三菱レイヨンの子会社化(2009年・三菱ケミカルグループの決断)

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論点 石化赤字の翌年に大型買収へ踏み切るか
三菱ケミカルグループ:業績の推移
売上高(億円)経常利益率(%)
公開買付けと株式交換の二段で2,126億円を投じた、MMAと炭素繊維の取り込み

何をなぜ決めたか:公開買付けと株式交換の二段で2,126億円を投じた、MMAと炭素繊維の取り込み

概要

2009年11月19日、三菱ケミカルホールディングスと三菱レイヨンがそれぞれの取締役会で経営統合を決議し、基本合意書を締結した。持株会社が2010年2月17日から3月19日まで公開買付けを実施し、3月30日に議決権の78.1%を取得して三菱レイヨンを連結子会社とした。取得原価は171,390百万円で、同年10月1日の株式交換による追加取得41,268百万円を合わせると2,126億円に上る。

背景

三菱ケミカルホールディングスは2009年3月期に連結で当期純損失671億円を計上した。ケミカルズセグメントが営業損失555億円、ポリマーズセグメントが同129億円と、石化系の2セグメントが揃って赤字に沈んだ期であり、不採算事業からの撤退を含む事業構造改革の途上にあった。

内容

三菱レイヨンは化成品・樹脂、アクリル繊維・アクリロニトリル及び誘導品、炭素繊維・複合材料、アセテート、機能膜を手がける。買収の直前にあたる2009年5月には、MMAモノマー世界最大手の英ルーサイトの買収を完了していた。有報は統合の理由を、両社の経営資源を一体化して企業規模の拡大と強固な事業基盤の確立を図り、事業競争力と開発力を強化することと記す。

含意

決算日直前の取得であったため会計処理は暫定で、のれん77,122百万円は翌期に取得原価の配分が完了して62,450百万円へ14,672百万円減額された。企業結合が期首に完了したと仮定した場合の三菱レイヨン分の当期純損益は△6,055百万円で、取り込んだ時点では赤字の事業であった。

いつ何が起きたか 8件
考察:赤字の直後に打った拡大
考察

考察:赤字の直後に打った拡大

この買収の芯にあるのは、収益が最も悪化した直後に次の収益源を取りにいった点である。2009年3月期はケミカルズが営業損失555億円、ポリマーズが同129億円で、連結の当期純損失は671億円に達していた。その翌年度に2,126億円を投じ、総資産を一挙に5,527億円押し上げる会社を取り込んでいる。三菱レイヨン自身も2010年3月期は連結で当期純損失50億円、期首に結合したと仮定した通期換算の当期純損益も△6,055百万円で、買った時点では赤字の事業であった。逆風のなかで規模を選んだ判断であったとみられる。

取り込んだ事業がそのまま安定した果実になったわけではない。決算日直前の取得で会計処理は暫定にとどまり、翌期に配分が完了するとのれんは77,122百万円から62,450百万円へ14,672百万円減った。そのうえで株式交換の追加取得で9,683百万円が積み増されている。ひとつの大型買収が完結して終わるのではなく、数字そのものが後から書き換えられ、事業の区分も繰り返し組み替えられた。2017年には三菱レイヨンという法人自体が合併で消え、MMAは1社のなかの部門へ戻っている。

