米PPGのガラス繊維事業取得(2017年・日本電気硝子の決断)

更新:
論点ガラス繊維の海外拠点を買収するか
日本電気硝子:業績の推移
売上高(億円)親会社株主に帰属する当期純利益率(%)
欧米3拠点(英国・オランダ・米国)の取り込みによるガラス繊維事業の海外展開

何をなぜ決めたか:欧米3拠点(英国・オランダ・米国)の取り込みによるガラス繊維事業の海外展開

概要

2016年から2017年にかけて、日本電気硝子が米PPGインダストリーズから欧州・米国のガラス繊維事業(英国・オランダ・米国の三拠点)を取得した経営判断。松本元春社長のもとで、ディスプレイ事業への依存を下げ、ガラス繊維を主力事業へ育てることをめざした。後に2019年12月期の減損とオランダ子会社の破産に至った。

背景

主力の液晶基板ガラスはコモディティ化と市況変動が進み、同社はディスプレイ依存度を下げて複合材・電子デバイスを新たな成長軸とする組み替えを進めていた。国内中心だったガラス繊維事業を世界規模へ広げ、主力事業に育てる構想がその中心にあった。

内容

取得は二段階で進んだ。2016年10月1日に欧州事業を108百万ユーロ(株式の取得価額及び事業の譲り受け価額12,579百万円)で、2017年9月1日に米国事業を540百万USドル(同59,390百万円)で取得し、いずれも現金を対価とする株式取得及び事業譲受の形をとった。取得の狙いは、日本・マレーシア・欧州に米国を加えた四極でのガラス繊維生産供給体制の構築にあった。

含意

中国メーカーとの価格競争と欧州需要の低迷で採算は悪化し、2019年12月期に連結で34,775百万円の減損損失を計上した。うち欧米のガラス繊維子会社3社が34,385百万円を占め、のれんの減損16,586百万円を含む。同期は親会社株主に帰属する当期純損失33,669百万円となり、米チェスター工場は2020年度の閉鎖が計画された。2023年9月26日にはオランダ子会社が破産手続を開始し、連結の範囲から外れた。

いつ何が起きたか5件
考察:世界規模化の狙いと、後処理の速さ
考察

考察:世界規模化の狙いと、後処理の速さ

液晶基板ガラスへの依存を解くという課題そのものは、この会社にとって切実であった。それゆえPPGの欧米事業を二段階で取得し、繊維で世界規模の一角を占めようとした判断は、単なる高値づかみという言葉には収まらない。もっとも、着手した直後に中国メーカーの増産が市況を崩し、自動車向けの需要も伸びを欠いた。好況の裏づけを欠いたまま、二段階で合計720億円に迫る基盤を抱えた点に、この取得の難しさが表れていると推察される。

ただ、繊維で払った代償が無為であったとは言い切れない。米チェスター工場の閉鎖計画、オランダ子会社の破産と、拡大した基盤の多くは数年のうちに整理された。液晶と繊維という二つの主力を同時に絞り込む重さを、この会社は身をもって知った。拡大の速さに後処理の速さが追いつかなかったこの経験が、以後の事業構造改革につながったと思われる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月
数字で見る3表

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図と表

日本電気硝子:のれんと無形固定資産の推移

のれん(百万円)のれん以外の無形固定資産(百万円)
日本電気硝子:のれんと無形固定資産の推移
(百万円)のれん無形固定資産総資産備考
2013年3月期−2,090697,385のれんは連結貸借対照表に掲記がなく、注記も重要性が乏しいとして省略
2014年3月期−2,659707,021
2014年12月期−2,948731,184第96期は決算期を3月から12月へ変更した経過期間で9か月
2015年12月期−4,185726,937
2016年12月期1,9037,179693,917欧州分ののれん1,812を10月に計上。当期償却額は84
2017年12月期21,84835,019764,420米国分ののれん20,382を9月に計上。無形には商標権・技術関連資産を含む
2018年12月期19,07231,937725,320のれんの当期償却額2,204
2019年12月期07,306664,800のれんの減損損失16,586を計上し、未償却残高は0
2020年12月期05,207658,139
2021年12月期04,958698,129
2022年12月期05,341747,907
出所:日本電気硝子 有価証券報告書 第94期〜第104期(連結貸借対照表、セグメント情報「報告セグメントごとののれんの償却額及び未償却残高に関する情報」)
出所:日本電気硝子 有価証券報告書 第94期〜第104期(連結貸借対照表、セグメント情報「報告セグメントごとののれんの償却額及び未償却残高に関する情報」)

