この破談で表に出たのは、シナジーの見積りではなく、統合後の会社を誰がどう統治するかという問いであった。公開会社としての独立性・透明性が担保されるべきだという主張は、裏を返せば、非上場の創業家支配がそのまま持ち込まれる形は呑めないという宣言である。数字で詰められる論点ではないため、交渉の初期段階という位置づけのまま、条件を一つも公表しないうちに終わった。開示の薄さそのものが、詰められた合意の少なさを物語っているようにみえる。
もっとも、統合を諦めたことでキリンが縮んだわけではない。2009年12月期の売上高2,278,473百万円は国内首位の水準にあり、翌2011年にはブラジルへ3,000億円規模を投じて単独での拡大を続けた。ただしその投資は2017年の撤退で終わり、2014年12月期の経常利益94,211百万円は交渉当時の144,614百万円を大きく下回る。統合で届こうとした規模を単独で追った結果が何であったかは、その後の10年が答えている。