三菱ケミカルグループ三菱樹脂の株式交換による完全子会社化と機能商品の持株会社直下への集約
石化の傘下にあった機能商品を、なぜ公開買付け・現物配当・株式交換の3段を踏んで持株会社の直下へ移したのか
- 概要
- 2007年3月の公開買付け、9月の株式の現物配当、10月の株式交換という3段の手続きで、三菱ケミカルホールディングスは三菱化学の子会社であった上場企業・三菱樹脂を完全子会社とした。三菱樹脂は上場を退き、持株会社の直下に並ぶ事業会社となった。
- 背景
- 2005年度の石油化学は連結売上高の約45%を占めながら連結営業利益の約25%しか稼げずにいた。石化の振れを補ってきたのは医薬品で、連結営業利益の49%を稼ぐ機能商品は石化と補い合う関係になかった。
- 内容
- 三菱化学が公開買付けで三菱樹脂株を買い増し、その全株を現物配当で持株会社へ移したうえで株式交換を実施した。翌2008年4月には三菱化学の機能材料事業とポリエステルフィルムなど3社を三菱樹脂へ集め、統合新会社として発足させた。
- 含意
- 基礎化学品・機能商品・医薬の3事業会社を持株会社が横並びに束ねる体制ができた。ただしこの構えは9年で終わり、2017年4月に三菱樹脂は三菱化学・三菱レイヨンと合併して法人としては消滅した。
子会社の子会社であることをやめさせた再配置
三菱樹脂は2005年度に連結営業利益の49%を稼いだ機能商品の一角にありながら、石化を担う三菱化学の子会社という位置にとどまっていた。石化と機能商品の営業損益が7決算期のうち3決算期しか補い合わなかったという数字は、両者を同じ会社の下に束ねる根拠が乏しかったことを示している。株式交換の意味は上場廃止よりも、機能商品を石化の傘下から引き上げ、持株会社が直に投資を決められる位置へ移した点にあったとみられる。
ただし、引き上げた先で機能商品が独り立ちしたわけではない。2008年4月に4社を合流させた新生・三菱樹脂は、9年後の2017年に三菱化学・三菱レイヨンとの合併で法人ごと消え、機能商品は1社のなかの部門へ戻っている。会社を分けて自律させるか、1社にまとめて連携させるか。三菱ケミカルグループはこの10年で両方を試しており、2007年の株式交換はその振り子の一方の端にあたる判断であったといえる。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
背景
石化と補い合わない機能商品
2005年10月に発足した三菱ケミカルホールディングスの収益は、石油化学の市況に振られていた。2005年度の石油化学事業は連結売上高の約45%を占めながら、連結営業利益では約25%しか稼げていない。1996年度からの10年間で見た同部門の売上高営業利益率は、平均3.3%にとどまった。2007年1月末時点のスタンダード&プアーズによる長期債券発行体格付けはBBBマイナスで、Aマイナスの旭化成、BBBプラスの住友化学に見劣りしていた[1][2]。
石化の振れを補ってきたのは医薬品であった。1996年度からの10決算期のうち7決算期で、医薬品を含む部門の営業損益は石油化学部門の増減を打ち消している。一方、2005年度の連結営業利益の49%を稼いだ機能商品は、開示が細分化された7決算期のうち石化と補い合ったのが3決算期にとどまった。その機能商品の一角である三菱樹脂は、当時なお三菱化学の子会社として上場していた[3][4]。
決断
公開買付け・現物配当・株式交換の3段
取り込みは3段に分けて進んだ。2007年3月、三菱化学が三菱樹脂の株式を公開買付けにより追加取得する。同年9月、三菱化学は保有する三菱樹脂株のすべてを、株式の現物配当の方法で三菱ケミカルホールディングスへ渡した。そして同年10月、持株会社が三菱樹脂と株式交換を行い、同社を完全子会社とした。三菱樹脂は上場を退き、三菱化学の子会社から持株会社の直下へ移った[5]。
段を分けたことで、機能商品を石化と横並びに置く体制ができた。小林喜光社長は就任直後の取材に「もともと持ち株会社を作ったのは、医薬部門のアライアンスを進めるためです」と述べた。当時のグループをなお「遷移状態」とも呼んでいる(週刊東洋経済 2007/7/7)。そのうえで「今後も機能商品で弱い部門を補強するM&Aが必要かもしれない」とも語った。買い足す判断を持株会社の手元に置く構えであったとみられる[6][7]。
結果
「新生・三菱樹脂」と3事業会社の並び
完全子会社化の半年後、機能商品の集約が続いた。2008年4月、三菱化学は保有する三菱化学ポリエステルフィルム・三菱化学産資・三菱化学エムケイブイ3社の株式を持株会社へ移し、機能材料事業を吸収分割で三菱樹脂へ移管した。三菱樹脂はこの3社と合併し、統合新会社として発足した。小林社長が「自動車や電機向けなどの機能商品分野を統合した新生・三菱樹脂」と呼んだ会社である(週刊東洋経済 2007/7/7)[8][9]。
2008年4月以降、持株会社の直下には基礎化学品の三菱化学、機能商品の三菱樹脂、医薬の田辺三菱製薬が並んだ。株式交換を含む2008年3月期の連結売上高は2兆9298億円、営業利益は1250億円であった。ただしこの3社体制は長く続かなかった。2017年4月、三菱樹脂は三菱化学・三菱レイヨンとの合併で三菱ケミカルとなり、法人としては消えている。機能商品は再び1社のなかの部門へ戻った[10][11]。
- 三菱ケミカルグループ 有価証券報告書【沿革】
- 週刊東洋経済 2007年2月10日号「三菱ケミカルHD小林次期社長の成長戦略 利益変動激しい石油化学 補うのは医薬品の拡大」
- 週刊東洋経済 2007年7月7日号「TOP INTERVIEW 小林喜光 三菱ケミカルホールディングス社長 オレたちの存在意義は何か。その確認作業が必要な時です」
- 三菱ケミカルホールディングス 有価証券報告書(2008年3月期)