IFPの株主提案4件の否決(2020年・キリンHDの決断)

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論点 非中核事業の売却要求に応じるか
キリンHD:業績の推移
売上高(億円)営業利益率(%)
6,000億円の自己株式取得と非中核事業売却の要求の拒否と、多角化路線の堅持

何をなぜ決めたか:6,000億円の自己株式取得と非中核事業売却の要求の拒否と、多角化路線の堅持

概要

2020年3月27日の第181回定時株主総会で、株主1名から出された第6号議案から第9号議案までの4件の株主提案をすべて否決した。求められたのは、総会終結から1年以内に3億株・6,000億円を上限とする自己株式の取得と、取締役2名の選任、取締役報酬の枠組みの変更である。

背後にあるのは非中核事業の売却要求だった。磯崎功典社長のもと、キリンは食・医・ヘルスサイエンスを統括する多角化路線を堅持した。

背景

2019年12月期はビール事業の伸び悩みに加え、傘下の協和発酵バイオで製造工程の問題が表面化し、営業利益が前期の1,983億円から877億円へ減少していた。多角化への市場の疑念が強まるなか、キリン株の約2%を保有するIFPが、酒類本業への集中と株主還元の拡大を迫った。

内容

提案の理由は招集通知に提案株主の原文のまま載った。 『このような事業の多角化は、株主が期待する結果をもたらしておらず、市場から評価されていません』 というのが骨子で、企業価値は各事業の価値の合計から50%以上割り引かれて評価されているという見立てである。売却の対象に挙がったのは協和キリン・協和発酵バイオ・ファンケルで、保有する協和キリン株とファンケル株の市場価値はおおよそ8,760億円と見積もられている。

取締役会は4議案すべてに反対した。発行済株式総数914百万株の約3割にあたる取得は大規模な負債調達を要し、財務規律を著しく毀損する、というのが反対の理由である。

含意

株主提案はすべて否決された。自己株式の取得は賛成8.40%、取締役の報酬額改定は2.95%、ニコラス・E・ベネシュ氏の選任は35.62%、菊池加奈子氏の選任は20.00%である。会社提案は5議案すべてが可決され、磯崎功典氏の取締役選任は95.18%の賛成を得た。

ただし会社提案のうち業績連動報酬制度の改定は71.92%、三好敏也氏の選任は76.58%にとどまり、株主の目は報酬と人事に向いていた。磯崎功典氏の賛成率は翌2021年の第182回総会で93.77%へ下がり、2022年の第183回で98.36%へ戻る。

いつ何が起きたか 7件
当時の取締役 12名

当時の取締役(2020年3月株主総会決議)

  • 磯崎功典:社長
  • 西村慶介:副社長
  • 三好敏也:常務執行役員
  • 荒川詔四:取締役
  • 横田乃里也:常務執行役員
  • 小林憲明:常務執行役員
  • 森正勝:取締役
  • 柳弘之:取締役
  • 松田千恵子:取締役
  • 塩野紀子:取締役
  • ロッドエディントン:取締役
  • ジョージオルコット:取締役
考察:二つの見取り図のあいだで
考察

考察:二つの見取り図のあいだで

この総会が問うたのは、企業価値の源泉をどこに置くかという、単純だが決着しにくい問いであった。IFPの見取り図では、キリンの価値は評価の高いビール・飲料に凝縮しており、性格の異なる医薬やヘルスサイエンスの同居はその評価を薄める要因となる。対する磯崎功典氏(社長)の見取り図では、発酵とバイオという共通の技術基盤の上に食・医・ヘルスサイエンスを並べることでこそ、酒類の成熟を超える成長が描ける。株主の多数は後者を選んだが、それは多角化が正しいと確定させたのではなく、経営陣に時間の猶予を与えた選択と思われる。

猶予である以上、証明の責任は残った。総会後にキリンが健康事業の買収を重ねた足取りは、退けた本業集中論への反証を数字で示そうとする動きとして読める。もっとも、多角化した事業構成の評価は、個々の買収が利益に結実してはじめて定まる。約2%の株主が投げた問いは、否決という形式で退けられても、事業ポートフォリオの成否が明らかになるまで、キリンの経営に問いとして残り続けているだろう。

