キリンHDブラジル事業の巨額減損と、ハイネケンへの売却による撤退
前任者が将来を託した南米の拠点を、磯崎功典社長はなぜ約6年で畳んだか
- 概要
- キリンホールディングスが、2011年に約3,040億円を投じて取得したブラジルのビール事業について、2015年12月期に約1,100億円の減損処理で473億円の最終赤字を計上したうえ、2017年2月に子会社ブラジルキリンをオランダのハイネケンへ770億円で売却し、進出から約6年で撤退した経営判断。磯崎功典社長の主導による海外ポートフォリオの見直しである。
- 背景
- 国内ビール類市場が20年にわたり縮小するなか、キリンは1990年代末から豪州・東南アジアで大型買収を重ねて海外へ傾斜していた。サントリーとの経営統合交渉が破談した翌2011年、BRICSの一角で世界3位のビール消費量を持つブラジルへ、戦略を修正してでも参入した。
- 内容
- 進出直後は好調だったブラジル事業は、2014年夏からの市場悪化とレアル安、値上げの失敗で暗転し、シェアを2位から3位へ落とした。磯崎功典氏(社長)は2015年12月期に巨額減損を計上して上場以来初の赤字を受け入れ、現地経営陣を刷新したうえで、最終的に売却へ踏み切った。
- 含意
- 減損と売却でブラジルの負の遺産を一掃したキリンは、2016年12月期に最終利益1,181億円へ回復し、東南アジア・オセアニアへ経営資源を戻した。BRICS景気の末期に高値でつかんだ拠点を、損失を確定させてでも手放す損切りの判断であった。
筆者の見解
高値づかみと、損切りという決断
この撤退のそもそもの入り口は、BRICS景気の高揚のさなかに下された参入であった。世界3位の消費量を持つ市場は魅力的に映り、統合破談で行き場を失った海外戦略の受け皿にもなった。市場の悪化と通貨安、値上げの誤算が続いたとはいえ、根にあったのは、現地に任せきる不干渉主義のまま巨額を投じた前段の判断であったようにもみえる。撤退の是非は、しばしばその入り口にさかのぼって問われる。
一方で、負けを認めて損失を確定させる判断そのものは、必ずしも容易ではない。上場以来守ってきた黒字の記録を自ら断ち、前任社長が将来を託した事業を畳むには、相応の覚悟が要ったとみられる。減損で膿を出し、翌年に売却して身軽になったキリンは、東南アジア・オセアニアという成長市場へ資源を戻した。高値づかみの傷は残ったものの、傷をどこで止めるかを決めた点に、この判断の輪郭がある。撤退を語るとき、失敗の大きさと同じだけ、退き際の速さもまた評価の対象になるのだろう。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
- キリンホールディングス 有価証券報告書(2015年12月期・連結・IFRS)
- キリンホールディングス 有価証券報告書(2016年12月期・2017年12月期・連結・IFRS)