サントリーとの統合破談(2009年・キリンHDの決断)

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論点 公開会社の独立性を統合で保てるか
キリンHD:業績の推移
売上高(億円)営業利益率(%)
巨大再編を狙った経営統合構想の頓挫と、単独路線への回帰

何をなぜ決めたか:巨大再編を狙った経営統合構想の頓挫と、単独路線への回帰

概要

2009年7月14日、サントリーホールディングスとの経営統合へ向けた交渉が初期段階にあることを公表した。国内首位と2位の組み合わせでありながら、公表文は「現時点では具体的に決定している事実はありません」とだけ述べ、統合方式も比率も示さなかった。

交渉は約7か月で終わる。2010年2月8日、加藤壹康社長の名で交渉の終了が発表された。

背景

国内市場の縮小と、ベルギー・インベブによる米アンハイザー・ブッシュ買収など世界的な飲料再編を前に、両社は規模拡大とグローバル展開を共通の課題としていた。キリン自身は2007年の豪ナショナルフーズ買収、2009年のライオンネイサン完全子会社化と、この時期に海外買収を重ねていた。

内容

決裂の理由として挙げたのは、統合新会社の統治のかたちである。 『統合新会社は、公開会社として経営していくことを前提に、経営の独立性・透明性が十分に担保されるべきと考えておりました』 とし、この点でサントリーとの間に認識の相違があったとした。このまま交渉を続けても、目指す「グローバルリーディングカンパニー」として全てのステークホルダーの理解・賛同を得られる会社の姿を描くことは困難である、というのが終了の判断であった。

非上場のサントリーは創業家の資産管理会社が株式の大半を握る。統合比率をめぐる応酬も伝えられるが、比率も統合方式も会社の公表資料には出ていない。

含意

破談の年、2010年12月期の当期純利益は11,394百万円と、交渉を公表した2009年12月期の49,172百万円から4分の1に減少した。単独での規模拡大に戻ったキリンは、翌2011年にブラジルのスキンカリオールを取得する。

売上高は2008年12月期の2,303,569百万円を頂点に頭打ちとなり、2014年12月期の経常利益は94,211百万円と交渉当時の144,614百万円を大きく下回った。統合で届こうとした規模には、単独の買収では届かなかった。

いつ何が起きたか 5件
考察:条件と統治、二つの土台
考察

考察:条件と統治、二つの土台

この破談で表に出たのは、シナジーの見積りではなく、統合後の会社を誰がどう統治するかという問いであった。公開会社としての独立性・透明性が担保されるべきだという主張は、裏を返せば、非上場の創業家支配がそのまま持ち込まれる形は呑めないという宣言である。数字で詰められる論点ではないため、交渉の初期段階という位置づけのまま、条件を一つも公表しないうちに終わった。開示の薄さそのものが、詰められた合意の少なさを物語っているようにみえる。

もっとも、統合を諦めたことでキリンが縮んだわけではない。2009年12月期の売上高2,278,473百万円は国内首位の水準にあり、翌2011年にはブラジルへ3,000億円規模を投じて単独での拡大を続けた。ただしその投資は2017年の撤退で終わり、2014年12月期の経常利益94,211百万円は交渉当時の144,614百万円を大きく下回る。統合で届こうとした規模を単独で追った結果が何であったかは、その後の10年が答えている。

数字で見る 2表

数字で見る

図と表

キリンHD:連結業績の推移

売上高(百万円)経常利益率(%)
キリンHD:連結業績の推移
(百万円) 売上高経常利益当期純利益 備考
2004年12月期 1,654,886106,56249,099
2005年12月期 1,632,249114,88151,263
2006年12月期 1,665,946120,86553,512
2007年12月期 1,801,164123,38966,713 豪ナショナルフーズを子会社化し、海外買収が本格化する
2008年12月期 2,303,569103,06580,182 ライオンネイサンの連結などで売上高が2兆円台へ乗る
2009年12月期 2,278,473144,61449,172 7月に統合交渉を公表。売上高は国内首位の水準
2010年12月期 2,177,802140,96911,394 2月に交渉終了。ナショナルフーズ社ののれん等388億円を減損し特別損失100,492
2011年12月期 2,071,774136,8187,407 8月にブラジルのスキンカリオールを取得
2012年12月期 2,186,177138,45256,198
2013年12月期 2,254,585132,13485,656
2014年12月期 2,195,79594,21132,392 日本基準の値。IFRS適用は2017年12月期から
出所:キリンホールディングス 有価証券報告書 第167期・第172期・第177期(主要な経営指標等の推移・連結・日本基準)
出所:キリンホールディングス 有価証券報告書 第167期・第172期・第177期(主要な経営指標等の推移・連結・日本基準)

交渉と終了の条件

交渉と終了の条件
科目 概要 備考
交渉の相手 サントリーホールディングス 非上場。創業家の資産管理会社が株式の大半を握る
交渉の公表日 2009年7月14日 「経営統合へ向け交渉の初期段階にある」とだけ述べた
公表時点の決定事項 なし 「現時点では具体的に決定している事実はありません」と明示した
統合方式 会社の公表資料に記載なし
統合比率 会社の公表資料に記載なし 初期段階での公表にとどまり、比率の提示も協議の経過も開示されていない
締結した契約と違約金 会社の公表資料に記載なし 基本合意書の締結も、解消に伴う違約金の有無も公表されていない
交渉終了の公表日 2010年2月8日 公表者は代表取締役社長 加藤壹康
交渉を終了した理由 統合新会社の統治をめぐる認識の相違 公開会社としての経営の独立性・透明性の担保について認識が異なった
交渉の期間 約7か月 2009年7月14日の公表から2010年2月8日の終了まで
出所:キリンホールディングス ニュースリリース(2009年7月14日)「サントリー社との経営統合に関する交渉について」・(2010年2月8日)「サントリー社との経営統合交渉の終了について」
出所:キリンホールディングス ニュースリリース(2009年7月14日)「サントリー社との経営統合に関する交渉について」・(2010年2月8日)「サントリー社との経営統合交渉の終了について」
参考文献

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