スキンカリオールの買収(2011年・キリンHDの決断)

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論点 南米市場に買収で進出するか
キリンHD:業績の推移
売上高(億円)営業利益率(%)
ブラジル2位の取り込みによる、南米ビール市場への足場づくり

何をなぜ決めたか:ブラジル2位の取り込みによる、南米ビール市場への足場づくり

概要

2011年、キリンホールディングスが、ブラジルでビール事業と清涼飲料事業を展開するスキンカリオール・グループの筆頭株主である持株会社の全発行済株式を取得し、同グループを連結子会社とした経営判断。取得原価は304,365百万円、暫定計上したのれんは182,714百万円で、三宅占二社長の主導による成長市場への進出であった。

背景

国内ビール類市場が20年にわたり縮小するなか、キリンは1990年代末から豪州・東南アジアで大型買収を重ね、海外事業への傾斜を強めていた。サントリーホールディングスとの経営統合交渉が破談した翌年、世界3位のビール消費量を持つブラジルへ、東南アジア・オセアニア中心の戦略を修正してでも参入した。

内容

企業結合日は2011年10月11日、みなし取得日は同年12月31日で、当期の連結損益には同グループの業績が含まれていない。取得原価の配分は翌期に完了し、無形固定資産73,646百万円や訴訟損失引当金6,310百万円などが識別された結果、のれんは98,345百万円へ修正された。期首に結合したと仮定した売上高は151,741百万円、当期純損失は15,039百万円と概算された。

含意

進出後のブラジル事業は市場悪化と現地通貨安、販売数量の減少で暗転した。キリンは2015年12月期に海外その他綜合飲料事業で113,476百万円を減損して上場以来初の最終赤字に転落し、2017年5月にブラジルキリン社をハイネケン傘下のBavaria社へ譲渡して撤退する。成長市場の魅力と、参入のタイミングの難しさがともに残った買収であった。

いつ何が起きたか 7件
当時の取締役 9名

当時の取締役(2011年3月株主総会決議)

考察:成長市場という誘惑と、参入のタイミング
考察

考察:成長市場という誘惑と、参入のタイミング

この買収を振り返るとき、まず目を引くのは、市場そのものの魅力と、それを手にした時期のずれである。世界3位の消費量を持ち、高い成長が語られたブラジルは、縮む国内市場を抱えるキリンにとって強い誘惑であったにちがいない。統合破談で行き場を失った海外拡大の意志が、その誘惑と重なった面もあったとみられる。ただ、飛ぶ鳥を落とす勢いに見えたBRICS景気は、進出とほぼ同時に宴の終わりへ差しかかっていた。成長市場の物語は、しばしばその高揚の頂点で最も雄弁に語られる。

もう一つは、買った中身が後から姿を現したことである。取得時に182,714百万円と置かれたのれんは、翌期に取得原価の配分が完了すると98,345百万円へ落ち着き、その過程で無形固定資産や訴訟損失引当金が識別された。買う時点では何を取得したのかを正確には測れておらず、それが一年かけて輪郭を得たことになる。2015年12月期には販売数量の減少と現地通貨安を受けて113,476百万円を減損し、2017年5月には受取対価75,299百万円でハイネケン傘下へ渡した。会計上は売却益33,237百万円が立ったが、それは既に減損で簿価を落としていたからでもある。国境を越える投資の難しさは、金額の大小だけでは測りきれないところにあるのかもしれない。

Yutaka Sugiura, 2026年7月
数字で見る 3表

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図と表

キリンHD:のれんと無形固定資産の推移

のれん(百万円)のれん以外の無形固定資産(百万円)
キリンHD:のれんと無形固定資産の推移
(百万円) のれん無形固定資産総資産 備考
2006年12月期 96,853169,6991,963,586
2007年12月期 258,780386,9152,469,667 豪州ナショナルフーズの持株会社を取得し、のれんが16万を超えて増えた
2008年12月期 343,975449,4692,619,623
2009年12月期 605,210734,6882,861,194 ライオンネイサンの完全子会社化による増加
2010年12月期 562,492658,3572,649,197
2011年12月期 713,749816,2612,854,254 スキンカリオールの取得でのれん182,714を暫定計上した
2012年12月期 642,190821,9482,951,061 取得原価の配分が完了し、のれんが98,345へ修正された
2013年12月期 649,519836,9362,896,456
2014年12月期 642,470849,3562,965,868
2015年12月期 269,215458,5462,443,773 ブラジル事業の減損でのれんが37万を超えて減った
2016年12月期 228,983401,9102,348,166
出所:キリンホールディングス 有価証券報告書 第168期〜第178期(連結貸借対照表)
出所:キリンホールディングス 有価証券報告書 第168期〜第178期(連結貸借対照表)

