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ファンケルを株式公開買付け(TOB)で完全子会社化

2024年実施

少数出資では届かなかった協業の限界に、南方健志社長はどう決着をつけたか

時期 2024年6月
意思決定者 南方健志(社長)
論点 少数出資か、完全子会社化か
概要
2024年6月、キリンホールディングスが持分法適用会社だったファンケルを株式公開買付け(TOB)で完全子会社化する方針を決めた経営判断。買付価格は当初1株2,690円、買付代金は最大約2,207億円で、同年3月に就いた南方健志社長COOの体制のもと、ヘルスサイエンス事業の成長加速を狙った。
背景
キリンは2019年に約1,293億円でファンケル株式の30.3%(議決権33.0%)を取得し筆頭株主となっていたが、上場子会社としての独立性が価格・原価・商品設計など中核領域での連携を制約していた。ヘルスサイエンスを中長期の成長軸と位置づけるうえで、少数出資の資本構造が一体的な育成の妨げとなっていた。
内容
ファンケルの賛同を得た友好的TOBとして2024年6月17日に開始し、株式併合を経た上場廃止と100%取得を前提とした。開始後にファンケル株がTOB価格を上回って推移し、香港系ファンドの買い集めも重なったことから、買付期間を三度延長し価格を2,800円へ引き上げて成立させた。
含意
「出資して様子を見る」段階から、資本構造そのものを統合へ踏み込む段階への移行を示す判断であった。少数株主の存在が投資判断や事業再編の速度を制約するという認識のもとで提携ではなく統合を選んだが、価格引き上げと期間延長を要した経緯には、上場子会社の完全子会社化における少数株主との交渉の難しさもうかがえる。
筆者の見解

「様子を見る」資本関係が通用しない領域

この判断の核心は、少数出資という「様子を見る」ための資本関係が、ヘルスサイエンスのように長期の研究投資と事業設計を要する領域には向かない、という認識にある。2019年に筆頭株主となってからの5年間で、キリンは提携でできることと統合でしかできないことの境界を実地に学んだとみられる。上場子会社のまま研究や商品戦略を一体化しようとしても、少数株主への配慮が意思決定の速度と深度を縛る。提携から完全子会社化へと段階を踏んだ経緯は、資本構造そのものを動かさなければ戦略と実行の距離は縮まらない、という結論に行き着いた過程として読み取れる。

もっとも、完全子会社化に至る道のりは平坦ではなかった。開始後に株価が買付価格を上回り、投資ファンドが株を買い進めたことで、キリンは価格を引き上げ、買付期間を三度延ばして応募を集めなければならなかった。上場子会社を完全子会社化する局面では、少数株主の利害が価格を通じて表に出て、取得の条件を押し上げる。約2,200億円で描いた統合の絵は、少数株主との交渉を経て取得コストを積み増したうえで実を結んだ。戦略の本気度が資本構造に表れる一方で、その本気度に見合う対価をどこまで払うかもまた、上場子会社の統合が突きつける問いであるとみられる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

2019年の資本業務提携と「様子見」の資本関係

キリンホールディングスは、ビール事業の成熟という長い停滞を背景に、発酵とバイオの技術を軸とするヘルスサイエンス領域を次の成長軸に据えてきた。その一手が、2019年8月に発表したファンケルとの資本業務提携である。キリンは創業家などからファンケル株式の30.3%(議決権割合で33.0%、3,954万400株)を約1,293億円で取得して筆頭株主となり、ファンケルを持分法適用会社とした。免疫や睡眠といった機能性を切り口に、キリンの素材・研究開発力とファンケルの通販・サプリメントの顧客基盤を掛け合わせる構想であった[1]

しかし、部分出資という枠組みは、協業の深さを次第に制約するようになった。ファンケルは独立した上場会社であり、価格や原価、商品設計といった経営の中核にかかわる判断は各社が別々に下す必要がある。少数株主に対する配慮から、踏み込んだ情報共有や大規模な共同投資、事業再編には慎重にならざるをえず、連携は個別テーマの調整という域にとどまっていた。ヘルスサイエンスをグループの柱として一体で育てるうえで、この資本構造そのものが壁になりつつあった[2]

決断

完全子会社化を目的とするTOBの決定

2024年6月14日、キリンはファンケルの完全子会社化を目的に、株式公開買付け(TOB)を実施すると発表した。買付価格は1株2,690円で、前日13日の終値に対して約43%のプレミアムを乗せた水準であり、買付代金は最大で約2,207億円が見込まれた。買付けは2024年6月17日に始まった。ファンケルの賛同を得た友好的な買収であり、株式を100%取得したうえで上場を廃止し、株式併合の手続きを経て完全子会社とする道筋が示された。目的は、資本業務提携の枠を超えた付加価値の創出とシナジーの最大化、そして「アジア・パシフィック最大級のヘルスサイエンス・カンパニー」を目指すことに置かれた[3][4]

「ヘルスサイエンス」を託された新体制の選択

この決断は、指揮系統が改まった直後に下された。2024年3月28日、キリンは9年ぶりに社長を交代し、南方健志が取締役常務執行役員から社長最高執行責任者(COO)へ昇格、9年間社長を務めた磯崎功典は代表権のある会長最高経営責任者(CEO)に就いた。南方社長は協和発酵バイオの社長やヘルスサイエンス事業本部長を歴任した人物で、成長軸と定めた同領域の育成を託されての登用であった。ファンケルの完全子会社化は、その南方社長のもとで最初に踏み込んだ大型の投資判断となった。少数株主への配慮が投資や事業再編の速度と深度を制約するという2019年以来の学びが、提携から統合への転換を後押ししたとみられる[5]

結果

価格引き上げと三度の延長を経た成立

買付けは、当初の想定どおりには進まなかった。TOBの開始後、ファンケルの株価は買付価格の2,690円を上回って推移し、香港の投資ファンドがファンケル株を買い集めて7月に7%超の保有を報告するなど、少数株主の側から価格に対する不満が表面化した。キリンは2024年8月6日、買付価格を2,800円へ引き上げるとともに買付期間を再び延長した。南方社長は、期間の延長は今回が最後であるとして、この価格での応募を株主に求めた。当初6月中の完了が見込まれた買付けは、結果として買付期間を三度延ばし、価格を約4%引き上げてようやく決着に向かった[6][7]

買付けは2024年9月11日に締め切られ、応募は5,194万6,863株(所有割合42.72%)で、買付予定数の下限である4,111万7,700株を上回って成立した。決済が始まる9月19日付で、既存保有分の3,954万400株(32.52%)と合わせたキリンの所有割合は75.24%となり、ファンケルは連結子会社となった。その後、11月29日の臨時株主総会で株式併合が承認され、ファンケルは2024年12月18日をもって上場廃止となって完全子会社化が完了した。ファンケルの新社長にはキリンホールディングス常務執行役員の三橋英記が就いた。TOB成立の会見で南方社長は、M&Aは今後も選択肢の一つであると述べ、ヘルスサイエンスを軸とする投資を続ける姿勢を示した[8][9]

出典・参考