日本瓦斯JPモルガン系PEファンドOEPを筆頭株主に迎える約103億円の資本業務提携
自由化後の市場で戦う資金と規律を、供給区域を持つ会社がどこから調達するか
- 概要
- 2011年9月、日本瓦斯がJPモルガン・チェース系のプライベートエクイティファンドOEP(OEP NG合同会社)との資本業務提携を発表した経営判断。10月18日付の第三者割当増資と自己株式の処分によりOEPは持株比率約18.7%の筆頭株主となり、日本瓦斯は約103億円を調達した。
- 背景
- 1997年4月のLPガス小売の登録制移行以降、日本瓦斯は値下げと同業買収、物流・保安のシステム化で顧客を集めていた。成長市場ではない家庭用エネルギーで顧客数を伸ばし、ROEも高い点に、2010年末にJPモルガン・チェースの投資部門が関心を寄せて接触した。
- 内容
- 調達した約103億円は、半分強を海外投資、残りを国内同業のM&Aに充てる計画であった。提携の後、2012年に業務のクラウド化、2014年3月に都市ガス子会社4社の完全子会社化、2015年に東京電力グループとのLPガス相互託送の業務提携が続いた。
- 含意
- 供給区域と保安を担う国内エネルギー事業者が、投資ファンドを筆頭株主に迎える例は少なかった。基本業務提携契約は2014年に当初の目的を達したとして解消され、残ったのはクラウド化した販売管理と、販売量が増えても販売費・一般管理費が膨らまない事業の作りであった。
誰から受け取ったか
この提携の要点は、金額よりも、誰から受け取ったかにあったとみられる。約103億円は当時の日本瓦斯にとって小さくないものの、銀行借入で賄えない規模でもない。それでも投資ファンドを筆頭株主に迎えたのは、自由化後に効いてくるのが供給の安定だけでなく資本の使い方でもあるという読みによるものであろう。区域と許可に守られてきた事業者が、株主資本利益率という物差しを自ら招き入れた点に、この判断の性格が表れている。
一方で、投資ファンドの保有には期限がある。提携は3年ほどで目的を達したとして解かれ、OEPは去った。あとに残ったのは、クラウド化した販売管理と、販売量が増えても販売費と一般管理費が膨らまない事業の作りであった。2010年末にJPモルガンの投資部門が投げかけた「なぜ顧客数が伸びるのか」という問いに、日本瓦斯はその後の十数年の決算で答えを書いた。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
背景
登録制以降の競争と、成熟市場で伸びた顧客数
1997年4月にLPガス小売の許可制が登録制へ移り、地域ごとに事業者が固定されていた枠が外れた。柏谷邦彦社長は後の取材で、この移行によって事実上誰でもどこでもLPガス販売ができる市場に変わったと振り返っている。許可制の時代の業者数は約2万社規模で、移行後も中小の家族経営が多数を占める散在した構造が残った。日本瓦斯が選んだのは、同業の買収と、保安・物流のシステム化による単位費用の引き下げであった[1][2]。
2011年3月期の日本瓦斯の単体売上高は1,041億円、営業利益65億円、当期純利益23億円で、成熟した家庭用エネルギー市場のなかでは安定した収益であった。2010年11月の秦野・横須賀を皮切りに、東金・水戸とLPガス容器配送の中継拠点を首都圏外縁部へ置く物流の組み替えも始まっていた。伸びしろの小さい市場で顧客数と収益性の双方を上げていた点が、外部の投資家の目に留まった[3][4]。
投資家の側から始まった話
接触は日本瓦斯からではなく、投資家の側から始まった。2010年末、JPモルガン・チェースの投資部門が日本瓦斯へ連絡を入れ、日本のガス市場は成長分野ではないのに顧客数を伸ばし、ROEも業界で抜きんでて高い理由を聞きたいと申し入れた。2022年12月の取材で和田眞治会長がこの経緯を語っている。買収の打診ではなく、事業の作りへの関心が入り口であった[5]。
