ハイネケンへ売却し撤退(2017年・キリンHDの決断)

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論点 ブラジル事業を売却し撤退するか
キリンHD:業績の推移
売上高(億円)営業利益率(%)
巨額減損に至った現地事業の切り離しと、ブラジル展開の断念

何をなぜ決めたか:巨額減損に至った現地事業の切り離しと、ブラジル展開の断念

概要

2017年2月13日の取締役会で、連結子会社ブラジルキリン(Brasil Kirin Holding S.A.)の全株式185,278,687,490株を、ハイネケン・インターナショナル傘下のババリア社へ2,200百万レアルで譲渡することを決議した。所有割合100%をそのまま手放す全部譲渡である。

ブラジルの経済擁護行政委員会(CADE)の承認を経て、譲渡は2017年5月31日に実行された。2011年の参入から約6年、磯崎功典社長が進めた海外ポートフォリオの組み替えの一環である。

背景

国内ビール類市場が20年にわたり縮小するなか、キリンは1990年代末から豪州・東南アジアで大型買収を重ねて海外へ傾斜していた。サントリーとの経営統合交渉が破談した翌2011年、世界3位のビール消費量を持つブラジルへ参入した。

その事業が2014年夏からの市場悪化とレアル安で暗転する。2015年12月期には海外その他綜合飲料事業で減損損失113,476百万円を計上し、全社の減損123,385百万円の大半を占めた。最終損益は47,329百万円の損失となり、売上高2,196,925百万円に対して初の赤字決算となった。

内容

2016年2月発表の中期経営計画では自主再建を第一優先とし、2016年12月期のセグメント利益は474百万円と前年の△14,818百万円から黒字へ戻した。それでも「単独で安定的な高収益事業へと転換していくには限界がある」との結論に至り、同じくブラジルでビール事業を展開するババリア社への譲渡を選んだ。

移転した資産は非流動155,470百万円・流動52,828百万円、負債は非流動72,559百万円・流動90,128百万円で、純資産は45,610百万円。受取対価の公正価値75,299百万円との差から売却益33,237百万円が生じた。

含意

2017年12月期からIFRSを適用したことが、撤退の後始末の見え方を変えた。IFRS第1号の免除規定で移行日の在外営業活動体の累積換算差額をゼロとみなしたため、組替調整の対象が移行日以降に限られ、税引前利益は日本基準に比べて75,848百万円多く出た。

譲渡に係る法人所得税費用は△59,962百万円で、非継続事業からの当期利益は84,980百万円に達した。ブラジルを外した継続事業の海外その他綜合飲料事業は、売上高99,948百万円・セグメント利益13,437百万円と小さく高収益な姿に変わった。

いつ何が起きたか 7件
当時の取締役 9名

当時の取締役(2016年3月株主総会決議)

  • 磯崎功典:社長
  • 有馬利男:取締役
  • 西村慶介:常務執行役員
  • 伊藤彰浩:常務執行役員
  • 野中淳一:常務執行役員
  • 三好敏也:常務執行役員
  • 荒川詔四:取締役
  • 岩田喜美枝:取締役
  • 永易克典:取締役
考察:高値づかみと、損切りという決断
考察

考察:高値づかみと、損切りという決断

この撤退のそもそもの入り口は、BRICS景気の高揚のさなかに下された参入であった。世界3位の消費量を持つ市場は魅力的に映り、統合破談で行き場を失った海外戦略の受け皿にもなった。市場の悪化と通貨安が続いたとはいえ、根にあったのは、現地に任せきる不干渉主義のまま巨額を投じた前段の判断であったようにもみえる。撤退の是非は、しばしばその入り口にさかのぼって問われる。

もっとも、負けを認めて損失を確定させる判断そのものは容易ではない。2015年12月期の減損113,476百万円は、上場以来守ってきた黒字の記録を自ら断つ額であった。売却で計上した益33,237百万円は、IFRS移行の免除規定によって累積換算差額の組替えが移行日以降に限られた結果でもあり、日本基準なら税引前利益は75,848百万円低く出ていた。会計の見え方を割り引いても、撤退そのものは身軽さを生んだ。残る海外その他綜合飲料事業は売上高99,948百万円・セグメント利益13,437百万円と、規模を捨てて利益率を採る姿へ変わっている。

