2013年6月、戸建分譲市場で『パワービルダー』と呼ばれる有力6社が、共同持株会社方式での経営統合に係る株式移転契約[1]を締結した。一建設・飯田産業・東栄住宅・タクトホーム・アーネストワン・アイディホームの6社は[2]、首都圏を中心に低価格の建売住宅を量産する事業モデルを共有していた。統合前の上場市場は分かれており、飯田産業・東栄住宅[3]は東京証券取引所第一部、一建設・タクトホーム・アーネストワン・アイディホームはジャスダックに上場していた。6社は戸建分譲市場の量的トップ集団を形成していたが、各社単独では、用地仕入の競争と建材調達のスケール、人材確保のコストが採算上の負担となっていた。6社の経営者は、価格競争で消耗する代わりに、共同持株会社の傘下に入って規模の経済を獲得する統合スキームを選んだ。
2013年7月に飯田産業の株主総会で株式移転計画書が承認され、続く2013年8月には一建設[4]・東栄住宅・タクトホーム・アーネストワン・アイディホームの株主総会でも統合計画が承認された。6社が同一持株会社の傘下に入ることが確定し、業界第1位連合の成立が定まった。同年11月、共同株式移転により6社の親会社として飯田[5]グループホールディングス株式会社が東京都西東京市に設立され、即日東京証券取引所市場第一部に上場した。6社は完全子会社化され、HD設立から即時の市場アクセスを確保する設計である。HD初代社長には西河洋一氏が就任し、[6]創業者の飯田一男氏が初代の代表取締役会長に就いた。だが飯田一男氏は設立直後の同年11月29日に逝去し、設立時に代表取締役副会長であった創業家の森和彦氏が、翌2014年2月に代表取締役会長へ就任して経営の中核を担った。[7]
統合の経済合理性は、用地仕入と建材調達の2点に集中していた。各社が個別に競合していた首都圏の戸建用地は、HD傘下で共通の仕入基準と価格交渉力を持つことが可能になり、ゼネコン・建材メーカーへの発注も6社分を束ねた一括交渉が可能となった。HD設立直後のFY13連結売上高は7,538億円、親会社株主当期純利益338億円で、6社合算ベースとの実質連結初年度を超えた水準で着地した。日本の戸建分譲市場は、6社統合により業界トップ連合が出現する構造変化を経験した。6社を束ねた供給戸数のスケールは、財閥系大手の不動産デベロッパーが個別に持つ住宅事業を一段超える規模で、価格を武器に郊外戸建市場を押さえる独自ポジションが定着した。
2014年5月、飯田グループHDはファーストウッド株式会社を子会社化した[8]。ファーストウッドは木材・建材の調達を担う商社で、戸建分譲のコスト構造の上流を内製化する垂直統合の第一歩である。建売住宅の建材コストは1棟あたり数百万円規模で、ゼネコンや商社経由で調達するよりも自社グループで原木から流通まで持つほうがコストを下げられる。戸建分譲の事業構造上、用地仕入と建材調達がコストの2大要素であり、HD化で用地仕入を統合した次の手として建材内製化が選ばれた。ファーストウッド子会社化は、HD設立から半年での最初のグループ拡張M&Aで、以後の垂直統合策の先例となった。
ファーストウッド子会社化に前後して、飯田グループHDはロシア極東を木材調達の拠点に据える動きを進めた[9]。ロシア産の構造用木材(主にSPF材:スプルース・パイン・ファー)は日本の戸建住宅市場で広く使われており、戸建分譲6社の年間建材需要をロシア木材で賄う構想が背景にあった。このロシア極東での木材調達の足場は、後年の2022年1月のRFPグループ買収[10]へつながった。木材自給率を高める戦略は、戸建分譲業界の中でも珍しい垂直統合への踏み込みで、建売住宅の量産モデルにおける原価管理の足場を提供した。
HD設立後は海外進出と建材内製化の動きも続いた。木材調達のためのロシア極東のほか、米国・東南アジアにも事業拠点を広げる海外展開を進め[11]、窓・サッシなど建材内製化の対象も建材流通ルートへと拡張した。HD設立後の数年間で、用地仕入・建材調達・木材自給という3方向で垂直統合を試行した。