キリンHD:海外その他綜合飲料事業の推移

外部顧客への売上高(百万円)セグメント利益率(%)
キリンHD:海外その他綜合飲料事業の推移
(百万円) 外部顧客への売上高セグメント利益 備考
2012年12月期 180,4397,069 ブラジル事業が通年で寄与した最初の期
2013年12月期 216,8911,884
2014年12月期 223,0523,663
2015年12月期 185,548△14,818 減損損失113,476を計上し、セグメント損失に転じた
2016年12月期 188,886474
出所:キリンホールディングス 有価証券報告書 第174期〜第178期(セグメント情報)
出所:キリンホールディングス 有価証券報告書 第174期〜第178期(セグメント情報)

買収と撤退の条件

買収と撤退の条件
科目 概要 備考
被取得企業 Schincariol Participacoes S.A. 正式名称はSchincariol Participacoes e Representacoes S.A.
被取得企業の事業内容 持株会社 子会社を通じたビール及び清涼飲料の製造・販売
企業結合日 2011年10月11日 みなし取得日は2011年12月31日。それ以前の業績は連結に含まれない
企業結合の法的形式 株式取得 100%子会社Kirin Holdings Investments Brasilによる現金を対価とした取得
取得した議決権比率 100% 被取得企業である持株会社の全発行済株式を取得した
取得原価 304,365百万円 取得の対価303,283百万円と取得に直接要した支出1,081百万円の合計
受け入れた資産 181,983百万円 流動資産54,210百万円、固定資産127,772百万円。のれんを含まない
引き受けた負債 103,027百万円 流動負債45,093百万円、固定負債57,933百万円
のれん(暫定) 182,714百万円 4,408,076千レアル。20年間の均等償却とした
のれん(確定) 98,345百万円 2012年12月期に配分が完了。無形固定資産73,646百万円などを識別した
配分で認識した訴訟損失引当金 6,310百万円 152,243千レアル。取得原価の配分の完了に伴う修正項目
通期換算した売上高 151,741百万円 期首に結合したと仮定した概算。当期純損失15,039百万円。監査証明を受けていない
減損損失(2015年12月期) 113,476百万円 海外その他綜合飲料事業のセグメント別内訳。全社の減損損失は123,385百万円
減損の理由 販売数量の大幅な減少と現地通貨安 競争の激化と原材料費負担の増加を受け、資産価値を再評価した
譲渡の決議日 2017年2月13日 取締役会で決議し、同日付でBavaria S.A.と株式譲渡契約を締結した
譲渡先 Bavaria S.A. Heineken International B.V.の子会社。ブラジルでビール事業を展開
譲渡した株式数 185,278,687,490株 所有割合100%。譲渡後の所有株式数は0株
契約上の譲渡価額 2,200百万レアル 約770億円(1レアル35.00円)。契約に基づき調整される可能性があるとした
譲渡日 2017年5月31日 企業結合日から約5年7か月後
受取対価の公正価値 75,299百万円 譲渡した子会社の純資産は45,610百万円。株式売却に伴う付随費用1,535百万円
譲渡による売却益 33,237百万円 非継続事業のその他の営業収益に含めて計上した
譲渡に係る法人所得税費用 △59,962百万円 税金費用の減少。非継続事業からの当期利益は84,980百万円となった
出所:キリンホールディングス 有価証券報告書 第173期(2011年12月期)・第174期(2012年12月期)【企業結合等関係】、第177期(2015年12月期)【連結損益計算書関係】、第178期(2016年12月期)【重要な後発事象】、第179期(2017年12月期)注記「38.非継続事業」
出所:キリンホールディングス 有価証券報告書 第173期(2011年12月期)・第174期(2012年12月期)【企業結合等関係】、第177期(2015年12月期)【連結損益計算書関係】、第178期(2016年12月期)【重要な後発事象】、第179期(2017年12月期)注記「38.非継続事業」
当時の取締役 9名

当時の取締役(2011年3月株主総会決議)

参考文献

参考文献

参考
  • キリンホールディングス 有価証券報告書「第173期(2011年12月期)【企業結合等関係】(パーチェス法の適用)」
  • キリンホールディングス 有価証券報告書「第174期(2012年12月期)【企業結合等関係】(パーチェス法の適用)」
  • キリンホールディングス 有価証券報告書「第177期(2015年12月期)【連結損益計算書関係】【セグメント情報】」
  • キリンホールディングス 有価証券報告書「第178期(2016年12月期)【重要な後発事象】(Brasil Kirin Holding S.A.株式の譲渡)」
  • キリンホールディングス 有価証券報告書「第179期(2017年12月期)注記「38.非継続事業」「27.キャッシュ・フロー」」
  • キリンホールディングス 有価証券報告書「第168期〜第178期(連結貸借対照表、セグメント情報)」

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