1978年9月、創業者の須田忠雄氏は群馬県桐生市で資本金1,000万円の株式会社[1]やすらぎを設立した。当初の事業目的は石材業で、墓石・建材の販売[2]を主としていた。創業者の須田忠雄氏は1946年2月生まれの桐生市出身で[3]、地元産業を地盤とする地域密着型の事業として石材業を選択した経緯がある。1988年12月、宅地建物取引業の免許を取得し、不動産売買・代理業を開始[4]した。翌1989年1月には建築部・不動産部を開設して戸建住宅の販売業に進出し、1990年2月には賃貸部を開設して賃貸業も加えた[5]。創業から12年で石材業からは事実上撤退し、地方の不動産業者として再起動する経緯となった。
不動産業への転換が定まる契機は、1998年の中古住宅再生事業の立ち上げである[6]。同年に施行された改正民事執行法(1996年改正・1998年施行)で不動産競売手続が短期化[7]・透明化され、個人投資家以外も競売市場に参入しやすくなった。やすらぎは制度変更を受け、不動産競売物件を落札してリフォーム後に販売する事業形態を確立した。営業店舗を桐生市に開設し、地方圏の戸建中古住宅を低コストで取得して再生販売[8]するモデルが起点となった。後年カチタスを業界1位に押し上げる中核ビジネスは、創業から20年後の桐生で形になった。
中古住宅再生事業の立ち上げから5年後の2003年、事務処理能力の拡充のため群馬県みどり市笠懸町にマネジメントセンターを開設し[9]、同年10月には子会社・株式会社プロパティーを設立した[10]。2004年2月、株式会社名古屋証券取引所セントレックス市場に上場し[11]、公開市場での資金調達と人材採用の足場を確保した。2004年8月にはYUTORI債権回収、9[12]月にはバリュー・ローンを相次いで設立し、債権回収・住宅ローン融資を含む金融サービス周辺領域へも事業を広げた。中核の中古住宅再生から派生事業へ手を広げる多角化の局面に入った。
2004年のセントレックス上場後、やすらぎの連結売上高はFY05(2006年1月期)に663億円、FY06に760億円とピークを迎えた。中古住宅再生に加え、子会社プロパティーが担う収益物件(テナントビル・マンション等)の販売事業が前年比7.9倍に伸び[13]、本格稼働期へ移行したことが寄与した。しかしFY07(2008年1月期)には売上537億円・純損失16.4億円へ転落した。サブプライムショックを契機とする不動産市況の急冷で、収益物件販売事業の収益が前年比で消滅したためである。多角化で広げた事業領域が景気循環の影響を直接受ける構造が露わになった。
2006年に設立した株式会社バンカー[14]及びやすらぎ共済株式会社は早期に撤退となり、共済は2006年11月、バンカーは2008年8月にそれぞれ解散[15]した。2008年3月にはYUTORI債権回収を売却し、2012年10[16]月にはバリュー・ローンも売却した。2004年前後に立ち上げた金融周辺事業は5〜8年でほぼ全てが整理対象となり、中古住宅再生のみが残る事業構成へ収斂した。FY11(2012年1月期)の連結売上高は274億円で、FY06の760億円から3分の1強の水準まで縮小していた。多角化で築いた売上規模は、コア事業の取捨選択を進める過程で486億円分が消失した。
2012年3月、日本住宅再生株式会社による株式公開買付(TOB)が成立し[17]、やすらぎは同社の連結子会社となった。日本住宅再生はアドバンテッジパートナーズ系のプライベートエクイティファンドが組成した買収目的会社で、中古住宅再生事業の単独事業会社化と経営再生を狙ったMBO型の取引だった。同年7月、株式会社名古屋証券取引所セントレックス市場の上場を廃止し、2004年の上場から8[18]年で再び非公開企業へ戻った。新興市場での株価低迷と中長期の事業再構築の必要性が、非公開化を選ぶ判断につながった。
2013年1月、日本住宅再生株式会社をやすらぎが吸収合併[19]する逆さ合併が完了した。買収主体だった親会社を被買収側の事業会社が呑み込む形で、中古住宅再生事業の単一会社体制が確立した。逆さ合併はPEファンド組成の買収目的会社を事業会社内部に解消する標準的な手法で、組織のフラット化と意思決定の単純化が同時に達成された。2013年7月には商号を株式会社カチタスへ変更[20]した。『カチ=価値』『タス=足す』の合成で、中古住宅[21]に価値を足すという事業の本質を社名そのものに置く転換となった。新井健資氏は後年『中古住宅に価値を足す、カチタスという社名の由来です』[引用元](ポーター賞 第17回受賞企業インタビュー)と述べている。
非公開化と社名変更を経た2012〜2013年は、事業整理の総仕上げと次の成長フェーズへの助走が重なる転換点となった。2012年6月、新井健資氏(当時43歳)が代表取締役社長に就任した[22]。新井健資社長は東京大学法学部卒業後、三和銀行(現三菱UFJ銀行)からベイン・アンド・カンパニー、コロンビアMBA、リクルート[23]で住宅関連事業を経た経歴を持ち、外部から招聘されたプロ経営者だった。後年のインタビューで本人が振り返ったとおり、V字回復の実現は入社時点から課された明確な経営ミッションであり、再建のために選ばれた人選であった。