実際の連結売上高はFY13の7,538億円からFY14には1兆1,881億円へ57.6%増、FY15に1兆1,360億円、FY16に1兆2,324億円、FY17に1兆3,353億円と、HD設立から5年で売上規模を1.7倍に拡大した。親会社株主当期純利益もFY13の338億円からFY17の695億円へ約2倍に伸びた。
6社の販売戸数はHD設立後も増加を続けた。2020年初頭には戸建供給戸数が年間46,000戸へ達し[12]、住宅戸数供給で国内最大のポジションが定着した。西河洋一社長は創業時から、住まいを持てない層への戸建供給を理念として掲げ、低価格戸建分譲の社会的意義を強調した。耐震基準を標準強度の1.5倍に設定し[13]、全棟住宅性能評価書付の対応を継続するなど、価格と品質の両立を経営の柱に据えた。
セグメント別の業績は、HD化以降も6社(一建設・飯田産業・東栄住宅・タクトホーム・アーネストワン・アイディホーム)の独立した会計区分を維持した。FY17の各社売上高は、一建設グループ3,729億円、アーネストワングループ2,903億円、飯田産業グループ2,561億円、東栄住宅グループ1,552億円、タクトホームグループ1,458億円、アイディホームグループ1,132億円であった。最大のセグメントである一建設グループはHD設立前の親会社系列で[14]、6社の中でも首都圏での販売拠点数が最も多かった。各社別の独立性を保ちながら、HDが用地仕入・建材調達・人材戦略を統括する分業体制が、6社統合の運営原理として定着した。
2019年10月、ファーストプラス株式会社を子会社化し[15]、住宅設備関連の内製化も進めた。住宅設備(給湯器・浴室・キッチン等)は1棟あたり200〜300万円規模のコストで、ファーストプラスの取り込みにより部材調達コストの抑制が可能になった。HD設立後7年で、木材(ファーストウッド・ロシア極東での木材調達)・住宅設備(ファーストプラス)に加え、窓サッシ・建材流通を含む複数領域で垂直統合の対象を広げた。建売住宅の総原価のうち、HD傘下で内製化された比率が一段上がる構造が定着した。
2020年からのコロナ禍では、テレワーク普及で郊外戸建の需要が増加し、飯田グループHDの戸建分譲の販売が拡大した。FY20の連結売上高は1兆4,562億円・営業利益1,213億円・親会社株主当期純利益833億円となり、HD設立後の最高益を更新した。営業利益率は8.3%、ROEは18%水準と、戸建分譲業界の上場大手の中でも高い収益性を確保した。コロナ期の住宅需要のシフトと、HD化後の垂直統合の効果が、同時に業績へ反映された。FY20の決算では西河洋一社長期の最終年度として、HD設立から7年の経営成果が数字として現れた。
2021年3月、西河洋一社長は任期満了で退任し、後任[16]に副社長の兼井雅史氏が就任した。兼井雅史社長は2021年4月の就任時、経営基盤強化を新体制移行の目的に置き、HD設立から7年経過したグループの体制再構築に着手した。創業者・森和彦会長は2021年3月時点で取締役名誉会長[17]へ退き、創業家の経営関与は資本面に限定された。兼井雅史社長期は、HD設立当初の6社独立経営から、HD主導の統合度を一段引き上げる移行期に当たる。西河洋一社長から兼井雅史社長への交代は、HD設立後の初代から2代目への世代交代であった。
2021年1月、株式会社オリエントを子会社化[18]した。オリエントは戸建分譲事業の拡張を目的とした買収で、首都圏の戸建用地仕入機能の強化が狙いである。HD設立から7年で、6社統合・垂直統合・新規会社買収という3方向の事業拡張パターンが定着した。FY21の連結売上高は1兆3,870億円・営業利益1,533億円・親会社株主当期純利益1,034億円で、営業利益は過去最高を更新した。営業利益率は11.1%まで上昇し、HD設立以来の最高水準に達した。同期は西河洋一社長から兼井雅史社長への交代期と重なり、HD設立後の収益ピークが社長交代のタイミングに当たった。
セグメント別ではアーネストワングループの営業利益が404億円・利益率12.6%、東栄住宅グループ227億円・13.3%、タクトホームグループ187億円・11.7%と、6社のいずれもが二桁の利益率を確保した。コロナ期の住宅需要追い風と、用地・建材コスト抑制の両輪が、6社全体の利益率を引き上げた。HD設立から8年で、6社統合の経済効果が数字として現れた局面である。だがコロナ期の需要追い風は一時的なもので、ロシア・ウクライナ情勢の悪化と建材コスト上昇により、2022年以降の業績は転換期に入った。
