米Vaupellの買収(2014年・住友ベークライトの決断)

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論点半導体依存の脱却を買収で図るか
住友ベークライト:業績の推移
売上高(億円)営業利益率(%)
川澄化学工業の子会社化と併せた医療機器・航空機部品事業の構築

何をなぜ決めたか:川澄化学工業の子会社化と併せた医療機器・航空機部品事業の構築

概要

2014年4月21日にH.I.G. Capital, LLCの関連会社と契約を締結し、同年6月12日に米Vaupell Holdingsの全株式を取得原価282億96百万円で取得して子会社とした経営判断。新規事業としての航空機内装部品事業への本格的な進出と医療機器事業の国際展開が理由である。2020年10月には川澄化学工業を270億38百万円で完全子会社とした。

背景

半導体封止材で世界シェア首位を保つ一方、2009年3月期には営業損失16億39百万円、最終損失79億7百万円へ沈むなど、単一事業への依存が業績の振れとして表れていた。2010年6月に社長へ就任した林茂氏の下で、成長領域における積極的なM&A等を基本戦略の一つに掲げた。

内容

Vaupellは航空機内装部品の分野でボーイングの民間航空機のすべてのプラットフォームに成形部品とアッセンブリー部材を供給し、医療機器の分野では世界の主要な医療機器メーカーへプラスチック部品を納めていた。取得で193億67百万円ののれんを計上し、20年間の均等償却とした。川澄化学工業は2019年3月に23.10%を35億45百万円で取得して持分法適用関連会社とし、翌々年に全株を取得している。

含意

Vaupellののれんは、IFRSへ移行した2016年4月1日の減損テストで165億40百万円が落ち、その後も減損が続いて航空機内装部品事業ののれんは2019年3月期に消えた。川澄化学工業では逆に取得した純資産が対価を上回り、負ののれん81億1百万円を利益へ計上している。クオリティオブライフ関連製品の売上収益は2026年3月期に1,071億89百万円となった。

いつ何が起きたか8件
考察:買収を重ねて得た第三領域という性格
考察

考察:買収を重ねて得た第三領域という性格

二つの買収は、値段の付き方が正反対であった。Vaupellでは受け入れた資産104億3百万円から引き受けた負債16億74百万円を差し引いた純資産87億29百万円に対して282億96百万円を払い、差額の193億67百万円をのれんとして立てている。川澄化学工業では逆に、取得した資産474億89百万円が負債81億88百万円と支払対価270億38百万円を上回り、81億1百万円の負ののれんを利益へ計上した。同じ「医療機器を第三の柱にする」という説明の下で、一方は将来の超過収益力を買い、他方は割安な純資産を買ったことになる。住友ベークライトはもともと素材そのものを作るより、絶縁材や封止材といった用途ごとの加工で付加価値を載せてきた会社であり、成形加工の領域を外から取り込む動きという点では二つは同じ線上にある。

もっとも、Vaupellで買った超過収益力は帳簿から消えた。日本基準では20年かけて均等に償却する計画だったのれんは、IFRSへ移した2016年4月1日の減損テストで165億40百万円が一気に落ち、帳簿価額は46億81百万円になった。減損はその後も続き、航空機内装部品事業ののれんは2019年3月期に、残る医療機器事業ののれんも2020年3月期に減少した。使用価値の算定に用いた税引前割引率は移行日時点で20.9%であり、買収から2年でその水準の収益力を見込めなくなったという判断がそこに表れている。ただし事業そのものは残り、Vaupell Industrial Plastics, Inc.として今もグループ内にある。のれんは消えたが工場と顧客は残った——第三の領域を外から組み上げる試みの帳尻は、のれんの消却とセグメントの積み上がりの両方で見るほかない。

Yutaka Sugiura, 2026年7月
数字で見る3表

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図と表

住友ベークライト:のれんと総資産の推移

のれん(百万円)
住友ベークライト:のれんと総資産の推移
(百万円)のれん総資産備考
2012年3月期4,787201,315
2013年3月期4,557213,826
2014年3月期4,404236,825
2015年3月期28,060285,927Vaupellの取得で19,567を計上。日本基準のため20年で均等償却する計画だった
2016年3月期24,318260,122日本基準。IFRS移行日2016年4月1日の組替では減損後6,650
2017年3月期23,089263,742日本基準。IFRSでは1,584を減損して4,880
2018年3月期4,809279,879IFRS適用初年度。うちVaupellは2,796(航空機1,839、医療機器957)
2019年3月期2,557284,898航空機内装部品事業ののれん1,509を減損し、同事業の残高は消えた
2020年3月期2,205283,322米国の医療機器事業ののれん279を減損。残高は医療機器1,103と欧州1,102
出所:住友ベークライト 有価証券報告書 第121〜129期(連結貸借対照表、連結財政状態計算書、のれんおよび無形資産の注記)
出所:住友ベークライト 有価証券報告書 第121〜129期(連結貸借対照表、連結財政状態計算書、のれんおよび無形資産の注記)

