コマツ 米ジョイ・グローバル買収 米鉱山機械大手の取り込みによる製品群のフルライン化

更新:

時期 2016年7月
当時の社長 大橋徹二
論点 鉱山機械のフルライン化と資本配分
何をなぜ決めたか
概要

2016年7月21日(日本時間)の取締役会で、米国の完全子会社コマツアメリカを通じて米ジョイ・グローバル社の発行済株式のすべてを取得することを決議し、同日付で買収に関する合併契約を締結した。2016年10月19日(米国中部時間)の同社臨時株主総会で合併契約の承認を得て、各国の競争法に基づく承認を取得したうえで、2017年4月5日(米国東部時間)に買収手続きを完了した経営判断。

背景

コマツは鉱山機械事業を主要事業としながら、超大型の露天掘り向け鉱山機械と坑内掘り向け鉱山機械を製品ラインナップに持たなかった。鉱山機械の需要は世界の人口増と都市化率の上昇を背景に長期では増加し、採掘手法も経済合理性の点から露天掘りの機械の大型化と坑内掘りのニーズが更に高まると見込んでいた、と有価証券報告書は買収の理由を記している。

内容

取得の対価は現金3,161億28百万円で、うち37億20百万円はジョイ・グローバル社の株式報酬制度を清算するための支払いである。取得資産合計4,633億56百万円から引受負債合計2,800億93百万円を差し引いた取得純資産は1,832億63百万円で、差額の営業権1,328億65百万円は建設機械・車両事業セグメントに割り当てられた。無形固定資産1,299億51百万円のうち償却対象は1,285億11百万円で、商標権・顧客関係・技術はいずれも15年で償却する。

含意

買収資金とジョイ・グローバル社の負債の返済資金として金融機関から3,300百万米ドルを調達したため、有利子負債残高は2017年3月期末の4,087億2百万円から2018年3月期末には8,105億97百万円へ増えた。同社は2017年4月19日にコマツマイニング㈱へ社名を変更し、買収日以後の売上高3,178億36百万円を建設機械・車両事業セグメントに加えている。

いつ何が起きたか 7件
筆者の見解
筆者の見解

建機と鉱山機械という二本柱

この買収の中心にあるのは、資源市況の谷でこそ持たざる領域を買い足すという時機の選び方であった。鉱山機械の需要は資源価格に連れて振れやすく、市況が高いときには買収額もふくらむ。コマツ自身の営業利益が前の期から16.5%減って1,741億円に沈んだ2017年3月期に決議し、3,161億円を投じた判断は、需要の谷を織り込んで買うという逆張りの色を帯びていた。持たなかった超大型機を一度にそろえ、鉱山機械事業の体制を大幅に拡充する狙いは、市況が持ち直したのちの業績にひとまず表れただろう。

もっとも、鉱山機械を丸ごと抱えたことは、資源価格に連動して振れる事業を建設機械と並べて持つという選択でもあった。買収資金の調達で有利子負債は4,087億円から8,105億円へ倍増し、その後も1兆円前後で推移している。営業権1,328億円を含む無形資産をどれだけ収益で裏づけられるか、建機と鉱山機械という二本柱に限られた資本と経営の目配りをどう振り分けるかという問いは、フルライン化を果たした後も残る。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

業績の推移
買収の条件

買収の条件

科目 概要 備考
被取得企業 Joy Global Inc. 米国に本社を置き鉱山機械の製造・販売・サービスを行う。ニューヨーク証券取引所上場
取締役会決議と契約締結 2016年7月21日 日本時間。決議と同日付でジョイ・グローバル社と買収に関する合併契約を締結
相手方の株主総会の承認 2016年10月19日 米国中部時間。ジョイ・グローバル社の臨時株主総会で合併契約が承認された
買収手続きの完了日 2017年4月5日 米国東部時間。関連するすべての国で競争法に基づいた承認を取得したうえで完了
取得の方法 コマツアメリカ㈱による全株式の取得 取得したのは発行済株式のすべて。コマツの米国における完全子会社が取得した
取得の対価 3,161億28百万円 全額現金。株式報酬制度の清算のために支払った37億20百万円を含む
取得資産合計 4,633億56百万円 たな卸資産1,167億52百万円、無形固定資産1,299億51百万円などを含む
引受負債合計 2,800億93百万円 長期債務815億68百万円、退職給付債務235億31百万円などを含む
取得純資産 1,832億63百万円 取得資産合計から引受負債合計を差し引いた識別可能な純資産の公正価値
営業権(のれん) 1,328億65百万円 建設機械・車両事業セグメントに割り当てられた。税務上は損金算入されない
営業権の償却 償却しない 米国会計基準。少なくとも各年度に1回の減損テストを実施する
取得した無形固定資産 1,299億51百万円 商標権562億71百万円・顧客関係430億93百万円・技術193億85百万円ほか
無形固定資産の償却期間 15年 商標権・顧客関係・技術。受注残75億32百万円のみ14カ月で償却する
取得関連費用 累計33億75百万円 2016年度17億15百万円、2017年度14億48百万円。販売費及び一般管理費に計上
買収資金の調達 3,300百万米ドル 買収資金と同社の負債の返済資金。2017年1月にコミットメントライン契約を締結
取得日以後の業績 売上高3,178億36百万円 2017年度。当社株主に帰属する当期純損失は62億96百万円であった
取得価額の配分の確定 2017年度第2四半期 買収完了時は会計処理が未了で、営業権と公正価値を開示していなかった
買収後の社名 コマツマイニング㈱ 2017年4月19日に商号をKomatsu Mining Corp.へ変更した

