創業者・前澤友作氏の退任と澤田宏太郎氏によるトップダウン経営からの転換

カリスマ創業者を失い成長も失速したファッションECの最大手を、澤田宏太郎社長はどう立て直したか

更新:

時期 2019年9月
意思決定者 澤田宏太郎氏 ZOZO 代表取締役社長兼CEO
論点 創業者依存からの脱却と組織経営への移行
概要
2019年9月、ZOZOは創業者で社長の前澤友作氏の退任を発表し、取締役の澤田宏太郎氏が社長兼CEOに就いた。プライベートブランド事業の失敗とゾゾ離れで成長が失速するなか、澤田氏は創業社長のトップダウン型経営を意識的に組織経営へ切り替え、コロナ禍の追い風もあって業績を最高益圏へ立て直した経営判断。
背景
前澤氏はVCの増資を退けて経営権を握り、感性的な即断でZOZOTOWNを国内最大のファッションECへ育てた。だが2018年のZOZOSUITと自社PBの失敗、有料会員割引をめぐる出店ブランドの「ゾゾ離れ」が重なり、二桁増収を続けた勢いは鈍り、カリスマ依存の経営そのものが問われていた。
内容
澤田氏はトップダウン型の組織体を変えるべく、社員表彰や30歳以下の企画会議、デザイナーの「右脳集団」の活用など仕組みづくりを進めた。AIによるパーソナライズ販促と新規客の獲得を主力に据え、ブランドとの関係を「業界のプラットフォーム」として捉え直して受託販売の磁力を回復させた。
含意
コロナ禍でアパレルの「ゾゾ頼み」が再燃し、2020年3月期は増収増益、2022年3月期は営業利益497億円と連続過去最高益に達した。一方、アパレル通販に次ぐ計測技術・広告の収益柱はなお芽が出た段階で、顧客基盤の一段の拡大が課題として残った。
筆者の見解

筆者見解

前澤友作氏の退任は、感性と即断で伸びた会社が、その属人性をどう制度に置き換えるかという課題を露わにしたとみられる。澤田宏太郎氏の選んだ道は、創業者の色を消すことではなく、右脳の発想を残しながら意思決定の回路を組織へ開くという折衷であった。トップダウンの速さを失う代わりに、現場から企画が上がる幅を得ようとした構図がうかがえる。

コロナ禍という外圧が、ブランドあってのモールという原点を再確認させた面は否めない。追い風が去った後も同社が最高益を伸ばせたのは、ファッションへの一点集中と顧客基盤の厚みに賭けたためとみることができる。ただ計測技術や広告という次の柱が細いままである限り、承継が本当に成功だったかは、ゾゾタウン頼みの構造を崩せるかにかかっているといえる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

カリスマ創業者の退任

ZOZOは1998年に前澤友作氏が千葉で興したスタートトゥデイを源流とし、2004年開設のZOZOTOWNを国内最大のファッションECへ育てた。前澤氏はVCの増資を退けて経営権を握り、感性に任せた即断で事業を広げてきた。だが晩年は2018年のZOZOSUITと自社プライベートブランドの失敗、有料会員向け割引をめぐる出店ブランドの反発が重なり、二桁増収を続けた勢いが目に見えて鈍っていた[1]

前澤氏の退任直前、2019年3月期の連結売上高は1184億円、営業利益は257億円であった。会員向け割引の混乱とPB事業の損失が利益を押し下げ、右肩上がりを当然としてきた成長曲線に陰りがさしていた。創業以来21年、社長がひとりで陣頭指揮を執る経営が続いてきただけに、カリスマの不在は業績以上に、誰が何をどう決めるかという問いを突きつけていた[2]

ゾゾ離れが残した課題

2019年2月に導入した有料会員向け割引は、値引き原資の負担を嫌うブランドの離反を招いた。ジーンズ量販大手のライトオンはこれをきっかけにゾゾタウンなど複数のECモールから撤退した。出店ブランドとの関係が軋むなか、澤田氏は受託販売の集客力をどう取り戻すかという課題を引き継いだ。ブランドあってのモールという構造が、あらためて経営の急所として浮かび上がっていた[3]