Yutaka Sugiura, 2026年7月
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図と表

キリンHD:海外その他綜合飲料事業の推移

売上高(百万円)セグメント利益率(%)
キリンHD:海外その他綜合飲料事業の推移
(百万円) 売上高セグメント利益 備考
2012年12月期 180,4397,069 日本基準。2011年に取得したブラジル事業の通年寄与が始まる
2013年12月期 216,8911,884 日本基準
2014年12月期 223,0523,663 日本基準。この年の夏からブラジル市場が悪化する
2015年12月期 185,548△14,818 日本基準。減損損失113,476を計上。全社の減損は123,385
2016年12月期 188,886474 日本基準。収益構造改革で黒字へ戻す。ミャンマー・ブルワリー社を連結
2017年12月期 99,94813,437 IFRS。ブラジル事業は非継続事業に区分され、この数値から除かれている
出所:キリンホールディングス 有価証券報告書 第174〜179期(セグメント情報)
出所:キリンホールディングス 有価証券報告書 第174〜179期(セグメント情報)

譲渡の条件

譲渡の条件
科目 概要 備考
取締役会決議日 2017年2月13日 同日付でババリア社と株式譲渡契約を締結した
譲渡先 Bavaria S.A. Heineken International B.V.の子会社。同じくブラジルでビール事業を展開する
譲渡した子会社 Brasil Kirin Holding S.A. ビール、清涼飲料の製造・販売。区分は海外その他綜合飲料事業
譲渡株式数 185,278,687,490株 所有割合100%。譲渡後の所有株式数は0株、所有割合0%
譲渡価額 2,200百万レアル 契約時の換算は1レアル35.00円で約770億円。契約に基づき調整される可能性があった
取引成立の条件 関係当局の審査及び承認 ブラジルの経済擁護行政委員会(CADE)へ株式譲渡の承認を申請した
譲渡日 2017年5月31日
受取対価の公正価値 75,299百万円
移転した非流動資産 155,470百万円
移転した流動資産 52,828百万円
移転した非流動負債 72,559百万円
移転した流動負債 90,128百万円
譲渡した子会社の純資産 45,610百万円
売却益 33,237百万円 非継続事業の「その他の営業収益」に含まれる
譲渡に係る法人所得税費用 △59,962百万円 非継続事業の法人所得税費用に含まれる。費用のマイナス=利益側への計上
売却による収入(純額) 67,332百万円 付随費用1,535・未収額1,689・保有していた現金4,745を控除した後の金額
出所:キリンホールディングス 有価証券報告書 第178期(2016年12月期)【重要な後発事象】・第179期(2017年12月期)注記38「非継続事業」
出所:キリンホールディングス 有価証券報告書 第178期(2016年12月期)【重要な後発事象】・第179期(2017年12月期)注記38「非継続事業」
当時の取締役 9名

当時の取締役(2016年3月株主総会決議)

  • 磯崎功典:社長
  • 有馬利男:取締役
  • 西村慶介:常務執行役員
  • 伊藤彰浩:常務執行役員
  • 野中淳一:常務執行役員
  • 三好敏也:常務執行役員
  • 荒川詔四:取締役
  • 岩田喜美枝:取締役
  • 永易克典:取締役
参考文献

参考文献

参考
  • キリンホールディングス 適時開示「連結子会社(Brasil Kirin Holding S.A.)の株式譲渡に関するお知らせ」
  • キリンホールディングス 有価証券報告書「第178期(2016年12月期)【重要な後発事象】」
  • キリンホールディングス 有価証券報告書「第179期(2017年12月期)注記38「非継続事業」」
  • キリンホールディングス 決算説明会資料「キリングループ2016年-2018年中期経営計画」

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