米ジョイ・グローバル買収による鉱山機械のフルライン化
資源市況が底にある時期に、大橋徹二社長はなぜ約3,000億円で持たざる領域を買い足したか
更新:
- 概要
- 2016年7月21日、コマツはコマツアメリカ㈱を通じて米ジョイ・グローバルを1株28.3ドル・総額約28.9億ドル(約3,000億円)で買収すると発表し、2017年4月に手続きを完了した経営判断。大橋徹二社長のもとで、鉱山機械のフルライン化を狙った買収であった。
- 背景
- コマツは建設機械と鉱山機械の総合メーカーでありながら、坑内掘り向けの機械や、露天掘り向けの超大型ロープショベル・ホイールローダ・ドラグライン・ドリルを持たなかった。資源価格に振れる鉱山ビジネスをフルラインで担う体制づくりが、長年の課題として残っていた。
- 内容
- 買収対象のジョイ・グローバルは1884年創業の米鉱山機械大手で、P&H・Joy・Montabert のブランドを持ち、坑内掘り・露天掘りの双方に製品群を擁した。従業員は約1万3,400人、2015年10月期の連結売上高は約31.7億ドル(約3,330億円)で、資源市況の低迷から前の期に比べ16%減であった。
- 含意
- コマツはキャタピラーに次ぐ規模で建機と鉱山機械の双方をそろえ、部品・サービスを含む鉱山ビジネスを取り込んだ。資源市況の底で買い進めた判断は、市況の振れをどう平準化し、建機と鉱山機械へ資本をどう配分するかという問いにつながっている。
建機と鉱山機械という二本柱
この買収の中心にあるのは、資源市況の谷でこそ持たざる領域を買い足すという時機の選び方であった。鉱山機械の需要は資源価格に連れて振れやすく、市況が高いときには買収額もふくらむ。市況が沈み、ジョイ・グローバルの売上も前の期を下回っていたこの時期に約3,000億円を投じた判断は、需要の谷を織り込んで買うという逆張りの色を帯びていた。持たなかった超大型機を一度にそろえ、キャタピラーと同じ土俵に立つ狙いは、市況が持ち直したのちの業績にひとまず表れたとみることができる。
もっとも、鉱山機械を丸ごと抱えたことは、資源価格に連動して振れる事業を建設機械と並べて持つという選択でもあった。建機と鉱山機械という二本柱に、限られた資本と経営の目配りをどう振り分け、市況の谷と山をどう平準化するかという問いは、フルライン化を果たした後も残る。部品・サービスの比重を高めて市況の波をやわらげる動きとあわせて見ると、ジョイ・グローバルの取り込みは、規模の拡大と収益の振れという二つの側面をコマツに同時にもたらしたといえる。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
背景
持たざる超大型鉱山機械
コマツは建設機械で世界2位に立つ総合機械メーカーでありながら、鉱山機械の製品群には手つかずの領域を残していた。地下を掘り進む坑内掘り向けの機械を手がけておらず、地表を削る露天掘りでも、鉱石を積み込むロープショベルや超大型ホイールローダ、ドラグライン、ドリルといった超重量級の機種を持たなかった。世界最大手のキャタピラーに対抗するうえで、鉱山ビジネスをひととおりの製品でそろえられない点が、長く積み残された課題であった[1]。
この空白を埋める狙いは、鉱山会社への提案力を高めることにあった。鉱山機械は、機械そのものだけでなく、稼働を支える部品や保守サービスまで含めて選ばれる。ジョイ・グローバルもコマツと同じく、顧客への直接販売と直接サービスの体制を重んじており、製品群を統合すれば、坑内掘りから露天掘りまでの機械と、その保守までを一社でまとめて担える。フルライン化は、単に機種を増やすだけでなく、鉱山ビジネス全体を一社で引き受ける体制づくりでもあった[2]。
資源市況の谷という時機