決断

トップダウンを変える仕組みづくり

澤田氏はNTTデータやコンサル会社を経て2008年にスタートトゥデイコンサルティングを設立し、2013年に取締役へ加わった内部昇格の後継者であった。就任にあたり澤田氏は、創業社長がずっと陣頭指揮を執りトップダウンの力が強かった組織体を、意識的にガラッと変えようとした。社員表彰の制度や30歳以下の社員から企画を募る会議を設け、世間話のための会議まで置いて、現場から企画が上がる回路を作ろうとした[4]

左脳派を自任する澤田氏は、自らに乏しい感性的な発想をデザイナーの「右脳集団」で補った。前澤氏の時代からあったこの部署と2週に1回ほど目的のない会話を交わし、経営が伝えたいメッセージを形にする役割を担わせた。右脳と左脳を切り替えて突き進む前澤流の速さに、みなが付いていけないこともあった。澤田氏は己を知ることを強みとし、足りない部分を組織で補強する経営へ方針を変えたとみられる[5]

顧客基盤とプラットフォームの再定義

澤田氏はゾゾタウンの裏側で動く計算式を磨き、購入履歴やアクセス履歴からAIが購買確率を判別し、同じ商品でも顧客ごとに異なるクーポンを出すパーソナライズ販促を重視した。自然に増えた売上と切り分け、クーポンがあってこそ増えた売上を重要指標に据えた。コロナ禍で自然増した新規客がリピーターとして残ると分かると、新規客の獲得を優先する方針を続け、ファッション好きを抱え込む集客の拠点としてモールを位置づけ直した[6]

結果

コロナ後の回復とゾゾ頼みの再燃

就任翌年、コロナ禍で実店舗が休業しEC頼みとなったアパレル業界では、ゾゾタウンの集客力に再び注目が集まった。売れない在庫を現金化したいブランドから在庫を売りさばいてほしいという依頼が相次ぎ、ゾゾ離れで撤退していたライトオンも2020年4月に再出店した。澤田氏は決算説明会で、ゾゾタウンの販売力で業界を下支えしたいと語り、危機がプラットフォームの価値を再確認させたと受け止めた[7]

承継後初の本決算となった2020年3月期は、連結売上高1255億円、営業利益279億円と増収増益で着地した。前澤氏の退任と業績低迷で始まった苦しい船出は、巣ごもり需要の追い風だけでなく、進むべき方向をシンプルに絞り込めたことが効いたと澤田氏はみていた。ブランドとの最良の関係を、ファッション好きの客を抱える業界のプラットフォームであることに定めたことが、立て直しを支えた[8]

連続最高益と次の柱

回復は一過性で終わらなかった。2022年3月期の連結売上高は1661億円、営業利益は497億円と連続過去最高益に達し、10年前に掲げた商品取扱高5000億円の目標も達成間際まで来た。アクティブ会員は2021年12月末で1000万人を数えた。カリスマなき後を、澤田氏はファッションという幹を持つ強みに絞り込むことで乗り切ったとみることができる[9]

もっとも、次の柱はなお細い。澤田氏はゾゾスーツやゾゾマットの計測技術のライセンス展開、広告事業へ広げる構えを見せたが、いずれも芽が出始めたばかりであった。アパレル通販に次ぐ事業を育てるにも圧倒的な会員数とデータ量が前提となり、ゾゾタウンの顧客拡大が引き続きカギを握った。トップダウンから組織経営への転換は、成長の踊り場を越える土台づくりであったといえる[10]

出典・参考
  • 週刊東洋経済 2020年5月23日号「アパレルの『ゾゾ頼み』再燃 ZOZOが悩む複雑な事情」
  • 週刊東洋経済 2022年4月30日号「トップに直撃 ZOZO 社長兼CEO 澤田宏太郎」
  • ZOZO 有価証券報告書(2019年3月期・連結)
  • ZOZO 有価証券報告書(2020年3月期・連結)
  • ZOZO 有価証券報告書(2022年3月期・連結)

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