新井健資社長が2012年6月の就任直後に着手したのは、創業以来の競売中心の仕入モデルからの転換[24]だった。やすらぎ時代に確立した競売物件の取得モデルは低価格で物件を仕入れる強みがある一方、競売件数の減少と参加者の増加で取得競争が激化していた。新井健資社長は競売基盤の仕入手法を根幹から見直し、仕入の主軸を不動産仲介経由の任意売買へ移すと同時に、CM[25]による直接買取の流入経路も追加した。これにより仕入物件の質と量の両方が安定する構造が見えてきた。創業期からの取得チャネル一本足を捨て、多チャネル化と仕入価格コントロールを並走させ、その後の収益回復につなげた。
仕入構成は不動産仲介経由が65%、CM経由などの直接買取が35[26]%という比率に組み替わり、競売依存から脱却した。仕入チャネルの組み替えに加え、ターゲット顧客層も具体的に定義し直した。狙いは地方在住の年収200万〜500万円層であり[27]、その世帯数は約900万世帯にのぼる。新井健資社長はこの層を主要購買層と捉え、地方の戸建中古住宅を年収中下位層に届ける価格設定を事業設計の起点に置いた。大手新築ハウスメーカーの主戦場と重ならず、同社が量的に展開できる地方マーケットを取りに行く戦略が、再建期の事業ドメインとして固まった。
価格設定の手順自体も発想が異なった。原価を積み上げて売価を決める従来の不動産業界の常識を反転させ、最初に地域の顧客が払える売価を決めてから、許容できるリフォーム費と確保したい利益を逆算して仕入価格を絞り込む手順を採用した[28]。一人の担当者が仕入・リフォーム企画・販売・クレーム対応まで一気通貫で行う体制と組み合わさり、年間3,000件規模のリノベーション経験[29]が個社のノウハウとして蓄積される構造になった。FY13(2014年3月期)に単体売上397億円・経常利益14.3億円、FY15(2016年3月期)には連結売上393億円・経常利益33.4億円・純利益19.96億円へ回復した。
2016年3月、新井健資社長体制で経営するカチタスは株式会社リプライスの株式を全部取得し、連結子会社化した[30]。リプライスは中古住宅再生事業を手掛ける同業他社で、買収によりカチタスは業界1位の事業規模を獲得した[31]。リプライスの子会社であった総合都市開発株式会社及び株式会社アークティブも同時に連結対象となったが[32]、コア事業との関連性が薄い両社は同年9月に売却された。買収はリプライス本体の中古再生事業の取り込みに目的を絞り、付随事業は速やかに切り離す判断が示された。リプライス取得後の連結売上高はFY16(2017年3月期)に618億円・営業利益50.2億円となり、FY15からほぼ倍増した。
同年2月には経済産業省より『先進的なリフォーム事業者表彰経済産業大臣賞』[引用元]を受賞し[33]、2017年10月には一橋大学大学院国際企業戦略研究科主催[34]の第17回ポーター賞を受賞した。ポーター賞は独自の戦略により業界平均を上回る収益性を持続する企業を選定する賞で、地方戸建中古住宅という大手新築ハウスメーカーが手薄なポジションを年間3,000件規模の処理量と一気通貫の業務設計で押さえる戦略が学術的な評価対象となった。[35]新井健資社長は当時『年間3,000件のリノベーションを行っていると、例えば、ある時期にある建材を使った家に共通する注意点が見えてきます』[引用元](ポーター賞 第17回受賞企業インタビュー)と語り、規模の蓄積が品質判断のノウハウへ転化する循環を説明している。
業界内での評価と並んで、再上場前の安定株主構造の準備も同時に進行した。2017年4月、カチタスは株式会社ニトリホールディングスと資本・業務提携契約を締結し、ニトリHDが筆頭株主[36]として安定持株を保有する関係に入った。住宅と家具という補完的な事業領域での連携と、再上場後の浮動株比率を意識した株主構成設計の両面で、ニトリとの提携は重要な意味を持った。FY17(2018年3月期)末時点でニトリHDは発行済株式の35.73%を保有[37]し、以降FY24(2025年3月期)末まで一貫して34[38]%台の持株比率を維持している。
2017年12月、カチタスは東京証券取引所市場第一部[39]に株式を上場した。2012年7月のセントレックス上場廃止から5年4ヶ月での再上場で、新興市場から東証一部本則市場への直接再登場という形を取った。非公開化期間の事業整理とV字回復、リプライス買収による業界1位ポジションの確立、ニトリHDとの提携による安定株主構造、これらの揃ったタイミングでの公開市場復帰だった。FY17(2018年3月期)の連結売上高は692億円・営業利益73.7億円・純利益45.5億円となり、再上場初年度から増収増益基調を維持した。
