オープンハウスグループ公開買付けで三栄建築設計を取得し完全子会社化
一部出資で支えるか、非公開化まで進めて建て直しを引き受けるか
- 概要
- 2023年8月16日、オープンハウスグループは三栄建築設計の全株式を取得して完全子会社とするため、1株2,025円の公開買付けを始めると決議した。買付代金は約429億円で、9月28日に成立し、10月5日付で発行済株式の約93%を取得した。
- 背景
- 三栄建築設計は年間3,500戸超を供給する首都圏の戸建分譲会社であったが、2023年6月に受けた勧告の影響で取引金融機関が新規の融資に慎重となり、取引先との関係にも影響が出ていた。オープンハウスグループは対象会社側から支援の可否について意見交換を求められ、6月下旬に検討へ入った。
- 内容
- 大株主が保有する64.21%の応募合意を得たうえで、買付予定数の上限を設けず、下限を議決権の3分の2にあたる14,144,700株に置いた。買付価格2,025円は前営業日終値1,601円に26.48%のプレミアムを乗せた水準である。2023年11月に完全子会社化し、2024年3月に商号をメルディアへ改めた。
- 含意
- 供給力に優れる同業を取り込み、オープンハウスグループの販売力と組み合わせる狙いであった。買収の翌2024年9月期の連結売上高は1兆2,959億円、戸建関連事業セグメント売上高は6,528億円となり、11期連続で過去最高の売上・利益を更新した。
弱った同業を買うという選択
この買収の性格は、2018年のホーク・ワンとは異なる。あちらは順調に伸びている会社を市場価格の交渉で買った取引であり、こちらは資金繰りと取引関係に不安の生じた会社を、非公開化まで進めて引き受けた取引であった。前営業日終値に26.48%を乗せた価格は、弱った相手に対する買い叩きとは言いにくい。むしろ、株式を手放してもらうことが相手の建て直しの条件になっていた事情が、価格と手続きの両方を規定していたとみることができる。
引き受けた側にとって、供給力の高い会社をこの機会に取り込めた意味は小さくない。ただし、取引先や金融機関からの信用は資産として買えるものではなく、買った後に作り直すほかない。2024年9月期は売上高が1兆2,959億円へ伸びる一方で営業利益が前期を下回っており、規模と収益性のずれをどう埋めるかは残った課題である。同業をまとめて買うという手段を繰り返し使ってきた会社が、買った先を自社の売り方に馴染ませられるかどうか——創業者から経営を引き継いだ体制のもとで、その答えが出るのはこれからとみられる。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
背景
1兆円に届いた年
2023年9月期、オープンハウスグループの連結売上高は1兆1,485億円となり、中期経営計画「行こうぜ1兆!2023」で掲げた1兆円を14.8%上回った。営業利益1,423億円、経常利益1,369億円、親会社株主に帰属する当期純利益921億円は、いずれも過去最高である。荒井社長は同年5月の取材で、上場から10年で売上高を10倍にした企業は少なく、ここまできたら次は業界ナンバーワンを目指したいと語っていた。目標の置き場所が、金額から業界内の順位へ移っていた[1][2]。
もっとも、同社の戸建は都心部の狭小地に強い一方、営業の網は東京23区に厚く郊外は薄かった。棟数を増やす手段として、2018年のホーク・ワンでは首都圏の準都心部と名古屋地区を補い、2021年からは関西圏へ自前で出店している。荒井社長は2021年1月の時点で、エリアを補完できる同業のM&Aに積極的に挑戦したいと述べており、買い足す対象の条件はあらかじめ言葉になっていた[3][4]。
資金の蛇口が細っていた相手
三栄建築設計は東京都新宿区に本社を置く東証プライム上場の戸建分譲会社で、年間3,500戸超を供給していた。オープンハウスグループは同社について、物件の供給力が業界の他社と比べて優れており、戸建のデザイン性でも業界の評価を得ていると見ていた。関西では子会社が集合住宅の施工や販売でプレサンスコーポレーションと協働しており、グループへ迎える際の接点も既にあった[5][6]。
その会社が2023年に入って資金の面で行き詰まりかけていた。2023年6月20日に受けた勧告の影響で取引金融機関が融資に極めて慎重となり、取引先との関係にも悪影響が出始めていた。分譲戸建は用地の仕入れに先に資金を投じる商売であり、借入が止まれば事業そのものが回らない。対象会社側からは、経営の健全化には大株主が保有株式を手放すことが強く望まれるとの説明があり、オープンハウスグループは2023年6月下旬に取得の検討へ入った[7][8]。
決断
上限を設けない公開買付け
