関税率が見直されたことが響いて、商品取扱高は計画を下回った。来期についても買収当初の見込みと比べれば厳しい状況が続くとされる[27]。ただし黒字化の時期についての見通しに変更はなく、来期までは数億円規模の営業赤字が継続する見込みであった[28]

出典・参考
  • 株式会社ZOZO 適時開示 2025年4月9日「LYST LTDの株式取得(子会社化)に関するお知らせ」
  • 株式会社ZOZO 2025年4月9日「LYST LTDの株式取得(子会社化)に関するお知らせ」説明資料
  • 株式会社ZOZO 2025年3月期 通期決算説明会 質疑応答集(2025年4月30日)
  • 株式会社ZOZO 2026年3月期 第1四半期 決算説明会 質疑応答集(2025年7月31日)
  • 株式会社ZOZO 2026年3月期 第2四半期 決算説明会 質疑応答集(2025年10月31日)
  • 株式会社ZOZO 2026年3月期 第3四半期 決算説明会 質疑応答集(2026年1月30日)
  • ZOZO 有価証券報告書(2025年3月期・連結)

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