鉱山機械の需要は、鉄鉱石や石炭などの資源価格の上下に振り回されやすい。2015年から2016年にかけては世界的な資源市況の低迷が続き、コマツの2017年3月期の連結売上高は1兆8,029億円、営業利益は1,665億円へと、前の期の1兆8,549億円・2,049億円から縮んでいた。建設機械と鉱山機械をあわせて手がける事業構成は、資源開発の勢いが弱まると業績の重しを抱えやすい弱点も併せ持っていた[3]。
市況が谷にあるこの時期は、見方を変えれば、資源に関わる資産を安く買える好機でもあった。鉱山機械の需要は長い目で見れば新興国の資源開発とともに戻るとみられ、谷で仕込んで次の山に備える発想が働いていた。資源開発が盛り上がるときには鉱山機械メーカーの値もつり上がり、買収の対価はふくらむ。コマツは市況の沈んだこのタイミングをとらえ、持たない超大型機をまとめて取り込む道を選んだ。フルライン化という長年の課題に、市況の谷という時機を重ねて踏み込んだ判断であった[4]。
決断
コマツアメリカを通じた約3,000億円の買収
2016年7月21日、コマツは米国子会社のコマツアメリカ㈱を通じ、鉱山機械大手のジョイ・グローバルを買収すると発表した。コマツアメリカが設けた完全子会社を通じて全株式を取得する枠組みで、買付価格は1株あたり28.3ドル、取得総額は約28.9億ドル(約3,036億円)に上った。買収対象のジョイ・グローバルは1884年に創業し、P&H・Joy・Montabert のブランドで坑内掘り・露天掘りの双方に製品群を擁する、コマツが持たない領域を丸ごと抱える相手であった[5]。
買収の狙いは、コマツが持たない超大型鉱山機械を一挙に取り込み、製品を面でそろえることにあった。ジョイ・グローバルは露天掘り・坑内掘り向けの大型機械に強く、コマツが未参入だった超大型分野をまるごと埋める相手であった。従業員は約1万3,400人、2015年10月期の連結売上高は約31.7億ドル(約3,330億円)で、世界的な鉱山開発の低迷から前の期に比べ16%減っていた。市況の谷で売上を落としていた相手を、コマツはその谷ごと取り込んだ[6]。
結果
買収完了と鉱山機械のフルライン化
2017年4月5日(米国東部時間)、コマツはジョイ・グローバルの買収手続きを完了し、翌6日にこれを公表した。株式の取得対価は約28.2億ドルで、これにアドバイザリー費用など約34億円が加わった。ジョイ・グローバルは、後にコマツマイニング(Komatsu Mining Corp)へと社名を改めていく。発表から完了までおよそ9カ月をかけ、各国の競争法審査を通したうえで、コマツは持たなかった超大型鉱山機械の一群を手中に収めた[7]。
この買収で、コマツは建設機械に鉱山機械の超大型機まで加え、製品をひととおりそろえた総合建機・鉱山機械メーカーとしての体制を整えた。それまで欠いていたロープショベルや超大型ホイールローダ、ドラグライン、ドリルを製品群に組み入れ、部品やサービスを含む鉱山ビジネスを丸ごと取り込んだ。資源価格に左右される鉱山需要を抱え込む一方、市況が持ち直した2018年3月期には連結売上高が2兆5,011億円へ回復し、鉱山機械の増強が業績を押し上げる姿も見えていた[8][9]。
- コマツ「ジョイ・グローバル社の買収について」(2016年7月21日)
- コマツ「ジョイ・グローバル社の買収完了のお知らせ」(2017年4月6日)
- 日本経済新聞(2016年7月21日)「コマツ、米鉱山機械メーカーのジョイ・グローバルを3000億円で買収」
- 東洋経済オンライン(2016年7月26日)「コマツの『ジョイ社3000億円買収』は割安だ なぜ今が『逆張り』M&Aの好機なのか」
- コマツ 有価証券報告書(2017年3月期・連結・米国基準)
- コマツ 有価証券報告書(2018年3月期・連結・米国基準)