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ZOZOSUITと自社プライベートブランドへの大型投資と撤退

2019年実施

採寸スーツで「究極のフィット」を狙った前澤流の大勝負は、なぜ上場来初の減益に終わったか

時期 2018年4月
意思決定者 前澤友作(社長)
論点 採寸技術とPBへの大型投資
概要
2017〜2019年、ファッションEC最大手のZOZO(旧スタートトゥデイ)が、採寸用ボディースーツ「ZOZOSUIT」の無料配布と、その計測データを用いた自社プライベートブランド(PB)「ZOZO」への大型投資に踏み切り、わずか1年余りで海外PBからの撤退と上場来初の減益に至った経営判断。
背景
出店ブランドの商品を預かって売る受託販売モールとして高成長を続けてきたが、他社に依存しない自社商品と、ネット通販の弱点である「サイズが合わない」問題の解決を軸に、SPA型の新たな成長の柱を探っていた。前澤友作社長は初の中期経営計画で10年以内の時価総額5兆円を掲げた。
内容
伸縮センサー内蔵のZOZOSUITを無料で配り、採寸データで一人ひとりの体型に合わせたPB「ZOZO」を低価格・短納期で提供。国内外へ同時に展開し、PB商品取扱高を3年で2,000億円規模へ引き上げる計画を立てた。
含意
予約殺到による配送遅延や仕様変更、品質・フィットへの不満、有料会員割引「ZOZOARIGATO」への出店ブランドの反発が重なり、計画は早期に頓挫した。2019年3月期に上場来初の減益と特別損失を計上し、海外PBから撤退。創業社長の求心力で描いた大構想の栄枯を示す判断であった。
筆者の見解

「不」の解決という理念と、実装が問われた大勝負

この経営判断の核心は、財務の危機対応ではなく、ネット通販につきまとう「サイズが合わない」という根源的な不便を、採寸技術と自社商品で正面から解こうとした点にある。他社ブランドを預かって売る受託モールで頂点に立ったZOZOが、あえて自らつくり手に回り、体型データという入り口から世界のアパレル市場を狙う——その発想自体は、ネット通販の弱点を突いた先進的なものであったとみられる。

もっとも、無料配布による予約殺到は生産と供給の能力を超え、品質やフィットへの評価も定まらないまま、割引施策が取引先ブランドの信頼を損なう結果を招いた。壮大な理念と、それを支える実装力・供給網・パートナーとの関係づくりとの間に落差が生じたことが、上場来初の減益と撤退につながったとみられる。前澤社長の求心力とスピードで一気に描いた大勝負は、成長の踊り場で何に投資し、既存の取引先とどう共存するかという問いを、鮮烈な形で残した。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

受託販売モールとしての急成長と「サイズが合わない」という壁

ZOZOは、創業者・前澤友作が1998年に始めた輸入CD・レコードの通信販売を源流とし、2004年に開いたファッションEC「ZOZOTOWN」を軸に、出店ブランドの商品を預かって撮影・保管・発送まで一手に担う受託販売モデルで急成長を遂げてきた。2018年3月期には連結売上高984億円、営業利益327億円に達し、国内ファッションECの最大手としての地位を固めていた。もっとも、収益の大半は他社ブランドの販売手数料に依存しており、自社で企画・製造する商品という柱は持っていなかった[1]

同時に、実際の店舗で試着ができないネット通販には、「買った服のサイズが合わない」という根源的な不便がつきまとっていた。返品や購入見送りの一因であるこの問題を、体型データという入り口から解こうとする発想が、次の成長戦略として固まっていく。他社の商品を並べる場を貸す事業から、自らが企画・製造して売るSPA型の事業へ——受託モールの成功体験の先に、新たな柱づくりが模索されていた[2]

時価総額5兆円を掲げた初の中期経営計画

2018年4月27日、スタートトゥデイ(同年10月にZOZOへ商号変更)は、上場後初めてとなる3カ年(2018〜2020年度)の中期経営計画を発表した。前澤友作社長は「10年以内に時価総額5兆円」「10年後にグローバルアパレル企業トップ10入り」という壮大な目標を掲げ、その中核に採寸スーツ「ZOZOSUIT」と自社プライベートブランド(PB)「ZOZO」を据えた。受託モールで築いた地位を土台に、採寸データを武器として世界のアパレル市場へ打って出るという構想であった[3]

