蘭ロベコの2400億円買収による資産運用への本格進出
リーマンショックの危機対応を終えたオリックスは、なぜ史上最高額の欧州運用会社買収に踏み切ったか
更新:
- 概要
- 2013年2月19日、オリックスが、オランダの協同組合系金融大手ラボバンク傘下の資産運用会社ロベコ(Robeco Groep N.V.)の株式約90%を約19億3,500万ユーロ(約2,400億円)で取得する契約を締結したと発表した経営判断。同年7月1日に買収を完了し、買収額はオリックス史上最高、当時の日本企業による買収では最大級となった。
- 背景
- リーマンショックで不動産事業などの拡大が裏目に出て大きな打撃を受けたオリックスは、資産圧縮と海外・金融事業の強化で危機対応を進めていた。一方で資産運用分野の存在感は低く、預かり資産23兆円超の優良運用会社ロベコの取り込みは、運用ビジネスを一気に世界規模へ引き上げる機会であった。
- 内容
- 売り手のラボバンクはロベコ株の約10%を継続保有し、買収対価の一部は最大186億円分のオリックス株で受け取る形をとった。欧州に強くアジアが手薄なロベコに、オリックスのアジア営業網を掛け合わせる相乗効果を狙い、国内では首位の野村アセットマネジメントに匹敵する運用規模を得た。
- 含意
- 1989年の商号変更以来進めてきた総合金融サービスへの多角化の弧のうえに、運用会社の海外買収という一段が加わった。宮内義彦会長が「やっと危機対応を終えた」と語ったように、本件は危機からの回復のさなかに打たれた攻めの一手となり、運用という軸を事業ポートフォリオの主要な位置へ押し上げた。
危機後の攻めと、運用という軸
この買収の核にあるのは、危機からの回復途上という時機の選び方であった。株価が急落し格付けも引き下げられたさなかに、なお2,400億円を投じて欧州の優良運用会社を取りに行った判断には、平時であればこの価格では買えなかったという宮内会長の言葉どおり、危機を割安な買い場ととらえる読みがうかがえる。同時に、資本市場からの全幅の信頼が戻り切らないなかで、のれんの減損リスクを抱える大型買収に踏み切った点には、安定を求める格付会社と成長を求める株主とのあいだで綱を渡る緊張がにじんでいた。
もっとも、この一手が持つ意味は、単発の割安買収にとどまらない。1989年の商号変更で総合金融サービスを掲げて以来、オリックスは領域を次々に広げてきたが、資産運用という機能を世界規模で手にしたことで、事業投資会社としての性格が一段はっきりした。その後の完全子会社化や社名変更、運用資産残高の膨張は、この2013年の判断からひと続きに連なっている。危機対応の終わりに打たれた買収が、次の成長段階の輪郭をかたちづくったとみることができる。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
背景
リーマンショックからの回復と、資産運用の弱さ
オリックスは2000年代半ば、成長スピードを高めようと不動産事業などを拡大したところに、「百年に一度」とされた世界経済危機の直撃を受けた。株価は2006年の最高値3万8,150円から2009年初頭には1,707円まで急降下し、CPなど直接金融への依存度が相対的に高かったことも災いして、資金繰り不安を喧伝される時期もあった。以後は不動産を中心に資産圧縮を進めつつ、アジア・米国中心の海外事業や国内の生命保険、カードローン事業などを強化し、2013年3月期の予想純益1,100億円は危機直後の2009年3月期比で5倍強へと戻していた[1]。
回復の一方で、資産運用分野におけるオリックスの存在感は乏しかった。2010年に米国の中堅ファンド会社を買収してはいたものの、運用ビジネスとしての厚みには欠けていた。1989年の商号変更でリース会社から総合金融サービス企業への多角化を掲げて以来、生命保険や航空機リースなどへ領域を広げてきた同社にとって、本格的な運用機能をいかに手当てするかは、危機対応の先を見据えた課題として残されていた[2]。
買収対象となったロベコの厚み
買収の相手方となったロベコは、預かり資産23兆円超を抱える世界的な資産運用会社であった。リーマンショックに見舞われた1年を除いて過去10年間にわたり預かり資産を増やし続け、直近の2012年度は純益200億円、ROE14%をたたき出す優良会社であった。中堅規模ながらグローバルに展開し、機関投資家や個人投資家へ幅広い投資戦略を提供する独立系運用会社として、欧州を代表する存在の一つに数えられていた[3]。
