THKTHKによるTRW Automotiveの欧米L&S事業の譲受
国内発の自動車部品事業を、欧米の完成車メーカーの隣まで運ぶ
- 概要
- 2015年8月31日、THKはTRW Automotive(当時ZF Friedrichshafen AGのグループ企業)から欧州および北米のリンケージ アンド サスペンション(L&S)事業を譲り受けた。取得原価は現金493億30百万円で、2007年のリズム買収の4倍近い規模となった。
- 背景
- 2015年3月期の輸送用機器の売上高は529億56百万円で、産業用機器の1,647億22百万円に遠く及ばなかった。欧州には開発・生産・販売の基盤がなく、欧米の完成車メーカーと直接取引する足場が欠けていた。
- 内容
- 2015年4月21日の取締役会で決議し同日契約を締結。THK RHYTHM AUTOMOTIVEのミシガン・カナダ・GmbHの3社を設立し、チェコのTRW-DAS a.s.の株式を100%取得した。対象事業の2014年度売上高は550百万ドル、移る人員は約2,170名であった。
- 含意
- 譲受初年度の連結売上高は10.5%増の2,404億78百万円へ伸びた一方、営業利益は18.4%減の231億69百万円、営業利益率は9.6%へ低下した。2026年2月、THKはTRAホールディングスと欧米4社の譲渡を発表した。
493億円で買ったのは、時間と工場
2015年の判断は、2007年に置いた二本目の柱を欧米へ伸ばす一手であった。買った中身は、ドイツとチェコとカナダと米国にある5つの工場、約2,170名の人、そして欧米の完成車メーカーとの取引関係で、493億30百万円の対価に対して132億35百万円ののれんが立った。設備投資の波で上下する産業機器に、自動車の生産台数という別の波を組み合わせれば、連結の振れは小さくなる。その読みは、売上高の面では初年度から数字に表れている。
表れなかったのが利益率であった。譲受初年度の連結営業利益率は9.6%で、2014年に掲げた20%超の目標からはむしろ遠のいた。以後の10年でTHKが手を入れたのは北米輸送機器事業の構造改革であり、2025年12月期には699億円の純損失を計上している。493億30百万円で買った欧米の生産網は、2026年6月1日、TRAホールディングスとともにアドバンテッジパートナーズのファンドへ渡る。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
背景
国内に偏ったままの輸送用機器
リズムの買収から8年、輸送用機器の外部売上高は2015年3月期で529億56百万円に達したが、産業用機器の1,647億22百万円に比べれば3分の1にも届かない。地域別の売上高は日本1,133億61百万円に対し、米州348億56百万円・欧州204億56百万円である。自動車部品の顧客も日本と東南アジアに寄り、欧州には開発から生産、販売までを揃えた足場がなかった。欧米の完成車メーカーと直接取引するには、現地に工場と開発機能を持つ必要があった[1][2]。
一方でTHKは、2014年5月の決算説明会で「売上高3,000億円・営業利益率20%超」という長期目標を示していた。2015年3月期の連結売上高は2,177億円で、目標までは800億円以上の開きがある。産業用機器の伸びだけでその差を埋めるには時間がかかり、輸送用機器を一段大きくすることが目標に近づく条件になっていた。買収は、成長の速度を金額で買う手段として検討された[3][4]。
マレーシアで一度組んだ相手から
売り手のTRW Automotiveは、この時期にZF Friedrichshafen AGのグループ企業となっていた。THKにとって初めての相手ではない。2011年6月にはTRW Steering & Suspension(Malaysia)の株式を取得し、同年8月にTHK RHYTHM MALAYSIAへ社名を改めて東南アジアの生産に組み入れている。2012年2月にはメキシコのグアナファト州に生産と技術の2社を置いた。欧米のL&S事業は、その延長線上に出てきた案件であった[5]。
譲受の対象となった事業の2014年度の売上高は550百万ドル、利息控除前税引前利益は39百万ドルであった。拠点は欧州がドイツとチェコの生産工場2カ所にドイツの開発拠点、北米がカナダの2工場と米国の1工場で、THKに移る人員は約2,170名。THKの当時の連結従業員9,494人に対して2割を超える規模で、この譲受は人と工場をそのまま引き取る取引であった[6][7]。
決断
現金対価493億30百万円
2015年4月21日、THKは取締役会でTRW Automotiveから欧州および北米のL&S事業を譲り受けること、その一部は株式取得による子会社化とすることを決議し、同日付で契約を結んだ。企業結合日は同年8月31日である。法的形式は現金を対価とする株式取得および事業譲受で、THK RHYTHM AUTOMOTIVE MICHIGAN、同CANADA、同GmbHの3社を設立するとともに、チェコのTRW-DAS a.s.の株式を100%取得してTHK RHYTHM AUTOMOTIVE CZECHとした。契約時、譲受価額は約477億円と報じられている[8][9]。
