二つの買収は、値段の付き方が正反対であった。Vaupellでは受け入れた資産104億3百万円から引き受けた負債16億74百万円を差し引いた純資産87億29百万円に対して282億96百万円を払い、差額の193億67百万円をのれんとして立てている。川澄化学工業では逆に、取得した資産474億89百万円が負債81億88百万円と支払対価270億38百万円を上回り、81億1百万円の負ののれんを利益へ計上した。同じ「医療機器を第三の柱にする」という説明の下で、一方は将来の超過収益力を買い、他方は割安な純資産を買ったことになる。住友ベークライトはもともと素材そのものを作るより、絶縁材や封止材といった用途ごとの加工で付加価値を載せてきた会社であり、成形加工の領域を外から取り込む動きという点では二つは同じ線上にある。
もっとも、Vaupellで買った超過収益力は帳簿から消えた。日本基準では20年かけて均等に償却する計画だったのれんは、IFRSへ移した2016年4月1日の減損テストで165億40百万円が一気に落ち、帳簿価額は46億81百万円になった。減損はその後も続き、航空機内装部品事業ののれんは2019年3月期に、残る医療機器事業ののれんも2020年3月期に減少した。使用価値の算定に用いた税引前割引率は移行日時点で20.9%であり、買収から2年でその水準の収益力を見込めなくなったという判断がそこに表れている。ただし事業そのものは残り、Vaupell Industrial Plastics, Inc.として今もグループ内にある。のれんは消えたが工場と顧客は残った——第三の領域を外から組み上げる試みの帳尻は、のれんの消却とセグメントの積み上がりの両方で見るほかない。