出所:コマツ 有価証券報告書 第148期(2017年3月期)【経営上の重要な契約等】・注記25(重要な後発事象)、第149期(2018年3月期)注記3(企業結合の状況)

営業権と無形固定資産の推移

コマツ:営業権と無形固定資産の推移

(百万円) 営業権その他の無形固定資産総資産 備考
2013年3月期 34,70358,5232,517,857 営業権は減損累計額を控除した後の帳簿価額。その他の無形固定資産は営業権を除く
2014年3月期 36,02058,5322,651,556
2015年3月期 36,26658,7152,798,407
2016年3月期 40,00563,0562,614,654
2017年3月期 40,07261,0832,656,482 買収を決議した期。完了は期末後のため営業権はまだ立っていない
2018年3月期 155,881173,2153,372,538 買収完了。営業権1,328億65百万円と無形固定資産1,299億51百万円が加わった
2019年3月期 161,921166,4063,638,219
2020年3月期 157,521162,0623,653,686 建設機械・車両事業セグメントの報告単位で営業権の減損36億99百万円を計上
2021年3月期 170,687168,9813,784,841
2022年3月期 187,615169,0034,347,522
2023年3月期 207,060167,2924,875,847
営業権と無形固定資産
営業権(百万円)その他の無形固定資産(百万円)

出所:コマツ 有価証券報告書 第144・146・148・150・151・152・154期(営業権及びその他の無形固定資産、主要な経営指標等の推移)

有利子負債と株主資本の推移

コマツ:有利子負債と株主資本の推移

(百万円) 有利子負債株主資本 備考
2013年3月期 679,7631,193,194 有利子負債はキャピタルリース債務を含む残高
2014年3月期 605,0671,376,391
2015年3月期 589,1291,528,966
2016年3月期 457,5521,517,414
2017年3月期 408,7021,576,674 買収を決議した期。3,300百万米ドルのコミットメントラインは未使用のまま
2018年3月期 810,5971,664,540 買収資金の調達等により4,018億95百万円増。株主資本比率は10.0ポイント低下
2019年3月期 930,7001,815,582
2020年3月期 1,012,3781,771,606
2021年3月期 909,9831,912,297
2022年3月期 947,3802,232,511
2023年3月期 1,053,7622,539,641
有利子負債と株主資本
有利子負債(百万円)株主資本(百万円)

出所:コマツ 有価証券報告書 第144〜154期(流動性及び資金の源泉、主要な経営指標等の推移)

同じ問いに直面した会社
参考文献
出典・参考
  • コマツ 有価証券報告書「第148期(2017年3月期)【経営上の重要な契約等】」
  • コマツ 有価証券報告書「第148期(2017年3月期)注記25(重要な後発事象)」
  • コマツ 有価証券報告書「第148期(2017年3月期)【流動性及び資金の源泉】」
  • コマツ 有価証券報告書「第149期(2018年3月期)注記3(企業結合の状況)」
  • コマツ 有価証券報告書「第149期(2018年3月期)注記10(営業権及びその他の無形固定資産)」
  • コマツ 有価証券報告書「第151期(2020年3月期)注記10(営業権及びその他の無形固定資産)」
  • コマツ 有価証券報告書「第154期(2023年3月期)注記(営業権及びその他の無形固定資産、流動性及び資金の源泉)」

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