2023年7月7日に意向表明書を出して基本合意書を結び、7月7日から8月4日までデューデリジェンスを実施した。そのうえで8月16日の取締役会で公開買付けの開始を決議した。買付価格は1株2,025円、買付予定数は21,217,079株、買付代金は42,964,584,975円である。買付予定数の下限は議決権の3分の2にあたる14,144,700株に置き、上限は設けなかった。公開買付期間は8月17日から9月28日までの30営業日で、対象会社の事業価値の毀損を早く止める観点から日程が組まれた[9][10]。
買付予定数の上限を設けなかったことには理由がある。大株主側が保有する株式は所有割合64.21%にのぼり、応募契約でその全部を応募することが合意されていた。上限を付けた上場維持前提の買付けでは、応募が上限を超えたときに按分の決済となり、合意した株式の全部を取得できない可能性が残る。買い手として株式の全部を確実に引き取るには、上限を設けない非公開化前提の買付けが必要であった。手続きの形式が、経営の健全化という目的から逆算して選ばれていた[11][12]。
一部出資では足りないという判断
支援の形として、株式の一部取得による資本業務提携や、上場を保ったままの連結子会社化も選べた。オープンハウスグループはこの二つを退けている。共有できる経営資源やノウハウに制約が残り、見込んだ効果を確実に取りにいくには完全子会社化が望ましいという理由であった。加えて、対象会社の信用補完と資本面の支援、ガバナンス体制の立て直しへの支援を行き渡らせるうえでも、完全子会社とする必要があると整理した[13][14]。
上場廃止の当否についても説明が置かれた。上場による信用力や直接金融の手段は失われるものの、新規融資が実際に見送られている状況では、グループの一員として資金調達の円滑化と安定を図るほうが急ぎの課題への答えになる、という読みである。人材の確保についても、事業運営が早く平常に戻ることのほうが効くとした。実際、資金面の支えとして両社の主力取引銀行である三井住友銀行との間で支援に関する融資の協議が進められていた[15][16]。
結果
成立から商号変更まで
公開買付けは2023年9月28日に終了し、下限の14,144,700株を上回る19,735,327株の応募があった。買付総額は約399億円で、オープンハウスグループは10月5日付で発行済株式の約93%を取得し、三栄建築設計を連結子会社とした。同年11月には株式を追加取得して完全子会社化し、2024年3月には商号を株式会社メルディアへ改めた。検討着手から商号変更まで9カ月ほどの運びであった[17][18]。
取り込みの効果は翌期の数字に表れた。2024年9月期の連結売上高は1兆2,959億円、営業利益1,191億円、経常利益1,203億円、親会社株主に帰属する当期純利益929億円で、11期連続の過去最高更新となった。メルディアが加わった戸建関連事業セグメントは売上高6,528億円・利益508億円、プレサンスは売上高2,003億円・利益283億円、収益不動産事業は売上高2,321億円・利益177億円である。売上は増えた一方、営業利益は前期の1,423億円から1,191億円へ減っており、規模の拡大が利益にそのまま結びついたわけではない[19][20]。
供給の側と販売の側を組み合わせる
統合で見込んだ効果は五つ挙げられていた。対象会社の供給力と自社の販売力を互いに使って両社の戸建事業全体を底上げすること、デザイン性の高い戸建で商品の幅を広げること、購買量の増加で部材の調達コストを下げること、対象会社の子会社と関西のプレサンスの協働を深めること、そしてグループの信用力を背景に取引金融機関との関係を安定させることである。棟数を足すだけでなく、供給の側と販売の側を組み替える設計であった[21][22]。
この買収は、荒井社長にとって社長として決めた最後の大型案件でもあった。2025年3月、オープンハウスグループは2025年10月1日付の社長交代を発表し、28年在任した荒井社長は取締役Founderへ職位を変え、代表取締役専務執行役員の福岡良介氏が社長に就いた。プレサンスコーポレーションとメルディアという二つの買収先を抱えた体制を、創業者ではない経営者が受け継ぐ形となる[23][24]。
- オープンハウスグループ「株式会社三栄建築設計株式(証券コード:3228)に対する公開買付けの開始に関するお知らせ」(2023年8月16日)
- 日本経済新聞 2023年9月29日「オープンハウス、三栄建築へのTOB成立 郊外で販売拡大」
- 日本経済新聞 2025年3月31日「オープンハウスグループ社長に福岡良介氏」
- 日経ビジネス 2023年5月8日「オープンハウス荒井社長 「イケイケだけど緻密」 で目指す業界No.1」
- 週刊東洋経済 2021年1月16日号「〔第1特集 激動 マンション・住宅〕PART2 販売最前線 住宅販売のリアル 戸建て編 “あの手この手”の総力戦」
- オープンハウスグループ 有価証券報告書【沿革】/【役員の状況】
- オープンハウスグループ 有価証券報告書(2023年9月期・連結)/(2024年9月期・連結)