キリンHD ファンケルをTOBで子会社化 少数株主の買い取りによる完全子会社化と、グループへの一体化

更新:

時期 2024年6月
当時の社長 南方健志
論点 少数出資か、完全子会社化か
何をなぜ決めたか
概要

2024年、キリンホールディングスが持分法適用会社だったファンケルを株式等の公開買付けで連結子会社とし、翌年に完全子会社化した経営判断。追加取得した議決権は42.72%、現金による対価は145,451百万円で、既に保有していた株式の公正価値110,713百万円と合わせた取得の対価は256,164百万円であった。磯崎功典会長CEO・南方健志社長COOの体制のもと、ヘルスサイエンス事業の成長加速を狙った。

背景

キリンは2019年9月にファンケルの持分を129,533百万円で取得し、所有持分割合32.93%の持分法適用会社としていた。上場子会社としての独立性が価格・原価・商品設計など中核領域での連携を制約しており、ヘルスサイエンスを中長期の成長軸と位置づけるうえで、少数出資の資本構造が一体的な育成の妨げとなっていた。

内容

2024年9月19日に議決権42.72%を追加取得し、既存分と合わせて75.24%を保有して支配を獲得した。同年12月20日に株式併合の効力が発生し、端数株式の譲渡が完了した2025年3月14日に所有持分は100%となった。この端数株式の追加取得だけで82,573百万円を要している。

含意

"出資して様子を見る"段階から、資本構造そのものを統合へ着手する段階への移行を示す判断であった。既に保有していた持分を支配獲得日の公正価値で測り直した結果、18,265百万円の段階取得に係る差損が生じ、識別された無形資産242,524百万円のうちブランドは耐用年数を確定できない資産とされた。統合の代償と、買った価値の中身が同時に開示された案件である。

いつ何が起きたか 6件
筆者の見解
筆者の見解

「様子を見る」資本関係が通用しない領域

この判断の核心は、少数出資という"様子を見る"ための資本関係が、ヘルスサイエンスのように長期の研究投資と事業設計を要する領域には向かない、という認識にある。2019年に持分の32.93%を取得してからの5年間で、キリンは提携でできることと統合でしかできないことの境界を実地に学んだとみられる。上場子会社のまま研究や商品戦略を一体化しようとしても、少数株主への配慮が意思決定の速度と深度を縛る。企業結合の理由として有価証券報告書が挙げたのも、従来の資本業務提携の枠組みを大きく上回るシナジーの発現であった。提携から完全子会社化へと段階を踏んだ経緯は、資本構造そのものを動かさなければ戦略と実行の距離は縮まらない、という結論に行き着いた過程として読み取れる。

もっとも、統合の代金は取得の対価だけでは済まなかった。既に持っていた持分を支配獲得日の公正価値で測り直した結果、18,265百万円の差損が生じ、取得関連費用2,550百万円も費用として落ちている。さらに株式併合で残った端数株式の買い取りに82,573百万円を要した。少数株主を最後の一株まで買い切る局面では、その利害が価格を通じて表に出て、取得のコストを押し上げる。他方で、受け入れた資産のうち242,524百万円が無形資産として識別され、ブランドは耐用年数を確定できない資産に分類された。何を買ったのかが数字の形で示されたという意味では、この案件の勘定は比較的透けて見えると推察される。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

