住友ベークライトVaupell Holdings(米国)の買収と川澄化学工業の子会社化による医療機器・航空機部品事業の構築
半導体封止材への依存をどう和らげるか——医療機器・航空機部品という第三領域の置き方
- 概要
- 2014年4月、住友ベークライトは米国のVaupell Holdingsを約271億円で買収し、航空機内装部品と医療機器向け成形の領域へ進出した。2019年以降は川澄化学工業を段階的に取り込み、医療機器を半導体封止材に次ぐ第三の領域として組み上げた経営判断である。
- 背景
- 半導体封止材で世界シェア首位を保つ一方、2009年3月期には連結最終損益79億円の赤字へ沈むなど、単一事業への依存が業績の振れとして表れていた。2010年に就いた林茂社長は、新興国市場の深耕とともに事業構成の幅を広げる方針を掲げた。
- 内容
- 2014年6月にVaupell Holdingsを子会社とし、航空機内装部品への本格進出と医療機器事業の国際展開を図った。2019年3月に川澄化学工業と資本業務提携、2020年10月に完全子会社化、2021年10月にSBカワスミへ医療機器事業を承継した。
- 含意
- 素材そのものではなく加工で付加価値を載せる性格の延長として、半導体封止材に依存する収益構造へ第三の領域を加えた。ただし収益規模でEME事業に並ぶには、二度の大型買収を経てなお時間を要している。
買い集めた第三領域という性格
この一連の買収を、半導体依存からの多角化という言葉だけで括ると、住友ベークライトの性格を取り違える。同社はもともと素材そのものを作るより、絶縁材や封止材といった用途ごとの加工で付加価値を載せてきた会社であった。Vaupellの約271億円の買収も、ボーイングへ納めた航空機内装や医療機器向けの成形という加工の領域を外から取り込む動きであり、封止材で磨いた樹脂加工の技術を別の売り先へ差し向けた延長線上にあるとみることができる。2009年3月期に79億円の最終赤字へ沈んだ経験が、その時期に第三領域へ踏み切る後押しになったとみられる。
もっとも、第三の柱を組み上げるには長い時間がかかった。2014年のVaupell買収から、川澄化学の完全子会社化とSBカワスミの発足まで7年を要し、その間に約271億円と270億円の二度の大型買収を重ねている。航空機部品の樹脂成形と、カテーテルや透析回路の医療機器は事業として別物であり、束ねて一つの領域として運営するには会社分割による組織の組み替えを要した。半導体封止材で稼ぐ収益をどこで安定させるかという問いに、住友ベークライトは時間と資金をかけて外から答えを買い集めたといえる。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
背景
半導体封止材一本足の収益と2009年の赤字
住友ベークライトは半導体封止材で世界シェア首位を保つ一方、その収益は半導体市況の振れに左右されてきた。リーマン・ショック後の2009年3月期には、連結で営業損益16億円の赤字に落ち込み、特別損失の計上もあって親会社株主に帰属する当期損益は79億円の赤字へ沈んだ。封止材で稼ぐ力の裏側にある収益の不安定さが、次の柱を探す動機となっていた[1]。
2010年6月に社長へ就いた林茂氏は、新興国市場の深耕とともに、半導体に偏った事業構成の幅を広げる方針を掲げた。林氏は日刊工業新聞のインタビューで、日本の化学メーカーが高付加価値かつ最先端の分野で世界をリードしてきたと述べつつ、アジア新興国市場の開拓を課題に挙げている。封止材の収益をどの領域で安定させるかという問いが、医療機器と航空機部品への進出を後押しした[2]。
決断
Vaupell買収による航空機部品・医療機器への進出
2014年4月22日、住友ベークライトは米国のVaupell Holdingsの全株式を約271億円で取得すると発表し、同年6月に子会社とした。Vaupellは1947年に設立され、世界で初めてプラスチック部品をボーイングへ納入した航空機内装樹脂備品のパイオニアであり、あわせて世界の主要な医療機器メーカーへプラスチック部品を供給してきた企業であった。半導体封止材で培った樹脂加工の技術を、航空機と医療という別の売り先へ差し向ける買収であった[3][4]。
買収の狙いは、新規事業として航空機内装部品事業へ本格的に進出することと、医療機器事業の本格的な国際展開を図ることに置かれた。素材そのものを作るのではなく、成形と最終製品に近い加工で付加価値を載せる領域であり、値崩れに巻き込まれやすい汎用素材とは収益の作り方が異なる。半導体封止材のEME事業に次ぐ第三の領域を、自前で育てるのではなく買収によって外から取り込む選択であった[5]。
結果
川澄化学の取り込みと医療機器の領域化
Vaupell買収で医療分野の足がかりを得た住友ベークライトは、国内の医療機器メーカーへも手を伸ばした。2019年3月、カテーテルや人工腎臓回路を手がける川澄化学工業と資本業務提携を結び、約35億円で約2割を出資して持分法適用関連会社とした。透析や輸血に使う医療機器に強みをもつ川澄化学を取り込むことで、内視鏡治療や血管内治療など患者の負担が小さい低侵襲分野への展開を狙った[6]。
提携から1年余りを経て、住友ベークライトはさらに踏み込んだ。2020年7月31日、川澄化学工業への株式公開買付を発表し、1株1700円・買付代金270億3880万円で完全子会社化する方針を示した。同年10月に完全子会社化を終え、2021年10月には自社の医療機器事業を会社分割で切り出し、川澄化学と統合したSBカワスミへ承継した。2014年のVaupell買収から7年を経て、医療機器を第三の領域として束ねる体制が整った[7][8]。
- M&A Online(2014年4月22日)「住友ベークライト、米航空機部品メーカーのVaupell Holdingsを子会社化」
- M&A Online(2020年7月31日)「住友ベークライト、川澄化学工業をTOBで子会社化へ」
- 日本経済新聞「住友ベークライト、川澄化学に2割出資 医療機器強化」(2019年3月20日)
- 日刊工業新聞 2010年11月8日「インタビュー/住友ベークライト社長・林茂氏『新興国市場を深耕』」
- 住友ベークライト 有価証券報告書(2009年3月期・連結/2014年3月期・連結・IFRS)
- 住友ベークライト 有価証券報告書【沿革】