ロベコの事業には、オリックスとの補完関係も見込まれた。ロベコは欧州に強い一方でアジアは手薄であり、オリックスがアジアで築いてきた営業網にロベコの運用ビジネスを乗せれば、双方に成長の果実が期待できると見込まれた。売り手のラボバンクがロベコ株の約10%を保有し続ける意向を示していた点も、シナジーへの期待が両社に共有されていたことをうかがわせた[4]。
決断
史上最高額の買収合意
2013年2月19日、オリックスは、ラボバンクが保有するロベコ株の約90%を約19億3,500万ユーロ(約2,400億円)で取得する契約を締結したと発表した。買収額はオリックス史上最高であり、当時の日本企業による買収では最大級となった。宮内義彦会長は会見で、世界経済が本当によい状況であればこの価格では買えなかった、と振り返り、危機のなかで割安に優良資産を取りに行けたとの認識を示した。この買収を経てオリックスは、国内で首位の野村アセットマネジメントに匹敵する運用規模を一挙に手にした[5][6]。
対価の組み方とシナジーの設計
買収スキームには、単純な現金取得にとどまらない工夫が組み込まれた。売り手のラボバンクはロベコ株の約10%を継続保有し、買収額の一部は最大186億円分のオリックス株で受け取る形をとった。株式での受け取りは、ラボバンク側もシナジーの果実を期待していたことの表れであり、オリックスにとっては欧州の有力銀行との提携関係を構築する足がかりにもなった。全額を現金で払い切らず、売り手を株主として残す設計が選ばれた[7]。
買収の眼目は、オリックスのアジア基盤とロベコの運用力を組み合わせる点にあった。欧州で強みを持つロベコが手薄なアジアへ、オリックスの営業網を通じて運用商品を広げれば、双方に成長余地が開けると見込んだ。1989年の商号変更以来、総合金融サービスへの多角化を進めてきたオリックスにとって、運用会社の海外買収は、金融サービス多角化の弧に連なる一段にあたった[8]。
結果
買収完了と、完全子会社化までの歩み
契約から約4カ月後の2013年7月1日、オリックスはロベコ株の取得を完了したと発表した。取得価額はロベコの直近の財務状況に応じて調整され、総額19億3,774万ユーロ(約2,507億円)となった。ラボバンクは約10%を継続保有し、ロベコの事業基盤の維持・拡大に協力する枠組みが敷かれた。この完了をもって、それまで国内中心に金融商品を提供してきたオリックスは、グローバル機関投資家を顧客とする本格的な運用会社の側面を強く帯びることとなった[9]。
買収後、オリックスはロベコとの関係をさらに深めた。2016年10月には残る株式を追加取得してロベコを完全子会社化し、2018年1月にはRobeco Groep N.V.をORIX Corporation Europe N.V.へ社名変更した。グループの運用資産残高は数十兆円規模に膨らみ、運用という軸が事業ポートフォリオのなかで主要な位置を占めるに至った。危機対応を終えた直後に打った一手が、その後のグループの姿を規定していった[10]。
- オリックス株式会社 ニュースリリース 2013年2月19日「Robeco Groep N.V. 株式取得に関する契約締結について」(https://www.orix.co.jp/grp/pdf/newsroom/newsrelease/130219_ORIXJ2.pdf)
- オリックス株式会社 ニュースリリース 2013年7月1日「Robeco Groep N.V. 株式取得の完了について」(https://www.orix.co.jp/grp/pdf/newsroom/newsrelease/130701_ORIXJ2.pdf)
- 週刊東洋経済 2013年2月25日号「NEWS&REPORT 03 完全復活への一里塚 オリックスが大型買収」(url:null)
- 日本経済新聞 2013年2月20日「オリックス、蘭運用大手を2400億円で買収」(https://www.nikkei.com/article/DGXNASGC19019_Z10C13A2EE8000/)
- オリックス 会社沿革(社史 02-history)
- オリックス 有価証券報告書(2013年3月期)