東証一部再上場は、PEファンド出口戦略の典型的な完成形でもあった。アドバンテッジパートナーズ系の日本住宅再生がTOBで取得・吸収合併・経営再生・再上場まで5年で進めた事例として、後年のPE業界における中型MBO案件の参照例となった。再上場時の主要株主構成にはニトリHDに加え、信託銀行・外資系運用機関などの機関投資家が並び、新興市場時代とは異なる安定的な株主基盤が築かれた。FY18(2019年3月期)末のニトリHD保有株は1,335万株(35.09[40]%)で、再上場後の追加買付は行われていない。
新井健資社長は就任2年目の段階で、再建フェーズの守りから攻めへ局面が移ったとの認識を社外にも示し、売上拡大による第2創業期を経営の主軸命題に据えた[41]。2012年6月の就任から2017年12月の再上場まで5年半、就任時に掲げたV字回復と再上場という二つの目標を順次達成した。同社の中古再生事業は、地方戸建中古住宅という大手新築ハウスメーカーが手薄なセグメントを、一気通貫の業務設計と年間処理量の積み上げで占有する戦略として、ポーター賞受賞を機に業界外部からも認知された。後年の業績拡大はこの再上場時点で築いた基盤の上に積み上がった。
https://the-shashi.com/api/companies.json https://the-shashi.com/api/8919/manifest.json https://the-shashi.com/api/8919/history.json https://the-shashi.com/api/8919/timeline.json https://the-shashi.com/api/8919/executives.json https://the-shashi.com/api/8919/shareholders.json https://the-shashi.com/api/8919/financials.json https://the-shashi.com/api/8919/financials-longterm.json https://the-shashi.com/api/8919/segments.json https://the-shashi.com/api/8919/regions.json https://the-shashi.com/api/8919/workforce.json | 時代 | 年月 | 社長・CEO | 出来事 | 重要度 |
|---|---|---|---|---|
| 1978〜2011年群馬の石材店から中古住宅再生モデル確立まで | 須田忠雄 | やすらぎを設立 | ★ | |
| 須田忠雄 | 宅地建物取引業の免許を取得し不動産売買・代理業を開始 | ★ | ||
| 須田忠雄 | 建築部・不動産部を開設し戸建住宅販売業を開始 | ★★ | ||
| 須田忠雄 | 賃貸部を開設し不動産賃貸業を開始 | ★ | ||
| 須田忠雄 | 改正民事執行法を機に競売物件の中古住宅再生事業を立ち上げ 1998年8月、群馬県桐生市の株式会社やすらぎが、不動産競売物件を落札してリフォームののち販売する中古住宅再生事業を確立した経営判断。営業店舗を桐生市に置き、地方圏の戸建中古住宅を低い取得価格で仕入れて再生販売する事業形態を固めた。 詳細を読む | ★★★ | ||
| 須田忠雄 | 高崎支店を開設 | ★ | ||
| 須田忠雄 | プロパティーを設立 | ★ | ||
| 須田忠雄 | 名古屋証券取引所セントレックス市場に上場 | ★ | ||
| 須田忠雄 | YUTORI債権回収を設立 | ★ | ||
| 須田忠雄 | バリュー・ローンを設立 | ★ | ||
| 須田忠雄 | YUTORI債権回収を売却 | ★ | ||
| 2012〜2017年V字回復とプロ経営者による中古再生モデルの磨き直し | 須田力 | PEファンドのTOBを受け入れて非公開化し、中古住宅再生への一本化を選ぶ 2012年1月、名証セントレックス上場のやすらぎに対し、アドバンテッジパートナーズ系のファンドが設立した日本住宅再生が1株627円の株式公開買付を実施すると発表した。買付は同年3月に成立し、7月に上場廃止。2013年1月には日本住宅再生をやすらぎが吸収合併し、中古住宅再生の単一会社となった。 詳細を読む | ★★★ | |
| 新井健資 | 社名をカチタスに商号変更 | ★ | ||
| 新井健資 | 同業リプライスの株式を全部取得し、中古住宅の買取再販で首位の規模を固める 2016年3月30日、カチタスは中古住宅の買取再販を手がける同業リプライス(名古屋市)の株式を約40億円で全部取得し、完全子会社とした。両社の2014年度の年間再販戸数を合わせるとおよそ3,500戸、売上高は約460億円となり、買取再販での規模は他社を引き離した。 詳細を読む | ★★★ | ||
| 新井健資 | ニトリHDと資本・業務提携契約を締結 | ★★ | ||
| 新井健資 | 東京証券取引所市場第一部に株式を上場 | ★ | ||
| 2018〜2025年連続最高益と地方戸建空き家という構造機会の取り込み | 新井健資 | 東京証券取引所プライム市場へ移行 | ★ |
免責事項およびポリシー
事実根拠:出所(カチタス)