業績の推移
買収の条件

買収の条件

科目 概要 備考
被取得企業 ㈱ファンケル 化粧品・健康食品の研究開発、製造及び販売
2019年の持分取得日 2019年9月6日 資本業務提携契約の締結は同年8月。同日付で持分法を適用した
2019年の取得額 129,533百万円 持分法適用の関連会社として取得した額
2019年末の所有持分割合 32.93% 資本の当社グループ持分70,242百万円、のれん及び連結調整58,268百万円
企業結合日(支配獲得日) 2024年9月19日 公開買付けにより議決権42.72%を追加取得した日
企業結合の法的形式 現金を対価とする株式の取得 株式等の公開買付け。買付価格と買付期間は有価証券報告書に記載がない
取得した議決権比率 75.24% 取得前の議決権比率は32.52%。いずれも潜在株式勘案後
取得の対価 256,164百万円 追加取得分の現金145,451百万円と既保有株式の公正価値110,713百万円の合計
段階取得に係る差損 18,265百万円 既保有分を支配獲得日の公正価値で再測定した差。その他の営業費用に計上
取得関連費用 2,550百万円 うち2,448百万円を2024年12月期のその他の営業費用に計上
受け入れた資産 356,819百万円 流動資産59,336百万円、非流動資産297,483百万円
引き受けた負債 100,210百万円 流動負債17,679百万円、非流動負債82,531百万円
識別した無形資産 242,524百万円 ブランド134,075百万円、顧客関係108,449百万円。顧客関係は20〜41年で償却
発生したのれん 62,500百万円 暫定的な会計処理。2025年12月期末のファンケル分の残高は76,757百万円
企業結合の主な理由 資本業務提携の枠組みを大きく上回るシナジー 顧客理解力と研究開発力、Blackmoresのアジア基盤、発酵・バイオ技術の相互活用
取得日以降の業績寄与 売上収益34,480百万円 当期利益は1,161百万円。連結への取り込みは2024年10月から
通期換算した売上収益 2,418,051百万円 期首に結合したと仮定した概算。当期利益59,833百万円。監査証明を受けていない
株式併合の効力発生日 2024年12月20日 1株に満たない端数が生じ、期末時点の所有持分は75.62%として会計処理
完全子会社化した日 2025年3月14日 端数株式の譲渡契約の効力発生日。所有持分は75.62%から100%へ
端数株式の追加取得額 82,573百万円 未払金を含む。非支配持分62,814百万円、資本剰余金19,814百万円が減少

出所:キリンホールディングス 有価証券報告書 第181期(2019年12月期)・第186期(2024年12月期)・第187期(2025年12月期)(注記「持分法で会計処理されている投資」「企業結合」「子会社に対する所有持分の変動」)

のれんと無形資産の推移

キリンHD:のれんと無形資産の推移

(百万円) のれん無形資産総資産 備考
2019年12月期 233,899168,9052,412,874 ファンケルの持分は持分法で会計処理されている投資に含まれる
2020年12月期 245,709209,2912,459,363
2021年12月期 264,225196,3412,471,933
2022年12月期 289,526200,9002,542,263
2023年12月期 390,568303,5402,869,585 Blackmores Limitedの連結でのれんと無形資産が増えた
2024年12月期 501,480659,5613,354,159 ファンケルの連結でのれん62,500、無形資産242,524が加わった
2025年12月期 533,321694,6683,494,043 ファンケル分ののれんは76,757、ブランドは134,077
のれんと無形資産
のれん(百万円)のれん以外の無形資産(百万円)

出所:キリンホールディングス 有価証券報告書 第181期〜第187期(連結財政状態計算書、注記「のれん」「無形資産」)

ヘルスサイエンス事業の推移

キリンHD:ヘルスサイエンス事業の推移

(百万円) 売上収益事業利益 備考
2023年12月期 103,354△12,535 報告セグメントとして区分した最初の期。減損損失16,668を計上
2024年12月期 175,256△10,895 ファンケルの寄与は10月からの3か月分にとどまる
2025年12月期 251,36611,105 ファンケルが通年で寄与した最初の期。事業利益が黒字化した
ヘルスサイエンス事業の売上収益と事業利益率
売上収益(百万円)事業利益率(%)

出所:キリンホールディングス 有価証券報告書 第185期〜第187期(セグメント情報)

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参考文献
出典・参考
  • キリンホールディングス 有価証券報告書「第186期(2024年12月期)注記「37.企業結合 (2) ㈱ファンケルの連結子会社化」」
  • キリンホールディングス 有価証券報告書「第187期(2025年12月期)注記「37.子会社に対する所有持分の変動」「7.のれん」「9.非金融資産の減損」」
  • キリンホールディングス 有価証券報告書「第181期(2019年12月期)注記「持分法で会計処理されている投資 ② ㈱ファンケル」」
  • キリンホールディングス 有価証券報告書「第181期〜第187期(連結財政状態計算書、セグメント情報)」
  • キリンホールディングス Investor's Guide「Investor's Guide 2025(ヘルスサイエンス事業、FANCL)」

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