飯田グループホールディングスファーストウッド子会社化に始まる建材・木材の垂直統合
売値を市場に決められる量産モデルで、原価の側をどこまで自社へ取り込めるか
- 概要
- 2014年4月7日、飯田グループホールディングスが木材加工のファーストウッド(福井市)の発行済株式の88.79%を約8億円で取得すると発表し、5月22日に子会社化した経営判断である。ここから木材・ガラス・住宅設備・内装建材のメーカーを順に取り込み、2021年には資材調達を担う4社を中間持株会社の下へ集める会社分割を決めた。
- 背景
- パワービルダーの戸建分譲では、周辺の相場から逆算して売値が先に決まり、利益は原価の削り幅で決まる。1棟当たりの標準的な建築費原価は850万円程度とされ、同じ仕様を工務店に頼めば最低1,200万円以上かかる差が競争力を支えていた。2013年11月の6社統合で年間数万棟の発注量が1つにまとまると、削る余地は資材の買い方へ移った。
- 内容
- ファーストウッドは集成材の製造とプレカット加工を手がけ、取得前から飯田グループ各社へ資材を供給していた。飯田グループホールディングスは既保有の24.14%を88.79%へ引き上げ、取得価額はアドバイザリー費用を含めて7億9,400万円であった。以降、2016年に複層ガラスのIGウインドウズ、2019年に住宅設備のファーストプラス、2021年に内装建材のオリエントを加えた。
- 含意
- 飯田グループホールディングスは、川上から川下まで自社グループ内に供給網を築いた体制として事業を説明している。ただ資材価格そのものの振れは残り、資材高が響いた2024年3月期の営業利益は591億円、営業利益率は4.1%と、2022年3月期の11.1%から下がった。
請求書を送ってきた相手を買う
戸建分譲の量産は、売る側が価格を決められない商売である。周辺の相場が上限を決め、土地の仕入れ値は競り合いで決まる。残るのは建てる原価で、飯田グループホールディングスが2014年から重ねてきたのは、その原価の内側へ会社ごと入っていく作業であった。木材を挽く会社、ガラスを組む会社、キッチンをつくる会社、ドアと床材をつくる会社——買ったのはいずれも、それまで請求書を送ってきた相手であった。取引条件の交渉を、社内の管理へ置き換えた買い物といえる。
置き換えてみて見えたのは、原価の内側にも読めない部分が残るという事実であった。木材価格の急騰は2021年に自社の仕入れを直撃し、翌年に手に入れたロシアの森林は戦争によって使いにくくなった。2024年3月期の営業利益率4.1%は、資材メーカーを4社抱えたあとの数字である。垂直統合は買った工程の採算を自分の帳簿へ移す作業で、その工程がさらされる相場そのものを消しはしない。飯田グループホールディングスが次に握ろうとしているのは、加工でも原料でもなく、顧客へ直接売る販売の側にある。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
背景
売値が先に決まる商売
パワービルダーの戸建分譲では、周辺の相場から逆算して売値を先に置き、そこから土地の仕入れ値と建築原価を決める。首都圏で建売住宅の仲介を手がける業者は2015年の取材で、1棟当たりの標準的な建築費原価を850万円程度とし、同じ仕様の建物を工務店に見積もらせれば最低1,200万円以上かかると説明している。売値から逆算した土地の仕入れ、グループ企業内での建材の共通化、そして年2〜3回転させる速さが、その差を支えていた[1]。
原価を削る手立ては、統合の前後で性質が変わった。2000年代の武器は工期の短縮と分離発注で、飯田産業は在来工法で80日かかる工期を通気壁パネルの採用によって実働49日まで縮め、東栄住宅は材工一体の請負を分離発注に切り替えてコストを下げていた。工期と工法で詰められる幅は、量産を続けるうちに薄くなる。2013年11月の6社統合で年間数万棟の発注量が1つの傘の下に集まると、次に残ったのは資材を誰からいくらで買うかという問題であった[2]。
4万棟の発注量
統合後の飯田グループホールディングスは、年間約4万棟の分譲戸建住宅を供給し、国内の分譲戸建住宅市場の3割前後を占める規模となった。同社は仕様の規格化・標準化と大量発注によって資材調達コストの削減を進め、必要な木材を工場であらかじめ加工するプレカットで建築現場の作業を減らしている。買う量が増えるほど資材メーカーとの価格交渉は有利になり、同時に、供給が滞ったときの痛手も重くなる[3]。
連結売上収益は2014年3月期の7,538億円から2015年3月期に1兆1,881億円へ伸び、規模が一段上がった。そこで飯田グループホールディングスが採ったのは、資材を安く買う交渉ではなく、資材をつくる会社そのものを買う方針であった。価格競争力をさらに強化するため、資材調達の段階からコストダウンを図るべく木材・ガラス・住設機器といった資材メーカーをM&Aでグループ内に取り込んできた、という説明は、10年後の統合報告書にも記されている[4][5]。
決断
取引先を連結へ入れる
2014年4月7日、飯田グループホールディングスはファーストウッド(福井市)の発行済株式の88.79%を取得すると発表した。ファーストウッドは集成材の製造とプレカット加工を手がける木材製造会社で、取得前から飯田グループ各社へ資材を供給していた。飯田グループホールディングスはすでに24.14%を保有しており、追加取得を含めた取得価額はアドバイザリー費用を含めて7億9,400万円、取得予定日は5月22日とされた。ファーストウッドの売上高は254億円、営業利益は3億9,000万円であった[6][7]。