計画では、PB「ZOZO」の商品取扱高を2018年度の200億円から2020年度に2,000億円へ、全体の商品取扱高を3,400億円から5,150億円へ、営業利益を400億円から900億円へ引き上げる目標が示された。海外売上比率も3年で40%、10年後には80%を掲げ、投資を先行させて一気に事業を立ち上げる、攻めの計画であった[4]

決断

ZOZOSUITの無料配布とPB「ZOZO」の立ち上げ

布石は中計の半年前に打たれていた。2017年11月22日、同社はニュージーランドのStretchSenseと共同開発した伸縮センサー内蔵の採寸用ボディースーツ「ZOZOSUIT」を、無料(送料200円)で配布すると発表し、予約の受付を始めた。スマートフォンと連動して全身を計測し、そのデータを一人ひとりの体型に合ったPB商品づくりに用いる仕組みで、予約は殺到した。受付開始から10時間で23万件に達し、のちに予約数は100万件を超えた[5][6][7]

2018年1月31日、同社はPB「ZOZO」の第1弾を売り出した。ZOZOSUITで得た体型データをもとに、実店舗を持たない強みを生かして低価格・短納期で届ける「オーダーメイド」型の商品で、第1弾はTシャツ(1,200円)とデニムパンツ(3,800円)、納期は約2週間であった。7月3日にはVネックTシャツやストレートデニムなどカジュアル商品へ品ぞろえを広げ、国内にとどまらず海外へも同時に展開する構えを見せた[8][9]

有料会員割引「ZOZOARIGATO」への拡張

PBと採寸への投資に前後して、本業のZOZOTOWNでも会員の囲い込みを狙う一手を打った。2018年12月25日、年会費3,000円または月額500円(税別)を払えばZOZOTOWNでの買い物が常時10%引きになる有料会員制サービス「ZOZOARIGATOメンバーシップ」を始めた。取扱高の一段の拡大を見込んだ施策であり、大型投資の最中にあったZOZOにとって、成長を加速させる狙いを持っていた[10]

結果

供給の遅れと品質、そして取引先ブランドの反発

しかし、大構想はほどなく実装の壁にぶつかる。ZOZOSUITは予想を超える予約が生産能力を上回り、配送は2度にわたり延期された。2018年1月末に発送を始めたものの、想定数に生産が追いつかず、途中で仕様とデザインも大きく作り直された。届くまでに数カ月を要した利用者も多く、ようやく手にしたPB商品も、体型に合わせた「究極のフィット」という触れ込みに対して、サイズや品質への不満の声が上がった[11]

追い打ちをかけたのが、ZOZOARIGATOをめぐる出店ブランドの反発である。新商品まで一律に値引きされることを嫌ったオンワードホールディングスなどの大手アパレルが相次いでZOZOTOWNから商品を引き揚げ、「ZOZO離れ」と報じられた。前澤社長は「費用対効果が思わしくないうえに、一部ブランドからの評判がよくなかった[12]」と述べ、2019年4月25日、開始からわずか5カ月余りでサービスの終了(5月30日)を発表した[13]

上場来初の減益と海外PBからの撤退

これらの負担は、業績にはっきりと表れた。2019年4月25日に発表した2019年3月期決算は、売上高こそ前期比約2割増の1,184億円と伸びた一方、営業利益と経常利益はともに前期の327億円から257億円へ減り、2007年の上場以来初めての減益となった。純利益も202億円から160億円へ落ち込み、海外PB事業からの撤退費用や旧型ZOZOSUITの製造装置の減損などで、特別損失約21億円を計上した[14][15]

会社は同じ決算発表で、PB事業を海外から撤退させ、国内を中心に縮小・見直す方針を明らかにした。時価総額5兆円を掲げた中計の中核は、走り出してわずか1年で軌道修正を迫られた。そして同年9月にはZホールディングス(現LINEヤフー)がZOZO株式への公開買付けを発表し、筆頭株主だった前澤社長は保有株の多くを手放して社長を退いた。採寸スーツで世界のアパレルを変えるという構想は、創業社長の退場とともに一つの区切りを迎えた[16][17]

出典・参考