有報に計上された取得原価は、現金及び預金による493億30百万円であった。ほかにアドバイザリー費用等の取得関連費用が14億87百万円かかっている。企業結合日に受け入れた資産は476億32百万円、引き受けた負債は115億36百万円で、のれんは132億35百万円が発生し、15年の均等償却とされた。のれん以外の無形固定資産には、顧客関連資産200億97百万円(償却13年)と技術関連資産6億83百万円(同10年)が配分されている[10]。
日米欧をつなぐ供給体制へ
有報が挙げた企業結合の理由は、欧州および北米での開発・製造・販売の機能等を拡充し、アジアパシフィックを加えたグローバルの水準で事業基盤を確立することであった。リズムが強かった日本と東南アジア、2012年に置いたメキシコ、そこへ欧州と北米が加わることで、日米欧の完成車メーカーへ同じ部品を供給する体制が形になる。相手先を通さず、欧米の主要メーカーと直接取引できる点も譲受の目的に挙げられていた[11][12]。
2007年の判断が産業機器の隣に二本目の柱を置くものだったのに対し、2015年の判断はその柱を欧米へ伸ばすものであった。買う対象も、日産系の販売網を持つ国内メーカーから、欧米の完成車メーカーと直接取引する工場群へ変わっている。金額でも、リズムの取得価額125億89百万円に対して493億30百万円と4倍近い。輸送用機器は、この一件で国内発の事業から欧米に生産を持つ事業へ性格を変えた[13]。
結果
売上は跳ね、利益率は落ちた
2016年3月期の輸送用機器の外部売上高は771億14百万円で、前期の529億56百万円から241億58百万円増えた。地域別では米州が348億56百万円から503億43百万円、欧州が204億56百万円から304億24百万円へ伸びている。連結売上高は前期比10.5%増の2,404億78百万円。一方で営業利益は18.4%減の231億69百万円にとどまり、売上高営業利益率は3.4ポイント下がって9.6%、売上高原価率は2.6ポイント上がって71.8%となった[14][15]。
販管費には事業譲受に伴う取得関連費用14億87百万円が乗った。加えて期末にかけて円高が進み、為替差損57億16百万円が営業外費用に立ったことから、経常利益は43.8%減の191億40百万円、親会社株主に帰属する当期純利益は40.2%減の135億75百万円となった。有報は、企業結合が期首に完了していたと仮定した場合の影響を売上高407億49百万円・営業利益21億80百万円と算定している。売上を4カ月分しか取り込んでいない期の数字であった[16][17]。
TRA体制の10年
2017年10月、THKは東京都港区にTRAホールディングス株式会社を設立し、本社も同月に港区芝浦へ移した。同じ年に決算期を3月期から12月期へ変更し、移行期の2017年12月期は9カ月の変則決算となっている。2018年12月期の連結売上高は3,535億円・営業利益528億円で、2014年に掲げた3,000億円の目標を超えた。リズムとTRAを合わせた輸送機器のグローバル体制が、この期の上振れを支えた[18][19]。
その後、2019年12月期は米中貿易摩擦の影響で営業利益183億円へ後退し、2020年12月期は営業損失85億円・当期純損失100億円となった。THKは北米輸送機器事業の構造改革に着手している。2025年12月期の連結業績は売上高2,404億円・営業利益144億円で、親会社株主に帰属する当期純損失は699億円。単体では、TRAホールディングスと欧米4社の株式に271億77百万円の評価損を計上し、譲渡時に見込まれる420億円を事業整理損失引当金繰入額として特別損失に積んだ。2026年2月2日、THKはこの5社をアドバンテッジパートナーズのファンドへ譲渡すると発表している。譲渡の予定日は2026年6月1日である[20][21][22]。
- THK 有価証券報告書 第45期(2015年3月期・連結)
- THK 有価証券報告書 第46期(2016年3月期・連結)
- THK 有価証券報告書 第49期(2018年12月期)【主要な経営指標等の推移】
- THK 有価証券報告書 第56期(2025年12月期)【沿革】
- THK 2014年3月期決算説明会(2014年5月)
- 日本M&Aセンター M&Aニュース(2015年4月22日)「THK、TRWの欧州及び北米におけるL&S事業を譲受け」
- M&A Online(2015年4月22日)「THK、米TRW Automotiveから欧州と北米のL&S事業を買収」
- 日本M&Aセンター M&Aニュース(2026年2月2日)「THK、自動車部品子会社5社をファンドに売却」