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|---|---|---|---|---|
| 東栄住宅を設立(後に飯田建設工業グループ入り) | ★ | |||
| 飯田一男が飯田建設工業を設立 | ★★ | |||
| 飯田建設工業が宅地建物取引業免許を取得 | ★ | |||
| 不動産分譲事業に参入 | ★★ | |||
| 飯田建設工業が東栄住宅を子会社化 | ★ | |||
| 飯田産業を設立 | ★ | |||
| 伏見建設工業を設立 | ★ | |||
| タクトホームを設立 | ★ | |||
| タクトホームが飯田産業の100%子会社に | ★ | |||
| タクトホームが飯田産業・飯田建設工業との資本関係を解消し独立 | ★ | |||
| 伏見建設が新築マンション・戸建分譲事業を開始 | ★ | |||
| アイディホームを設立 | ★ | |||
| 東栄住宅・飯田産業が飯田建設工業との資本関係を解消 | ★★ | |||
| 東栄住宅が株式を店頭公開 | ★ | |||
| 飯田産業が株式を店頭公開 | ★ | |||
| 伏見建設がアーネストワンに商号変更 | ★ | |||
| アーネストワンがジャスダック市場に上場 | ★ | |||
| 飯田建設工業が一建設に商号変更 | ★ | |||
| 一建設がジャスダック市場に上場 | ★ | |||
| 2013〜2017年戸建分譲6社統合と年間4万棟超のパワービルダー連合の発足 | 西河洋一 | 一建設・飯田産業・東栄住宅など6社が経営統合の株式移転契約を締結 | ★ | |
| 西河洋一 | パワービルダー6社の共同株式移転による経営統合と飯田グループホールディングス設立 2012年12月25日、低価格の戸建分譲を手がける上場6社(一建設・飯田産業・東栄住宅・タクトホーム・アーネストワン・アイディホーム)が共同株式移転による経営統合を発表し、2013年11月1日に持株会社の飯田グループホールディングスが発足して東京証券取引所市場第一部に上場した経営判断である。6社はいずれも完全子会社となった。 詳細を読む | ★★★ | ||
| 西河洋一 | 東京証券取引所市場第一部に上場 | ★ | ||
| 西河洋一 | ファーストウッド子会社化に始まる建材・木材の垂直統合 2014年4月7日、飯田グループホールディングスが木材加工のファーストウッド(福井市)の発行済株式の88.79%を約8億円で取得すると発表し、5月22日に子会社化した経営判断である。ここから木材・ガラス・住宅設備・内装建材のメーカーを順に取り込み、2021年には資材調達を担う4社を中間持株会社の下へ集める会社分割を決めた。 詳細を読む | ★★★ | ||
| 2018〜2021年西河社長期の年間46,000戸供給と兼井社長への交代 | 西河洋一 | ファーストプラスを子会社化 | ★ | |
| 兼井雅史 | オリエントを子会社化 | ★ | ||
| 2022〜2025年RFPロシア資源買収とウクライナ侵攻後の利益急減・西野体制への交代 | 兼井雅史 | ロシア極東の林業大手RFPグループ19社の買収と、侵攻直後の暗転 2021年12月8日、飯田グループホールディングスがロシア極東の林業大手Russia Forest Products(RFP)の株式75%を取得して子会社化すると発表し、2022年1月にRFP(BVI)およびDallesprom・ALKなど計19社を連結子会社とした経営判断である。融資を含む投資規模は約600億円(5億2,500万ドル)とされた。 詳細を読む | ★★★ | |
| 兼井雅史 | プライム市場に移行 | ★ | ||
| 兼井雅史 | Haleを設立し子会社化 | ★ |
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事実根拠:出所(飯田グループホールディングス)