制度の側も動いていた。1995年に大口の供給が自由化されて以降、ガスの小売自由化の範囲は段階的に広がり、家庭向けを含む全面自由化は2017年4月に実現する。区域と許可に守られた収益に頼れる時間には限りがあり、その先で必要になるのは、区域の外へ出るための資金と、他社より安く供給できる費用構造であった。海外の同業と比べて投資先を探す投資家と、自由化後の資金を探す事業会社の関心が、この時期に重なった[6]。
決断
約103億円の第三者割当と自己株式処分
2011年9月、日本瓦斯はJPモルガン・チェース系のプライベートエクイティファンドOEP(OEP NG合同会社)との資本業務提携を発表した。10月18日付の第三者割当増資と自己株式の処分により、OEPは持株比率約18.7%の筆頭株主となり、日本瓦斯は約103億円を調達した。同社の沿革は、この相手をJPモルガンの世界的な投資部門と記している。調達資金は半分強を海外投資に、残りを国内同業のM&Aに充てる計画であった[7][8]。
事業会社どうしの提携ではなく、投資ファンドを筆頭株主に迎える選択であった。供給区域と保安を担う国内のエネルギー事業者では例が少なく、期限を区切って利益を求める投資家が株主名簿の先頭に載る。柏谷社長は後に、OEP側が評価したのは自由化のなかで稼ぐ力と、テクノロジーを駆使する点であったと語っている。値下げで顧客を取り、システムで費用を抑えるという会社の作りが、投資の判断材料になった[9]。
資金とともに入ってきた作り替え
提携の後、日本瓦斯は事業の作りを立て続けに組み替えた。2012年に業務のクラウド化とデジタル運用へ着手し、2014年3月には東彩ガス・東日本ガス・新日本瓦斯・北日本ガスの都市ガス子会社4社を株式交換で完全子会社化して、上場子会社を抱えたままの二重の意思決定を解いた。2015年には東京電力グループとLPガスの相互託送で業務提携を結んだ。約103億円の調達は、この一連の組み替えの原資となった[10][11]。
和田眞治社長は2019年8月の取材で、お金の通り道やデータの通り道、業務フローから摩擦をなくすことがデジタル化の本質に近いと述べ、人手に頼る配送と保安を電子で置き換える方針を示した。安い料金で顧客を取るには、販売量が増えても販売費と一般管理費が膨らまない作りが要る。和田社長自身、自由化の歴史が長いLPガス業務で販売管理システムの完全クラウド化を進め、同業他社より2割から3割安い料金を実現したと説明していた[12][13]。
結果
提携の解消と、その後に残ったもの
基本業務提携契約は2014年に、当初の目的を達したとして解消された。OEPは筆頭株主の座を降り、日本瓦斯は自力で資本市場と向き合う立場に戻った。2018年3月には東京電力ホールディングスが日本瓦斯株の約3%を取得し、取締役1人を送っている。2011年に外部の投資家を受け入れた経験は、事業会社と資本関係を組む場面へ引き継がれた[14][15]。
数字の面では、提携以降に規模と収益がともに伸びた。2012年3月期の連結売上高1,103億円・営業利益75億円に対し、2024年3月期は売上高1,944億円・営業利益174億円であった。総顧客件数は2024年12月末で200万件、時価総額は同月末で約2,400億円に達した。成長市場ではない家庭用エネルギーで顧客数と利益を伸ばせるという、2010年末にJPモルガンの投資部門が関心を寄せた点は、その後の十数年の決算に残った[16][17]。
- 日経ビジネス電子版(2022年12月8日)「ニチガス和田会長 米大手銀との提携で経営“開眼”」
- 日経ビジネス(2022年8月22日)「ニチガス・柏谷社長に聞く エネルギー自由化を勝ち抜くDX戦略」
- 日経クロステック(2019年8月5日)「エネルギー業界の風雲児、ニチガス和田社長が語る『企業経営とDX』(上)」
- 週刊東洋経済 2018年3月31日号「電力激変 電力・ガス自由化時代の戦い方」
- 日本経済新聞(2013年12月21日)「日本瓦斯、都市ガス子会社4社を完全子会社に」
- ニチガス(日本瓦斯)公式サイト「沿革」
- 日本瓦斯 有価証券報告書【沿革】
- 日本瓦斯 有価証券報告書(2011年3月期・単体/2012年3月期・連結/2024年3月期・連結)