Yutaka Sugiura, 2026年7月
数字で見る 3表

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図と表

キリンHD:第181回定時株主総会の議決権行使の結果

キリンHD:第181回定時株主総会の議決権行使の結果
(%) 賛成比率 備考
第1号議案 剰余金の処分(会社提案) 97.9 可決。賛成7,017,884個・反対4,546個・棄権1,768個
第2号議案 取締役選任 磯崎功典氏(会社提案) 95.18 可決。ほかの11名は87.00〜95.36
第2号議案 取締役選任 三好敏也氏(会社提案) 76.58 可決。会社提案の取締役候補者12名のうち最も低い
第3号議案 監査役選任 鹿島かおる氏(会社提案) 97.8 可決
第4号議案 業績連動報酬制度の改定(会社提案) 71.92 可決。会社提案5議案のうち最も低い
第5号議案 社外取締役の報酬額改定(会社提案) 89.48 可決
第6号議案 自己株式の取得(株主提案) 8.4 否決。賛成602,276個・反対6,415,292個・棄権5,180個
第7号議案 譲渡制限付株式報酬(株主提案) 21.01 否決
第8号議案 取締役の報酬額改定(株主提案) 2.95 否決。全議案で最も低い
第9号議案 取締役選任 ニコラス・E・ベネシュ氏(株主提案) 35.62 否決。株主提案4議案のうち最も高い
第9号議案 取締役選任 菊池加奈子氏(株主提案) 20 否決
出所:キリンホールディングス「第181回定時株主総会における議決権行使の結果について」(2020年3月30日)
出所:キリンホールディングス「第181回定時株主総会における議決権行使の結果について」(2020年3月30日)

キリンHD:社長の取締役選任議案の賛成比率の推移

キリンHD:社長の取締役選任議案の賛成比率の推移
(%) 磯崎功典氏の賛成比率 備考
第181回定時株主総会(2020年) 95.18 株主提案が出された総会
第182回定時株主総会(2021年) 93.77
第183回定時株主総会(2022年) 98.36
第184回定時株主総会(2023年) 98.19
第185回定時株主総会(2024年) 97.73 3月に南方健志氏が社長に就任し、磯崎功典氏は会長CEOとなる
第186回定時株主総会(2025年) 93.16
出所:キリンホールディングス「定時株主総会における議決権行使の結果について」(第181回〜第186回)
出所:キリンホールディングス「定時株主総会における議決権行使の結果について」(第181回〜第186回)

株主提案の条件

株主提案の条件
科目 概要 備考
対象の総会 第181回定時株主総会 2020年3月27日開催。議決権を行使できる株主の議決権の総数は8,672,533個
提案株主 株主1名 名称と所有比率は招集通知に記載がない。提案の理由でabetterkirin.comを挙げた
株主提案の議案 第6号議案から第9号議案 会社提案は第1号議案から第5号議案まで。議案の要領と理由は原文のまま掲載された
第6号議案 自己株式の取得 3億株・6,000億円を上限 総会終結から1年以内。2019年11月決議の6,000万株・1,000億円枠への追加を求めた
第7号議案 譲渡制限付株式報酬 年額12億円以内 社外取締役を除く取締役が対象。基本報酬・賞与の年額とは別枠とする
第8号議案 取締役の報酬額改定 年額6億円以内 うち社外取締役分は年額8,000万円以内。第7号議案の可決を条件とする
第9号議案 取締役2名選任 ニコラス・E・ベネシュ氏と菊池加奈子氏 両氏とも所有する当社株式の数は0株
提案の理由 コングロマリット・ディスカウント 各事業の価値の合計から50%以上割り引かれて評価されているという提案株主の見立て
売却を求めた事業 協和キリン・協和発酵バイオ・ファンケル 保有する協和キリン株とファンケル株の市場価値をおおよそ8,760億円と見積もった
取締役会の意見 4議案すべてに反対 発行済株式総数914百万株の約3割の取得は財務規律を著しく毀損するというのが理由
会社提案と両立しない議案 第7号議案・第8号議案 報酬に関する会社提案の第4号議案・第5号議案とは両立しない議案として扱われた
可決の要件 出席議決権の過半数の賛成 第9号議案は議決権の3分の1以上の出席が加わる。賛否無記載は株主提案に反対
議決の結果 4議案すべて否決 会社提案の第1号議案から第5号議案までは、すべて可決された
出所:キリンホールディングス 第181回定時株主総会招集ご通知(株主総会参考書類)・「第181回定時株主総会における議決権行使の結果について」(2020年3月30日)
出所:キリンホールディングス 第181回定時株主総会招集ご通知(株主総会参考書類)・「第181回定時株主総会における議決権行使の結果について」(2020年3月30日)
当時の取締役 12名

当時の取締役(2020年3月株主総会決議)

  • 磯崎功典:社長
  • 西村慶介:副社長
  • 三好敏也:常務執行役員
  • 荒川詔四:取締役
  • 横田乃里也:常務執行役員
  • 小林憲明:常務執行役員
  • 森正勝:取締役
  • 柳弘之:取締役
  • 松田千恵子:取締役
  • 塩野紀子:取締役
  • ロッドエディントン:取締役
  • ジョージオルコット:取締役
参考文献

参考文献

参考

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