Yutaka Sugiura, 2026年7月
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図と表

三菱ケミカルグループ:のれんと総資産の推移

のれん(百万円)のれん率(%)
三菱ケミカルグループ:のれんと総資産の推移
(百万円) のれん総資産 備考
2005年3月期 12,1201,970,528 第1期有報の前連結会計年度欄。当時の科目名は連結調整勘定
2006年3月期 6,6512,126,612
2007年3月期 18,0432,318,832
2008年3月期 98,7462,765,837 田辺製薬との合併で85,040、三菱樹脂との株式交換で2,036を計上
2009年3月期 89,3282,740,876
2010年3月期 171,6993,355,097 三菱レイヨン分77,122は暫定値。総資産は同社の連結で552,756増えた
2011年3月期 154,8443,294,014 配分の完了で三菱レイヨン分は62,450へ。株式交換で9,683を追加計上
2012年3月期 141,8003,173,970
2013年3月期 179,9373,307,758
2014年3月期 180,0923,479,359
2015年3月期 243,7974,323,038 大陽日酸の連結子会社化による増加
出所:三菱ケミカルホールディングス 有価証券報告書 第1期〜第10期(連結貸借対照表)
出所:三菱ケミカルホールディングス 有価証券報告書 第1期〜第10期(連結貸借対照表)

買収の条件

買収の条件
科目 概要 備考
被取得企業 三菱レイヨン㈱ 化成品・樹脂、アクリル繊維、炭素繊維・複合材料、アセテート、機能膜等
企業結合を行った主な理由 経営資源の一体化 有報は「企業規模の拡大と強固な事業基盤の確立を図る」と記す
基本合意の決議日 2009年11月19日 両社の取締役会で経営統合を決議し、同日に基本合意書を締結した
公開買付期間 2010年2月17日〜3月19日 三菱レイヨンの発行済株式(自己株式を除く)のすべてが対象
企業結合の法的形式 現金を対価とする株式取得
企業結合日 2010年3月30日 みなし取得日は3月31日で、当期の連結損益計算書に業績は含まれない
取得した議決権比率 78.1% 結合直前1.1%に77.0%を追加取得。発行済株式ベースでは74.5%
取得原価 171,390百万円 対価170,158百万円、取得に直接要した費用1,232百万円
受け入れた資産 552,756百万円 流動資産175,488百万円、固定資産377,268百万円。暫定的な金額
引き受けた負債 412,361百万円 流動負債134,044百万円、固定負債278,317百万円。暫定的な金額
のれん(暫定) 77,122百万円 20年の均等償却。決算日直前の取得で暫定的な会計処理を行った
のれん(確定) 62,450百万円 2011年3月期第3四半期に配分が完了し14,672百万円を減額
通期換算した売上高 365,047百万円 期首に結合したと仮定した概算額。監査証明を受けていない
通期換算した当期純損益 △6,055百万円 同じ概算で営業利益3,299百万円、経常損失△8,492百万円
完全子会社化の効力発生日 2010年10月1日 株式交換。三菱レイヨン株は2010年9月28日に上場廃止となった
株式交換比率 三菱レイヨン1:三菱ケミカルHD0.80 交付株式数99,681,436株。すべて持株会社の自己株式を充当した
追加取得の取得原価 41,268百万円 取得に直接要した費用はない。のれん9,683百万円を20年均等償却
取得原価の合計 212,658百万円 公開買付け171,390百万円と株式交換41,268百万円の合計
出所:三菱ケミカルホールディングス 有価証券報告書 第5期(2010年3月期)・第6期(2011年3月期)【企業結合等に関する注記】【経営上の重要な契約等】
出所:三菱ケミカルホールディングス 有価証券報告書 第5期(2010年3月期)・第6期(2011年3月期)【企業結合等に関する注記】【経営上の重要な契約等】
参考文献

参考文献

参考
  • 三菱ケミカルホールディングス 有価証券報告書 第5期・第6期
  • 三菱レイヨン 有価証券報告書 第85期
  • 三菱ケミカルグループ 有価証券報告書【沿革】
  • 三菱ケミカルホールディングス 有価証券報告書「第5期(2010年3月期)【企業結合等に関する注記】【経営上の重要な契約等】【重要な後発事象】」
  • 三菱ケミカルホールディングス 有価証券報告書「第6期(2011年3月期)【企業結合等に関する注記】」
  • 三菱レイヨン 有価証券報告書「第85期(2010年3月期)【経営上の重要な契約等】【大株主の状況】」
  • 三菱ケミカルホールディングス 有価証券報告書「第1期〜第10期(連結貸借対照表、事業の種類別セグメント情報)」

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