取得の狙いは、住宅資材の安定的な供給と調達コストの削減に置かれた。飯田グループホールディングスは、子会社化により安定的かつ効率的な資材供給を可能とし、資材調達コストを削減すると説明している。それまで請求書を送ってくる取引先であった会社を連結へ入れたことで、集成材の製造とプレカット加工の採算が、グループ内部の数字に変わった。以後、木材加工はその他事業のなかの一事業として、飯田グループホールディングスの決算に載る[8][9]。
窓・住設・内装へ広げた買収
木材の次に手を付けたのは、窓と住宅設備と内装建材であった。2016年7月に伊藤忠ウインドウズの株式を取得してIGウインドウズとし、複層ガラスの製造販売を傘下に収めた。2019年10月にはシステムキッチンなど住宅設備機器を製造販売するファーストプラスを、2021年1月には内装建材のオリエント(群馬県沼田市)を子会社にした。オリエントはドア・フロア・階段・収納などを製造販売しており、取得の理由には住宅用内装建材の安定的な調達とコストシナジーの創出が挙げられた[10][11]。
買い集めた資材会社を1つにまとめる段階が2021年に来た。飯田グループホールディングスは、木材のファーストウッド、サッシ・ガラスのIGウインドウズ、住宅設備のファーストプラス、内装建材のオリエントの4社について、全株式を承継する中間持株会社ファーストマテリアルズを設けると決めた。新会社にはグループの資材調達事業の戦略立案と経営管理を担わせる設計で、当初は2021年10月1日を分割期日としたが、分割計画書の作成に時間を要して期日を改めた[12][13]。
結果
川上から川下までの一貫体制
飯田グループホールディングスは、土地の仕入れから設計・資材調達・施工・販売・アフターサービスまでを自社グループ内に持つ体制として事業を説明している。川上から川下まで自社グループ内に供給網を築くことで、コストを抑えた住宅建設と全棟の住宅性能評価の取得を両立させたという整理である。2024年3月期の分譲戸建住宅の販売棟数は40,493棟、分譲戸建住宅市場のシェアは28.3%で、この供給量を背景とする対外交渉力と、全国46都道府県に敷いた営業・施工のネットワークを経営資源に挙げている[14][15]。
上流をたどる動きは国内にとどまらなかった。飯田グループホールディングスは2014年9月にロシアへ現地法人を置き、2022年1月にはロシア極東の林業大手RFPグループ19社を子会社化して森林そのものを抱えた。ファーストウッドはスギの苗木生産まで手がけ、製材の過程で出る木質バイオマスを工場の蒸気と電力に回している。資材の内製化は、加工の工程から原料の産地まで届いた[16][17]。
原価を握っても残る振れ
内製化の効き目は、住宅市況が良い年に数字へ出た。2022年3月期の連結営業利益は1,533億円、売上収益に対する営業利益率は11.1%で、持株会社の設立以来の最高水準に達した。一方、資材価格が上がり住宅需要が反落した2024年3月期には、営業利益が591億円、営業利益率は4.1%まで下がった。資材会社を4社抱えたあとでも、住宅市況と資材市況の振れは損益に残った[18]。
それでも飯田グループホールディングスは、資材調達機能の強化を基本戦略に残した。2025年10月発行の統合報告書では、住宅建築の上流工程である資材調達・加工のプロセスに遡って効率化を進め、確保済みの森林資源とのシナジーを図るとしている。木材価格の上昇についても、自社で森林資源を保有しているためグループ連結ベースでの財務的な影響は限定的だとする。次に挙げているのは、グループ内の販売会社を通じて顧客へ直接売る体制の拡大で、握る先は加工と原料から販売の側へ移った[19][20]。
- 日本経済新聞(2014年4月7日)「飯田GHD、木材加工会社を子会社化 部材内製化の一環」
- M&A Online(2014年4月7日)「飯田グループホールディングス<3291>、住宅資材提供のファーストウッドを子会社化」
- 日本M&Aセンター M&Aニュース(2014年3月7日)「飯田グループHD(3291)、ファーストウッドを子会社化へ」
- 日本M&Aセンター M&Aニュース(2021年1月22日)「飯田グループHD、内装建材の製造販売を行うオリエントの株式取得、完全子会社化」
- ハウジング・トリビューン Vol.622(2021年12号)「住宅産業のキーワード「ファーストマテリアルズ」とは」
- 飯田グループホールディングス 適時開示(2021年9月22日)「会社分割(簡易新設分割)の分割期日等の変更に関するお知らせ」
- 飯田グループホールディングス 公式サイト「沿革」
- 飯田グループホールディングス 統合報告書2024
- 飯田グループホールディングス 統合報告書2025
- 飯田グループホールディングス 有価証券報告書(連結・IFRS)
- 週刊東洋経済 2004年10月23日号「[特集]不動産「底値買い」の成算 第1部 “変質”する住宅市場」
- 週刊東洋経済 2015年5月15日号「戸建て1000万円台が続出! 郊外で進む戸建てデフレ」