この判断の推移で目を引くのは、同じ経営陣が2年続けて正反対の答えを出したことである。1989年のフルライン戦略は、他社の主力すべてに対抗商品をぶつける全方位の防衛であり、守るべきものが最も多い首位企業にとって自然な発想であった。それが流通の混乱を招いて挫折し、翌年は一転して一番搾り1本への集中で成功した。全方位に構えるほど焦点は薄まり、絞るほど力が届くという対照は、攻める挑戦者ではなく守るガリバーの側から示された点で示唆に富むと推察される。
同時に、この反攻には限界も刻まれている。一番搾りはラガーの否定ではなく、ラガーを温存したままの二枚看板であり、ドライが突きつけた市場の地殻変動そのものへの回答は先送りされた。シェア6割時代の生産体制と人員は残り、首位の座は11年後に失われた。ヒット商品は守勢を一時押しとどめても、構造は変えない。一方で、防衛戦の中から生まれた一番搾りは30年を超えて主力ブランドであり続けており、追い込まれてからの集中がかえって長寿の資産を生むことを、この決断は示している。