住友ベークライト:クオリティオブライフ関連製品の推移

売上収益(百万円)事業利益率(%)
住友ベークライト:クオリティオブライフ関連製品の推移
(百万円)売上収益事業利益備考
2016年3月期68,815−日本基準。事業利益は第127期からの段階利益で、この期のセグメント利益は2,916
2017年3月期64,912−日本基準。セグメント利益は4,466
2018年3月期66,8795,110IFRS適用初年度。事業利益は売上収益から売上原価と販管費を控除した段階利益
2019年3月期69,5415,420
2020年3月期71,2075,567
2021年3月期78,5836,613川澄化学工業の連結は2020年10月から。取得日以降の売上収益は10,337
2022年3月期94,4447,427SBカワスミを通期で連結した最初の期
2023年3月期102,2739,210
2024年3月期102,1869,723
2025年3月期107,20311,782
2026年3月期107,18912,902
出所:住友ベークライト 有価証券報告書 第126〜135期(経営成績の分析、セグメント情報)
出所:住友ベークライト 有価証券報告書 第126〜135期(経営成績の分析、セグメント情報)

2件の買収の条件

2件の買収の条件
科目概要備考
Vaupell|被取得企業Vaupell Holdings, Inc.事業の内容は航空機内装部品、医療機器等の製造および販売
Vaupell|契約の締結日2014年4月21日相手方はH.I.G. Capital, LLCの関連会社(米国)。発行済普通株式の100%が対象
Vaupell|企業結合日2014年6月12日みなし取得日は2014年6月30日。連結した業績は2014年7月1日から2015年3月31日まで
Vaupell|取得の法的形式現金を対価とする株式取得米国子会社Sumitomo Bakelite North America Holding, Inc.を通じて取得した
Vaupell|取得した議決権比率100%現金を対価として株式を取得したことが取得企業を決定するに至った根拠
Vaupell|取得原価28,296百万円対価27,664百万円と取得に直接要した費用631百万円。暫定的に算定された金額
Vaupell|発生したのれん19,567百万円20年間にわたる均等償却。暫定値で、翌期に確定処理の注記は置かれていない
Vaupell|受け入れた資産合計10,403百万円流動資産5,057百万円、固定資産5,345百万円
Vaupell|引き受けた負債合計1,674百万円流動負債1,216百万円、固定負債457百万円
Vaupell|通期換算した売上高の増加4,086百万円期首に結合したと仮定した概算額。営業利益は357百万円。監査証明を受けていない
Vaupell|のれんの減損16,540百万円(2016年4月1日)IFRS移行日。航空機内装13,151、医療機器3,390。以後2020年3月期まで減損が続く
川澄|資本業務提携2019年3月20日3月26日に23.10%を取得して持分法適用関連会社とした。支出は3,545百万円
川澄|取得日2020年10月7日10月30日に100%を取得。取得日直前の所有割合23.04%、追加取得76.96%
川澄|取得対価27,038百万円全額現金。既存持分の公正価値4,101を加えた取得対価の合計は31,139百万円
川澄|取得関連費用322百万円連結損益計算書の販売費及び一般管理費に計上
川澄|負ののれん8,101百万円取得した純資産が取得原価を上回った差額。その他の収益に計上した
川澄|段階取得に係る差損4,598百万円既存持分を取得日の公正価値4,101百万円で再測定した結果。金融費用に計上
川澄|取得日以降の売上収益10,337百万円期首に結合したと仮定した連結売上収益は219,713百万円。監査を受けていない
川澄|商号変更と事業統合2021年10月1日SBカワスミへ商号変更。同日、住友ベークライトの医療機器事業を吸収分割で承継
出所:住友ベークライト 有価証券報告書 第124期(2015年3月期)【企業結合等関係】【経営上の重要な契約等】・第127期(2018年3月期)・第128期(2019年3月期)・第131期(2021年3月期)連結財務諸表注記
出所:住友ベークライト 有価証券報告書 第124期(2015年3月期)【企業結合等関係】【経営上の重要な契約等】・第127期(2018年3月期)・第128期(2019年3月期)・第131期(2021年3月期)連結財務諸表注記
参考文献

参考文献

参考
  • 住友ベークライト 有価証券報告書「第124期(2015年3月期)【企業結合等関係】【経営上の重要な契約等】」
  • 住友ベークライト 有価証券報告書「第127期(2018年3月期)連結財務諸表注記(のれんおよび無形資産、IFRSへの移行)」
  • 住友ベークライト 有価証券報告書「第128期(2019年3月期)連結財務諸表注記(のれんおよび無形資産、企業結合)」
  • 住友ベークライト 有価証券報告書「第131期(2021年3月期)連結財務諸表注記(企業結合)」
  • 住友ベークライト 有価証券報告書「第121〜135期(連結貸借対照表、連結財政状態計算書、経営成績の分析)」

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