日本電気硝子:売上高と当期純利益の推移

売上高(百万円)親会社株主に帰属する当期純利益率(%)
日本電気硝子:売上高と当期純利益の推移
(百万円)売上高親会社株主に帰属する当期純利益備考
2013年3月期287,30310,603
2014年3月期252,54812,431
2014年12月期192,6925,938第96期は9か月
2015年12月期251,1779,636
2016年12月期239,4114,968欧州事業の業績は10月から3か月分を連結
2017年12月期282,44727,184米国事業の業績は9月から4か月分を連結
2018年12月期300,32615,199
2019年12月期257,511△33,669特別損失39,905のうち減損損失34,775。事故損失3,756も計上
2020年12月期242,88615,252
2021年12月期292,03327,904
2022年12月期324,63428,167
出所:日本電気硝子 有価証券報告書 第98期・第103期・第105期【主要な経営指標等の推移】(連結)
出所:日本電気硝子 有価証券報告書 第98期・第103期・第105期【主要な経営指標等の推移】(連結)

取得の条件

取得の条件
科目概要備考
企業結合を行った主な理由(欧州)欧州生産拠点の取得によるグローバル供給体制の強化主力製品チョップドストランドの拡販と製品ラインアップの充実による事業拡大
被取得企業(欧州)PPG Industries Fiber Glass B.V.ガラス繊維の製造・販売。事業譲受の相手先はPPG Industries (UK) Limited
企業結合日(欧州)2016年10月1日法的形式は現金を対価とする株式取得及び事業譲受。取得した議決権比率は100%
取得原価(欧州)108百万ユーロ株式の取得価額及び事業の譲り受け価額は12,579百万円。取得関連費用469百万円
受け入れた資産・負債(欧州)資産16,297百万円・負債5,530百万円固定資産11,915百万円。顧客関連資産1,006と技術関連資産304を無形に配分
のれん(欧州)1,812百万円今後の超過収益力から発生。10年間の均等償却。2016年12月期末残高は1,903
企業結合を行った主な理由(米国)日本・マレーシア・欧州に米国を加えた四極での生産供給体制の構築買収シナジーで複合材料の機能向上に資するガラス繊維を開発・提供するため
被取得企業(米国)PPG Industries Fiber Glass Products正式名称の末尾はInc.。事業譲受の相手先はPPG Industries, Inc.ほか1社
企業結合日(米国)2017年9月1日法的形式は現金を対価とする株式取得及び事業譲受。取得した議決権比率は100%
取得原価(米国)540百万USドル株式の取得価額は59,390百万円。取得したのは米国子会社のNEGアメリカ
受け入れた資産・負債(米国)資産43,952百万円・負債4,944百万円固定資産34,094百万円。商標権3,185・技術関連3,185・顧客関連1,318を配分
のれん(米国)20,382百万円10年間の均等償却。第4四半期に暫定的な会計処理を確定。取得関連費用797百万円
結合後企業の名称エレクトリック・グラス・ファイバのNL/UK/アメリカ米国はサウスカロライナ州のチェスター工場を擁し、2020年度の閉鎖が計画された
のれんの減損16,586百万円(2019年12月期)欧米のガラス繊維子会社3社の減損損失は34,385百万円。未償却残高は0となった
出所:日本電気硝子 有価証券報告書 第98期(2016年12月期)・第99期(2017年12月期)【企業結合等関係】【連結キャッシュ・フロー計算書関係】/第101期(2019年12月期)【連結損益計算書関係】【セグメント情報等】
出所:日本電気硝子 有価証券報告書 第98期(2016年12月期)・第99期(2017年12月期)【企業結合等関係】【連結キャッシュ・フロー計算書関係】/第101期(2019年12月期)【連結損益計算書関係】【セグメント情報等】
参考文献

参考文献

参考
  • 日本電気硝子 有価証券報告書 第98期(2016年12月期)【企業結合等関係】
  • 日本電気硝子 有価証券報告書 第99期(2017年12月期)【企業結合等関係】
  • 日本電気硝子 有価証券報告書 第101期(2019年12月期)【連結損益計算書関係】【セグメント情報等】
  • 日本電気硝子 有価証券報告書 第105期(2023年12月期)【関係会社の状況】
  • 日本電気硝子 有価証券報告書「第98期(2016年1月1日〜2016年12月31日)有価証券報告書」
  • 日本電気硝子 有価証券報告書「第99期(2017年1月1日〜2017年12月31日)有価証券報告書」
  • 日本電気硝子 有価証券報告書「第101期(2019年1月1日〜2019年12月31日)有価証券報告書」
  • 日本電気硝子 有価証券報告書「第105期(2023年1月1日〜2023年12月31日)有価証券報告書」

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